傾国の遊女

曼珠沙華

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第三章

ピンチの華

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「チッ…何故こうも上手くいかないんだっ…」

とある人影が舌打ちをした。
どうやら相当ご乱心の様だ。

「妹の方だけを標的にするつもりだったが…。」

人影はそう呟き、どさりと身体を椅子と投げ出した。
しかし、舌打ちをしていたものの人影の口元は弧を描いている。

「まぁ、いずれは破滅するさ…。」




*****

今日の幽玄遊郭は大忙しだった。
だが、大忙しな割に、店は休業なのだ。
それはつまりどう言うことかと言うと…。

「今日は元締がくる日だ。掃除に手ェ抜くなよ!」

「「「はい!!」」」

若い衆の言葉に、引き付け禿達は大きく返事をした。
どうやらお偉いさんが来るらしいと、知識のないウチですら分かるキビキビとした雰囲気だった。

「マナ!ちょっとこっち手伝ってよぉ!」

そして相変わらず耳に響く嫌な声がした。
今日と言う日にもイジメる暇があるなんて、相当な暇人だこと。
ウチは心の中で舌打ちしながら、シレネの所へと重い足を引き摺る。

「ちゃんと戻ってくるから!」

心配させないように笑い、ウチはツクヨの元を離れた。
それがいけなかったのに…。









「うう…疲れたぁ…。」

現在は午後四時程だろうか。
押し付けられた通常業務でさえキツいのに、こんな大掃除の日に押し付けられる仕事なんてもっとキツイに決まっている。
疲労と苛立ちで、正直参ってしまいそうだが、ツクヨを一人にはして置けない。

足早に厨房へと戻る途中だった。

「やめてっ…下さ…っ」

廊下から、布の擦れる音…そして、女の抵抗する声が聞こえた。
しかも、女の方の声は自分の良く知っている声で…。

「ツクヨッ!!!!」

ウチはすぐさま声の方向へと駆け付ける。
そして廊下の曲がり角の辺りだった。
ツクヨが若い衆の男に体を弄られていたのは…。

ツクヨの着物は乱れ、下着からは乳が露出していた。

「…マナ…ぁ…」

ウチの存在に気付いたツクヨが、涙でぐちゃぐちゃになった顔を向けた。

「はっ、なんだ姉貴の方か。見ろよ、お前みてぇに妹の方も随分淫乱だぜ?」

ツクヨの乳房の頂を弄りながら、若い衆は下品な声で笑う。
そんな若い衆の腕をすぐさま掴み、ウチは大声で叫んだ。



「離れて…、今すぐツクヨから離れろ!!!!」



父譲りの目つきの悪さを生かし、思いっきり若い衆を睨み上げた。
怒りが頂点に達していたからか、自分でも信じられないほどの低い声が出た。
未来の男の力の強さも、どんなに頑張っても太刀打ち出来ないことなんて知っている。
だが、目の前で大事な妹が男に喰われる所を、黙ってみていられる程ウチは弱くはない。

「おうおう、随分とやる気じゃねぇか。」

やはりウチなど恐怖の対象ではないのか、若い衆はウチの反応を面白がった。

「じゃあ、妹の代わりにお前が相手しろ。」

ドサッとツクヨが大きく廊下へと投げ出された。

「ツクヨッ!」

ウチがツクヨに駆け寄るよりも先に、若い衆がウチを捕らえる方が早かった。

「へへ…あの大公殿下の相手をしてた禿…。俺も味わってみたいぜ…!」

若い衆の手が胸元へと入り込み、そしてそのまま乳房を揉みしだかれる。

「ぅっ…!」

久しぶりの快楽のせいか、血が沸騰するかのように体が熱くなる。
しかし、若い衆なんかに反応するか。
ウチは唇を噛み締め、懸命に声を我慢した。

「うはっ、柔らけぇ!しかも、こりゃあ普通の遊女よりでけぇぞ!」

「うっ…んんっ…。」

なんとか快楽に耐えながらも、ウチは懸命に抵抗を繰り返す。
ふと、視線を落とせば恐怖で震えるツクヨと目が合った。

「にっ…げて…っ…」

こんなところに居ては駄目だ。
他の若い衆が来てしまえば、ウチじゃ守りきれない。
しかし、ツクヨはフルフルと顔を横に振った。
それどころか、若い衆に飛びかかろうともしている。

完全に自殺行為だ。
だが、きっとツクヨ自身も重々承知の事なのだろう。
震えるツクヨの手がそれを物語っていた。
ウチを助けるために、ツクヨには傷ついて欲しくない。

「いいから逃げて!!!」

ウチがそう叫べば、ツクヨはビクリと肩を震わす。
しかし、反撃の意思は消えていない様だ。

どうにかツクヨを逃がしたかったウチは、懇願の視線を送る。

そしてようやくウチの意思を汲み取ってくれたツクヨは、すぐにその場から離れてくれた。
バタバタと廊下を駆けるツクヨの姿が見えなくなる。
良かった、これでツクヨは無事だ…。
そう、一息ついた時だった。
ウチは気付いた。
若い衆の息遣いが荒いことに。

ガンッ!

「あ"っ…!」

いきなり体を壁に押し付けられ、ウチは必然的に若い衆にお尻を突き出す体制となる。
この体制がマズいものだという事は、瞬時に理解した。

「はっ、はっ、駄目だっ…抑えきれねぇっ!」

べちゃべちゃと、若い衆がウチの首筋をベロリと舐め上げる。
そして、お尻に当たる硬い山。
ゾワリと鳥肌が立った。
今からどんなことをされるのか、当然分かってしまったからだ。

「い、いやっ…、いや!!」

ウチは叫んだ。
こんな事をしたって助けてくれる人はいない。
そんなこと分かっているのに…。
袴がずらされ、下着の上から突起を愛撫される。

「んっ、んんーっ…!!」

ウチは懸命に耐えた。
体は快楽を欲しているが、生憎ウチの意思は欲してなんかいない。
下唇を噛む痛みで、とにかく快楽を耐え忍ぼうとした。


「おい。」


その時だった。
何処かで聞き覚えのある男の声が聞こえた。
驚いてその声の方向に視線を向ければ、やはり見覚えのある未来人が一人。

「サ、サリエル様…!!」

若い衆は、サリエル様と呼んだ男の姿に恐れおののきウチをすぐさま解放した。

「商品に手を出すとは…、お前…死にたいのか?」

此方まで震え上がる程の凄まじい殺気。
あぁ、そう言えばオシリスさんとレイノルズさんも、こんな感じの強い殺気を放ってたな。
ウチはただ茫然と若い衆がサリエルさんに平謝りしているシーンを見つめた。

「お、お許しください…!!お許しください!!!!」

しかし、サリエルさんはそんな若い衆の言葉も聞き入れず、瞬時に若い衆の両腕を切断した。

「あぁああああっ、ぁああああああぁぁぁぁ…!!」

痛々しい悲鳴を上げ、若い衆の両肩の辺り…切断面から血が溢れ出した。
ウチはあまりにもグロテスクだったからか、急いで目を覆った。

「さっさと失せろ。」

冷たいサリエルさんの声が聞こえた。
その後にドタドタと大きな足音がしたからか、きっと若い衆は逃げたのだろう。
ようやく目が開けられる。
ウチは目を覆っていた自身の手を退かした。

まず目に入ったのは廊下に散らばる鮮血と、若い衆の腕。
そして、上を見上げれば此方を除くブルーサファイヤの目と、視線が合った。


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