14 / 47
第二章
気まずい華
しおりを挟む
黒、紅、金の織りなす美しい着物。
それにより抑えるどころか、美しく引き立たせられたたわわな胸元。
着物の間から、覗く健康的な生脚。
光を反射する金色の帯は体の前で大きく結ばれ、彼女の腰をより官能的にする。
短い黒髪には大きな曼珠沙華の髪飾り。
強さのある顔立ちは、真っ赤な紅を引くことによってより強さを醸し出す。
しかし、その顔立ちの強さと女性的なボディラインが相乗効果となって中性的な色気を作り出した。
マナが桜の間に入ると、バッ とレイノルズが席から立った。
視線はマナへと注がれる。
マナもびくりと肩を振るわせ、レイノルズへと視線を移す。
そして、目を見開いた。
あの日、この未来で初めてであった人。
マナは懐かしさと嬉しさを感じた。
マナはレイノルズにこりと笑みを向け軽く会釈をする。
彼女がこうするのには理由があった。
内儀から厳しく言われていたのだ。
「他の上客には話しかけてはいけない。」と。
それは彼女が禿の身であるが故だ。
そんな彼女に釘付けになってしまったレイノルズ。
それは、そうだろう。
一か月間、探し回っていた遊女がマナなのだから。
しかし…その様子が気に入らない娘が一人…。
「か、禿、マナ。参りました…。」
内儀に教えてもらった挨拶を言って、マナはゆっくりとふすまを閉めた。
目線の下でにっこりと笑うオシリスを見て、マナは再び驚いた。
まさかの自分を指名した上客がオシリスだとは思ってもみなかったからだ。
「こ、こんばんは。オシリスさん。」
マナは遠慮深くオシリスの隣に座った。
オシリスの隣に座れば少しは緊張感はなくなる。
そう、思っていたマナだが…。
こちらを直視するレイノルズとサリエルのせいで緊張は更に高まった。
自分が何か粗相をしているのではないかと気が気でなかった。
しかも、横にいるオシリスでさえ、こちらをじっと見てくるのだから。
マナには耐えられなかった。
「あのう…、何でこっちを?」
オシリスに問うマナ。
相変わらずじぃっとこちらを見つめるオシリス。
数秒して、マナの問いが頭に入ってきたのか照れ臭そうに項を掻く。
「いや、今日は一段と綺麗だな…。」
そう言って、オシリスはマナの額にキスを落とす。
ポッとマナの顔が赤くなる。
「あ…あり…ありがとうございます…。」
異性から面と向かって褒められた経験の少ないマナにとって、オシリスは良くも悪くもマナの心臓にとって悪い。
真っ赤な顔を人に見られたくなく、肩をすぼめた。
「ゴホン…、そろそろ本題に入ろう。」
一人、サリエルが声をあげた。
「おう、そうだったな。」
そう満足げにオシリスは言った。
ぐいっと体をオシリスへと引き寄せられる。
密着する体に先ほどの熱を失うどころか、余計に熱を上げる頬。
たしかに、オシリスが上客だと分かって少しは気が楽にはなった。
しかし未だに此方を見つめ続ける黄金色の瞳が嫌にマナを緊張させる。
やはり自分の何処かが変なのだろうか?
「あぁ、そうだった。」
レイノルズはマナを見続けたまま、
「どっちが今日マナと寝る話の途中だったね。」
と、言った。
その言葉にオシリスの顔つきが険しい物へと変わる。
「おい、笑えねぇぞ。レイノルズ。」
普段のオシリスとは打って変わって、相手を威嚇するような、殺してしまうのではないかと思う程の威圧感。
反対のレイノルズも殺意どころではない、恐ろしい目つきでオシリスを見ている。
間にいるマナは何が何だかよくわからず、二人の威圧感に震えた。
「俺が先に囲ったんだ。邪魔すんな。」
「ふん、水揚げをしたのは私だがな。」
オシリスはようやくレイノルズの最愛の人を最悪の形で知った。
また、レイノルズもオシリスの最愛の人を最悪の形で知る。
何故、こうなってしまったか。
オシリスはマナと一夜を共にした後、マナを囲った。
これは遊郭の客用の名簿から名前を消し、遊女を自分だけしか相手にできないようにするものだった。
それが、レイノルズが一ヶ月経ってもマナを見つけられなかった原因だ。
唯一、その裏リスト覗けるのが、この場から完全に除け者にされているサリエルだ。
しかし、今ではもうサリエルは用済みだった。
それを悟ったのか、サリエルはあからさまに不機嫌な態度で桜の間を出て行った。
楼主はそれに恐れながらも、レイノルズとオシリスの睨み合いを阻止すべく声をあげる。
「レ、レイノルズ様…、そんな禿よりもこの幽玄遊郭№1の泉と…」
「黙れ」
レイノルズの殺気が楼主の方へと牙を向いた。
楼主はその凄まじさに泡を吹いて倒れる寸前だった。
しかし、それは一人の禿によって防がれる。
「オシリスさん!」
マナは思い切ってオシリスの裾を掴んだ。
その声に二人の目線は再びマナへと注がれる。
逆にマナはここまで注目されるとは思っていなかったのか若干逃げ出したくなった。
しかし、意を決してオシリスを見つめた。
言葉がでない。
なにも考えていなかったのだ。
二人を止める方法も、なにも。
きっと泉さんなら上手く立ち回れるのだろう。
そう考えながら二人の視線に急かされたような気分になり、マナは訳も分からず声を出した。
「…と、床入りの時以外のウチは…見てくれないんデスカ…」
言葉がしりすぼみになる。
自分が今物凄く恥ずかしいことを言ってしまったことに途中で気付いたからだ。
顔が徐々に熱を帯びていくのをマナは感じる。
「なんちゃって!」そう言うために急いで口を開いたがオシリスに抱きしめられたことによって防がれる。
オシリスのスーツからいつもの香水の匂いがする。
何度もベッドの上で嗅いだ、あの。
そう考えてはマナは首を振り私情を打ち消した。
腕の中にすっぽり入りこみ、オシリスはマナの首元に顔を埋め込んだままだ。
「はぁー…、すぐに犯してぇ…。」
「えっ…?」
まさかのオシリスの言葉にマナ暫く固まった後、これ以上赤くならない顔をさらに真っ赤に染めた。
そんな二人の様子を見て、レイノルズは歯を噛みしめた。
自分が彼女を探し回っている間、オシリスは着々と彼女と関係を進めていたのだから。
マナがオシリスに心を開いているのが何よりの証拠だ。
気に入らなかった。
レイノルズは台座から降り、ずかずかと二人の元へと歩いてゆく。
そんなレイノルズの行動を冷や冷やしながら見つめる楼主と、花魁二人。
一方、マナは近付くレイノルズに気付いていた。
しかし、オシリスは自身の愛おしい人の腕の中にいるのが幸せなのか、レイノルズに全く気付いていない。
レイノルズは黄金色の瞳をギラつかせながら二人に近付き、そして止まった。
レイノルズとマナの瞳が互いを見つめあう。
そして次の瞬間…
レイノルズがマナに口づけをする。
チュッと軽いリップ音。
それにようやくレイノルズの存在に気付いたオシリスが、ガバッとマナをレイノルズから引き離した。
「俺の女に触るな。」
オシリスが冷たく言い放つ。
そんなオシリスにレイノルズは、ニヤリと口元を歪める。
「じゃあ、どっちがイイか、マナに決めて貰おう。」
黄金色の瞳がマナを捕らえて離さない。
マナは訳もわからず二人を見上げる。
しかし、背筋を駆ける寒気は止まらない。
「上等だ。」
オシリスもニヤリと笑う。
それにより抑えるどころか、美しく引き立たせられたたわわな胸元。
着物の間から、覗く健康的な生脚。
光を反射する金色の帯は体の前で大きく結ばれ、彼女の腰をより官能的にする。
短い黒髪には大きな曼珠沙華の髪飾り。
強さのある顔立ちは、真っ赤な紅を引くことによってより強さを醸し出す。
しかし、その顔立ちの強さと女性的なボディラインが相乗効果となって中性的な色気を作り出した。
マナが桜の間に入ると、バッ とレイノルズが席から立った。
視線はマナへと注がれる。
マナもびくりと肩を振るわせ、レイノルズへと視線を移す。
そして、目を見開いた。
あの日、この未来で初めてであった人。
マナは懐かしさと嬉しさを感じた。
マナはレイノルズにこりと笑みを向け軽く会釈をする。
彼女がこうするのには理由があった。
内儀から厳しく言われていたのだ。
「他の上客には話しかけてはいけない。」と。
それは彼女が禿の身であるが故だ。
そんな彼女に釘付けになってしまったレイノルズ。
それは、そうだろう。
一か月間、探し回っていた遊女がマナなのだから。
しかし…その様子が気に入らない娘が一人…。
「か、禿、マナ。参りました…。」
内儀に教えてもらった挨拶を言って、マナはゆっくりとふすまを閉めた。
目線の下でにっこりと笑うオシリスを見て、マナは再び驚いた。
まさかの自分を指名した上客がオシリスだとは思ってもみなかったからだ。
「こ、こんばんは。オシリスさん。」
マナは遠慮深くオシリスの隣に座った。
オシリスの隣に座れば少しは緊張感はなくなる。
そう、思っていたマナだが…。
こちらを直視するレイノルズとサリエルのせいで緊張は更に高まった。
自分が何か粗相をしているのではないかと気が気でなかった。
しかも、横にいるオシリスでさえ、こちらをじっと見てくるのだから。
マナには耐えられなかった。
「あのう…、何でこっちを?」
オシリスに問うマナ。
相変わらずじぃっとこちらを見つめるオシリス。
数秒して、マナの問いが頭に入ってきたのか照れ臭そうに項を掻く。
「いや、今日は一段と綺麗だな…。」
そう言って、オシリスはマナの額にキスを落とす。
ポッとマナの顔が赤くなる。
「あ…あり…ありがとうございます…。」
異性から面と向かって褒められた経験の少ないマナにとって、オシリスは良くも悪くもマナの心臓にとって悪い。
真っ赤な顔を人に見られたくなく、肩をすぼめた。
「ゴホン…、そろそろ本題に入ろう。」
一人、サリエルが声をあげた。
「おう、そうだったな。」
そう満足げにオシリスは言った。
ぐいっと体をオシリスへと引き寄せられる。
密着する体に先ほどの熱を失うどころか、余計に熱を上げる頬。
たしかに、オシリスが上客だと分かって少しは気が楽にはなった。
しかし未だに此方を見つめ続ける黄金色の瞳が嫌にマナを緊張させる。
やはり自分の何処かが変なのだろうか?
「あぁ、そうだった。」
レイノルズはマナを見続けたまま、
「どっちが今日マナと寝る話の途中だったね。」
と、言った。
その言葉にオシリスの顔つきが険しい物へと変わる。
「おい、笑えねぇぞ。レイノルズ。」
普段のオシリスとは打って変わって、相手を威嚇するような、殺してしまうのではないかと思う程の威圧感。
反対のレイノルズも殺意どころではない、恐ろしい目つきでオシリスを見ている。
間にいるマナは何が何だかよくわからず、二人の威圧感に震えた。
「俺が先に囲ったんだ。邪魔すんな。」
「ふん、水揚げをしたのは私だがな。」
オシリスはようやくレイノルズの最愛の人を最悪の形で知った。
また、レイノルズもオシリスの最愛の人を最悪の形で知る。
何故、こうなってしまったか。
オシリスはマナと一夜を共にした後、マナを囲った。
これは遊郭の客用の名簿から名前を消し、遊女を自分だけしか相手にできないようにするものだった。
それが、レイノルズが一ヶ月経ってもマナを見つけられなかった原因だ。
唯一、その裏リスト覗けるのが、この場から完全に除け者にされているサリエルだ。
しかし、今ではもうサリエルは用済みだった。
それを悟ったのか、サリエルはあからさまに不機嫌な態度で桜の間を出て行った。
楼主はそれに恐れながらも、レイノルズとオシリスの睨み合いを阻止すべく声をあげる。
「レ、レイノルズ様…、そんな禿よりもこの幽玄遊郭№1の泉と…」
「黙れ」
レイノルズの殺気が楼主の方へと牙を向いた。
楼主はその凄まじさに泡を吹いて倒れる寸前だった。
しかし、それは一人の禿によって防がれる。
「オシリスさん!」
マナは思い切ってオシリスの裾を掴んだ。
その声に二人の目線は再びマナへと注がれる。
逆にマナはここまで注目されるとは思っていなかったのか若干逃げ出したくなった。
しかし、意を決してオシリスを見つめた。
言葉がでない。
なにも考えていなかったのだ。
二人を止める方法も、なにも。
きっと泉さんなら上手く立ち回れるのだろう。
そう考えながら二人の視線に急かされたような気分になり、マナは訳も分からず声を出した。
「…と、床入りの時以外のウチは…見てくれないんデスカ…」
言葉がしりすぼみになる。
自分が今物凄く恥ずかしいことを言ってしまったことに途中で気付いたからだ。
顔が徐々に熱を帯びていくのをマナは感じる。
「なんちゃって!」そう言うために急いで口を開いたがオシリスに抱きしめられたことによって防がれる。
オシリスのスーツからいつもの香水の匂いがする。
何度もベッドの上で嗅いだ、あの。
そう考えてはマナは首を振り私情を打ち消した。
腕の中にすっぽり入りこみ、オシリスはマナの首元に顔を埋め込んだままだ。
「はぁー…、すぐに犯してぇ…。」
「えっ…?」
まさかのオシリスの言葉にマナ暫く固まった後、これ以上赤くならない顔をさらに真っ赤に染めた。
そんな二人の様子を見て、レイノルズは歯を噛みしめた。
自分が彼女を探し回っている間、オシリスは着々と彼女と関係を進めていたのだから。
マナがオシリスに心を開いているのが何よりの証拠だ。
気に入らなかった。
レイノルズは台座から降り、ずかずかと二人の元へと歩いてゆく。
そんなレイノルズの行動を冷や冷やしながら見つめる楼主と、花魁二人。
一方、マナは近付くレイノルズに気付いていた。
しかし、オシリスは自身の愛おしい人の腕の中にいるのが幸せなのか、レイノルズに全く気付いていない。
レイノルズは黄金色の瞳をギラつかせながら二人に近付き、そして止まった。
レイノルズとマナの瞳が互いを見つめあう。
そして次の瞬間…
レイノルズがマナに口づけをする。
チュッと軽いリップ音。
それにようやくレイノルズの存在に気付いたオシリスが、ガバッとマナをレイノルズから引き離した。
「俺の女に触るな。」
オシリスが冷たく言い放つ。
そんなオシリスにレイノルズは、ニヤリと口元を歪める。
「じゃあ、どっちがイイか、マナに決めて貰おう。」
黄金色の瞳がマナを捕らえて離さない。
マナは訳もわからず二人を見上げる。
しかし、背筋を駆ける寒気は止まらない。
「上等だ。」
オシリスもニヤリと笑う。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる