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 ヒソヒソ……

 「ほら、あの子よ。婚約破棄されたっていう……」

 「公爵様の一人息子に取り入るなんて、分不相応も甚だしいと思ってたの!」

 「私もよ!公爵夫人になれるって調子に乗ってたんでしょうね。他にも色んな男に色目を使ってたって言うじゃない。」

 「私は浮気現場に公爵様が乗り込んだって聞いたわよ!」

 「あら、そうなの?まだ子供みたいな顔して、やる事はやってるのね。」

 私が一歩街に出れば、格好の噂のタネになってしまっていた。

 最初の頃は、いちいち反応して誤解を解こうとしていたが、何を言っても信じてもらえなかった。分不相応な婚約を結んでいた私に対してのやっかみの気持ちがあったのだろう……

 「ほら、あれがアバズレ令嬢だ。お前も男にさせて貰えよ。」

 陰口に聞こえていない振りをして、やり過ごす事が常となっていた。

 街中はもちろん、学校でも中傷の的となり、屈辱の生活を送っていた。それでも私は負けなかった。なぜなら、恥じる事はしていないと信じていたからだ。

 しかし屈辱を受けたのは私だけではなかった。私の家族も同様に中傷を受けていたのである。

 「いやーお聞きしましたよ。ギルバート様。この度は大変だったみたいですね。まさに好事魔多しですな。アハハハ。……ふん、いい気味だ……」
 
 笑い声が絶えない幸せだった我が家が、毎日御葬式のように暗く重たい空気になっていた。

 それもこれも全てあのアルフォンス公爵のせいだ。そんな中でも、母は、《人を憎む事は自分の心が荒む事だ。人を慈しむ人間になって欲しい。》と辛い状況の私に諭してくれていた。

 そんな屈辱の日々を送っていた私にも、教会で洗礼を受ける日が近付いてきた。この国では、成人となる15歳になると教会で洗礼を受け、神からの啓示を受ける儀式が執り行われる。

 神からの啓示といっても、何も起こるわけもなく、健やかに成人する事が出来た両親への感謝を示す儀礼となっているのが実態だ。

 洗礼を受ける朝がやってきた。

 小綺麗な洋服を着て両親と教会に向かった。

 教会の中はいつもひんやりとして、俗世の空気と違うように感じる。

 教会の中には、すでに神父様が準備を行なっていた。

 「おはようございます。えーと今日の洗礼はギルバート・サラ様ですね。」

 神父様にはすでに今日洗礼に行くという連絡が来ていた様子だ。

 「それでは、早速ギルバート・サラ様の洗礼の儀式を執り行いたいと思います。御両親様はそちらの長椅子に腰掛けて、儀式を見学して下さい。サラさんはこちらへどうぞ。女神像の前でひざまずき、今まで育ててくれた御両親や家族、周りの方々への感謝をお祈り下さい。」

 私は言われた通り、女神像の前にひざまずいた。
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