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19.心も身体も溶けあって ※

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 夜会の会場を抜け出た二人は、馬車に乗って宿へと急いでいた。だが、バルコニーですっかり冷えてしまった身体のせいか、二人は堪えきれずに温めあっている。エーギルが腰掛けたその膝の上に横向きに座ったアルヤは、ほとんど覆いかぶさられるような形で、彼の執拗な口づけを受けていた。ドレスをたくしあげるまではいかないものの、エーギルの腕はもどかしそうに彼女の太ももをドレス越しに撫でまわしていた。

「ん……ぅ……は……っ」

 エーギルの胸元に手を添えて、アルヤは彼の胸の感触を楽しんでいる。礼服越しではあってもはっきりと筋肉の形がわかるほど豊満な身体に、アルヤはうっとりする。彼女から触れられることに慣れた胸板は初めは柔らかだが、身体が昂るにつれて硬くたくましくなっていく。それが彼の下半身に隠された凶器の期待を現しているようで、アルヤはなんだか胸が踊ってしまうのだ。もっとも、そんなふうに胸の硬さで確かめずとも、腰掛けている太ももに擦りつけられる熱で、彼の昂りがどの程度のものなのかは知れているのだが。

「は……エーギル、さま……宿まで……ん、我慢、できます……か?」

 喋っている合間も彼の唇が何度も重なる。冷えていたはずの指先はもう熱く、ちゅるちゅると音をたてて絡める舌が気持ちいい。エーギルの大きな舌を差し込まれると、それだけでアルヤの小さな口がいっぱいになって、まるで犯されているかのようだ。懸命に応えても彼の舌にはいつも敵わない。口を吸い合っているだけなのに、この先の行為への期待でアルヤの秘部も潤いはじめていた。

「わたくしは……」

 もう我慢できないかもしれません、と続けようとした彼女に、眼前のエーギルが目元を緩ませた。

(……やっぱり、この笑ってるお顔が好きだわ)

 きゅうっとうねった胎の奥のせいで、アルヤの腰がわずかに揺れる。それを太ももをまさぐっていたエーギルはすぐに気づいただろう。

「今すぐに貴女の中に挿れてしまいたいところだが……」

 長めに唇を重ねて、エーギルは額をこつんと当てた。

「今夜は、ゆっくり貴女と愉しみたい。いやか?」

 問われてアルヤは目をしばたかせ、首を傾げる。どこかで聞いたことあるセリフに、アルヤもまた目元を緩ませた。

(初めて会ったときの、わたくしの言葉だわ)

 ふふふ、と笑いが漏れて、アルヤは胸板をまさぐっていた手を彼の背中に回した。

「いやなはずがありませんわ」

 そうしてくりかえし唇を重ね、口紅がぐずぐずになって、触れられてもいない蜜壺から溢れた愛液でドロワーズが台無しになったころ、ようやく馬車は宿へとたどり着く。今夜の宿は、王の厚意で上等の部屋が用意されているから、壁も厚い。顔を赤くしたままの二人は、かろうじて廊下をすまし顔で歩き、部屋に入るなりまたすぐに唇を重ね合わせた。

「んん……っ」

 扉を背にして押し付けられながら、壁とエーギルの間に閉じ込められ、アルヤは口を貪られる。部屋にランプの灯りも灯さないままに、暗闇の中で求めあうのは、実に余裕がなかった。エーギルの太い足が、アルヤの足の間に差し込まれ、ぐいぐいと押される。

「あっ……そこ、は……んぅっ」

 股を太ももで押し上げるようにされれば、彼女の身体がわずかに浮き上がる。

「は……だめだな……。愉しもうと言ったのは俺なのに……貴女にはいりたくて溜まらない」

 荒い息を吐きながらの声は苦しそうだ。それもそのはずで、彼のズボンは馬車に乗っていたときからずっと硬く張りつめている。

「だが……」

「あ」

 ふわりとアルヤを抱き上げて、エーギルは大股に部屋の中を進むと、足取りに比べて穏やかすぎるほどにそっと彼女をベッドに下ろす。

「貴女を味わい尽くしたい」

 言いながら片足だけベッドに乗り上げたエーギルは、アルヤの足首を手に取って、恭しい手つきで靴を脱がせる。その足先に彼の熱い吐息が触れて、アルヤはふるりと足を揺らした。エーギルはもう片方の靴も脱がせながら、つま先に口づけ、少しずつその唇を上へと這わせていく。

 窓から差し込んでいる月明かりで、彼女の白い足が浮かびあがる。その白い足首をきつく吸い上げて、エーギルは所有印を落とした。さらにその上へと進もうとしたところで、彼の口づけが不意にやむ。

(どうされたのかしら……?)

 むしゃぶりつくような勢いだったエーギルが止まったのに、アルヤはそっと身体を起こして、エーギルを見た。

「エーギル様?」

「……この、ドレスは……さっきの、スリアン伯爵からもらったと言っていたな」

「あら……」

 俯き気味で影になった彼の顔は、よく見通せない。だがきっと、痛みを堪えるような顔をしているのだろう。

(嫉妬してくださったのね)

 辛い想いをさせているはずなのに、アルヤの口元はどうしても緩んでしまう。

「エーギル様。ご覧になって」

 そっと頬に手を添えて顔をあげさせたあとに、アルヤは目の前でドレスを手早く脱いで、それを床に放った。続いて髪をほどき、首にかかっていたネックレスも外して、装飾品をも投げ捨てた彼女はドロワーズとコルセットの姿になる。薄暗い中で煽情的なカーブを描く身体を惜しげもなく晒し、エーギルの目の前に膝立ちになって見せつけるように両手を拡げた。

「これでわたくしが身に纏うのは、今後、エーギル様に与えられたものだけですわ」

 微笑んだ彼女に目線を釘付けになっていたエーギルは、彼女が今脱いだものを捨ててしまったのだと気づいたらしい。眉間に皺を寄せながら、瞳を揺らす。

「いいのか?」

「ふふ、どうしてです?」

 穏やかな問いかけに、エーギルは答えるのを躊躇うような顔をした。だがすぐに口を開く。

「……あいつにもらったから……大事にしてたんじゃないのか」

「いいえ。手持ちのドレスの中では比較的まともだったから使っていただけですもの。惜しがる理由がありません」

「そう……か」

 返事をしたものの、彼の表情はまだ浮かないままだ。やがてゆるゆるとアルヤの腰に手を回して、胸に顔を埋めて抱き締めながら息を吐く。

「情けないと笑ってくれ。貴女が、他の男に抱かれていたことが、いまさらになって悔しい」

 弱音を吐いた彼の頭を撫でれば、エーギルはまた深い息を吐いて顔をあげた。

「貴女を知っているのが、俺だけならよかったのに」

 顔に傷のあるいかつい男が、わがままを言っている。たまらずアルヤは彼の頬を両手で包んですりすりと撫でた。

(わたくしを救ってくださった方が、こんなに可愛らしい方だったなんて。あの頃のわたくしは想像もしなかったわね)

 目を細めながら口づけたアルヤは手を頬から首筋へと滑らせて、エーギルの羽織っている上着を脱がせる。クラバットを緩めたあとはそのまま、ベッドになだれ込むように肩を引いて彼をいざなう。エーギルはその導きに従ってアルヤを押し倒しながらベッドに乗り上げて、彼女を見下ろした。

「過去は変えられませんわ」

 アルヤの宣言に、エーギルは顔をしかめた。だが構わずにアルヤは彼のシャツのボタンを外しながら続ける。

「けれど、この先一生、わたくしが愛するのも、肌を許すのも、それから服を脱がしてさしあげるのも、ずっと……エーギル様だけです」

「……っアルヤ!」

 短い叫びと共に、獣が現れた。

 そう思ったときには、アルヤの口はエーギルによって貪られている。熱烈に舌を差しこんできた彼は、もともと余裕がなかったその身体から、理性が剥ぎ取られてしまったらしい。いつも努めて穏やかに脱がせようとするコルセットを、エーギルの手が乱暴に解いている。引きちぎるかのような勢いでコルセットを剥ぎ取った彼は、露わになったアルヤの胸にむしゃぶりついた。

「ふぁ……っ!」

「アルヤ。アルヤ……」

 胸の尖りを舌できつく吸い上げられる。まるで幼子が吸いつくかのようでいて、その舌の動きはぴりぴりと身体の奥に響いて、的確にアルヤの熱をあげる。脱がされた時点で夜の空気に晒された胸はツンと上向いていたが、エーギルの責めでさらに硬くつまみやすくなっている。舌で責められるのと同時に反対の胸は指先で捏ねられて、くにくにと押しこまれては周りをなぞってくる。そのたびにアルヤは腰をくねらせて、蜜壺からおねだりの蜜がこぼれるのを感じた。

「あ、や……エーギ、ルさ、あぁ……っ」

「欲しくなったんだろうが、まだ待ってくれ」

「でも……はぅう」

 性急に愛撫を始めたのはエーギルのほうで、彼のズボンはもう伸びるところがないほどに膨らみきっている。馬車の中から散々に焦らされたのだから、もう充分だろう。

(お辛そうなのに)

 すぐに挿入しないのであれば、アルヤは奉仕したい。だが、今の彼はそれを許してくれそうになかった。

「貴女を啼かせられるのも、俺だけなら……じゅうぶんに愉しんで、満足させないとな」

 ずるん、とドロワーズを引き抜いて、エーギルは彼女の股を開かせる。すでに下生えまでもが濡れそぼったそこは、熱く熟れた割れ目がもう太いものを求めてヒクついているのが彼にも見えただろう。だが、エーギルはズボンをくつろげることはしなかった。

「あんんっエーギルさ、ま……! ぁっ」

 今度はエーギルの大きな舌がアルヤの秘部を愛撫する。穴に滴った蜜をすくいとるように、割れ目に沿って下から上へと敏感な豆までを舐めあげた。大きな舌は固く、這わせられるだけで、ぬるぬるの肉棒をこすりつけられたような錯覚を覚える。

「貴女はこれが好きだろう」

「ひゃああんんっ」

 じゅぅっと音をたてて、蜜が吸われたかと思えば、舌が割れ目の中に入ってくる。うねうねと中を犯しながらも、指で肉芽を同時にこねられてアルヤは口から嬌声が止まらない。もともと溢れていた愛液が次々と奥から溢れだして、エーギルの舌をきゅうっと締め上げた。

「だめ、んぁあっえーぎ、るさ……は、ぁあああ……んんんっ」

 秘部への急激な愛撫は今のアルヤには耐えられなかった。あっと言う間にのぼりつめて、かくかくと軽く絶頂する。その締めつけを舌で感じて、彼女が達しているのに気づいているはずのエーギルの手も舌も、まだ止まらなかった。

「は、あぁっだめ、んぁっえーぎ、あああっ」

 びちゃびちゃという水音と、自分の嬌声ばかりが耳に届くのが恥ずかしい。ベッドの上でアルヤがリードすることは多いが、彼に愛撫をされ始めると、アルヤは太刀打ちできなくなる。特に蜜壺を責め立てられると、腰がくだけてぐずぐずになってしまう。それをエーギルは知っていてやっているのだ。

「や、ぁんんっとけちゃ……うぅ……」

 腰を震わせて叫んでも、エーギルの愛撫はやむことなく、彼女をくりかえし絶頂へと導く。そうして、中へと指を差しこみかき回されて、股がふやけてシーツが愛液にまみれたところで、ようやくエーギルの口がアルヤの秘部から離れた。

 そのころには啼かされ続けたアルヤの肌は、しっとりと汗をかいている。

「た、のしむ……っておっしゃったのに……」

 恨みがましい声になったのも仕方ないだろう。

(わたくしだって、エーギル様にしてさしあげたいのに)

 愉しむのならば互いに触れあいたい。特にアルヤはエーギルをベッドで甘やかすのが好きなのだから。普段からの態度で彼女の気持ちをわかっているだろうに、今夜のエーギルは、アルヤからの愛撫も責めも許してはくれなかった。彼女に奉仕する間、エーギルは全くズボンを緩めることもなく愛撫に徹したのだ。彼だって今すぐにでも快楽を得たいに決まっている。だが、それを押してでもアルヤを悦ばせたかったということだろう。

「すまない。だが……こうでもしないと、貴女は乱れてくれないだろう」

 口元を拭いながらのエーギルの言葉で、アルヤはむくれていたのについ笑ってしまう。

「まあ! わたくしが……ん。いつもどれだけエーギル様に、惑わされているのかをご存じでないのね。……あ」

 ようやく腰ひもを緩めたエーギルが、ズボンをずりおろす。途端にぶるんと凶器のような肉棒が現れて雄の香りを振りまいた。散々に待たされた欲望の塊は、出すべき場所を求めてびくんびくんと震えている。その限界ぎりぎりの巨根に、アルヤが手を伸ばすよりも早く、エーギルは彼女の股にそれをあてがった。

「エーギル様」

 挿入の前に、アルヤは彼に向かって両腕を伸ばす。幾度となくねだっては、毎度断られているそれは、組み敷かれた状態で肌を合わせて抱き合いたいというわがままだ。これをねだるといつも膝に抱き上げられてしまう。今夜も拒まれるかもしれないとわかりつつも、アルヤは彼に触れたくてたまらない。

「……そうだな」

 エーギルは、脱ぎかけのままだったシャツを脱ぎ捨てると、目を細めた。そうして、ぎっ、とベッドを揺らして、アルヤに向かって身体を倒してくる。

(うそ)

「こうすると、両腕が使えなくなるが」

 背中を丸めたエーギルは、両腕で自身の身体を支えながら、アルヤに口づける。それをうっとりと受け入れて、アルヤは彼の首に腕を回しながら舌を絡めた。

「ん、ふ……ぅ」

(嬉しい)

 唇を合わせていると、肌が触れあうのはごくわずかだ。それでも、ベッドと彼に挟まれたこの体勢は、膝に抱き上げられているときよりも、エーギルの腕の中に閉じ込められているようで、なんだか嬉しい。

(わたくし、エーギル様になら、閉じ込められたいんだわ)

 そんな自分の気持ちに気づいたアルヤは、胸がきゅうっと締めつけられて、散々よだれをこぼした蜜壺からまた新しい愛液が溢れる。

「ふ、ぅうう、……んんっ」

 舌を絡めているうちに、腰を沈められて、ずずず、と太いものがアルヤの中へと入ってきた。指と舌で散々に弄られたおかげもあるが、初めて身体を繋いだころに比べて、ずいぶんとエーギルのこの凶悪な太さの肉棒に蜜壺が慣れたものだ。とはいえ、挿入がきつくないというだけで、彼の大きさが変わったわけではなく、相変わらず挿れるだけで彼女の感じるところを擦りあげていく。

「アルヤ。すまない……さすがに我慢しすぎたらしい」

 最奥まで達したエーギルが、低い声を出す。アルヤの中に埋まった欲望の塊は、挿入前と同様に、びくんびくんと震えている。硬さからしても、もう爆発寸前なのだろう。

「は……ぁ。エーギル様のお好きになさって?」

「っああ……!」

 返事をするが早いか、エーギルは激しくピストンを開始する。どんなに大丈夫だと伝えても、いつもはゆっくりの動きからしか始めないそれが、今日は激しい。出し入れのたびに水音と肉のぶつかる破裂音が響く。肉棒がアルヤの最奥を穿って、胎全体を押し上げては彼女の口から嬌声をあげさせた。

「あっんぁ……っあ、ああっえ、ぎ……はぁ……っああんん……っ」

 アルヤは肉棒をギチギチに締めつけて、絶頂している。だがエーギルの腰は欲をアルヤに注ぎこむための動きを止めないで、責め立て続ける。

「……っアルヤ、中に……っ」

「んぁっああ……ふぁああ……っ!」

 ずぬんっと激しく最奥を叩かれたその直後、ぶるりと震えたエーギルの腰が止まり、アルヤの蜜壺にたっぷりの白濁が注ぎこまれる。びゅく、びゅく、と数度くりかえして長く吐き出されたそれは、彼女の中に留まりきらずにふたりの結合部からわずかに漏れて、シーツを濡らした。だが、散々に焦らされた肉棒は、まだ満足していないとアルヤの中で震える。

「は……」

 荒い息を漏らしたエーギルは、欲を放った余韻のままに、アルヤと唇を軽く重ねた。

「……もう、貴女は俺だけの、ものなんだな?」

 赤い瞳が甘えるように尋ねて、返事を待つ前に再び唇が重なる。これでは答えられない。だが、きっとエーギルは彼女の答えを知っているのだろう。口を貪られるままに任せてアルヤは舌で応えていると、繋がったままの場所が再びぎちぎちに埋まったころに、ようやく唇が離れた。

「わたくしは、エーギル様のものです。……愛していますわ、エーギル様」

「俺も、愛してる」

 わかりきっていても、二人は愛を囁く。そうして言葉と同時に口を吸いあったのを合図に、エーギルの腰が緩やかに動き始め、情事が再開された。想いを確かめあったばかりの夜は、身も心も一つに溶けあって、まだまだ長く続くのだった。
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