高嶺の娼婦は嫌われ騎士に囲われて

かべうち右近

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12.自覚 ※

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 夕飯時にエーギルの話を聞いてから、アルヤの胸はなんだか落ち着かない。

 湯あみを済ませたアルヤは、夕食後に軽い鍛錬を済ませてから湯あみをするエーギルをベッドで待っていた。ここ数日の間も、当然彼女はベッドでエーギルを待っていたのだが、今夜はふちに腰かけてそわそわとしていた。

 アルヤを迎えたばかりで、未だ二人が過ごす寝室のベッドは小さい。とは言っても、巨躯のエーギルに合わせて作られたもののため、その広さはアルヤにとっては大きすぎるほどではあるのだが。連日このベッドで彼に抱かれているというのに、今からまたこのベッドで抱かれるのだと思うと、妙にそわそわする。

「アルヤ」

 ノックもなく寝室に入ってきたエーギルが、ベッドにいるアルヤを見て目をみはった。今日に限ってアルヤは部屋の灯りを消している。だから暗い寝室に恐らくエーギルはアルヤが先に寝てしまったのだと勘違いしたことだろう。エーギルが持ってきたランプに照らされてやっとベッドのふちに腰掛けた彼女の様子が見えたに違いない。

「……どうしたんだ?」

 エーギルがそう尋ねたのは、アルヤがいつもと違っていたからだ。いつもならベッドに悠然と横たわって待っているのが、腰掛けているのも大きな違いだが、一番は彼女がナイトウエアをまとっていることだろう。エーギルがアルヤと出会ってからずっと、寝室で彼女はずっと裸体で、ナイトウエアも下着すらも身に着けていなかったのだ。それは彼女の故郷の風習からしたら当たり前のことだったが、エーギルにとってはずいぶんと大胆な習慣だった。だからこそ、急にナイトウエアを着ているのに彼は驚いたらしい。

「その……ドリスが用意してくれたので……」

 伏し目がちになりながらアルヤは言い、落ち着きなく指先をいじっている。彼女が今身に着けているのは、普通のナイトウエアではなかった。一見して普通のドレスの形状と同じだが、よくよく見れば背中は大きく開いており、胸元も谷間のラインに沿ってV字に深く開いている。おまけに袖はなく繊細なレースで編みこまれた肩紐はホルターネックになっていて、首のリボンをほどけばすぐにでも胸が露わになってしまう形状だ。しかもドレススカート部分は丈が長いものの、腰近くまでスリットが入っているから太ももが見えてしまっている。そしてここが一番重要なのだが、このナイトウエアの生地は、あまりにも薄かった。紗の生地のところどころにレース編みが組み込んであるが、そのレースも目が荒い。これでは着ていないのと同義だろう。

 アルヤは娼婦だ。これまで幾度となく男たちに裸体を晒してきたうえ、エーギルにだって肌どころか秘部を間近で見られてすらいる。むしろ寝る準備として彼の目の前で、自ら脱いで見せるほどだから、今さら自身の身体で羞恥を覚えることなどなかった。そのはずである。

(……どうして、恥ずかしいの……!?)

 ランプを持ったエーギルが、いつもの大股でなく、ゆっくりと近づいてくる。そのオレンジの灯りが迫り、彼女の身体がより鮮明になるほどに、アルヤの頬は赤くなっていった。

 ナイトウエアは、彼女の豊かな胸をまるで強調するかのようなデザインである。それ自体は構わない。だが、柔らかな胸の一番敏感なところだけを申し訳程度にレースの編みこみを細かくして見えづらくしているのは、周囲の肌が透けている分だけ、そこにいやらしいものが隠されているようで余計に恥ずかしい。ドロワーズは変わらず身に着けていないが、秘部のあたりももったいぶるようにレースが濃くなっている。だというのに太ももは丸見えで、欲情と羞恥を煽りたてるためだけにデザインされた服なのだ。

(裸より恥ずかしい格好があるなんて思わなかったわ……!)

 着なければよかったと後悔するアルヤだが、別にドリスがこれを着るように強要したわけではない。親切なメイドはアルヤがナイトウエアを持っていないと聞いて、仕立て屋お勧めの流行りのナイトウエアをドレスに先んじて入手してくれたにすぎない。急ぎで手配したため、デザインを確認していなかったが、それがこんな卑猥なものだとはよもやドリスも思わなかったのだろう。

 湯あみを終えて着る段になってからドリスと二人で顔を見合わせたとき、『旦那様は喜ぶと思いますが、無理はされないでください』と彼女に言われて、アルヤはあえて着たのだ。夕食の場であんな話を聞いていたせいでエーギルを悦ばせたい気持ちが高まっていた。だからこそ、彼が喜んでくれるならと思ったのだが、それが間違いだった。

「ごめんなさい、変でしょう……?」

 ようやくすぐ近くまできたエーギルが、ベッドサイドのテーブルにランプを置いて、彼女の前に跪く。そうして目線を合わせると、そっと膝の上の彼女の手をとった。

「いいや。よく、似合っている」

「っそ、れなら……よかったです」

「ああ。口づけても構わないか?」

「……はい」

 伏し目がちだった目を、エーギルに合わせる。そのときには眼前に彼の顔が迫っていた。熱を灯した赤い瞳。それはもうこの数日で何度も見ている。

(……やっぱり、このお顔が好きだわ)

 それは好みの話だ。だが、アルヤの頬に手を添え、柔らかに重なった唇に、胸がきゅうっと鳴る。離れそうになるのを追いかけて、リップ音をたててついばめば、エーギルも応えて唇を甘噛みで何度も重ねてくれた。たったそれだけの行為に、アルヤの身体が火照り始める。

(着てみてよかった)

 ほんの少し前と真逆の感想が浮かんで、アルヤはまた内心で笑った。

(もう、わたくしは重症ね)

「ん……んぅ……」

 口づけられながら、ベッドに押し倒される。その動作で、これからの行為を期待して、胎がきゅんとうねった。

「は……エーギル様の服……脱がせてもいいですか?」

「ああ」

 短い返事をした彼の腰に、アルヤは手を伸ばす。脱がすと言っても、湯あみ後の彼の姿は今、ナイトガウンを一枚羽織っただけだ。腰の紐を解いてしまえば、彼の豊かな胸元が簡単にはだけてしまう。盛り上がった筋肉についた幾筋もの傷痕。それは彼が戦争で受けたものだ。

(この傷一つ一つが……セウラーヴァにつけられたもの……)

 アルヤを組み敷いて、潰さないようにエーギルは身体を浮かせてくれている。その彼に手を伸ばして、顔の傷から首筋、胸元へとついた古傷を指先でなぞった。

「エーギル様。わたくし、もっと触りたいです。上に乗ってもいいですか?」

 彼女の訴えに、エーギルは首を傾げたが、ただアルヤが触りやすいように身体を起こしてくれた。遠ざかった彼の身体を追いかけるように抱き締める。

「アルヤ?」

「エーギル様は、温かいですね……」

 彼女の腕ではエーギルの背中までしっかり回しきることができない。胸に顔を預けるように頬をすり寄せれば、エーギルの胸がドクドクと音をたてていて、彼が興奮しているのがわかる。心音を確かめずとも、はだけた下半身にはにわかに硬くなって上を向き始めているので一目瞭然だ。エーギルはいつものようにアルヤを抱き締めていいものかどうか迷っているらしく、彼女の背の周りで腕が右往左往している。すでに何度も肌を合わせているにもかかわらず、彼がアルヤを情事の間に積極的に抱き締めようとしないのは、彼女を傷つけるのを恐れているに違いない。

(乱暴につかんでもいい、なんて思っていたけれど)

 その懸念ももっともだ。英雄エドフェルトは、戦地において剣が折れてなお、素手で敵兵の頭蓋を割ったと伝えられている。そんなたくましいと言うには力の強すぎる腕で、彼女をかき抱くのは憚られるのだろう。

(この腕が、セウラーヴァを滅ぼしたんだわ)

 そして生き残り、今アルヤを抱くために身請けしたのだ。

(不思議)

 なぜだか涙が滲みそうになったアルヤはきゅっと目を閉じてそれを振り切る。エーギルの肩を押せば、彼は望まれたとおりにベッドに倒れてくれた。その彼に跨る形になり、肩からガウンをはだけさせながら、筋肉でできた溝の筋、そして傷痕一つ一つにアルヤは口づけをしていく。柔らかな唇が傷痕をなぞるたびに、大人しく組み敷かれているエーギルの身体がぴくぴくと震えるのが愛おしい。

「くすぐったいですか?」

「いや。大丈夫だ」

「あら……ではこれはどうでしょう?」

 アルヤの舌が、エーギルの胸を這い、やがて中央の突起に当たる。触れずとも空気に晒されて硬くなったそこは、アルヤの舌先を尖らせてくにくにと捏ねてやると、より硬くなる。

「……っ」

「くすぐったいですか?」

 もう一度同じ言葉を重ねて、アルヤが上目遣いに尋ねれば、エーギルは苦笑いを漏らした。

「貴女に触られるのはいやではないが……どちらかと言えば、貴女に触れたい」

「え……ぁっ」

 するりと腕が伸びて、アルヤの背中をエーギルの手が滑る。そのまま背骨をつたって下へと降りた手が、ナイトウエアの隙間に入りこんで、アルヤの腰を撫でまわした。もう少し手を伸ばせば、ハリのある尻を揉みこめるだろう。だが、それをせずにエーギルは焦らすようにその付近の肌を撫でまわしている。直接的でないそんな触れ方でさえ、アルヤの胎は期待を募らせる。

「今夜は、わたくしがしてさしあげたいのに……」

 まだ、彼の肉棒に触れてすらいない。だというのにアルヤを愛撫しようとしている彼に、アルヤはほんのりと不満を滲ませた。

「貴女は俺に奉仕する必要はないんだ」

「でも」

「俺を受け入れてくれるだけで、充分だ」

「あ」

 むに、とエーギルの大きな手が尻をつかむ。彼の大きな手はアルヤの尻をすっぽりと包んでいて、そのまま長い指が割れ目のほうへと伸びてきそうである。だがむにむにと弾力のある尻を揉みこむばかりで、彼の指先はその先には進めない。

「エーギル、様」

 負けじと彼の胸の尖りを責め立てようとするが、アルヤの意識はどうにもエーギルの手に集中してしまう。今まで男たちに愛撫をされたことは数え切れないし、演技でその責めによがるふりはいくらでもしてきたが、エーギルに触れられるとアルヤは身体が勝手に疼くのだ。

「胸のほうがよかったか?」

 すっと尻から手が離れて、覆いかぶさっていたアルヤの上半身が、エーギルによって起こされる。横になったエーギルに跨ったままの体勢で、彼女の股はエーギルの腹にくちゃっと水音をたてて密着した。下着をつけていないそこは、まだ肝心なところを一切触れられていないにもかかわらず、濡れそぼっている。彼女の身体の状況をわかっていて、エーギルは軽く腰を揺らしてみせた。そのせいで彼の腹筋にアルヤの秘所がこすりつけられる。

「ん……っ」

 腰を浮かせようとした彼女の胸を、エーギルの両手が覆って逃げられなくする。レースでできた凹凸を確かめるように指を這わせて、一番色の濃い部分を親指ですりすりとこねはじめた。

「俺にしてくれたということは、貴女もこれが好きなんだな?」

「そういう……んっわけ、では……ぁんっ」

 親指が胸の尖りを押し込む。ナイトウエアを脱がさないままで弄られるのはなんとももどかしかった。レースの隙間からわずかに指先が触れるのに、つまんで弄ってくれるわけでもない。なのに腰は勝手に揺れて、気持ちよくなっているのだとエーギルに伝える。

「そうだ、奉仕をしたいなら、よがっているのを見せてくれ」

「や、ぁ……、あんんっ」

 アルヤが嬌声をあげるたびに、股がわずかに擦れて、秘所から溢れた愛液がエーギルの腹を汚す。それを楽しむかのように、彼はアルヤの胸を弄っている。やがて尖りを虐めぬいたエーギルは、ホルターネックのリボンを解くことはしないで、胸元の生地に脇に寄せて、アルヤの乳房を露わにした。元々裸同然の服だが、これで腰は覆っているのに胸だけ見せつけるような形で曝け出されていていやらしい。散々弄られた中央はぷっくりと赤く腫れていて実に淫靡だ。

(やっぱり、この服は恥ずかしい……!)

 かあっと頬を赤く染めたが、彼女がそれでエーギルから逃げ出すわけでもない。何年かの間に染みついた彼女の娼婦としての癖だ。

「んぅっ……わたくしだって、して差し上げたいんです……!」

 もう一度そう宣言したアルヤは、わずかに腰を浮かせて少し身体をずらすと、猛ったエーギルの肉棒に触れる。それは先ほどよりも太く硬くなっていて、今すぐにでもアルヤの中を貫けそうだ。

「アルヤ、待ってくれ。まだ貴女を解してない」

「準備が足りないとおっしゃるなら、わたくしもします」

 そそり立つ肉棒を手で押さえこみながら、アルヤはその上に跨った。肉棒を割れ目に挟み込む形で密着させて、腰を揺らす。すでに愛液にまみれていた秘部は、肉棒を汚してぬちゅっと音をたてて滑る。肉棒をこするように前後すれば、アルヤの快楽の芽をも擦って、割れ目からまた新たな蜜をこぼした。

「ん……っこれ、なら……エーギル様も、気持ち、いいでしょう……?」

「だが……」

 ゆすゆすとくりかえしアルヤが股を擦りつけるのを、エーギルはなすすべなく受け入れる。熱を孕んだ肉棒は、彼女の奉仕でさらに硬度を増していてエーギルとしてはすぐにでも挿入したいところだろう。だが、いつもエーギルがアルヤの蜜壺を解す時間に比べたら、彼女がエーギルの肉棒を責め立てる時間はずいぶんと短い。通常の男に比べたら太すぎる肉棒を挿入するために、エーギルは毎度アルヤの中をじっくりと解してくれるからいつも秘部への前戯が長いのだ。

「エーギル様……ふ……ぅ……もう、なかに、欲しいです……」

 彼の胸に手をついて、アルヤはねだる。

「今挿れたら、傷つけるだろう」

「そんなことありません」

 上半身を倒して、アルヤはぺたりと彼の身体にくっついた。そうして身体をずらすとエーギルの両頬を包んで、軽く口づける。額を寄せて至近距離で赤い瞳を見つめるアルヤは、彼の理性にゆさぶりをかける。

「だってわたくしもう……ここ・・がエーギル様の形になってますもの」

 彼女はゆっくりと股を彼の腹筋にこすりつける。

「……ね?」

「アルヤ!」

 呼び声と同時にアルヤの視界がぐるんを回転する。それは、エーギルが彼女の身体を抱えて反転させたからだった。一瞬の内に組み伏せられた彼女は、息も荒くアルヤを見つめるエーギルに微笑みかける。

「エーギル様」

「ああ」

 皆まで言わずとも、大きな手がアルヤの太ももをつかんで大きく開いて、男を受け入れる入り口をぱっくりと開かせる。だが疑り深いアルヤの主人はすぐに彼女を貫くことはせずに、太い指を彼女の蜜壺に潜り込ませた。

(エーギル様ったら心配性だわ)

 そんな彼の気持ちが心地いい。

 柔らかく熱く熟れた蜜壺はぐちゅっと音をたてて、エーギルの指を呑み込む。いつもなら一本から始まるその指の挿入が、今は二本だ。アルヤへの信頼と、自身が本当に傷つけないかどうかの心配で、ぐるりと内壁を探ったエーギルは、ほっとしたように指を引き抜いた。そうしてようやく、彼は腰を寄せて肉棒をあてがう。

「わたくしが傷つくことなんてありませんわ。だから……きてください」

 向き合ってまぐわうとき、エーギルは彼女を潰さないようにと上半身をくっつけてくれない。そんな彼に両腕を伸ばし、アルヤはさらに甘くねだる。

「本当に……貴女といると、勘違いしそうになる」

 口元は笑っているのに、彼の眉尻は下がっていて、いかにも泣きそうだ。

「エーギルさ……は、ぁあん……」

 腰を沈められたせいで、アルヤの問いかけは最後まで言えなくなる。けれど、その問いを発せないもどかしさを上回る喜びがアルヤを襲った。太い肉棒を埋没させるのに合わせて、自身の両腕を支えにして背を丸め、エーギルはアルヤに口づけてくれたのだ。彼女の甘えに応えてくれたのが、ただただ嬉しかった。

(勘違いだなんて。わたくしの言葉は、全て本音なのに)

 思った途端に、きゅぅんと蜜壺がうねって、入ってきたばかりの肉棒を締め上げる。

「アルヤ……そんなに煽るな」

「あっは、ぁあ……だって、えーぎる、さま……ぁあ……っ!」

(そう、本音だわ。全部)

 伸ばした腕をエーギルの首に回し、アルヤは彼にしがみつく。その途端に、アルヤの身体は持ち上げられ、エーギルの膝に乗り上げた形で下から貫かれる体勢になる。組み敷いたままでは圧し潰すのを懸念してだろう。すぐさまにピストンが開始され、揺すぶられる胎に嬌声をあげながらアルヤはきゅうきゅうと蜜壺を震わせた。

(お顔や身体つきが好きだからだと思っていたけれど、もうそんなの関係ない)

 アルヤの胎を突き上げながら、強い欲をたたえた瞳で彼女を見つめる必死なその顔。それを見るだけで、身の内を抉る快楽を上回って、彼女の胸を締めつける。

「ふぁ……っもっと……、んぁあ……っ!」

(わたくしはエーギル様のことが、好きなのだわ)

 肉がぶつかるほどの激しいピストンを受けながら、アルヤははっきりと自分の気持ちを自覚したのだった。
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