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5周目 エンディング
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おかしい。何かがおかしい。
2~3周した後に他のルートをやって、もう一度私のルートに戻ってくる――そんなヒロインも過去にはいた。けれど、いくら何でも、他の攻略対象に目もくれず、私のルートだけを延々とクリアし続けるヒロインは、カナエが初めてだ。
もしかして、彼女は他のルートを選べることを知らないのだろうか? そんな馬鹿な。
そもそもおかしいと言えば、彼女が選択肢に従わずに行動できること自体がおかしいのではあるが、それはもう仕方ない。彼女がいる限り、ずっとそのバグは続くのだろう。
シナリオ外のセリフを話すことは、私には許されていない。せいぜい、イレギュラーな台詞を吐いた彼女に対して、メインヒーローとして整合性の取れる返事をするくらいだ。後は、過去に何百と繰り返した台詞をなぞるだけなのに。
既に5周目のエンディング。婚礼衣装に身を包んだ彼女は、幸せそうに私の隣で笑っている。
「今回も無事にエンディングですね、アーネスト様」
どうせエンディングの間に話したことは、ストーリーへの影響はない。それならば、今なら話してもいいだろう。
「そうだな。もう、5度目だ」
何度周回してもストーリーの中では常に『初めて』だ。だから、本来私が過去の事を告げるのなんて、許されない。けれどどうしても、彼女に聞いてみたかった。
「君は何故、何度も私のルートに来る?」
正統派ヒーローなら、こんな詰問の仕方をしない。優男の仮面を被るべきだが、興味を優先した。
「5回目」
驚いたようにカナエは繰り返す。
「そうだ。5回目だろう?」
「まさか覚えてるんですか?」
「ああ」
当たり前だろう。そうは思うが、彼女にとっては寝耳に水だったようで黙り込んでしまった。ならばどういうつもりで彼女はことあるごとに「また」と言っているのだろう。
「覚えているからこそ、カナエが何度も私のルートに来るのが不思議でな。他の攻略対象に興味がないのか?」
「そんなの……アーネスト様が好きだからに決まってるじゃないですか」
いつもなら快活に笑う彼女が、困ったように笑う。
「どうして君は……」
言いかけて、口をつぐむ。エンディングテーマが終わり、5周目のゲームも終了するのだ。
『好感度の引継ぎができます。6周目を始めますか?』
システムメッセージがカナエに提示される。これで終わる可能性だってある。けれど彼女は。
「はい! 何度でも!」
元気の良い返事をして、彼女はまたゲームの6周目を始めた。
2~3周した後に他のルートをやって、もう一度私のルートに戻ってくる――そんなヒロインも過去にはいた。けれど、いくら何でも、他の攻略対象に目もくれず、私のルートだけを延々とクリアし続けるヒロインは、カナエが初めてだ。
もしかして、彼女は他のルートを選べることを知らないのだろうか? そんな馬鹿な。
そもそもおかしいと言えば、彼女が選択肢に従わずに行動できること自体がおかしいのではあるが、それはもう仕方ない。彼女がいる限り、ずっとそのバグは続くのだろう。
シナリオ外のセリフを話すことは、私には許されていない。せいぜい、イレギュラーな台詞を吐いた彼女に対して、メインヒーローとして整合性の取れる返事をするくらいだ。後は、過去に何百と繰り返した台詞をなぞるだけなのに。
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「今回も無事にエンディングですね、アーネスト様」
どうせエンディングの間に話したことは、ストーリーへの影響はない。それならば、今なら話してもいいだろう。
「そうだな。もう、5度目だ」
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「君は何故、何度も私のルートに来る?」
正統派ヒーローなら、こんな詰問の仕方をしない。優男の仮面を被るべきだが、興味を優先した。
「5回目」
驚いたようにカナエは繰り返す。
「そうだ。5回目だろう?」
「まさか覚えてるんですか?」
「ああ」
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「覚えているからこそ、カナエが何度も私のルートに来るのが不思議でな。他の攻略対象に興味がないのか?」
「そんなの……アーネスト様が好きだからに決まってるじゃないですか」
いつもなら快活に笑う彼女が、困ったように笑う。
「どうして君は……」
言いかけて、口をつぐむ。エンディングテーマが終わり、5周目のゲームも終了するのだ。
『好感度の引継ぎができます。6周目を始めますか?』
システムメッセージがカナエに提示される。これで終わる可能性だってある。けれど彼女は。
「はい! 何度でも!」
元気の良い返事をして、彼女はまたゲームの6周目を始めた。
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