乙女ゲームのヒーローやってます

かべうち右近

文字の大きさ
上 下
5 / 23

1周目エンディングと2周目の始まり

しおりを挟む
 魔王城の最奥部での戦い。そこで私が最後に剣を一振りした所で、魔王が倒れ伏す。

 それに合わせて、魔王の魔力で編まれていた魔王城が、サラサラと音をたてて崩れ消えていき、最後に魔王の亡骸だけが残った。

「あれ……!? 倒……せた?」

 万全を尽くした魔王戦は、当然ながら勝利である。万が一魔王に負けたとしても、セーブポイントまで巻き戻るだけだ。これはゲームなのだから。

 地に伏した魔王を確認してカナエが呆然としているのが、不思議だ。逆に何故倒せないと彼女は思ったのだろう。

「君がいたから、魔王を討伐できたんだ。カナエ、本当にありがとう」

 お決まりの文句を告げて、私はカナエの手をとり口づける。

 それを合図に、エンディングのメロディーが流れ始めた。場面が一瞬にしてアーネストの王城に変わり、私の衣装も変わった。
 白の礼服に身を包んだ姿になり、隣には婚礼衣装をまとったカナエがいる。

「カナエ、私は世界で一番の幸せ者だよ」

「アーネスト様……死ぬほどかっこいいです! いや死ななかったんですけど! やったね!」

 ただ決められた台詞を言う私に対して、彼女はどこまでも選択肢にはまらない言葉を吐く。

 広間の扉が開き、ビロードの敷かれたバージンロードをカナエと共に歩く。これで、エンディングは終わりだ。
 ふと横を見やれば、カナエはとても幸せそうに笑っている。

「本当に、倒せて良かった」

「ゲームだから当たり前だろう?」

 しまった、と思ったが口から出た言葉はもう戻らない。彼女は歩みを止めて、ぽかんとした顔で私の顔を仰ぎ見た。

「……そっか」

 小さく呟いてから、カナエは再び歩き始める。

「ゲーム。ゲーム、かあ……それでかあ」

 先ほどはつい口が滑ったが、シナリオに関係のない問いかけには、口をつぐんでおく。そうして、オープニング前に彼女が選んだ通り、『ミヒャエルルート』のハッピーエンドで1周目が終わった。

 カナエと私が微笑みあうシーンで、エンディングは幕を閉じたのだ。だが、これで『ゲーム』は終わりではない。

『好感度の引継ぎができます。2周目を始めますか?』

「はい!」

 元気の良い声が答えて、キュルキュルと世界が巻き戻っていく。再びプロローグの始まりだ。


 王城の広間、魔法陣の上に光を帯びて、カナエは現れる。

「おお、聖女よ、召喚に応じて下さり、感謝します!」

 神官が両手を広げてカナエを迎えた。

「『キャー! ここはどこなの!?』……なーんてね、これで合ってた?」

 笑ってカナエは、私の方を向く。

「ねえ、あなたの名前を教えてください」

「私は、この国の第一王子、ミヒャエル・アーネストと申します。突然このように不躾にお呼びたてした事をお許しください。貴女には、聖女として、この世界を救って頂きたいのです」

「また、始まるね。まっかせてください!」

 彼女は、1周目と同じく、力強く胸を叩いて見せた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...