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【番外編】番われたオメガは二つの運命を惑わされる ※

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 ペロー家は一ヶ月ほど前に、花嫁を迎え入れている。その花嫁とはほかでもない、リディである。

 リディは結局、ジェラルドとガエルの二人と結婚することとなった。三人での結婚という事態については、全ての手続きがスムーズにいったわけではない。何しろ一人のオメガに対して二人のアルファが独占されるのだから、大問題だ。とはいえ、すでに疑いようもなく三人は番が成立してしまっており、もはや彼らは番以外に欲情しない身体になっているのだ。

 元々、一人の優秀なアルファの元に、複数のオメガがあてがわれることは珍しくなかった。だからというべきか、一夫多妻が認められているのであれば、一妻多夫だって認めるべきだというペロー侯爵家の訴えは渋々という形ではあったが認められることとなった。

 そうしてリディにとって、晴れて、と言うべきか悩ましい婚姻は結ばれたのである。

 新婚夫婦たちにとってお決まりの日常と言えば、夜な夜なの情事だろう。今夜もまた、リディは身体を暴かれていた。

「んぁっらめ、あああっやっやぁあああ……っ!」

 新婚夫婦のために用意されたベッドは、三人で寝ても充分すぎるほどに広い。そのベッドで、いやらしいナイトウエアを身に着け、下半身のみを露出させたリディが喘いでいた。

「ほら、リディ……隠さないと丸見えになってるよ……? 恥ずかしいんじゃなかったの?」

 上半身を起こしているリディの耳元に、後ろから抱き込む形に覆いかぶさったガエルがねちっこく声をかける。リディの腕は縋るように後ろの彼の腕を握っていたが、そのせいで身体が隠せない。ナイトウエアは襟ぐりが深くV字にはなっているものの、彼女のささやかな胸を覆う形状に生地はカットされている。だというのに、その生地はごく薄くて肌がほとんど透けているうえ、肝心な胸の中央部分については、なぜか切り込みが入っていてその窓から尖った敏感なところが顔を出してしまっている。それも両胸だ。それがリディの身体が揺さぶられるたびに動いて擦れ、愛撫されてもいない乳首にいちいち快楽を募らせた。それが恥ずかしくてさっきまではリディは懸命に手で隠していたのに、もう快楽に堕とされて彼女はもう隠してなどいられないのだ。

「ら、ってぇ……がえ、る……ひぁあああああ……っ!」

「おいおい、俺のことを忘れるなよ」

 ぐちゅんっと一際激しい水音をたてて、リディの身体が下から突き上げられる。その衝撃にぎゅうっとうねった蜜壺は太い肉棒をぎちぎちと締め上げた。

「んっんっあ、ああっや、ああああ……っ!」

 絶頂を迎えているにも関わらず、リディの身体は容赦なく下からも、後ろからも突き上げられる。つまり彼女は今、仰向けになったジェラルドに跨って蜜壺を下から責められ、その背後からガエルに後ろの穴を突かれているというわけだ。

 彼らが交互に相手をするのを良しとするならよかったのだろうが、ジェラルドもガエルもリディを譲ろうとしない。結果として、ほぼ毎晩、リディの身体はジェラルドとガエルのふたりがかりで責め立てられることになった。

「ほら、がんばって? ジェラルドのが出たら次は僕の番なんだから」

「やらぁあ……も、むり、ってぇ……あ、は、ぁああ……っ」

 口から出るのは拒絶だが、リディの身体は前も後ろも雄の欲望を求めてギチギチに締め付けている。いやいやしていても彼女が真に拒んでいるわけでないのを、もう双子は知っているのだ。いまだ新婚のはずの彼らは、もうそれほどに肌を重ねている。

「ジェラルド、リディが限界そうだし早く出してくれる?」

「そう急かすんじゃ……ねえよ。昨日は先にヤらせてやっただろ」

「でも一昨日もジェラルドが先だったでしょ」

 ぎしぎしとベッドを揺らしながら、喘ぐリディの身体は蹂躙される。

「ぁんっあっあっ……は、ぁあんんっ」

 耳元で甘くねちっこく責められ、下からは意地悪な言葉をかけられ、リディは連続の絶頂を迎えざるを得ない。

「また、イっちゃ……あっああっ」

「僕も……」

「ああ、今くれてやるよ!」

 きゅうん、とうねった蜜壺に促されるように、後ろもぎゅっと異物を締め付ける。ずずんっと打ち付けられた腰が止まり、挿入された肉棒が脈うちながら熱い白濁を吐き出し始めた。それを身体で搾り取ったリディはぐったりとガエルの身体に背中を預ける。だが、先ほどの宣言通り、まだまだ終わるわけではない。

「んぅ……っ」

 ジェラルドが身体を揺らしたその動きで、胸が擦れたリディは小さく吐息を漏らす。あろうことかその色を帯びた吐息一つで、挿入されていた二本の肉棒はむくむくと元気を取り戻す。

「あ、やっもう、やぁあ……」

 ガエルから逃げようとしたリディの身体を太ももから抱え上げて持ち上げたガエルは、一度肉棒を引き抜いて、そのまま彼女をジェラルドの隣に横たえさせる。

「だぁめ。次は、僕のをこっちで呑み込んで?」

 仰向けにしたリディの割れ目に指を沿わせて、ガエルがねだる。

「あんっ」

 リディの意志とは裏腹に、きゅんっとうねって次の快楽を身体が求め、先ほど奥に吐き出されたばかりの子種を前からも後ろからも零れさせた。

「いい子」

 股を割って彼女の蜜壺に肉棒を埋没させる。そうしてガエルはすぐにピストンを開始した。

「ガエル。それじゃ俺ができねえだろうが」

 むくりと起き上がったジェラルドが文句を言ったが、ガエルは笑ってみせるだけで彼女の奥を突き上げる動作を止めない。

「やっああ、あ、じぇら、るど……んあっとめ、て……ひああああ……っ!」

「だめだよリディ。そんなこと言うのは」

 ジェラルドに助けを求めた彼女にむっとしたガエルがぐりぐりと子宮口を押し込んで口を尖らせる。

「らって……んむっ」

「そうだぜ、平等じゃなきゃな」

 せせら笑うジェラルドは、リディの可愛らしい唇に、子種をまとわりつかせた狂暴な肉棒を押し付ける。

「シてくれるよな、リディ?」

「ん、んんっ」

 彼女の返事を聞かず、ジェラルドはぐぐっと腰を押しこんで、リディの口に欲望をねじこむ。だが、抵抗なく口をあけたあたり、リディももうこの行為に慣らされているのだ。

「んんっんっんっぅぅううっ」

「リディ、可愛い」

 嬌声すら塞がれたリディは、ただただ蜜壺をうねらせながら二人の責めを受け続ける。そのセリフが、双子のどちらかのものだったのかもわからないままだった。


***


「もうっ! 手加減してって何度言ったらわかるの!?」

 叫んだリディの身体のあちこちに、唇や歯でつけられた鬱血痕が浮かんでいる。ベッドに座りこんで怒った彼女の足元に、地面に直接座らされている双子はそれぞれ困ったような笑みと、それから全く反省していないふうの顔をしていた。

 あの後、一度で終わるはずのなかった行為は、くりかえし蜜壺に子種を注ぎこまれ、体位をかえ、口でも子種を飲み干し、後ろの穴からも白濁を零し、彼女の身体がどろどろになって失神するまで続いた。今はその翌朝である。

「ごめんって。リディ。そんなに怒らないで」

 無茶をさせた自覚はあるのだろう。ガエルはそう言って大人しく床に座ったまま、リディの顔を窺っているが、一方のジェラルドは言い訳すらしない。

「ガエルもガエルよ! ジェラルドと、あんな……競う、みたいに……うぅ……」

 昨晩の行為を思い出したのだろう、たちまちにリディの顔が赤くなる。

「いいだろ、リディだって悦んでたんだろうが」

「ジェラルドのばか!」

 リディは叫んで枕を彼に投げつける。それを顔面で受け止めたジェラルドだったが、くくっと喉を鳴らして笑っただけで、ちっとも怒ったりなんかしなかった。それどころか、怒っている彼女を楽しそうにすらしている。

(もうっ本当にいっつもこうなんだから!)

 顔を真っ赤にさせたリディは考える。





 ジェラルドに無理やりに番われ、ガエルとふたりがかりで抱かれたあの日。彼女たちの関係は修復不可能なほどに壊れ、リディはただただ蹂躙されるだけの存在になったかに思われた。だが、番になった彼らはもう異常なヒートを引き起こさない。

 散々に奥に子種を受けて、異常なほどのヒートが納まったリディは、応接室のソファをどろどろに汚し、自身もぐちゃぐちゃになった身体を確認して、ふつふつと怒りが湧いてきたのだ。

(別に、番に夢なんか見てなかったわ。自分に自身がなかったから、選んでもらえるだけいいだなんて……想ったりもしたけど)

 純潔は騙し打ちでガエルに奪われ――それについてはもう納得していたが――、番については手順を踏まえず乱暴にされ、しかもそのあとは凌辱された。本当ならとてもロマンチックであるべきその儀式を、凌辱と乱交で塗りつぶされ、挙句の果てに自宅の応接室を汚されているのだ。

 これで怒りを覚えないほうがおかしいだろう。

 いや、リディはそこまでの時点で踏みにじられるだけ踏みにじられたのだから、怒れるだけの精神的余裕が彼女に残っていたのが奇跡なのかもしれないが。

 とにもかくにも、怒ったリディはまず、床に落ちていたガエルの服を奪って身体を隠した。そうしておいてから情事のあとに疲れて眠りこけている双子を後目にメイドを呼び、バケツに汲んだ水を彼らにぶっかけた。唐突なリディの行動に目を白黒させるばかりの彼らの頬を引っ叩き、リディは淑女としてはあるまじき仁王立ちをして、堂々と宣言したのである。

「私と番になったからって、好きにできると思わないで! 私と結婚するつもりがあるならちゃんと謝って! それから二人がここを綺麗にするまで、私絶対に許さないんだから!」

 叫んでいる内容が、ジェラルドとガエルと結婚する気があることを宣言しているうえ、重要なのは部屋の掃除なのかという間抜けな要求をしていることにリディ自身は気づいていない。笑いだした彼らにさらにリディは怒ったが、そこに凌辱の前の殺伐とした空気はない。

「わかったよ、僕たちのリディ。ごめんね。それから、僕たちと結婚してくれる?」

「……俺も興奮して……いや、俺は悪いことはしてねえよ。リディの初めてをガエルに奪われたんだから」

「ちょっと、ジェラルド! ちゃんと謝って!」

「はあ? だいたいお前が……」

「喧嘩するなら出て行って!」

 にわかに口論に発展しかけた二人に、リディの一声がかかって双子が押し黙る。とにもかくにも歪んだままになるはずだった彼らは、リディの怒りのおかげで、彼女を取り合いつつもリディの尻に敷かれ、対等な関係に落ち着いたのである。





 番になったときから、さほど時間は経っていないはずだが、ずいぶんと昔のことのように思えて、リディの口からは勝手にため息が漏れる。情事を営んでいないときにはリディのほうが力関係は強いのに、どうにもこうにもベッドの上では二人の夫に勝てた試しがない。それもこれも、もはやこの短期間であの手この手でリディの身体を快楽に弱い身体に仕立て上げられているからなのだろう。

 それが悔しいリディである。

「ごめんね、リディ。でも……リディが可愛すぎて我慢ができなくて……」

 それは厳密には謝罪になっていないし、言い訳ですらない。だが、目を釣り上げたリディは、内心では顔が緩まないように必死だ。好きな人に可愛いと言われて心は勝手に舞い上がってしまうし、彼のがリディに甘えるように見せるその眉尻を下げた顔が、意外に好きなのだから困る。

「いい子ちゃんぶって一人だけ謝ってるんじゃねえよ」

 それを鼻で笑ったジェラルドは、リディに目を向けてぞくりとするような笑みを浮かべた。

「なあ、リディ? お前は、前も後ろもガンガン責められるのが好きなんだもんな? もう、片っぽだけじゃ、物足りないだろ?」

「そんな……」

 意地悪に言われて、リディが反論しそうになる。しかし、その先の言葉が続かない。そんな彼女の様子に、ジェラルドはくくっと喉を鳴らして愉快そうに立ち上がった。そうしてベッドに座りこんでいるリディの耳元に口を寄せて囁く。

「今夜も二人でたっぷりシてやるから、期待してろよ」

(期待なんて!)

 ぱっと身体を離してジェラルドを見たリディは、彼の意地悪げな笑顔に胸がどくんと跳ねる。ジェラルドがからかってくるのはあまり好きではない。頭ではそう思うのに、彼の楽しそうなその笑みに、どうしてかいつでも勝手に胸がそわそわして、身体の奥が疼くのだ。

 幼いころ、意地悪な彼のことも嫌いになれなかったのは、きっとリディも虐められるのが好きだからなのだろう。彼女は決して、それを認めたくはないのだが。

 優しく甘やかし誑しこもうとしてくるガエルのことも、意地悪な笑顔でリディを翻弄してくるジェラルドのことも、思い返せば幼い少女のころから好きだった。それが今でも続いている。

「リディ、大丈夫?」

 黙り込んでしまったリディを心配して、立ち上がったガエルがリディの手を取れば、その途端に彼女の身体の奥がきゅぅんと切なく揺れて、昨晩たっぷり注ぎ込まれた二人の愛がどろりと溢れだした。それはジェラルドの言葉通り、今夜の情事への明らかな期待だった。

「うん……だい、じょうぶ……」

(じゃ、ないかも……)

 片っぽだけじゃ、物足りない。

 その言葉を反芻して、リディは目を伏せる。

(両方、二人ので一緒に埋めて欲しいなんて……私って、こんなにえっちな女の子だったのかな……)

 赤面する頬を押さえながら、リディは今夜に思いを馳せる。今夜もなんだかんだと言いながらも本気の抵抗をすることはなく、彼女は二人に抱かれるのだろう。

 リディの胎に新たな命が宿ったことがわかったのは、このわずかあとのことである。そうして一年後、子どもも産まれてもう情事で悩まされることはないと思いこんでいたリディは、溺愛が加速して、より激しく身体を求められることになる。そんな未来が訪れることは、今の彼女は思いもよらないのだった。


おわり
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