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6.双子に求められて ※

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 部屋の中に、ギシギシとソファが軋む音が響く。可愛らしい喘ぎ声などなく、ただ奥を突き上げられ内臓を押し上げられる感覚に、リディは声を漏らしていた。呆気なくも番にされたあと、リディの発情にあてられたジェラルドは、すぐに彼女を抱き始めた。スカートをめくり上げ、ドロワーズを破き、彼女の秘所が発情で濡れていることを確認したら、慣らしもせずにすぐに挿入して快楽を貪り始めたのだ。

 ジェラルドたちと再会したあの日、彼が紳士的な態度だったのは、対外的な紳士の顔をしていたにすぎない。理性の皮をむいたジェラルドは、リディの裸体を見るのも躊躇したような奥ゆかしさはない、ただの野獣だった。

「あ、あ、ん、あ……」

 口からただ漏れる声を制御できないままに、リディはただ啼く。目尻からは、ひたすら涙がぽろぽろとこぼれていた。それを見下ろしながら彼女を責め立てるジェラルドは、嬉しそうに笑んだ。

「はは、もっと泣いてくれよ。リディの泣き顔は昔と変わらず可愛いな?」

(……酷い……)

 まるでガエルと真逆のことをいう。先日ガエルに抱かれたとき、彼と番えていたら、今こんな目に遭っていなかった。あまりにも乱暴な、情事とも言えない一方的な行為である。発情のせいで身体は快楽を覚えて絶頂を迎えるが、今の彼女はガエルと肌を合わせたときのような、理性の溶けた高揚感はなかった。

 番と肌を合わせているはずなのに。

(ジェイは、優しいときのほうが多かったのに……)

 そう考えて、ふと、リディは違和感を覚えた。確かに少年だったジェイは優しかったが、ときどき、今のジェラルドのように、酷くリディを困らせては泣き顔を楽しむことがあった。彼が好きなのは変わらなかったが、そんな意地悪なことをしてくるのが理解できなくて、少女だったリディは余計に泣いて、それがさらにジェイを喜ばせたものだ。

 先日街で会ったときのジェラルドが、まさにそういうときのジェイと同じ態度だった。今はそれに輪をかけて酷い。

(もう、あのころの優しいジェイはいないのかな……早く、終わって欲しい……気を、紛らわせなきゃ……)

「……じぇら、るど……ね、どうして……ん、あ……っ、ジェイ、って名乗ってたの?」

「ん? ……ああ、子どものころの話か。そんなの、リディが勝手に呼んできたんだろう?」

「え……?」

 名前を聞いて、「ジェイ」と答えたのはジェラルドだったはずだ。なのに。

(待って……本当に、私の初恋はジェラルド、だったの……?)

 言葉を詰まらせた彼女の様子に得心したようにジェラルドは頷いた。

「ああそういうことか」

「ひ……っ!」

 どちゅん、と強く腰を打ち付けられて、内臓を押し上げた痛みのような強すぎる刺激に、無理やりにリディの身体は絶頂させられる。

「リディは酷い女だな。俺に抱かれてる癖に、ガエルのことを考えるなんて」

「なに、を……あああ……っ」

 まだ蜜壺の痙攣が治まらないうちに、ジェラルドはさきほどよりも激しく肉棒でリディの奥を穿つ。破裂音がするほどに突き上げて、獰猛に笑った彼は実に楽しそうだ。

「お前が言ってる『ジェイ』ってガエルのことだろ?」

「んぁ……っが、える……?」

「子どもの時はわからなかったが、リディはガエルとも会ってたんだな。だからあいつ、『先に見つけた』なんて言ってたんだ」

「そんな……あっ、は、ぁあ……っ」

 言われてみれば、説明がつく。優しいジェイは、リディの名前を呼ばなかったが、意地悪なときのジェイはよくリディの名前を呼んでいた。それはきっと、リディが名乗ったのがジェラルドに会ったときで、ガエルに会ったときは名乗っていなかったのだろう。つまり、リディはガエルとジェラルドの二人に少女のころに会っていて、そして、一番最初にリディを助けてくれたあの優しいジェイは、ガエルだったのだ。

 こんな話をしていてなお、ジェラルドはリディの奥を激しく突き上げるのをやめてくれない。

「どうしてがえる、が……んぅっジェイって名前で……んんっ」

Géraldジェラルドと、Gaëlガエル。両方頭文字はGで、『ジェイ』だろ? あのころくらいまでは、ガエルは俺のまねをしてたからな。喋り方とか歩き方とか。どうせ俺にでもなりたくて、そう名乗ったんじゃないか?」

「あ、ああ、ん、あ……っ」

(なんてことなの……)

 あのころは、ジェイが双子だなんて想いもよらなかった。だから違和感を覚えても同じ少年だと思いこんでいたのだ。少女だったときすでに、リディはジェラルドとガエルの区別をつけていた。

「それで? リディの初恋の『ジェイ』って、俺? それともガエルのほう?」

「あ、あ……そんな……」

 リディが最初に恋したのは、犬から助けてくれた優しいジェイだ。最初に『かわいい』と言ってくれたあのとき、恋に落ちたのだから。

「いや……ぁあっは、ぁ、ゃ、ああ……っ!」

 リディはもう、ジェラルドに奪われた。初恋は実らないと諦めをつけ、ガエルと結ばれるつもりだったが、彼が本当の初恋の相手だったのに。また涙が溢れて、リディは悲痛な声をあげる。だが、それをジェラルドは楽しんでいる。

「もう俺のだから、関係ないけどな」

 ずんっと奥を激しく突き上げられて、容赦なく白濁を注ぎ込まれる。どぷどぷと胎の奥を満たされ、ともすれば彼の子を孕むかもしれない、この行為。

(やだ……もう、やだぁ……)

 秘所をジェラルドの欲望で貫かれたまま、リディは声にならない嗚咽を漏らして両手で顔を覆って泣きじゃくる。ジェラルドによって引き起こされた発情はすでに治まっているが、問題はそこではない。

 長く感じられたその行為は、きっと十分にも満たない乱暴だった。

 ダニエラが人を呼んで戻ってくるのに、そう時間は掛からなかったが、もう手遅れだった。リディは蜜壺に子種を注がれて汚され、ジェラルドに番われてしまったのだ。

 大急ぎで鍵を開けて中に入ってきたのは、騎士とメイドとリディの父、そしてガエルだった。

「……見ないで!」

 人が来たことに気づいたリディは、とっさに身体を起こしてソファの上で縮こまった。

 破かれた服に、切り捨てられた首輪。それらの惨状で、何があったのかすぐに察したらしいガエルは、乾いた笑いを漏らした。

「お嬢様!」

「リディ……! お前たちは下がれ!」

 娘の裸体を騎士に晒すわけにはいかず、父のアンベール伯爵は騎士をドアの外に追い出す。

「あー、遅かったな?」

 ずるりと肉棒を抜いて、悪びれもしないジェラルドがガエルに挑発的な視線を送った。事後にそんな態度をとるところが似ているのは双子ゆえんか。だが、リディは身体を抱えてソファで震えるばかりで、ガエルもジェラルドのことも見る余裕がない。ジェラルドはその彼女の隣に余裕の表情でどかっと座り込んだ。

 唇を噛んだガエルは、一歩部屋の中に踏み込むと、アンベール伯爵を振り返りもせずに、硬い声を発した。

「…………アンベール伯爵。申し訳ありませんが、二人と話をしたいのです。……こんなことになって、本当にすみません」
 ぎゅうっと拳を握ったガエルは、そこで伯爵を振り返った。

「でも……少しだけ、少しだけでいいので、時間をくれませんか?」

 顔を歪ませ、口元をかろうじて笑ませたガエルは、以前ジェラルドがしたのとは違って乱暴を働かず、リディの父にそう請う。

「……婚約の話について、話し合いたいのです。お嬢さんを、傷つけることはありません。ですから……」

「わかりました……」

 本来ならば、この状況で双子とリディを一緒にいさせるべきではないだろう。だが、アンベール家はしょせん伯爵家で、ガエルたちのペロー家は侯爵だ。加えてベータであるアンベール伯爵が、アルファの双子に逆らえるはずもない。

 結果として、応接室にはリディとジェラルド、そしてガエルの三人が残された。

「……リディ、大丈夫? 身体痛くない?」

 上着を脱いだガエルは、リディに近寄りながら、穏やかな声で彼女を労わる。

「や……っ」

 汚された身体を見られたくなくて、リディはソファの上で彼を避けるように背中を向けた。

「お前は呼んでないってさ」

「……」

 ジェラルドのからかうような言葉を無視したガエルは、リディの肩に上着をかけて、その隣に座る。俯いて自身の肩を抱いて震えるリディのうなじには、痛々しい噛み痕が残っていた。ジェラルドはすでに番になった余裕なのか、リディに寄り添うガエルを面白そうに観察している。

「……ガエルは……どうして、ジェイは自分だって、言って、くれなかったの……」

 きっと見合いの場で再会したあのとき、ガエルが名乗り出てくれていれば、誰が運命なのだとか考えずに、きっとリディはガエルと番うことができただろう。ガエルが騙し打ちで婚約の場にくるようなことだってなく、ジェラルドがこんな強硬手段に出ることもなかったはずだ。

「ああ……僕の、せいか……。だって……ジェラルドの真似してたなんて、かっこわるいでしょ?」

 リディの背中に頭を預けて、力ない声でガエルは言う。

「おい、リディから離れろ。もうわかってるだろ。リディは俺の番だったんだ」

「じゃあなんで、僕にも発情したのさ……ねえ。リディ。こんなことになるなら無理やり噛んどくんだった」

 リディの背中に口づけて、ガエルは呟く。

(そんな酷いこと、できないくせに……)

 覚えていた通りの優しい少年がガエルなら、あの初めて純潔を散らされたあの日の優しさを持ったガエルならば、きっとそんなことできなかった。

「あ……っんん……っ?」

 不意に、リディが甘い声を漏らして、甘い香りが漂い始めた。

「はは。番ができたのに、また発情してるの? リディ」

「おい」

「僕が、痕をつけたかったな」

 苛立ったようにリディからガエルを引きはがそうと、ジェラルドが腕を伸ばしたその瞬間だった。ガエルはリディのうなじに噛みつく。その噛みつきはジェラルドのときのように苛烈でない。だが最後の未練を捨てるかのような口づけのような噛みつきは、リディのうなじに強く衝撃を走らせた。

「ガエル、やめろ。そんなことしたって」

「あっやっ……は、あっ熱い……!」

 軽くかみついただけのそれが、じわりと痕になってリディのうなじに刻み付けられる。そうして、リディのうなじにはジェラルドのものとガエルの噛み痕がくっきりと浮かび上がった。

「な、に……ぃや……もう、はつじょう、なんか……や、ぁああ……っ!」

 リディが声を上げながら身体を震わせるたびに、部屋の中に彼女の甘い香りが振りまかれ、フェロモンが強くなる。

「待って。ねえ、リディ、今、誰に発情してるの?」

 本来ならば、番を得たオメガは周期的な発情期意外は誰に対しても、発情しなくなる。そもそも、発情期以外で唐突に発情するなどという現象は、運命の番にしか起こりえないのだ。加えていえば、番を得たオメガのうなじに他の歯型がつくことなどありえないのだ。

 なのに、ついさっき発情を発散させたばかりのリディは再び欲情を促すフェロモンを発している。

「……は。はははははは!」

 番の発情に先ほど熱を解き放ったばかりのジェラルドもあてられて、再びその下半身に欲望を募らせる。そうして狂ったように笑い始めたジェラルドは、じろじろとガエルとリディを見比べる。

「なんだ、リディ。お前……俺と、ガエル、両方の運命なのか?」

「両方……?」

 意味がわからない、と声を漏らしたリディに、ジェラルドは獰猛に笑う。

「そうだよな。別に、どっちかのものである必要なんてない」

 どっちかのもの。その言葉にリディが震えた瞬間に、ジェラルドは彼女の様子をまた愉快そうに喉を鳴らして低く笑う。

「俺たちは双子なんだからな」

「ジェラルド?」

「ふ、ぅう……」

 眉間に皺を寄せたガエルの身体に、ぐらりとリディの身体が倒れ込んできた。頬を上気させ、発情した彼女は実に淫靡だ。そのフェロモンの香りが、ガエルの本能を刺激する。

 番を得たオメガは、欲情したとして、番にしかそのフェロモンは効かなくなるはずなのに。

「は……さっきシたばっかだけど、もう欲しい。フェロモンってのは凄いな」

 舌なめずりをしたジェラルドの下半身は、先ほど一度しているにもかかわらず、もう反応している。しかしそれはガエルの身体も同じことだった。

「リディ、喜べよ」

 ジェラルドは低く笑った。

「俺と、ガエル。二人がお前の番だ。二人でたっぷり、可愛がってやるよ」

「ジェラルド!」

 ガエルが慌てたように叫んだのに対し、ジェラルドはリディのドレスをさらに破って、彼女の肌を露わにした。そうして太ももをかかえて、ガエルに秘所を見せつける。そこからは、先ほど注いだばかりの子種がとろとろとこぼれおちていた。

「いやっやめてぇ……っ!」

 愛撫のあとすらないのに、その白い身体の秘部だけがいやらしく充血して、快楽の痕跡である白濁と愛液でぬめっている。言葉は拒絶を吐いているのに、羽交い絞めにされたリディの蜜壺はうねって、白濁をさらにどろっとこぼした。

「んぁっ」

 よがり声をあげたリディの蜜壺に、ジェラルドの指が乱暴に差し込まれる。二本まとめて侵入した指を、先ほどまで肉棒を受け入れていたそこは、もっと太いものを寄越せをまたうねる。

「あっや……だめ、だめぇ……ひああああっ」

 首を振っているが、肉芽をこすってやればすぐにその快楽に夢中になった。目の前で秘所を見せつけながら淫らに喘ぐリディから、ガエルは目が離せない。

「お前はいいのか? 俺がリディを一人占めしても」

「でも、リディが……」

 羞恥を煽る格好を、抵抗なくさせられたリディは、もう発情と愛撫とで理性が溶けている。とろんとした顔で、ガエルを見つめる顔は切なそうだ。

(だめ……? ほんとに、だめ……なの……?)

 だって、リディはガエルが好きなのだ。

「……ガエルも、私の、つがい……?」

 こてん、と首を傾げながらそう尋ねれば、またもひくんと蜜壺がうねって、密なのか白濁なのかわからないものをこぼす。

「……っ」

 苦しそうに顔を歪めたのは、一瞬だ。次の瞬間には、ガエルは優しく微笑んだ。

「うん。そうだよ、リディ。僕もジェラルドも、リディの番。二人で、たくさん、愛してあげるからね」

「そっか……」

(ならもう、いいのかなあ……)

 リディは目を閉じて、近づいてきたガエルの口づけを受け入れる。その目尻に伝った涙が、喜びのものなのか、悲しみによるものなのか、もはや彼女にはわからなかった。

 そうして、リディは双子の番からの愛をその身に受ける。身体をまさぐられ、奥を突かれ、二人のどちらなのかわからない子種が胎から溢れるまでずっと、二人の愛を受け止めた。

 そうして、理性を奪われたオメガは、二つの運命に惑い、番われたのだった。
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