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幼馴染じゃなくなった夜
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抱きしめあいながら、しばらく二人で浅い呼吸を繰り返す。
「……翔とこんな風になるなんて、思わなかったな」
「俺はずっと、願ってたけどな」
「そうなの?」
素っ頓狂な声があがったので、少し身体を起こして彼女の目を見る。
「俺がお前だけ見るってさっき言ったの、どういう意味だと思ったんだよ」
「え、っと……」
その場の空気に流されただけだったのか。
「だって、あんなの、ずるい…」
頬を染めて、彼女が言う。
「いきなり押し倒したのは悪かったよ。でも俺は……」
言いながら身体を起こして、彼女と自分の間にどろりと滴った液に気付く。
「悪い……汚してしまったな」
俺が顔をしかめると、ソファに横たわったままだった彼女が不意に笑う。
「なんだよ」
「何か、おかしくて」
そう言いながら、彼女はなおも笑う。
「ベトベトになっちゃったね。私シャワー浴びてくるよ。翔も後でシャワーしてね」
起き上がった彼女が、不意によろける。
「大丈夫か?」
腕を掴んで起こすと、彼女はまた笑う。
「まだお酒抜けてないな~。でも大丈夫。待ってて。後で話そ?」
立ち上がり背中を向ける前に、彼女は朗らかに微笑んだ。
いつもの彼女だった。少なくとも、『忘れたい』と感情をぐちゃぐちゃにした彼女の姿はない。それが例え表面上だけだとしても、とりあえずは彼女のが笑っている。それが嬉しかった。
ほどなくして、彼女は寝間着に着替えた状態で戻ってきた。俺は遠慮なくシャワーを借りることにする。
ずっと家を行き来していたとはいえ、流石に風呂を借りるのは小学生の頃以来だ。風呂場に入れば、先ほどまで彼女が使っていたというのもあいまって、少し緊張する。
重ねた身体を彼女がここで、洗い流したのかと思えば、まだ冷めやらぬ興奮に身体が反応しそうになる。残り香だけで興奮するなんて、中学生かと思ってしまうが、長年の想いをようやく遂げられたのだから、気持ち悪さは許して欲しい。
煩悩を払うように身体を流して、俺は風呂場を出る。
着替えなんて勿論ないから、さっきまで着ていた汗臭い服で身を包んだ。
「あれ、お父さんの服出しといたけど気付かなかった?」
リビングに顔を出せば、彼女はソファに座って何かを飲んでいる。
「いや、これでいい。それより何を飲んでるんだ?」
「心配しなくても、ただのお茶だよ」
ひらひらとコップを揺らして見せるので、とりあえず隣に座る。
「さっきの話なんだけどさ」
俺にもう一つのコップを渡しながら、彼女が口を開く。
「……私、翔には嘘つきたくないから正直に言うね」
彼女が俺に向き合い、まっすぐに目を見てくる。
「私、今まで翔のこと、その……恋愛対象に見たことがなくて。それにね、あんな酷い事されても、私まだ、先輩の事が、好きなんだと思う……それなのに翔とあんなことしちゃって……」
あんなこと、と彼女は言う。さっきまで満たされていた筈の心が、ザワザワと音を立てて
「じゃあ」
「誠意がなくてごめん!」
彼女は頭を下げる。
「先輩にフラれてるって言っても、翔と付き合ってる訳じゃないし、気持ちがある訳じゃないのに慰めてもらって、私本当にやな奴だった! 本当にごめん!」
「何だよそれ……」
「だから」
彼女が、ばっと顔をあげた。
「気持ちはこれからになっちゃうけど、今からまた翔と一から始めさせてください!」
彼女が手を差し出してきた。途端に、胸に渦巻いていたものが解けていく。
「何だよ、ほんと……」
都合のいいことを言われているのは、判っていた。それでも、彼女は今、俺と向き合おうとしてくれている。
「俺が断れるわけないだろうが」
差し出された手を、引き寄せて彼女を抱きしめる。
今は、これでいい。
こうして、幼馴染を慰めた夜に、友理は俺の『彼女』になった。
「……翔とこんな風になるなんて、思わなかったな」
「俺はずっと、願ってたけどな」
「そうなの?」
素っ頓狂な声があがったので、少し身体を起こして彼女の目を見る。
「俺がお前だけ見るってさっき言ったの、どういう意味だと思ったんだよ」
「え、っと……」
その場の空気に流されただけだったのか。
「だって、あんなの、ずるい…」
頬を染めて、彼女が言う。
「いきなり押し倒したのは悪かったよ。でも俺は……」
言いながら身体を起こして、彼女と自分の間にどろりと滴った液に気付く。
「悪い……汚してしまったな」
俺が顔をしかめると、ソファに横たわったままだった彼女が不意に笑う。
「なんだよ」
「何か、おかしくて」
そう言いながら、彼女はなおも笑う。
「ベトベトになっちゃったね。私シャワー浴びてくるよ。翔も後でシャワーしてね」
起き上がった彼女が、不意によろける。
「大丈夫か?」
腕を掴んで起こすと、彼女はまた笑う。
「まだお酒抜けてないな~。でも大丈夫。待ってて。後で話そ?」
立ち上がり背中を向ける前に、彼女は朗らかに微笑んだ。
いつもの彼女だった。少なくとも、『忘れたい』と感情をぐちゃぐちゃにした彼女の姿はない。それが例え表面上だけだとしても、とりあえずは彼女のが笑っている。それが嬉しかった。
ほどなくして、彼女は寝間着に着替えた状態で戻ってきた。俺は遠慮なくシャワーを借りることにする。
ずっと家を行き来していたとはいえ、流石に風呂を借りるのは小学生の頃以来だ。風呂場に入れば、先ほどまで彼女が使っていたというのもあいまって、少し緊張する。
重ねた身体を彼女がここで、洗い流したのかと思えば、まだ冷めやらぬ興奮に身体が反応しそうになる。残り香だけで興奮するなんて、中学生かと思ってしまうが、長年の想いをようやく遂げられたのだから、気持ち悪さは許して欲しい。
煩悩を払うように身体を流して、俺は風呂場を出る。
着替えなんて勿論ないから、さっきまで着ていた汗臭い服で身を包んだ。
「あれ、お父さんの服出しといたけど気付かなかった?」
リビングに顔を出せば、彼女はソファに座って何かを飲んでいる。
「いや、これでいい。それより何を飲んでるんだ?」
「心配しなくても、ただのお茶だよ」
ひらひらとコップを揺らして見せるので、とりあえず隣に座る。
「さっきの話なんだけどさ」
俺にもう一つのコップを渡しながら、彼女が口を開く。
「……私、翔には嘘つきたくないから正直に言うね」
彼女が俺に向き合い、まっすぐに目を見てくる。
「私、今まで翔のこと、その……恋愛対象に見たことがなくて。それにね、あんな酷い事されても、私まだ、先輩の事が、好きなんだと思う……それなのに翔とあんなことしちゃって……」
あんなこと、と彼女は言う。さっきまで満たされていた筈の心が、ザワザワと音を立てて
「じゃあ」
「誠意がなくてごめん!」
彼女は頭を下げる。
「先輩にフラれてるって言っても、翔と付き合ってる訳じゃないし、気持ちがある訳じゃないのに慰めてもらって、私本当にやな奴だった! 本当にごめん!」
「何だよそれ……」
「だから」
彼女が、ばっと顔をあげた。
「気持ちはこれからになっちゃうけど、今からまた翔と一から始めさせてください!」
彼女が手を差し出してきた。途端に、胸に渦巻いていたものが解けていく。
「何だよ、ほんと……」
都合のいいことを言われているのは、判っていた。それでも、彼女は今、俺と向き合おうとしてくれている。
「俺が断れるわけないだろうが」
差し出された手を、引き寄せて彼女を抱きしめる。
今は、これでいい。
こうして、幼馴染を慰めた夜に、友理は俺の『彼女』になった。
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