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【黒幕は誰だ】
後始末のつじつま合わせは面倒だよね
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その後、ルーナ先生はセリナが呼んだ迎えに引き取られ、私は何とか意識を保って、家に帰ることができた。けれど、数日の間に3度もほぼ全力の聖属性魔法を放ったので、家に帰るなり倒れ込むように眠り、それから2日程寝込んでしまった。
アウレウスは、影を祓うための魔力をたくさん提供してくれたにも関わらず、普通に動けていた。私の魔法のコントロールが下手なせいで、ルーナ先生だけでなく、アウレウスやセリナも魔法に巻き込んでいたから、二人とも魔力が少し回復したらしい。だから、アウレウスは魔力枯渇にならずに動けたらしいんだけど、私に魔力くれる前も魔法をずっと使い続けていたのに倒れないなんて、聖女なんかよりもよっぽどチートなのではないだろうか。
ルーナ先生も寝込んでいたらしいのだけど、1日ほどで回復したとのこと。
動けない私の代わりに、アウレウスが事件の後始末をしてくれたらしい。アウレウスの話によれば、ルーナ先生の研究室で、魔道具の暴走が起きた、ということになったみたい。三日月のペンダントが原因でモンスター化が引き起こされたんだから、あながち間違いでもない。
それから私はと言えば、寝込んでいた日も含めて一週間ほど強制的に学園を休まさせられた。
「クレア、お前が熱心に勉学に打ち込んでいるのは判るけれど、こんな短期間に何度も倒れているようでは、お兄様は心配だよ」
「ヒラルドの言う通りだよ。一度しっかり身体が治るまで、休みなさい」
顔は笑っているけれど目が笑っていないヒラルドお兄様と、心配そうなのを一切隠さないお父様にそう言われて、一週間はベッドとお友達だったのだ。流石に何にも部屋に籠り切りなのは気が滅入りそうだったけれど、休養という割りには、お兄様やお父様だけでなく、テレンシアやアビゲイル、アウレウスが入れ替わり立ち代わり顔を出してくれたので、退屈はしなかった。
肝心の、今回倒れた原因については、ルーナ先生の研究室に居合わせたこと自体は隠せないので、魔道具の暴走を止めるために、魔法をつい使ってしまった、ということにしてある。嘘ではない。
結局、学園側にはモンスター化については伏せている。
「やっぱり、あのペンダントが闇落ちモンスター化の原因で間違いないと思う」
学園に顔を出した日に、私とアウレウスはルーナ先生に、時間を作って貰い、話を聞いた。私が行った時には、ぐちゃぐちゃになっていた研究室はすっかり片付いていた。
「僕があのペンダントに付与したのは、気持ちを明るくする水魔法だけど、作用としては暗い感情を水に吸い込む、というものなんだ。それが、魔力と共にペンダントに蓄積されて、モンスター化する魔力に変質したんだと思う」
つまりは、どこかの黒幕が意図的にモンスター化をしようとしたのではなく、自然発生の事故だということだ。人間のモンスター化については、これまで記録がないにも関わらず、立て続けに2度も起こったのがゲームシナリオの強制力なのだとしたら、恐ろしさしかない。
「では、残り7個のペンダントも回収した方が良さそうですね」
「や、多分それは必要ない」
「何故です?」
アウレウスの質問に対して、「これは『ゲーム』の情報なんだけど」と前置きして、ルーナ先生は説明してくれた。
「テレンシア、アビゲイル、セリナちゃんの3人は、魔力がとても高く設定されてるんだよ。僕が、モンスターになりそうだったとき、体中の魔力が強制的に搾り取られて、影に変質していってた。それこそ枯渇しそうな程に。僕も魔力は豊富な方だけど、多分、モンスター化するには、魔力が物凄くたくさん必要なんだと思うんだよね」
セリナたちの魔力が100だとすれば、一般的な人の魔力は1や2なのだそうだ。とてもモンスター化するほどの魔力は賄えない。
「なるほど……」
「買ったのも、魔力が少ない女生徒ばっかりだしね」
「何故判ったんです?」
当然の疑問に、ルーナ先生は苦笑した。
どうしてペンダントを持っていたのかとセリナに聞いた所、頬を染めた彼女が、次のように言ったのだと言う。
『ペンダントを納品したラン様に、一目惚れしたの。それで、ペンダントを買った後に、ラン様との婚約が決まって……それをお友達に話したら、『運命を導くお守りだ』って話になったんですわ』
つまり、セリナの友人が話していたのをたまたまアビゲイルが聞いてペンダントを買い、セリナの友人の一人がテレンシアに贈ったという流れだったのだ。実に限定的な流行りだった。
「だから、魔力の高い人は、テレンシア、アビゲイル、セリナちゃんだけだから、大丈夫なんだよ」
「セリナさんは大丈夫なんですか? 魔力を少なからずペンダントに吸われたんじゃないですか?」
私が問いかけると、ルーナ先生はへら、と笑った。
「すぐに僕がペンダント奪ったから問題なかったみたい。めちゃくちゃ元気だし、めちゃくちゃ可愛いよ。聞いてよ、僕が倒れたからって、つきっきりで看病してくれてね。いつもの我儘暴走列車のセリナちゃんも可愛いけど、僕が死ぬんじゃないかって泣いて手を握ってくれるセリナちゃん……めちゃくちゃ健気で可愛かったなあ……あー早く会いたい」
勝手に勘違いして、聞く耳持たずに闇落ちしたセリナのことを、我儘暴走列車と評するのは言い得て妙だけど、ルーナ先生はそんなセリナにベタ惚れなんだね。多分セリナには私は嫌われているし、これからも関わることはないかもしれないけど、セリナが死ぬことなく、ルーナ先生と幸せになってくれるなら何よりだ。
「早くセリナちゃんに会いたいから、もう帰ってくれる?」
ルーナ先生が立ち上がってそう言うのに、前にも同じ流れを見たな、と思う。
「ペンダントの処理は、後はどうするんです? まさか回収しないにしても全て放置という訳にはいかないでしょう」
アウレウスは立ち上がらずに、問いかける。
「学園長には原因を報告するつもりだよ。貴族には魔力の高い人間も少なくはないし、魔法を付加した魔道具は貴族が持つことが多いしね。水魔法だけじゃなく、他の魔道具でモンスター化が起きないとも限らないし」
そう言ってから、ルーナ先生は溜め息を吐いた。
「セリナちゃんの闇落ちイベントも乗り越えて、これでゲームストーリーは僕的には終わりだけどさあ……。こんな危ないこと、原因究明しないと安心できないよ。せっかく後はセリナちゃんといちゃいちゃできると思ったのに……これから忙しくなるのマジでクソ」
げんなりとして、遠い目をするルーナ先生。今回はゲームの強制力も手伝ってモンスター化が起きたんだろうけど、今後同じことが起こらないとも限らない。ルーナ先生には申し訳ないけど、頑張ってもらうしかないな。
「お手伝いはしますので……」
「当然だよ」
チッと舌打ちして、ルーナ先生は手を振った。
「ほら、判ったら帰ってよ。忙しくなる前に、僕は今日セリナちゃんに会いに行くんだからさ」
「時間を取ってすみません」
「ありがとうございました」
そう言って二人で連れ立ってソファから立ち上がると、私たちを追い出すようにして研究室を自分も退出して、そそくさと帰って行った。
「後始末はまだ残りそうですが、これでモンスター化のイベントは終わりですね?」
「うん」
私はアウレウスの質問に頷いた。先生やアウレウスの言う通り、ゲームシナリオの闇落ちフラグは、もう全部折れたんだから。これからは、テレンシアやアビゲイルの闇落ちを心配することなく、平和に過ごせるんだ。
そう思うと、自然と私の顔には笑みが浮かんでいた。
アウレウスは、影を祓うための魔力をたくさん提供してくれたにも関わらず、普通に動けていた。私の魔法のコントロールが下手なせいで、ルーナ先生だけでなく、アウレウスやセリナも魔法に巻き込んでいたから、二人とも魔力が少し回復したらしい。だから、アウレウスは魔力枯渇にならずに動けたらしいんだけど、私に魔力くれる前も魔法をずっと使い続けていたのに倒れないなんて、聖女なんかよりもよっぽどチートなのではないだろうか。
ルーナ先生も寝込んでいたらしいのだけど、1日ほどで回復したとのこと。
動けない私の代わりに、アウレウスが事件の後始末をしてくれたらしい。アウレウスの話によれば、ルーナ先生の研究室で、魔道具の暴走が起きた、ということになったみたい。三日月のペンダントが原因でモンスター化が引き起こされたんだから、あながち間違いでもない。
それから私はと言えば、寝込んでいた日も含めて一週間ほど強制的に学園を休まさせられた。
「クレア、お前が熱心に勉学に打ち込んでいるのは判るけれど、こんな短期間に何度も倒れているようでは、お兄様は心配だよ」
「ヒラルドの言う通りだよ。一度しっかり身体が治るまで、休みなさい」
顔は笑っているけれど目が笑っていないヒラルドお兄様と、心配そうなのを一切隠さないお父様にそう言われて、一週間はベッドとお友達だったのだ。流石に何にも部屋に籠り切りなのは気が滅入りそうだったけれど、休養という割りには、お兄様やお父様だけでなく、テレンシアやアビゲイル、アウレウスが入れ替わり立ち代わり顔を出してくれたので、退屈はしなかった。
肝心の、今回倒れた原因については、ルーナ先生の研究室に居合わせたこと自体は隠せないので、魔道具の暴走を止めるために、魔法をつい使ってしまった、ということにしてある。嘘ではない。
結局、学園側にはモンスター化については伏せている。
「やっぱり、あのペンダントが闇落ちモンスター化の原因で間違いないと思う」
学園に顔を出した日に、私とアウレウスはルーナ先生に、時間を作って貰い、話を聞いた。私が行った時には、ぐちゃぐちゃになっていた研究室はすっかり片付いていた。
「僕があのペンダントに付与したのは、気持ちを明るくする水魔法だけど、作用としては暗い感情を水に吸い込む、というものなんだ。それが、魔力と共にペンダントに蓄積されて、モンスター化する魔力に変質したんだと思う」
つまりは、どこかの黒幕が意図的にモンスター化をしようとしたのではなく、自然発生の事故だということだ。人間のモンスター化については、これまで記録がないにも関わらず、立て続けに2度も起こったのがゲームシナリオの強制力なのだとしたら、恐ろしさしかない。
「では、残り7個のペンダントも回収した方が良さそうですね」
「や、多分それは必要ない」
「何故です?」
アウレウスの質問に対して、「これは『ゲーム』の情報なんだけど」と前置きして、ルーナ先生は説明してくれた。
「テレンシア、アビゲイル、セリナちゃんの3人は、魔力がとても高く設定されてるんだよ。僕が、モンスターになりそうだったとき、体中の魔力が強制的に搾り取られて、影に変質していってた。それこそ枯渇しそうな程に。僕も魔力は豊富な方だけど、多分、モンスター化するには、魔力が物凄くたくさん必要なんだと思うんだよね」
セリナたちの魔力が100だとすれば、一般的な人の魔力は1や2なのだそうだ。とてもモンスター化するほどの魔力は賄えない。
「なるほど……」
「買ったのも、魔力が少ない女生徒ばっかりだしね」
「何故判ったんです?」
当然の疑問に、ルーナ先生は苦笑した。
どうしてペンダントを持っていたのかとセリナに聞いた所、頬を染めた彼女が、次のように言ったのだと言う。
『ペンダントを納品したラン様に、一目惚れしたの。それで、ペンダントを買った後に、ラン様との婚約が決まって……それをお友達に話したら、『運命を導くお守りだ』って話になったんですわ』
つまり、セリナの友人が話していたのをたまたまアビゲイルが聞いてペンダントを買い、セリナの友人の一人がテレンシアに贈ったという流れだったのだ。実に限定的な流行りだった。
「だから、魔力の高い人は、テレンシア、アビゲイル、セリナちゃんだけだから、大丈夫なんだよ」
「セリナさんは大丈夫なんですか? 魔力を少なからずペンダントに吸われたんじゃないですか?」
私が問いかけると、ルーナ先生はへら、と笑った。
「すぐに僕がペンダント奪ったから問題なかったみたい。めちゃくちゃ元気だし、めちゃくちゃ可愛いよ。聞いてよ、僕が倒れたからって、つきっきりで看病してくれてね。いつもの我儘暴走列車のセリナちゃんも可愛いけど、僕が死ぬんじゃないかって泣いて手を握ってくれるセリナちゃん……めちゃくちゃ健気で可愛かったなあ……あー早く会いたい」
勝手に勘違いして、聞く耳持たずに闇落ちしたセリナのことを、我儘暴走列車と評するのは言い得て妙だけど、ルーナ先生はそんなセリナにベタ惚れなんだね。多分セリナには私は嫌われているし、これからも関わることはないかもしれないけど、セリナが死ぬことなく、ルーナ先生と幸せになってくれるなら何よりだ。
「早くセリナちゃんに会いたいから、もう帰ってくれる?」
ルーナ先生が立ち上がってそう言うのに、前にも同じ流れを見たな、と思う。
「ペンダントの処理は、後はどうするんです? まさか回収しないにしても全て放置という訳にはいかないでしょう」
アウレウスは立ち上がらずに、問いかける。
「学園長には原因を報告するつもりだよ。貴族には魔力の高い人間も少なくはないし、魔法を付加した魔道具は貴族が持つことが多いしね。水魔法だけじゃなく、他の魔道具でモンスター化が起きないとも限らないし」
そう言ってから、ルーナ先生は溜め息を吐いた。
「セリナちゃんの闇落ちイベントも乗り越えて、これでゲームストーリーは僕的には終わりだけどさあ……。こんな危ないこと、原因究明しないと安心できないよ。せっかく後はセリナちゃんといちゃいちゃできると思ったのに……これから忙しくなるのマジでクソ」
げんなりとして、遠い目をするルーナ先生。今回はゲームの強制力も手伝ってモンスター化が起きたんだろうけど、今後同じことが起こらないとも限らない。ルーナ先生には申し訳ないけど、頑張ってもらうしかないな。
「お手伝いはしますので……」
「当然だよ」
チッと舌打ちして、ルーナ先生は手を振った。
「ほら、判ったら帰ってよ。忙しくなる前に、僕は今日セリナちゃんに会いに行くんだからさ」
「時間を取ってすみません」
「ありがとうございました」
そう言って二人で連れ立ってソファから立ち上がると、私たちを追い出すようにして研究室を自分も退出して、そそくさと帰って行った。
「後始末はまだ残りそうですが、これでモンスター化のイベントは終わりですね?」
「うん」
私はアウレウスの質問に頷いた。先生やアウレウスの言う通り、ゲームシナリオの闇落ちフラグは、もう全部折れたんだから。これからは、テレンシアやアビゲイルの闇落ちを心配することなく、平和に過ごせるんだ。
そう思うと、自然と私の顔には笑みが浮かんでいた。
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