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【運命に抵抗したいのは私だけじゃない】

アウレウスのことをもっと頼ってもいいらしい

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 私が呼びかけてみると、アウレウスの眉がぴくりと動いた。アウレウスは、怒ってるように見える。彼の怒りも、もっともなのかもしれない。だって、もしうまくいかなかったら、アウレウスにだって危険が迫っていたんだから。

「ごめん。もっと早く相談すれば良かったんだよね。……こんな荒唐無稽な話を、信じてくれるなんて、思わなくて……」

「……それは……仕方がありませんね。私が貴女の立場でも、そう思うでしょう」

 歯がみするようにそう言って、アウレウスは私の目を射抜くように見つめてきた。

「ですが、これからは、もっと私を頼って相談してください。お願いできますか?」

 アウレウスは静かに言う。声を荒げていない分だけ、怒りが強そうに感じてしまう。

「うん……ごめん」

 私がそう謝ると、アウレウスはふう、と息を吐いた。

「絶対ですよ」

「う、うん」

 念押しををしてくるアウレウスに、私はついどもってしまう。そこでもう一度、アウレウスは溜め息を吐いたけど、眼光の鋭さが緩くなった。

「言葉がきつくなってしまい……八つ当たりのようですみませんでした」

「アウレウスの謝ることじゃないよ! 私が相談しなかったのが悪いんだし!」

 彼はふるふると首を振って、労わるような視線をこちらに向ける。

「これまで誰かの命を救うために、一人で奮闘されるのは、さぞ辛かったでしょう」

「え……」

「もう、大丈夫ですから」

 アウレウスの言葉に、私は何と言っていいか判らなかった。ゲームの強制力は、きっと今だって働いている。アウレウス一人が私の味方になってくれたところで、ゲームシナリオが回避できるわけじゃない。

 それは判ってるのに、鼻の奥が熱い。『大丈夫』と言われた、そのことが、胸を締め付けた。

 多分、私は前世の記憶が戻ってからずっと、大丈夫だと思いたかったんだ。私一人の肩に、3人の女の子の命がかかっているのが、怖くて仕方がなかった。

 顔をあげていられなくて、俯いて顔を隠す。それと同時に、ぽたりと涙が落ちて服に染みを作った。

「クレア様……?」

 黙り込んだ私に、アウレウスの気づかわしげな声が問いかける。この気持ちを、アウレウスにどう伝えていいのか判らない。けれど。

「……ありがとう、アウレウス」

 声が震えないように、それだけを言う。すると、視界の端で、正面のアウレウスが立ち上がって、こちらに近づいてきた。

「さっそく私を頼る時なのではありませんか?」

 困ったような声でそう言いながら、アウレウスは私の隣に座る。そして私の頭を引き寄せて、彼の胸元に軽く押し付ける。

「見られたくないのであれば、見ません。ですが、我慢はしないでください」

 頭を撫でて、アウレウスはそう言う。さっきの怒った声とはかけ離れた優しい声だった。そのせいで、目から次々と涙が溢れて止まらなくなる。

「……」

 そうしてアウレウスは黙ったまま、私が落ち着くまで、頭を撫で続けてくれたのだった。

 私が泣き腫らした後、気まずさと恥ずかしさで目を合わせられない私を、結局寝室までお姫様抱っこで連れていってくれた。思ったよりも話すのは疲れていたらしくて、歩くのがしんどかったのだ。

 応接室からアウレウスに抱かれた私が出てきたのを見たリーンが、物凄い顔をしていたし、目が凄く腫れていたので、その後何があったのかと、凄く聞かれてしまった。おかげでアウレウスと話している最中に泣いていたことに関して、ヒラルドお兄様に黙ってもらうように頼み込むのが大変だった。

 そうして寝室に着いた後、アウレウスは一つ私にお土産を置いて行った。

「魔除けのネックレスです。本来、モンスターを退ける聖女には必要のないのものですが……貴女は今、魔力を消耗しているので。持っていれば、周囲が浄化されますから、常にお持ちください」

 そう言って私の首に深い青色の宝石がついたネックレスをかけてくれた。

「うん……」

「本調子でないのに、話し込んでしまいすみませんでした。ゆっくりおやすみください」

 アウレウスは、私の目の下の腫れを指先で触れながら、そう言う。泣き腫らした顔を見られるのは恥ずかしいのに、くすぐったくて頬が緩む。

「……信じてくれて、ありがとう」

 私が言うと、アウレウスは一瞬目を見張った。そして私の頬をするっと撫でて、微笑んだ。

「話してくださり、ありがとうございました。今後の対策についてはクレア様の体調が回復されてから話しましょう」

「うん」

 アウレウスはそう言って、部屋から出て行く。疲れもあって、アウレウスを目でだけ見送った私はそのままうとうとと眠りこんでしまったのだった。
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