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【グランツには目を覚まして欲しい】

そんなイベント望んでない!

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「……や、やっぱり……グランツは他の女の子と結婚したいんだ、よね……」

 ぽつりとアビゲイルが漏らす。ほら、こじれ始めたじゃないですか。早くグランツは否定して!

「……そりゃ好きな子にフラれたんだから、別の子と結婚するしかないよな、俺は」

 嘲笑ってグランツが言う。何でまたややこしい言い方したの!?

「ふ、ふられ……!? グランツ、すすす好きな女の子が居たの!?」

「そういうことを俺に聞くわけ?」

 グランツが鼻で笑って言うと、アビゲイルはハッとしたように震えて、私を振り返った。

「違う!!」


 アビゲイルと目線がカチあった瞬間に私は思わず叫んでいた。
「そそそんな、ぐ、グランツがクレア様に本気だったなんて、そそれじゃ私は……」

 がくがくと震えてアビゲイルがぶつぶつと呟く。何で違うって叫んだ声を無視して、自分の世界に入りこんじゃったわけ、アビゲイルは!

「女遊び始めたのと私がゲムマさんと出会ったのと時期が全然違うでしょ、しっかりしてアビゲイル!」

 私が言ってもアビゲイルの耳には届いていないようで、ブツブツと呟き続けている。

「わわ私が知らないうちに、グランツのここ恋が……さ、最初からわわ、私なんて……」

「おい、アビゲイル何言って……」

 怪訝そうな顔をしたグランツが、アビゲイルに声を掛けた瞬間だった。アビゲイルの背中から、ふわりと黒い影が漏れ出て揺れる。

「わ、私……い、いや……」

「アビゲイル!?」

 私が彼女に近寄ろうと手を伸ばす。

「いやぁっ!」

 アビゲイルの叫び声と共に黒い影がぶわっと風を起こして広がり、私は飛ばされる。

「……っ!?」

 しりもちをつきそうになった所を、アウレウスが受け止めてくれて、事なきを得たが、事態はよろしくない。アビゲイルからは黒い影が渦巻くように溢れだし、彼女の身体を覆って見えなくなりそうだ。

 きっとこれは、闇落ちだ。今、彼女は、モンスターになりそうなのだ。こんなイベントを起こさないようにしてたのに!

「だめ! アビゲイル! しっかりして!」

「来、な、い、で!」

 彼女のものと思えない程低い声が響いたかと思えば、その影が一層強くなる。

「アビゲイル! 大丈夫か!?」

 焦ったグランツがアビゲイルに近づこうとするが、彼も影に阻まれる。

「クソッ」

 舌打ちしたグランツは、自らの周りに水の膜を張った。そして強くなっていくばかりの影の渦の中に一歩ずつ近づいて行く。

「いや……来、ないで……!」

 アビゲイルがそう叫ぶのに合わせて、棘の形に変化した影がグランツの身体めがけて勢いよく伸びて行く。ばしん、と高い音を立てて水の膜が弾いたが、それがなかったら彼は怪我をしていただろう。

 私はまだ、魔法が使えない。どうしよう。どうしたらいいんだろう?

「来ちゃ、だ、め……ころ、しちゃい、そう……に、くい……だ、め……」

 苦しそうなアビゲイルの声が影の奥から響いている。モンスター化に抗ってるの?

「アビゲイル!」

「クレア様、危険です!」

 また彼女に近づこうとした私の腕を掴んでアウレウスが遠ざける。身を捩って抜け出ようとするが、なかなか脱出できない。

「アウレウス、でもアビゲイルが」

「見たでしょう、グランツ・ゲムマを攻撃したのを。ここは危険です!」

 アウレウスがそう言って、私をアビゲイルから遠ざけようとする。

「でもこのままじゃアビゲイルがモンスターになっちゃう!」

 叫んで手を離すよう乞うが、アウレウスは手を離さなかった。

「今、助けて、やるから……」

 私がアウレウスともみ合っている間に、グランツはもう一歩歩みを進める。

「……! グ、グランつ......だ、め……ぐ、グランツは、わ、たし、が……」

 低い音がグランツを拒絶する。その声に合わせて、影が彼の身体を攻撃しているが、グランツは構わずもう一歩踏み出し影に飲み込まれた。

「だ、め……!」

「アビー!」

 叫び声と共に、影の渦が霧散する。その中心には、グランツに抱きしめられたアビゲイルが居た。……モンスター化が、止まった?

「うそ……」

 小さく呟いた瞬間に、力が抜ける。足から力が抜けて崩れ落ちそうになったのを、またもアウレウスに支えられた。

 目の前で抱きしめ会っている二人からは、モンスター化する時の影が本当に消えてしまっている。

「ぐ、グランツ……?」

「大丈夫か? アビー」
 影が消えたのを察知して
、グランツがぱっと身体を離してアビゲイルの顔を確認する。

「怪我は? 何だったんだ? さっきのは……」

「ど、うして……今、わ、私……何が……」

 訳が判らないという風にアビゲイルが呟いて、はっとしたようにグランツを見た。

「あ、危なかったのに、な、何でこんなこと」

「好きな子が危ないのに構っていられるか!」

 怒鳴るようにしてグランツが叫び、アビゲイルを再び抱きしめる。

「す、好きな子って……あ、あのわわ私……」

 しっかりと抱きしめる腕の中で、アビゲイルが顔を赤くした。

「何度も言ってるだろ? 俺はお前が好きなんだよ」

 そう言って、グランツは溜め息を吐く。

「それよりアビー。身体は何ともないのか? 大丈夫なんだよな?」

 もう一度身体を離して、グランツがアビゲイルの身体を検分する。

「え、えと、わ、私はだだいじょ……」

 慌ててアビゲイルが言おうとしたたその言葉は、口から溢れた影にかき消えた。
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