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【グランツには目を覚まして欲しい】
実技が下手なポンコツめ
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このイベントフラグが立たないように、私なりに努力してきたつもりだった。授業中は無駄口を叩かずに、アウレウスの助言をしっかり聞いて、イメージを膨らませ、頑張ったと思う。
けれど、私にはどうしても出来なかった。魔力の放出が。
魔法の実技講習ではいつも、アウレウスと組んで私のレベルに合わせて授業を進めてもらっている。他の生徒は私よりも数か月先に入学しているので、的に魔法を放つだとかいう作業をしていたりする。けれど、私がやっているのは、未だに身体の中で魔力を循環させる、だけ。
普通の生徒は、魔力循環のコツを覚えたら、次の授業では魔力放出をして、その次の授業では初球の魔法を覚える。私は既に何回も授業を受けて、魔力操作に長けているアウレウスに指導してもらっているにも関わらず、循環しか出来ていないのだ。
そのせいで少し前に実技の進捗が良くないってことで先生に呼び出しを受けてしまった。そして今日の放課後に特別授業を受けるように言われてしまったのだ。
それこそが、今回のイベント『グランツと特訓』である。イベント名ださいね。
このイベントはルート共通でもなく、強制イベントでもなかった筈だから、私の頑張り次第で避けられたんだけど無理だった。
……聖女の癖に魔法使えないとかどういうことなの、実技が下手なポンコツめ。聖女がそんなことでいいと思っているのか。大体転生者なんだから、魔法使いたい放題くらいのチートあってもいいんじゃないのかな。無理だわ……。聖女はいるだけでモンスターを寄せ付けないっていう話だし、魔力放出なんて必要ないんでしょうけども、やっぱり魔法の一つや二つ覚えたいですよね?
嘆いてもイベントフラグはもう立ってしまっているので、私は諦めて放課後に先生に指定された場所に向かった。事前に先生に確認して、付き添いを二名連れてきても良いという許可を貰っている。
付き添ってもらったのは、アウレウスとアビゲイルだ。アビゲイルにはぜひとも、「私はグランツに興味がない」というところを見ていただき、グランツと秘密の特訓をしたなどという嘘の情報が伝わらないようにしていただきたい。ただの補習ですよ……。
「待ってましたよ、クレアさん」
運動場に行くと、先生がグランツと一緒に立っていた。私は一応流れ通りに問いかける。
「先生、そちらは?」
「グランツ・ゲムマさんです。……残念ながら出席日数が足りていませんから一緒に補習をすることになっています」
「そうですか」
「偶然だね、聖女様」
にこやかに手を振ったグランツの顔が、強張った。私に続いていたアウレウスの後ろから、アビゲイルの姿を見つけたからだろう。アビゲイルを見ると、彼女も驚いた顔をしている。
アビゲイルには「補習を手伝って欲しい」としか言っていないので、グランツが来るとは夢にも思わなかっただろう。彼女は今日もお弁当を作ってきていたが、グランツには受け取るのを断られたと言っていた。気まずいのか、アビゲイルはサッとアウレウスの後ろに隠れてしまう。
「アウレウスさんとアビゲイルさんはそこで見学ですよね?」
「はい」
アウレウスが頷く。
「じゃあ、始めましょうか。グランツさんは的当て練習をしてくださいね。クレアさんは……」
先生が考える素振りをする。
「聖女様って何で補習受けてるの?」
「……魔力放出がうまくできないからです」
グランツはすぐに補習を始めればいいものを、こちらに近寄ってきて尋ねてくる。溜め息が出そうになるのを堪えて、私は一応丁寧語で答える。
「ふぅん。俺教えるのうまいよ、教えてあげようか」
「いえいいです、先生の指示に従った方がいいですよ」
私がそう断った時、先生が手を打った。
「確かにグランツさんは魔力操作が上手ですから教えてもらうのもいい勉強になるでしょう」
出席日数足りない癖に、魔法実技の成績がいいとか許せない設定ですね。
「いえ、先生、ご指導なら先生かアウレウスに……」
「今までその補佐につきっきりでやってもらってて上達してないんじゃないの?」
からかうようにグランツが言ってきて、言葉に詰まる。そもそもアウレウスが悪いんじゃなくて、私の腕がポンコツなのに。アウレウスがけなされたみたいになってるの納得いかない。
「アウレウスは優秀な風魔法の使い手です……」
むすっとしてそれだけ言う。
「そうですね、ただ魔法の指導には属性による相性がありますから」
先生は頷いて言う。
「私もアウレウスさんも風属性ですが、実のところ風属性は相手の魔力を引き出すのは得意ではないんですよ。そういう相手に作用する魔法は水属性の方が得意なのです。グランツさんは水属性ですから、今回のクレアさんの補習内容にぴったりだと思いますよ」
「そう、なんですか?」
ちら、とアウレウスを振り返ると、苦笑しながら僅かに頷いた。ゲームの中でこんな話は聞いたことなかったけど、嘘じゃないらしい。
「私も教員ですから、指導方法はいくらでもありますが、グランツさんがやりたいならお任せしましょう」
力強く言って、先生が促す。どうしよう、会話は違うけど、イベント通りの流れになっちゃってる。バシレイオスの時みたいに、グランツの指導を断って好感度下げようと思ってたのに!
「任せて下さいよ。ね、聖女様?」
すっと手を差し出してきて、グランツは笑う。どうやったら、好感度下げる方向に持っていけるかな!?
けれど、私にはどうしても出来なかった。魔力の放出が。
魔法の実技講習ではいつも、アウレウスと組んで私のレベルに合わせて授業を進めてもらっている。他の生徒は私よりも数か月先に入学しているので、的に魔法を放つだとかいう作業をしていたりする。けれど、私がやっているのは、未だに身体の中で魔力を循環させる、だけ。
普通の生徒は、魔力循環のコツを覚えたら、次の授業では魔力放出をして、その次の授業では初球の魔法を覚える。私は既に何回も授業を受けて、魔力操作に長けているアウレウスに指導してもらっているにも関わらず、循環しか出来ていないのだ。
そのせいで少し前に実技の進捗が良くないってことで先生に呼び出しを受けてしまった。そして今日の放課後に特別授業を受けるように言われてしまったのだ。
それこそが、今回のイベント『グランツと特訓』である。イベント名ださいね。
このイベントはルート共通でもなく、強制イベントでもなかった筈だから、私の頑張り次第で避けられたんだけど無理だった。
……聖女の癖に魔法使えないとかどういうことなの、実技が下手なポンコツめ。聖女がそんなことでいいと思っているのか。大体転生者なんだから、魔法使いたい放題くらいのチートあってもいいんじゃないのかな。無理だわ……。聖女はいるだけでモンスターを寄せ付けないっていう話だし、魔力放出なんて必要ないんでしょうけども、やっぱり魔法の一つや二つ覚えたいですよね?
嘆いてもイベントフラグはもう立ってしまっているので、私は諦めて放課後に先生に指定された場所に向かった。事前に先生に確認して、付き添いを二名連れてきても良いという許可を貰っている。
付き添ってもらったのは、アウレウスとアビゲイルだ。アビゲイルにはぜひとも、「私はグランツに興味がない」というところを見ていただき、グランツと秘密の特訓をしたなどという嘘の情報が伝わらないようにしていただきたい。ただの補習ですよ……。
「待ってましたよ、クレアさん」
運動場に行くと、先生がグランツと一緒に立っていた。私は一応流れ通りに問いかける。
「先生、そちらは?」
「グランツ・ゲムマさんです。……残念ながら出席日数が足りていませんから一緒に補習をすることになっています」
「そうですか」
「偶然だね、聖女様」
にこやかに手を振ったグランツの顔が、強張った。私に続いていたアウレウスの後ろから、アビゲイルの姿を見つけたからだろう。アビゲイルを見ると、彼女も驚いた顔をしている。
アビゲイルには「補習を手伝って欲しい」としか言っていないので、グランツが来るとは夢にも思わなかっただろう。彼女は今日もお弁当を作ってきていたが、グランツには受け取るのを断られたと言っていた。気まずいのか、アビゲイルはサッとアウレウスの後ろに隠れてしまう。
「アウレウスさんとアビゲイルさんはそこで見学ですよね?」
「はい」
アウレウスが頷く。
「じゃあ、始めましょうか。グランツさんは的当て練習をしてくださいね。クレアさんは……」
先生が考える素振りをする。
「聖女様って何で補習受けてるの?」
「……魔力放出がうまくできないからです」
グランツはすぐに補習を始めればいいものを、こちらに近寄ってきて尋ねてくる。溜め息が出そうになるのを堪えて、私は一応丁寧語で答える。
「ふぅん。俺教えるのうまいよ、教えてあげようか」
「いえいいです、先生の指示に従った方がいいですよ」
私がそう断った時、先生が手を打った。
「確かにグランツさんは魔力操作が上手ですから教えてもらうのもいい勉強になるでしょう」
出席日数足りない癖に、魔法実技の成績がいいとか許せない設定ですね。
「いえ、先生、ご指導なら先生かアウレウスに……」
「今までその補佐につきっきりでやってもらってて上達してないんじゃないの?」
からかうようにグランツが言ってきて、言葉に詰まる。そもそもアウレウスが悪いんじゃなくて、私の腕がポンコツなのに。アウレウスがけなされたみたいになってるの納得いかない。
「アウレウスは優秀な風魔法の使い手です……」
むすっとしてそれだけ言う。
「そうですね、ただ魔法の指導には属性による相性がありますから」
先生は頷いて言う。
「私もアウレウスさんも風属性ですが、実のところ風属性は相手の魔力を引き出すのは得意ではないんですよ。そういう相手に作用する魔法は水属性の方が得意なのです。グランツさんは水属性ですから、今回のクレアさんの補習内容にぴったりだと思いますよ」
「そう、なんですか?」
ちら、とアウレウスを振り返ると、苦笑しながら僅かに頷いた。ゲームの中でこんな話は聞いたことなかったけど、嘘じゃないらしい。
「私も教員ですから、指導方法はいくらでもありますが、グランツさんがやりたいならお任せしましょう」
力強く言って、先生が促す。どうしよう、会話は違うけど、イベント通りの流れになっちゃってる。バシレイオスの時みたいに、グランツの指導を断って好感度下げようと思ってたのに!
「任せて下さいよ。ね、聖女様?」
すっと手を差し出してきて、グランツは笑う。どうやったら、好感度下げる方向に持っていけるかな!?
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