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【フラグ折りも楽じゃない】
私の知ってる設定と違う!
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「わ、私のせいでグランツは、か、家族から虐待をう、受けているんです」
「どういうこと?」
私が尋ねると、きゅ、と拳を握って、アビゲイルは次のような話をしてくれた。
◆◆◆
グランツの実家ゲムマ家と、アビゲイルの実家シェロンは昔から交流が深く、両親同士の仲も良かった。子供を交えて行楽に出かけることも多かったのだと言う。
事件が起きたのは、アビゲイルとグランツが7歳の頃のことであった。避暑のために出かけた山荘で、グランツは探検をしようとアビゲイルを誘い出し、森に足を踏み入れた。普段なら従者と一緒に行くところだが、グランツは大人の見張りがつくことを嫌がり、アビゲイルを連れてこっそり抜け出したのだ。
先を歩くグランツを追いながら、アビゲイルは不安そうだ。川沿いを歩いているから迷子にはならないだろうが、子供だけで森の奥に行くのは心配だった。
川沿いはゴツゴツとした岩がところどころにあり、足元も砂利で歩きづらい。
「グランツ、本当にいいのかしら……」
「大丈夫だよ、もう何度もここには来てるし。……ほら、もうすぐ着く」
先を歩くグランツが指さした方を見れば、木々の合間に小さな滝があるのが見えた。
「わぁ! 凄いわ、グランツ!」
先ほどまで暗かったアビゲイルは一転して、明るい声を上げて滝に向かって走り出した。
「おい、そんな走ると」
「きゃっ!」
グランツが声を掛けるのと、アビゲイルが足を滑らせて転んだのは同時だった。
「……い、たた……」
「大丈夫か? ……お前! その怪我!」
額を押さえながら起き上がったアビゲイルに走り寄ったグランツは、大声をあげた。
「え……?」
アビゲイルが手を降ろすと、その手にはべっとりと血がついていた。転んだ拍子に運悪く岩で切ってしまったのだ。
「だ、大丈夫よ」
アビゲイルは慌ててそう言ったが、グランツは首を振って、すぐに山荘へとアビゲイルを連れ帰った。その後は大騒ぎである。
アビゲイルの額の傷は、彼女が思う以上に深い切り傷だった。額からこめかみにかけて、消えない痕が残るだろうという医者からの診断が降りた。
まだ婚約者も居ない娘が、傷物になってしまったのだ。
グランツの両親は、厳しく彼を叱責した。そして、アビゲイルを連れ出し怪我をさせた責任を取らせ、婚約させようという話が持ち上がったのである。
「……こんなことになってごめん。アビゲイル……俺と結婚を」
「ううん」
グランツが婚約の申し込みをする言葉を、アビゲイルは首を振って遮った。
「私が悪いの。グランツに責任なんて、ないよ。婚約なんて……義務で結婚なんてしなくていいから」
そう言って、アビゲイルはゲムマ家から申し出られた婚約を断ったのである。
アビゲイルを溺愛していたシェロン家の両親は、彼女の意思を優先させた。しかし、嫁の貰い手がなくなってしまっては困る。ゲムマ家は、婚約を受け入れない代わりにグランツに婚約者をあてがうことを止めることにした。そして、アビゲイルが適齢期になっても婚約も結婚もできないようであれば、その時こそ責任を取ってアビゲイルを嫁に迎えるとしたのである。
婚約こそしていないが、グランツの結婚の自由を、アビゲイルは奪ってしまった形になるのだ。それだけでも、アビゲイルはグランツに対して負い目を感じている。
それからというもの、傷口を見せれば、両親は悲しみで顔を歪めたし、グランツは顔が険しくなった。だから、アビゲイルは前髪を伸ばして傷を隠すようになった。
貴族令嬢らしからぬ野暮ったい髪型を馬鹿にする周囲に、だんだんとアビゲイルは周りの目を気にするようになり、ファッションを楽しむ余裕もなかった。だから、どんどんどもった口調になっていった。
そして、アビゲイルが前髪を伸ばし始めたのと同じ頃から、グランツは少しずつ、他の女の子にちょっかいを出すようになった。軽薄な言葉で他の女の子と付き合うようになり、遊び回るようになったのである。結婚をアビゲイルに封じ込まれてしまい、真剣に愛する女性を作れない彼は、プレイボーイになるしかなかったのだ。
それを良しとしなかったグランツの両親は、彼に厳しく当たった。学校に通うための授業料は出してもらっているが、贅沢をするための金は一切、グランツに与えていないというのである。
◆◆◆
「……だ、だからグランツが、ご、ご両親に虐げられているのは、わわ私のせいなんです。だだから、せめて、お弁当、だだけでも……渡してるだけで……」
鼻をわずかに鳴らして、アビゲイルはそう閉め括る。
両家の仲がいいっていう設定は知ってたけど、そんな過去があったなんてゲームには出てこなかったよ! 私の知ってる設定と違う。
でも、アビゲイルがグランツのことを好きなのは、本当じゃないのかな。だって、グランツに対する罪滅ぼしの義務感だけで、毎日お弁当なんて作れないよ。
「どういうこと?」
私が尋ねると、きゅ、と拳を握って、アビゲイルは次のような話をしてくれた。
◆◆◆
グランツの実家ゲムマ家と、アビゲイルの実家シェロンは昔から交流が深く、両親同士の仲も良かった。子供を交えて行楽に出かけることも多かったのだと言う。
事件が起きたのは、アビゲイルとグランツが7歳の頃のことであった。避暑のために出かけた山荘で、グランツは探検をしようとアビゲイルを誘い出し、森に足を踏み入れた。普段なら従者と一緒に行くところだが、グランツは大人の見張りがつくことを嫌がり、アビゲイルを連れてこっそり抜け出したのだ。
先を歩くグランツを追いながら、アビゲイルは不安そうだ。川沿いを歩いているから迷子にはならないだろうが、子供だけで森の奥に行くのは心配だった。
川沿いはゴツゴツとした岩がところどころにあり、足元も砂利で歩きづらい。
「グランツ、本当にいいのかしら……」
「大丈夫だよ、もう何度もここには来てるし。……ほら、もうすぐ着く」
先を歩くグランツが指さした方を見れば、木々の合間に小さな滝があるのが見えた。
「わぁ! 凄いわ、グランツ!」
先ほどまで暗かったアビゲイルは一転して、明るい声を上げて滝に向かって走り出した。
「おい、そんな走ると」
「きゃっ!」
グランツが声を掛けるのと、アビゲイルが足を滑らせて転んだのは同時だった。
「……い、たた……」
「大丈夫か? ……お前! その怪我!」
額を押さえながら起き上がったアビゲイルに走り寄ったグランツは、大声をあげた。
「え……?」
アビゲイルが手を降ろすと、その手にはべっとりと血がついていた。転んだ拍子に運悪く岩で切ってしまったのだ。
「だ、大丈夫よ」
アビゲイルは慌ててそう言ったが、グランツは首を振って、すぐに山荘へとアビゲイルを連れ帰った。その後は大騒ぎである。
アビゲイルの額の傷は、彼女が思う以上に深い切り傷だった。額からこめかみにかけて、消えない痕が残るだろうという医者からの診断が降りた。
まだ婚約者も居ない娘が、傷物になってしまったのだ。
グランツの両親は、厳しく彼を叱責した。そして、アビゲイルを連れ出し怪我をさせた責任を取らせ、婚約させようという話が持ち上がったのである。
「……こんなことになってごめん。アビゲイル……俺と結婚を」
「ううん」
グランツが婚約の申し込みをする言葉を、アビゲイルは首を振って遮った。
「私が悪いの。グランツに責任なんて、ないよ。婚約なんて……義務で結婚なんてしなくていいから」
そう言って、アビゲイルはゲムマ家から申し出られた婚約を断ったのである。
アビゲイルを溺愛していたシェロン家の両親は、彼女の意思を優先させた。しかし、嫁の貰い手がなくなってしまっては困る。ゲムマ家は、婚約を受け入れない代わりにグランツに婚約者をあてがうことを止めることにした。そして、アビゲイルが適齢期になっても婚約も結婚もできないようであれば、その時こそ責任を取ってアビゲイルを嫁に迎えるとしたのである。
婚約こそしていないが、グランツの結婚の自由を、アビゲイルは奪ってしまった形になるのだ。それだけでも、アビゲイルはグランツに対して負い目を感じている。
それからというもの、傷口を見せれば、両親は悲しみで顔を歪めたし、グランツは顔が険しくなった。だから、アビゲイルは前髪を伸ばして傷を隠すようになった。
貴族令嬢らしからぬ野暮ったい髪型を馬鹿にする周囲に、だんだんとアビゲイルは周りの目を気にするようになり、ファッションを楽しむ余裕もなかった。だから、どんどんどもった口調になっていった。
そして、アビゲイルが前髪を伸ばし始めたのと同じ頃から、グランツは少しずつ、他の女の子にちょっかいを出すようになった。軽薄な言葉で他の女の子と付き合うようになり、遊び回るようになったのである。結婚をアビゲイルに封じ込まれてしまい、真剣に愛する女性を作れない彼は、プレイボーイになるしかなかったのだ。
それを良しとしなかったグランツの両親は、彼に厳しく当たった。学校に通うための授業料は出してもらっているが、贅沢をするための金は一切、グランツに与えていないというのである。
◆◆◆
「……だ、だからグランツが、ご、ご両親に虐げられているのは、わわ私のせいなんです。だだから、せめて、お弁当、だだけでも……渡してるだけで……」
鼻をわずかに鳴らして、アビゲイルはそう閉め括る。
両家の仲がいいっていう設定は知ってたけど、そんな過去があったなんてゲームには出てこなかったよ! 私の知ってる設定と違う。
でも、アビゲイルがグランツのことを好きなのは、本当じゃないのかな。だって、グランツに対する罪滅ぼしの義務感だけで、毎日お弁当なんて作れないよ。
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