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【フラグ折りも楽じゃない】

これは眼鏡を外すと美少女というパターン

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 謎の告白イベントのせいで、危うく昼食を取り損ねるところだったけど、何とか大急ぎで食堂に滑りこむことができた。

「もう人がまばらね……」

 昼休憩も後半に入った食堂は閑散としている。あと少し遅かったら、食事の提供も終わってた筈だから、危なかった。

 ここの食堂は、『日本』の学校の食堂そのもので、食事を提供する所で食べ物を受け取って、席で食べるという形式である。自宅で食べる時は、給仕が食事を運ぶのに慣れているのに、学園だとこの食堂形式に疑問を持たないんだよね。何というか、日本メイドなゲームの世界って感じがする。中世ヨーロッパ風なのに、ほとんど日本なんだもん。

「昼休憩に呼び出しを受けるのはやめましょう」

 トレイに食事を乗せながら、アウレウスが言う。

「うん、そうだね……」

 私は苦笑いして答える。そもそもこれ以上呼び出しなんてないと思うんだけどなあ……。

 アウレウスと一緒に、トレイを持って席に移動する。前方に立って喋っている女の子たちが見える。横をすり抜けようとした時に、会話が聞こえた。

「いい加減にしなさいよ!」

「で、でも……」

「邪魔だって言ってるの!」

「きゃっ」

 どん、と端の女の子が押されて私の目の前に出てくる。

「えっ」

「クレア様!」

 ガシャンッと音をたてて、私とその女の子はぶつかってしまった。アウレウスが手を伸ばしてくれたけど間に合わず、私は食事を持ったトレイごとしりもちを着いてしまう。

「いたた……」

 うめきながら顔をあげると、女の子を押したらしい子が、青ざめた顔でこちらを見ていた。

「ひっあ、あんたが悪いんだからね! 私は悪くないから! 謝っときなさいよ!」

 そう叫んで、その子は他の子を連れてばたばたと走り去ってしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

 自分もしりもちをついているのに、押されていた女の子は私を気遣う声をあげる。

「私は大丈夫」

 と答えたものの、制服にはランチがぶちまけられ、酷い有様になっていた。

「ごごごめんなさい、私のせいで!」

「貴女のせいじゃないでしょう、さっきの子が」

「すみません、すみません、すぐ片付けますから!」

 私の言葉も聞かず、ぺこぺこと謝りながら彼女はさっと立ち上がって走っていく。そして食堂のおばちゃんに声をかけて雑巾を貰ってきたかと思えば、すぐに片付けを始める。まるで歴戦のメイドさながらの手さばきだ。

「クレア様」

 アウレウスに助け起こされた後に、私も手伝おうとしたときには、床は綺麗になっている。

「ああ、すみません、制服が……綺麗にしますから、こちらへいらしてください」

 側に落ちていたバスケットを持って、彼女は私の手を引いて食堂の奥の方へと進む。

「う、裏入りますね!」

 食堂のおばちゃんにそう声を掛けると、彼女は慣れた風に職員の控室らしき場所に私を連れてきた。

「男性は外で待っててください!」

 後ろからついてきていたアウレウスは扉の前で締め出しを食らう。

「私のせいですす、すみません! これ、き、着替えに使ってください。サイズがああ合うか判らないですが……そこにシャワールームがあるので、どうぞ、お、お使いください」

 言いながら、ロッカーから彼女は制服を取り出した。

「あの……ありがとう、でも、貴女は……」

 圧倒されてついてきてしまったが、私はこの子の名前すら知らない。制服を差し出されて戸惑っている私を見た彼女は、首を傾げた。

 ぼさぼさに伸びた前髪の下には、黒縁の眼鏡をかけていて目が見えないので、表情はよくわからない。制服を着てはいるが、美容に気遣う貴族とは雰囲気が違う。それにどうして、食堂の控室に彼女の私物らしきものが置いてあるんだろう?

「あっああ私はアビゲイル・シェロンです! 名乗りもせずにごめんなさい」

「こちらこそ、ごめんなさい。私はクレア・バートンです」

「せ、聖女のクレア様ですか!? ししし、失礼をして申し訳ございませんん。あのあ、あの」

 私の名前を聞くなり、アビゲイルはブルブル震え出す。

「そんなにかしこまらないで、私もただの生徒なんだし。普通にしてくれたらうれしい」

「でででも」

「大丈夫。それより、その制服は借りても大丈夫なの?」

「あああああの、食堂の厨房をよく借りるので、ご厚意でここの控室も使わせて頂いてるんです。こ、これは私の予備の制服です」

 しどろもどろに話してくれるのが、いじらしい。

「アビゲイルさんの服も汚れてるわ。私が借りたら貴女の着替えがなくなるんじゃない?」

「だだ大丈夫です。私にはまだ着替えがあるので」

 そう言いながら、もう一着制服をロッカーから取り出した。何でこんなに着替えを用意してるんだろう……?

「……よ、よく汚すので……」

 ひきつった笑みを浮かべるアビゲイル。もしかして、さっきみたいなことが頻繁にあるのかな。

「……そっか、ありがとう。使わせてもらうね……」

「どどどうぞ、シャワーしてください」

「うん」

 示されたシャワールームを借りて、私はササっと着替えを済ませる。身体までは汚れてなかったから、着替えだけで事足りたけど、メイドでもない人の前で着替えるのはちょっと恥ずかしいしね。

「ありがとう、助かったわ」

 がちゃ、とドアを開けて控室に戻ると、アビゲイルも着替えを済ませていた。急いで着替えたらしく、前髪が乱れて逆立っていた。それで眼鏡が半分だけ見える。

「あれ、アビゲイル眼鏡汚れているよ」

「ほほ、本当ですね」

 前髪をかき分けて、アビゲイルが眼鏡を外す。その前髪に隠されていた顔に、私は目をむいた。

「ありがとうございます、おかげで綺麗になりました」

 ささっと拭いて、アビゲイルはまたすぐにめがねをかけなおす。

 一瞬しか見えなかったけど、彼女の眼鏡の下は、整った顔立ちをしていた。これは、眼鏡を外すと美少女だったという王道パターンの奴……! でも、女の子のメインキャラなんてヒロインだけだと思うんだけど、こんな美少女ゲームの中に居たっけ? それともただの野良美少女? そんなまさかね……?

「クレア様、大丈夫ですか?」

 締め出されたままのアウレウスが、控室の扉の外から声をかけてきた。

「あ、うん」

 私は返事をして、アビゲイルに目を移す。

「ああああす、すみません! どうぞお入りください」

 アビゲイルが慌てて、アウレウスを控室に招き入れた。
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