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【編入初日は出会いイベントてんこ盛りですね】

強制力が出会いイベントねじ込んでくる

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 ルーナ先生と別れた後は、特に問題なく校内を案内してもらって、午前中の授業は滞りなく終わらせることができた。

 思えばゲーム内でのルーナ先生との出会いイベントは、編入のためのセレモニー帰りに、教室に向かう途中で道に迷って出会う、みたいな奴だったと思う。まあ、教師だからいずれは出会ってたんだろうけど、初めて教室に向かう途中で出会いをねじこんで来る、というあたりにゲームの強制力のようなものを感じてしまう。

 とすると、ねじ込まれてきそうな出会いイベントはあと一つ。最後の攻略対象のグランツ・ゲムマだな。グランツとの出会いイベントは、初日の昼休憩に中庭に出たヒロインが昼寝中のグランツと遭遇するって流れ。グランツはエメラルドグリーンの髪にエメラルドグリーンの瞳の美男子で、チャラチャラしたキャラ。ヒロインに出会うまでは、女の子をとっかえひっかえしていたけど、ヒロインに出会って一途になるという流れ。

 彼には、同級生で幼馴染のアビゲイル・シェロンという女の子が悪役令嬢として立ちはだかる。と言っても、彼女は控えめで引っ込み思案なキャラなので、目立った攻撃とかをしてくる訳ではない。そもそもグランツが他の女の子と遊び回っている時も、一途に彼を慕って耐え忍んで来た女の子なので、最初は傍観してるんだよね。でもグランツが本気なのが判って別れようとしないことが判った時点で、闇落ちしてモンスター化してしまう。

 アビゲイルはグランツの正式な婚約者ではないんだけど、両家の仲もいいから、婚約は秒読みだろいうと言われていた所で、聖女に乗り返されてしまうから、そりゃ闇落ちしちゃうよね。

 実はグランツとは別のクラスだから、グランツとのイベントのほとんどが中庭で起きるから、中庭にさえ足を運ばなければ、グランツと会わずに済むのかな。

 でもなあ、ルーナ先生といい、バシレイオスといい、出会っちゃってるしなあ……。ゲームの中でも、付き合わないルートに進むにしても、出会いイベントは必ずあったから、出会い自体を避けるのは無理なのかもしれない。

 という訳で、あえて出会い自体は避けない方向で私は行くことにした。でも一人で出かけるなんてことは絶対にしない!

 午前中の授業が終わると同時に、私は隣の席に座っていたアウレウスに声をかけた。

「アウレウス。お昼ご飯は決まってる?」

「クレア様がお決まりでないようでしたら、食堂で食べませんか? ここの食事は悪くありませんよ」

 教科書をまとめたアウレウスが提案してくる。アウレウスは学園を既に一度卒業してるから、本当は今朝の学園の案内も必要なかったんだろうな。

 ちなみに魔法学園は入学する年齢に制限はない。けれど、魔力の目覚める洗礼を受けられるのは15歳なので、大体はその翌年の16歳から3年間通う人が多い。私も本当はそうするつもりだったんだけど、聖女候補は一刻も早く魔力の扱いに慣れるために、すぐに編入手続きをとったんだそうだ。

 アウレウスは私と同じで15歳ですぐに編入して、3年通って卒業したらしい。それから、卒業と同時に聖女補佐候補に抜擢されたんだとか。物凄く優秀ってことだよね。それで今は21歳。

 21歳がまた学生ってきつくないのかな。補佐って、一緒に授業受ける必要、本当にあったのかな……?

 まあそれはともかく。

「じゃあ、食堂で食べようかな。その前に、少し散策したいんだけどいい?」

「もちろんです。どちらへ?」

「中庭の花を見たいんだよね」

「かしこまりました」

 にこりと笑って、アウレウスは手を差し出してきた。エスコートってこと?

「ありがと!」

 私も笑い返して、アウレウスの手に鞄を乗せる。学園内でエスコートっておかしいもんね。鞄持たせるのもおかしいけど。

 アウレウスの笑顔が一瞬ぴくりと動いたように見えたけど、気にしないでおく。

 教室を出て中庭に出ると、お昼時だからか人影はほとんどない。中庭に植えられた木はなかなかに高く、日差しを受けて濃い影を作っていた。初夏の陽気に対して、木陰のひんやりとした感じは、昼寝にもってこいだろう。

「花壇の花綺麗だね」

 そう言いながら、私が花壇の近くを歩いていると、人影が見えた。

 植木の側の花壇に隠れるようにして、グランツは眠っていた。エメラルドグリーンの髪が保護色でちょっと面白い。

「こんな所で寝ているとは……」

 アウレウスがうっすらと顔をしかめる。

「具合悪いのかな?」

 ゲームの中では、具合が悪くて横になっていると勘違いしたヒロインが、グランツの顔を覗き込んだ瞬間に目覚めて、出会うというシーンなんだけど、その再現はしたくない。でもこれをスルーすると、多分より印象に残りやすい出会いイベントが起きてしまうから、一応出会ってはおきたい。

「どうでしょう、顔色は悪くないようですが」

「アウレウス、悪いんだけどもう少し近づいて確認してみてくれる?」

 名付けて身代わり作戦である。アウレウスがグランツの顔を覗き込んだ瞬間に彼が目覚めれば、後ろに居る私に気付いて『出会い』にはなっても『おもしれー女』とはならないでしょう。

「ですが」

「私が確認したいけど、未婚の貴族女性が異性の顔に近づきすぎるのはよくないと思わない?」

「それもそうですね」

 にっこり笑って言うと、アウレウスは納得したようにグランツに近づいて行った。まあこれを言ってしまうと、アウレウスはどうなんだって感じだけど、あの人自分はオッケーだと思ってるところあるよね。補佐だからなの?

 私が2mほど離れたところで見ていると、アウレウスがグランツの顔を覗き込んだ。

「誰だ」

 グランツがアウレウスの肩を押して目覚める。

「具合が悪いのかと思いまして様子を見に来た通行人です。ただ眠ってただけみたいですね、失礼しました」

 それだけ告げて、アウレウスは踵を返す。グランツは起き上がりながら、アウレウスの背中を見送って、そして私と目が合った。ぺこりとお辞儀をして、私はアウレウスと合流してそのまま立ち去る。 筈だったのに。

「待て」

 グランツがこっちに近寄りながら、呼び止めてきた。

「あんたが俺のことを気にしてくれたのか?」

 私の方をじっと見つめてくるグランツ。

「いえ? 彼は神官見習いなので、倒れている方を放っておけなかったみたいです。では」

 にこ、と笑って応えて、すぐに背中を向ける。

「ふぅん……」

 何か言ってる気配が気になるけど、言葉も一応交わしたし、これで出会いイベントクリアでいいよね? いいんだよね? うん。
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