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壊された幸せ
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そこまでを話して、マリクは口を閉じる。語られたのは、お転婆で可愛い許嫁と秘密を共有した少年の話で、『傲慢』とは結びつかないマリクの昔話だ。
布団の中で裸のまま抱き合いながら、その話を聞き終えたラーケサは、ぽかんとするばかりだ。そんな様子に苦笑して、マリクは彼女の頬を撫でる。
「お前は踊り子なんかじゃない。俺のアミーラだ」
「アミー、ラ……」
口の中で呟いた途端に、彼女の頭が痛む。
「私は……アミーラ・シャムス」
浮かんだ名前を言葉に乗せた途端に、再び彼女の頭に痛みが走る。そうして強く目を閉じて、次に目を開いたとき、彼女は凛とした声ではっきりと言った。
「いいえ、わたくしは……アミーラ・ガシェーだわ」
息を呑んだマリクが、彼女の顔を見ると、彼女――アミーラは顔を歪めた。彼女の中に、薬漬けになったせいで失われていた過去の記憶が、次々と浮かんでくる。
***
集落をあげての宴会は、翌朝まで続く。酒とご馳走で部族の人々が騒いでいる中、新婚の夫婦は寝室に籠っていた。今日は、待ちに待ったマリクとアミーラの婚礼の儀である。すでに移住しているアミーラの婚礼の儀に参加する家族はおらず、儀礼上の手続きはかなり省略されるが、それでも初夜は執り行われるのだ。
新たに用意された夫婦の寝室になだれ込むなり、二人は睦みあっていた。アミーラの服を脱がす手は慣れたもので、マリクは身体のどこを触れば彼女が悦び喘ぐのかをもう知っている。秘密を共有したあの夜から、人目を忍んでは肌を重ねていたから、互いの身体のことは知り尽くしている。子ができないようにと、白濁を中に注ぎ込んだのはあの一度きりだったが、今夜からはもうそんな遠慮など必要ない。
産まれたままの姿で愛撫をされ、あられもない声をあげながらアミーラは蜜壺から欲情の蜜を零す。今までは声は抑えていたが、今夜ばかりはどんな嬌声を上げても構わないのだと思うと、余計によがり声は大きくなった。
「アミーラ、そろそろ挿れたい」
「わたくしも……早く、欲しい」
組み敷かれて身体をまさぐられていたアミーラはそうねだったが、その言葉とは裏腹に身体を起こした。
「今日は、わたくしが乗ってもいいでしょう?」
「ああ」
答えたマリクは、横たわって彼女を跨らせながら小さく笑う。
「どうしたの?」
「こんなに子作りに手慣れた新妻は俺のアミーラ以外にいないな」
「そんな風に仕込んだのはマリクじゃない」
揶揄を含んだ言葉に口を尖らせたアミーラだったが、それで跨るのをやめるわけではない。股までとろとろに濡れるほどによだれをこぼした秘所は、意地悪を言われた程度ででやめられるわけがなかった。
「んっ」
マリクの肉杭に手を添えて腰を落とすと、割れ目に熱が当たったところで止まる。
「アミーラ?」
「……これで、秘密じゃなくなっちゃうわね」
名実共に彼らは夫婦になり永遠を誓ったのだから、もうアミーラの右肩を隠す必要もない。もっとも、彼女がその肩をマリク以外に晒すことなどないのだが。
「秘密なんかあってもなくても、お前が一生の俺の傍にいるのは変わらないだろう」
「あっ」
腰につかまれて、ぐぐっと下ろされるのと同時に、下から突き上げられる。
「わたくしがするって言ったのに……!」
「どっちだって同じだろう」
「ぁっあんんっ奥っだめ、だからぁ……!」
バランスを崩して倒れ込みそうになる彼女の腰を支えたまま、マリクは小刻みに奥を揺らす。
「本当にこれが好きだな、お前は。もうイきそうなのか?」
「だって、マリクが、あっあっだめ、もうイっちゃ、あ、あ、あ、マリク、ま、りくぅ……!」
胎を揺らされ、いやいやしながらアミーラは快楽を訴える。彼の指摘通り、最奥をトントン揺すぶられるのが、アミーラのお気に入りだった。特に挿入し始めにそうされるのに弱く、これで絶頂を迎えたことは数え切れない。蜜壺をぎゅうっと緊張させた瞬間に一際強く突き上げられて、それでもう耐えられなくなった。
「あっだめだめあぁああああ……っ!」
背をのけぞらせて、アミーラは絶頂に達する。太く硬い肉杭を締め上げて子種をねだる刺激を繰り返したが、ここ一年の間、中で果てない情事ばかりを繰り返していたマリクは難なく射精をこらえていた。
「は……もう……! だめって言ってるのに、どうしてイかせたの」
ぺち、とマリクのお腹を叩いたアミーラが唇を尖らせる。拗ねているのが妙に可愛くてマリクが笑ったせいで、余計にアミーラの機嫌を損ねてしまった。
「夫婦になって初めてだから、今日は一緒にここでイきたかったのに……あ、あかちゃんを、作ってもいいん、だから……」
自身の下腹をさすってアミーラが言うのに、マリクは目を見開いた。
「アミーラ」
繋がったまたの姿勢でマリクは身体を起こすと、対面の形でアミーラを抱きしめる。
「お前は何度俺を惚れさせれば気が済むんだ。……愛してる」
「マリ、んっ」
驚いたアミーラの唇を奪って、マリクは舌を絡める。彼女を貫いたままの肉杭が更に大きく硬くなったのを感じて、アミーラは達したばかりの蜜壺をまたうねらせた。
「そんなこと、言っても……わたくしまだ怒ってるんだから」
唇を離したアミーラがぼそぼそと言うが、頬を染めてそわそわと目をさまよわせているせいで、もう機嫌が治っているのがまるわかりだ。マリクは何でもストレートに言うし、聞いている方が恥ずかしい口説き文句を吐く男だが、好きだとか愛しているだとか、そういう言葉を滅多に言わない。だからこそ、不意打ちで言われたこの言葉が、嬉しくないわけがないのだ。
「はは。それは困ったな。アミーラ。俺はまだまだお前とシたいんだが、だめなのか?」
至近距離でのマリクからのおねだりに対して、アミーラはまだ怒っているというポーズを取る。相変わらず嘘が下手だと思いながら口元を笑ませて、マリクは彼女の下腹に手をあてた。
「お前が孕むまでここに注ぎ込みたい」
「うぅ……」
「俺の子を産んでくれるんだろう?」
そう言って琥珀の瞳が甘えるように見つめてきたので、アミーラはもう白旗をあげるしかなかった。
「マリクはずるいわ」
「そうかもな」
ぎゅっと抱き着いたアミーラに、マリクはぽんぽんと背中を叩いて穏やかに言う。
「……わたくしに、子種をちょうだい?」
甘えるようにねだりながら腰を揺らして、アミーラは情事を再開する。けれど、初夜に彼女の胎に子種が注がれることはなかった。
「キャーッ!」
怒号と女の悲鳴、そして響く馬の蹄の音。明らかに変事の起きた状況に、そろそろ達するという頃合になって情事は中断された。
「アミーラ、お前はここにいろ」
素早く服を着たマリクが言えば、その横で同じく服を簡易的に来たアミーラが首を振る。
「わたくしも行くわ」
意思の強い紫の瞳に、ここで言い争っても仕方ないとマリクは頷く。この寝室に武器などないが、彼女は充分に戦う能力がある。そうして二人が建物を出たところで、武装した集団に囲まれた。
「女は傷つけずに捕えろ、男は死なない程度に痛めつけろ」
覆面のリーダーと思しき男がそう号令をかけた瞬間に、男たちが襲ってくる。マリクは素早く身を低くして男たちの足元に蹴りを入れると、引き倒した敵から剣を奪って応戦し始める。アミーラはその背後で、武器を奪われた敵の頭に蹴りを落とし込んで、意識を完全に奪った。
武装集団に囲まれて反撃されるとは思わなかったのだろう。たじろいだ様子の男たちにマリクの握る剣が閃いて薙ぎ払う。このまま突き進めば包囲網の一角を崩して逃げ出せる。そう思ったときである。
敵の一人が、矢をつがえた。
「っだめ!」
叫んだアミーラがとっさにマリクの前に出た。それは一瞬のことなのに、やけにゆっくりと時間が過ぎるようだった。つがえた矢が男の手から離れて、マリクめがけて飛ぶ。マリクが光の魔法を展開するよりも早く、彼をかばったアミーラの肩にその矢が刺さった。
「……っ!」
「アミーラ!」
叫んだマリクが彼女を支えるが、これ以上戦うことはできなかった。
「チッ女が傷物になったか。生かしておいてもろくな価値が……いや、顔はいいな?」
覆面の男が下卑た声で、アミーラを品定めする。
「近寄るな!」
その彼女を庇ってマリクが叫べば、武装集団の剣と矢が二人に向けられた。
「ここじゃどうあがいても逃げられねえよ。女の命が惜しけりゃ抵抗するな、いいな?」
ゲラゲラと笑いながら言う男にマリクは逡巡する。彼の光の魔法は、今まで隠してきたからアミーラの目を楽しませる程度にしか使ったことがない。普段から使っていないからこそ、先ほど瞬時に反応できなかったし、防御にも攻撃にも使うことができない。彼は魔法が使えるにも関わらず、今のマリにくは傷ついたアミーラを助けることができないのだ。
「……俺が投降すれば、彼女は助けてくれるんだな?」
「だめ、マリク……」
「ああ、約束するぜ」
アミーラが苦しそうな声で制止したが、覆面の男が頷いたのを見てマリクは握っていた剣から、手を離した。マリクからアミーラを引きはがして捕らえると、覆面の男は蹴りを入れて吐き捨てる。
「てこずらせやがって。おい、そいつ縛っておけ」
アミーラは覆面の男に連れていかれ、幸せに包まれるべきだった新婚夫婦は、こうして突如として降りかかった暴力によって引き裂かれた。
***
初夜の後のできごとは、マリクにとってもアミーラにとっても、愉快なものではない。
襲い掛かってきたのはちかごろ頻繁に他部族に対して小競り合いを仕掛けていた盗賊団だったらしい。マリクたちの住む地域は前々から狙われており、祝言で気が緩んだ隙に強硬手段に出たというわけだ。卑劣な行いになすすべもなく部族は蹂躙され、ガシェー家の当主であるマリクの父は戦いのさなかに殺された。そして、マリクは傀儡になれと拷問を受けた。
制圧が終わった後も素顔を晒さない覆面の男は、マリクに脅しつける。
「俺たちに従えば、お前を生かしてやってもいい」
「……皆はどうしている? 家族の無事を約束しろ。村の女や子供たちは……」
「女子供は誰も殺しちゃいねえよ」
その返答にほっと息を吐いたマリクは、すぐに一番聞きたかったことを口にする。
「俺の妻は、どうしている」
「妻?」
「あの日お前が連れていった……矢の傷の具合はどうなった」
「ああ~、あの女か」
その口ぶりは、明らかに判っているのにからかうような調子だ。覆面をしていて判らないが、その布の下の顔は下品な笑みを浮かべているであろうことが容易に想像がつく。
「うぜえくらいに元気だぜ。見た目が悪くねえから、ちったあいい目見してやろうと思ったのに、あんまりにも暴れるもんで、鬱陶しいのなんの」
「……何を言ってる」
「ああ、でもあそこの具合はいいな。仲間みんなで輪姦してやってもまだ暴れるから薬まで必要だったけどよ。あの身体はまた抱いてやってもいい」
「貴様……!」
殺気立ったマリクに覆面の男はゲラゲラと笑い転げる。
「てめえが俺に従うなら、嫁を返してやるよ。あ~そうしたら、俺とてめえは穴兄弟だな。いや、あの女、処女じゃなかったからもう穴兄弟か」
なおもゲラゲラと笑い続ける覆面の男に、マリクはただ唇を噛むしかできない。殺意で人が殺せるなら、今の彼はきっと男を殺せただろう。けれど、マリクには光の魔法で攻撃することもできなければ、両手足を縛られていて、殴ってやることもできない。無力だった。
「まあ考えておけよ」
そう言い残して、覆面の男は出ていく。一人部屋に取り残されたマリクの腹に、煮えたぎるような怒りが渦巻く。こんなに激しい怒りを抱えたのは、産まれて初めてだった。
そのとき、彼の身体の中で変化が起きた。身体の中で光の力が渦巻いて、苦しい。数分の悶絶を堪えた後に、今まで攻撃になど使うことが出来なかった光の魔法が鋭利なナイフに変化し、マリクを縄から解き放った。
「これは……」
突然の事態に、呆然とする間もなく、マリクは拳を握って立ち上がる。今の彼に、迷っている暇などない。
部屋を飛び出したマリクは、見張りの男を蹴散らし、同じく囚われていた部族の男たちを解放し、一斉蜂起した。猛然と戦いながら、マリクは覆面の男を探す。けれど、騒ぎを聞きつけたらしい男は、アミーラを連れて、馬に乗って逃げ出した後だった。ご丁寧に他の馬は傷つけられて走れない状態で、どう足掻いてもマリクはアミーラを取り戻すことはできなかった。
それがマリクとアミーラの祝言から数日の出来事である。アミーラを取り戻すため、マリクはシャムス家に助力を願った。しかし、襲撃によって勢力の衰えたガシェー家と汚された娘を、シャムス家は見捨てることにしたらしい。援軍はすげなく断られた。
だから、マリクは復讐を始めた。長を亡くして弱った部族を、新しい族長としてまとめあげ、力を得るために周囲の部族をも率いた。武力に踏みにじられることの辛さを知っているからこそ対話で同盟を結び、近隣の盗賊たちを徹底的に狩り、弱小部族を守ってなどくれないシャムス家の打倒を掲げ、最終的にシャムス家を制圧して国を建てた。
その後、マリクが傲慢王だとのそしりを受けていたのは、制圧をしたシャムス家に恭順する部族や盗賊の残党を中心とした連中からの怨嗟の声だったが、マリクはそれを積極的に訂正する気はなかった。アミーラを酷い目に遭っている女性を見つけては支援したことは、あの日救うことのできなかったアミーラと重なって放っておけなかったからだ。女をとっかえひっかえする色情狂だと罵られても訂正しなかったのは、あの日アミーラの手を離した自分がいつまでも許せなかったからだ。色狂いの汚名を着たことで、悪い男は率先して女をマリクに捧げようとしたから、ますますマリクの悪名は広まった。そうしていれば、盗賊にさらわれたアミーラと再会するチャンスがつかめるかもしれないと思ったのもある。
全てのことは、覆面の男に復讐をするため、そして、生きているかも判らないアミーラを探すためだった。けれど、彼女への執着から建国し権力を得てなお、最愛を見つけ出すことは叶わなかったのである。
布団の中で裸のまま抱き合いながら、その話を聞き終えたラーケサは、ぽかんとするばかりだ。そんな様子に苦笑して、マリクは彼女の頬を撫でる。
「お前は踊り子なんかじゃない。俺のアミーラだ」
「アミー、ラ……」
口の中で呟いた途端に、彼女の頭が痛む。
「私は……アミーラ・シャムス」
浮かんだ名前を言葉に乗せた途端に、再び彼女の頭に痛みが走る。そうして強く目を閉じて、次に目を開いたとき、彼女は凛とした声ではっきりと言った。
「いいえ、わたくしは……アミーラ・ガシェーだわ」
息を呑んだマリクが、彼女の顔を見ると、彼女――アミーラは顔を歪めた。彼女の中に、薬漬けになったせいで失われていた過去の記憶が、次々と浮かんでくる。
***
集落をあげての宴会は、翌朝まで続く。酒とご馳走で部族の人々が騒いでいる中、新婚の夫婦は寝室に籠っていた。今日は、待ちに待ったマリクとアミーラの婚礼の儀である。すでに移住しているアミーラの婚礼の儀に参加する家族はおらず、儀礼上の手続きはかなり省略されるが、それでも初夜は執り行われるのだ。
新たに用意された夫婦の寝室になだれ込むなり、二人は睦みあっていた。アミーラの服を脱がす手は慣れたもので、マリクは身体のどこを触れば彼女が悦び喘ぐのかをもう知っている。秘密を共有したあの夜から、人目を忍んでは肌を重ねていたから、互いの身体のことは知り尽くしている。子ができないようにと、白濁を中に注ぎ込んだのはあの一度きりだったが、今夜からはもうそんな遠慮など必要ない。
産まれたままの姿で愛撫をされ、あられもない声をあげながらアミーラは蜜壺から欲情の蜜を零す。今までは声は抑えていたが、今夜ばかりはどんな嬌声を上げても構わないのだと思うと、余計によがり声は大きくなった。
「アミーラ、そろそろ挿れたい」
「わたくしも……早く、欲しい」
組み敷かれて身体をまさぐられていたアミーラはそうねだったが、その言葉とは裏腹に身体を起こした。
「今日は、わたくしが乗ってもいいでしょう?」
「ああ」
答えたマリクは、横たわって彼女を跨らせながら小さく笑う。
「どうしたの?」
「こんなに子作りに手慣れた新妻は俺のアミーラ以外にいないな」
「そんな風に仕込んだのはマリクじゃない」
揶揄を含んだ言葉に口を尖らせたアミーラだったが、それで跨るのをやめるわけではない。股までとろとろに濡れるほどによだれをこぼした秘所は、意地悪を言われた程度ででやめられるわけがなかった。
「んっ」
マリクの肉杭に手を添えて腰を落とすと、割れ目に熱が当たったところで止まる。
「アミーラ?」
「……これで、秘密じゃなくなっちゃうわね」
名実共に彼らは夫婦になり永遠を誓ったのだから、もうアミーラの右肩を隠す必要もない。もっとも、彼女がその肩をマリク以外に晒すことなどないのだが。
「秘密なんかあってもなくても、お前が一生の俺の傍にいるのは変わらないだろう」
「あっ」
腰につかまれて、ぐぐっと下ろされるのと同時に、下から突き上げられる。
「わたくしがするって言ったのに……!」
「どっちだって同じだろう」
「ぁっあんんっ奥っだめ、だからぁ……!」
バランスを崩して倒れ込みそうになる彼女の腰を支えたまま、マリクは小刻みに奥を揺らす。
「本当にこれが好きだな、お前は。もうイきそうなのか?」
「だって、マリクが、あっあっだめ、もうイっちゃ、あ、あ、あ、マリク、ま、りくぅ……!」
胎を揺らされ、いやいやしながらアミーラは快楽を訴える。彼の指摘通り、最奥をトントン揺すぶられるのが、アミーラのお気に入りだった。特に挿入し始めにそうされるのに弱く、これで絶頂を迎えたことは数え切れない。蜜壺をぎゅうっと緊張させた瞬間に一際強く突き上げられて、それでもう耐えられなくなった。
「あっだめだめあぁああああ……っ!」
背をのけぞらせて、アミーラは絶頂に達する。太く硬い肉杭を締め上げて子種をねだる刺激を繰り返したが、ここ一年の間、中で果てない情事ばかりを繰り返していたマリクは難なく射精をこらえていた。
「は……もう……! だめって言ってるのに、どうしてイかせたの」
ぺち、とマリクのお腹を叩いたアミーラが唇を尖らせる。拗ねているのが妙に可愛くてマリクが笑ったせいで、余計にアミーラの機嫌を損ねてしまった。
「夫婦になって初めてだから、今日は一緒にここでイきたかったのに……あ、あかちゃんを、作ってもいいん、だから……」
自身の下腹をさすってアミーラが言うのに、マリクは目を見開いた。
「アミーラ」
繋がったまたの姿勢でマリクは身体を起こすと、対面の形でアミーラを抱きしめる。
「お前は何度俺を惚れさせれば気が済むんだ。……愛してる」
「マリ、んっ」
驚いたアミーラの唇を奪って、マリクは舌を絡める。彼女を貫いたままの肉杭が更に大きく硬くなったのを感じて、アミーラは達したばかりの蜜壺をまたうねらせた。
「そんなこと、言っても……わたくしまだ怒ってるんだから」
唇を離したアミーラがぼそぼそと言うが、頬を染めてそわそわと目をさまよわせているせいで、もう機嫌が治っているのがまるわかりだ。マリクは何でもストレートに言うし、聞いている方が恥ずかしい口説き文句を吐く男だが、好きだとか愛しているだとか、そういう言葉を滅多に言わない。だからこそ、不意打ちで言われたこの言葉が、嬉しくないわけがないのだ。
「はは。それは困ったな。アミーラ。俺はまだまだお前とシたいんだが、だめなのか?」
至近距離でのマリクからのおねだりに対して、アミーラはまだ怒っているというポーズを取る。相変わらず嘘が下手だと思いながら口元を笑ませて、マリクは彼女の下腹に手をあてた。
「お前が孕むまでここに注ぎ込みたい」
「うぅ……」
「俺の子を産んでくれるんだろう?」
そう言って琥珀の瞳が甘えるように見つめてきたので、アミーラはもう白旗をあげるしかなかった。
「マリクはずるいわ」
「そうかもな」
ぎゅっと抱き着いたアミーラに、マリクはぽんぽんと背中を叩いて穏やかに言う。
「……わたくしに、子種をちょうだい?」
甘えるようにねだりながら腰を揺らして、アミーラは情事を再開する。けれど、初夜に彼女の胎に子種が注がれることはなかった。
「キャーッ!」
怒号と女の悲鳴、そして響く馬の蹄の音。明らかに変事の起きた状況に、そろそろ達するという頃合になって情事は中断された。
「アミーラ、お前はここにいろ」
素早く服を着たマリクが言えば、その横で同じく服を簡易的に来たアミーラが首を振る。
「わたくしも行くわ」
意思の強い紫の瞳に、ここで言い争っても仕方ないとマリクは頷く。この寝室に武器などないが、彼女は充分に戦う能力がある。そうして二人が建物を出たところで、武装した集団に囲まれた。
「女は傷つけずに捕えろ、男は死なない程度に痛めつけろ」
覆面のリーダーと思しき男がそう号令をかけた瞬間に、男たちが襲ってくる。マリクは素早く身を低くして男たちの足元に蹴りを入れると、引き倒した敵から剣を奪って応戦し始める。アミーラはその背後で、武器を奪われた敵の頭に蹴りを落とし込んで、意識を完全に奪った。
武装集団に囲まれて反撃されるとは思わなかったのだろう。たじろいだ様子の男たちにマリクの握る剣が閃いて薙ぎ払う。このまま突き進めば包囲網の一角を崩して逃げ出せる。そう思ったときである。
敵の一人が、矢をつがえた。
「っだめ!」
叫んだアミーラがとっさにマリクの前に出た。それは一瞬のことなのに、やけにゆっくりと時間が過ぎるようだった。つがえた矢が男の手から離れて、マリクめがけて飛ぶ。マリクが光の魔法を展開するよりも早く、彼をかばったアミーラの肩にその矢が刺さった。
「……っ!」
「アミーラ!」
叫んだマリクが彼女を支えるが、これ以上戦うことはできなかった。
「チッ女が傷物になったか。生かしておいてもろくな価値が……いや、顔はいいな?」
覆面の男が下卑た声で、アミーラを品定めする。
「近寄るな!」
その彼女を庇ってマリクが叫べば、武装集団の剣と矢が二人に向けられた。
「ここじゃどうあがいても逃げられねえよ。女の命が惜しけりゃ抵抗するな、いいな?」
ゲラゲラと笑いながら言う男にマリクは逡巡する。彼の光の魔法は、今まで隠してきたからアミーラの目を楽しませる程度にしか使ったことがない。普段から使っていないからこそ、先ほど瞬時に反応できなかったし、防御にも攻撃にも使うことができない。彼は魔法が使えるにも関わらず、今のマリにくは傷ついたアミーラを助けることができないのだ。
「……俺が投降すれば、彼女は助けてくれるんだな?」
「だめ、マリク……」
「ああ、約束するぜ」
アミーラが苦しそうな声で制止したが、覆面の男が頷いたのを見てマリクは握っていた剣から、手を離した。マリクからアミーラを引きはがして捕らえると、覆面の男は蹴りを入れて吐き捨てる。
「てこずらせやがって。おい、そいつ縛っておけ」
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***
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襲い掛かってきたのはちかごろ頻繁に他部族に対して小競り合いを仕掛けていた盗賊団だったらしい。マリクたちの住む地域は前々から狙われており、祝言で気が緩んだ隙に強硬手段に出たというわけだ。卑劣な行いになすすべもなく部族は蹂躙され、ガシェー家の当主であるマリクの父は戦いのさなかに殺された。そして、マリクは傀儡になれと拷問を受けた。
制圧が終わった後も素顔を晒さない覆面の男は、マリクに脅しつける。
「俺たちに従えば、お前を生かしてやってもいい」
「……皆はどうしている? 家族の無事を約束しろ。村の女や子供たちは……」
「女子供は誰も殺しちゃいねえよ」
その返答にほっと息を吐いたマリクは、すぐに一番聞きたかったことを口にする。
「俺の妻は、どうしている」
「妻?」
「あの日お前が連れていった……矢の傷の具合はどうなった」
「ああ~、あの女か」
その口ぶりは、明らかに判っているのにからかうような調子だ。覆面をしていて判らないが、その布の下の顔は下品な笑みを浮かべているであろうことが容易に想像がつく。
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「……何を言ってる」
「ああ、でもあそこの具合はいいな。仲間みんなで輪姦してやってもまだ暴れるから薬まで必要だったけどよ。あの身体はまた抱いてやってもいい」
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「まあ考えておけよ」
そう言い残して、覆面の男は出ていく。一人部屋に取り残されたマリクの腹に、煮えたぎるような怒りが渦巻く。こんなに激しい怒りを抱えたのは、産まれて初めてだった。
そのとき、彼の身体の中で変化が起きた。身体の中で光の力が渦巻いて、苦しい。数分の悶絶を堪えた後に、今まで攻撃になど使うことが出来なかった光の魔法が鋭利なナイフに変化し、マリクを縄から解き放った。
「これは……」
突然の事態に、呆然とする間もなく、マリクは拳を握って立ち上がる。今の彼に、迷っている暇などない。
部屋を飛び出したマリクは、見張りの男を蹴散らし、同じく囚われていた部族の男たちを解放し、一斉蜂起した。猛然と戦いながら、マリクは覆面の男を探す。けれど、騒ぎを聞きつけたらしい男は、アミーラを連れて、馬に乗って逃げ出した後だった。ご丁寧に他の馬は傷つけられて走れない状態で、どう足掻いてもマリクはアミーラを取り戻すことはできなかった。
それがマリクとアミーラの祝言から数日の出来事である。アミーラを取り戻すため、マリクはシャムス家に助力を願った。しかし、襲撃によって勢力の衰えたガシェー家と汚された娘を、シャムス家は見捨てることにしたらしい。援軍はすげなく断られた。
だから、マリクは復讐を始めた。長を亡くして弱った部族を、新しい族長としてまとめあげ、力を得るために周囲の部族をも率いた。武力に踏みにじられることの辛さを知っているからこそ対話で同盟を結び、近隣の盗賊たちを徹底的に狩り、弱小部族を守ってなどくれないシャムス家の打倒を掲げ、最終的にシャムス家を制圧して国を建てた。
その後、マリクが傲慢王だとのそしりを受けていたのは、制圧をしたシャムス家に恭順する部族や盗賊の残党を中心とした連中からの怨嗟の声だったが、マリクはそれを積極的に訂正する気はなかった。アミーラを酷い目に遭っている女性を見つけては支援したことは、あの日救うことのできなかったアミーラと重なって放っておけなかったからだ。女をとっかえひっかえする色情狂だと罵られても訂正しなかったのは、あの日アミーラの手を離した自分がいつまでも許せなかったからだ。色狂いの汚名を着たことで、悪い男は率先して女をマリクに捧げようとしたから、ますますマリクの悪名は広まった。そうしていれば、盗賊にさらわれたアミーラと再会するチャンスがつかめるかもしれないと思ったのもある。
全てのことは、覆面の男に復讐をするため、そして、生きているかも判らないアミーラを探すためだった。けれど、彼女への執着から建国し権力を得てなお、最愛を見つけ出すことは叶わなかったのである。
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