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踊り子の目的

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 腰を揺らす度に、肉がぶつかりあい、ぱちゅぱちゅと水が泡立つ音が響く。その度に揺れるアンクレットがしゃらんと音をたてているのを、マリクは喉を鳴らして笑った。

「おゆ、るしくださ……あっは、ぁあっだめ、だめ」

「踊り子だからなのか? 閨でも踊るのがずいぶんと上手じゃないか」

「ひあああっちが、あっ」

「それに、歌うのもうまい。俺以外に、何人の男を咥え込んだんだ?」

 嘲るように言いながら、マリクは腰の動きを早めていく。その強すぎる刺激に、ラーケサは蜜壺がきゅうきゅうとうねって二度目の絶頂が近いことを感じ取って首を振った。

「だめ、あっやら、やっまた、ああああああ……っ!」

 がくがくと胎を揺らす間にもマリクの腰は止まらない。それどころか、より強く、激しくなっていく。それは男が達する直前の動きに他ならない。

「やぁあああらめ、いま、イって、あっあっ」

「この締め付けは踊りで鍛えたのか? 胎が俺の子種をねだってるぞ」

「ちが、あっ」

 絶頂しているところに抽送を続けられれば、いやでも蜜壺はよりうねる。

「望み通り、今中に出してやる」

「やっだめぇ! なか、なかだけは、あかちゃ、や、いやああ……!」

 涙を流しながらラーケサが叫んだその瞬間に、ずんっとひときわ強く腰が打ち付けられる。途端に最奥に挿入された肉棒がびくんびくんと痙攣して、勢いよく白濁をぶちまけた。

「いやぁ……」

 首を振って嫌がりながらも、彼女の蜜壺は肉棒をしごいて子種を絞りとっている。彼女の長すぎた絶頂が終わったところで、やっと肉棒は引き抜かれた。

「……ご、ぶれいな言葉を、たくさん……お許しください。わたくしは、下がらせて……いただきます」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭きもしないで、よろよろと身体を起こしたラーケサは、平服してたどたどしくも伽の終わりの挨拶を告げる。股には今注がれたばかりの精液がこぼれていたが、それを構うことは、今の彼女に許されない。今できうる限りの礼を尽くしたラーケサの肩に触れたマリクは、彼女の顔をあげさせた。

「誰が一度で終わると言った」

「……そんな」

 呆然と呟いた彼女の身体を押し倒し、傲慢な王は踊り子の身体を再び暴く。

 そうして一方的な情事は、明け方近くまで続いた。始めは衣装を着たまま中に出され、次は裸に剥かれて奥を穿たれ、体位を変え、突き上げ方を変え、ラーケサが絶頂しようが、泣いて慈悲を乞おうが、狂うほどの快感でただ啼くだけの生き物になってもなお、何度も何度も子種を胎に注ぎ込まれた。

 そんな無体を強いられた彼女は、眠るマリクの隣でぱちっと目を覚ます。身体を起こして辺りを見渡せば、そこにあるのは散乱した衣装と、布団だけ。変わらずこの寝所の回りに人の気配はない。その状況を確認した後で、ラーケサは無防備に眠る王に侮蔑の目を向けた。

(嫌がる女を組み敷くのを好む色情狂と聞いていたけど、ここまでとはね)

 彼女の目はさんざんに涙を流させられたせいで腫れていたし、少しでも身体を動かすと、彼女の股からは白濁液がどろりと溢れて不快に伝う。身体のあちこちには唇でつけられた赤い痕が浮かんでいて、それだけで彼女がどれだけ責め立てられたのかがわかる。通常ならば、情事のあとに使用人たちが後始末をするところであろう。しかし、ここに案内された時に何人もの使用人が先導していたが、彼女らはいないのだ。それは恐らく、王が情事を邪魔されることを嫌うからなのだろう。少なくとも、噂ではそのように聞いていた。

(噂に違わぬ男ね。本当に……呆れる。でも)

 股の不快感に顔を顰めながらも、彼女は投げ出された衣装を探って、髪飾りを手にとった。

(おかげで、都合がいい)

 華の髪飾りは、先端が細く長い。それは人の肌に突き立てるには充分な鋭利さだ。その鋭さを確認して、ラーケサは唇を歪めて笑んだ。

(これで、あの人の望みが叶うわ)

 息を殺してマリクに近づき、彼が規則正しい寝息をたてていることを確認したラーケサは、手に持っていた髪飾りを勢いよく振りかぶった。

 必ずやり遂げるという意思を持って髪飾りを高くかざした彼女の脳裏に、ここにたどり着くまでのことがよぎる。

 ラーケサには幼いころの記憶がない。気付いた時には男たちに囲まれて凌辱されていた。どこからやってきたのかも判らず、名前も判らない、ただ、いつのまにか最低な環境で男たちに輪姦まわされていた。記憶を失っていたのはきっと、薬漬けにされた影響だったのだろう。身も心も死んだような彼女を救ってくれたのが、旅芸人の座長である。彼は悪辣な男たちから彼女の身を守ってくれただけでなく、『ラーケサ』という名を与えて、居場所をくれた。

 そんな座長に惚れたのは当然の流れで、彼のためにならなんだってしてあげたいとラーケサは思っていた。だからこそ、座長が王に復讐したいと願っていたのを知り、それに協力しようと申し出たのだ。

 王であるマリク・ガシェー・アル=アサドは、もともと小さな部族長の息子に過ぎなかった。それが兵をまとめあげ、次々と他の部族を侵略し、一国の王に成りあがった。別名で傲慢王とも囁かれる彼が屈服させた集落の中には、座長の故郷もあった。

 ただの旅芸人が、王の御前に出ることはなかなかに難しい。幸いにして容姿には恵まれていたから、踊り子としてもてはやされたが、右肩にいつの間にかあった矢傷のような傷痕と醜い痣は、たびたび観客たちを萎えさせた。だから、彼女はそれを隠すために鮮やかな花のタトゥーを入れ、あえて肩を晒し、結果としてそれは彼女の武器になった。旅を続けて芸に磨きをかけ、時には身体を使って貴人の機嫌をとり、やっと王の前で芸を披露するチャンスがめぐってきたのだ。色情狂だと噂高い男のことだから、ラーケサが舞いを披露すれば必ず寝所に召しあげられる。そうなれば寝首をかくことも容易いだろうとは思っていた。

 想定以上にスムーズにことが進んでいるのには驚いたが、これで座長のために王を殺すことができる。この復讐が終わって無事に脱出できれば、ラーケサは他人に身体を開くことなどなく、座長と共に幸せに暮らせるのだ。

 万感の思いを込めて髪飾りを握りしめたラーケサは、腕に力を込めて振り下ろす。

「……っ!」

 ラーケサは、声にならない叫びをあげた。マリクの首めがけて閃いた凶刃が、彼を突き刺すことなく止まったからだった。

「なんだ、抱かれ足りんか?」

 目を開けたマリクが、悠然と彼女の腕をつかんで止めていた。

「貴様、起きて……!」

「そんな殺気を漂わせておいて、起きるなというほうが無理だと思うがな」

「っ死ね!」

 つかまれていない方の腕を支柱にして、ラーケサはぐるんと回し蹴りを食らわせる。けれどその二度目の攻撃も、難なくマリク腕に阻まれた。

「諦めろ、お前に俺は殺せん」

 ぐい、と足を引っ張り、ラーケサの身体をうつ伏せに倒したマリクは、彼女の腕をひねりあげて髪飾りを奪い取り、放り捨てた。

「離せ! 殺してやる!」

 ラーケサが暴れて何とか脱出しようとするが、マリクの拘束はびくともしない。

「はは、お前、素の口調は乱暴だな。かしこまった人形よりよほどいい。だが、お前に殺されるようなことを、俺はしたか?」

「ばかな。私をさんざん犯しておいて、どの口が言う!」

 ラーケサの答えに、愉快そうに喉を鳴らしたマリクは彼女の拘束を解いた。瞬間に、彼女は身体を転がして脱出し、そばに落ちていた薄衣をマリクに投げる。そうして奪った視界で、蹴りを繰り出したが、やはりその攻撃が彼を傷つけることはなかった。

 彼女の技量が低いのではない。踊りで鍛えられたしなやかな筋肉から繰り出される蹴りは、間違いなく速く、そして重い。最初の髪飾りの攻撃だって、彼女は殺気を極限まで押し殺して振り下ろしたはずだ。だというのに、全ての攻撃が阻まれた。

「っ……!」

 蹴りは、マリクの身体に到達すらしていなかった。きらきらと輝く光の粒子が、盾のように集まって、ラーケサの足を防いだのだ。その光の粒子は散ったかと思えばすぐに集まり、今度はラーケサの腕に絡みついて、一瞬のうちに彼女を縛り上げ腕を上にして吊るした。

「離せ!」

 ラーケサが暴れるが、光で編まれた縄が解けるはずもない。

 傲慢王と呼ばれるマリクが寝所に使用人を配置しないのは、傲慢だからでも、女とのお楽しみを邪魔されたくないわけでも、油断しているわけでもない。彼が護衛など必要ないほどに強いからだ。

 この光を操る魔法の力を持っているだけでなく、体術も剣術も並の男では太刀打ちできない。この魔法の力については極秘のものだから外部には漏れていないが、使用人や護衛の侍従がそばにおらずとも、彼に命の危険が迫ることなどありえない。

 だから、彼は誰もいない寝所にラーケサだけを招き入れたのである。

(大誤算だわ。こいつがこんな力を持っているなんて!)

 魔法の力は、この世界にない訳ではない。だからといってありふれているかといえばそうでもなく、一人魔法が使える人間がいるだけで戦況がひっくりかえるほどには貴重な存在である。マリクは力を隠しながらも、巧妙に光の魔法を用いて成りあがってきたということなのだろう。

 それに気付いたラーケサが舌打ちをする。

「俺を襲った理由は、あの座長の男のためではないのか?」

「っ貴様を殺すのに座長は関係ない!」

「ふん、男を庇うか」

 興醒めだとばかりにマリクが息を漏らすと、向かい合っていたラーケサの身体が反転して、背中を向けさせられる。その背に手を触れ、撫でたかかと思えば、マリクは昨晩のように右肩の傷痕にちゅう、と音をたてて唇を落とす。

「……お前に、踊り子ラーケサなんて名前は似合わん」

「何を……あっ?」

 立った姿勢のまま、ぐっと腰を引き寄せられて、ラーケサは声を漏らす。突き出したような形になった彼女の股を割って、熱いものが押し付けられた。まだ彼女の中を貫くほどには硬くないが、秘部に擦り付けられるほどには大きくなっている。

「貴様、それ・・しか頭にないのか……んっ」

 寝首をかくのに成功していれば、返り血を浴びたはずだ。だから衣装を汚さないために、ラーケサはあえて服を着ていなかった。着ていたところで腰を覆う布などない衣装だから、守るものはないに等しいが、彼女の秘部にこうも簡単に肉棒を押し付けるのを許さなかっただろう。

「お前を抱くためにここに呼んだんだからな。当然だろう」

 そう言ったマリクは、腰を擦りつけながら繰り返し背にリップ音を立てる。

「やめろ!」

「愛撫は嫌いか?」

「そんな話はしてな……んっ」

 マリクの手がするりと腹を撫でて、下腹をぐにぐにと押す。すると、彼女の股からは注ぎ込まれていた白濁がどろりとまた溢れだした。

「お前が孕むまで、たっぷり抱くからな。濡らしておかないと後が辛いぞ。……ああ、今は濡らす必要もないか?」

「馬鹿なことを! お前を殺して、私は必ず戻ってやる」

 身体をよじってまさぐる手から逃げながらラーケサが暴言を吐くが、マリクはそっと彼女の耳元に口を寄せる。

「戻る場所などどこにある? 言っておくが、あの男は昨夜のうちに処刑している」

「な、に……?」

 暴れていた身体がぴたりと止まって、ラーケサの口から呆然とした声が漏れる。

「当たり前だろう。暗殺者を送り込んでくる男を、生かしておくわけがない」

 元より、ラーケサたちの目論みなどマリクに筒抜けだったのだ。それをあえて泳がされていただけ。その事実を突き付けられて、頭が真っ白になった。

「あ、あ……あああああ……」

 先ほどまで、ラーケサはマリクを殺すことを諦めていなかった。身体をなぞる腕に抵抗をする気持ちは消えていなかった。必ず愛しい人の元に戻るのだと、そう固く決心していたにも関わらず、それは無残にも砕かれたのだ。途端に足が萎えて身体の力が抜けたが、彼女が崩れ落ちることを、光の縄が許さない。

(私は、あの人の役に立てなかった)

 暗殺に失敗したラーケサは、産まれたままの姿で拘束され、股からは白濁液を垂らし、色情狂の王に犯される。なんとも、惨めだった。

 だというのに、マリクの唇が背を愛撫する度に、彼女の身体は熱を灯らせて、股に白濁でない潤いを新たに滴らせる。

「やめて……」

 懇願するような、情けない声が出た。それは昨日、マリクの嗜虐心を煽るために口にしていた演技などではない。

「そんなにあの男が好きか」

「私を殺していいから、あの人は、あの人だけは」

「 今のお前に、何を言っても無駄だな」

 ずるり、と肉杭が挿入され、ラーケサの目から零れる。

「あっいやぁ……!」

 拒絶の声も虚しく、ラーケサは今度こそ心身共にマリクに犯されたのだ。
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