悪魔の生贄にされた僕、悪魔に生まれ変わった

第1章 其処

1-45 人形

　このわずかな一行を見た瞬間、ヴィクトーの表情が急変した。

「グレーディアン！」

　この言葉を残し、いつも冷静なヴィクトーはオフィスから急いで出て行って、焦急な表情を浮かべている。
　この二十日以上、グレーディアンは彼の指導のもとで人間社会に徐々に戻り、基本的な読み書きさえ自覚的に学び始めていた。ヴィクトーは、自分の息子に少し似ているこの少年がこのような目に遭うのを見たくなかった。
　残りの三人もすぐに気づき、家で病気療養中の元無神論者メンバーがクラウディアの次の標的になったことを——そして既に死んでいる可能性さえあることを認識した。
　クローゼンは、なぜ早くに気づかなかったのか、ちょっと後悔していた。
　グレーディアンは洗脳され、自己意識のない器として使われていたが、彼は無神論者の一員としてかなりの時間を過ごしており、敵はこのいつでも起動可能な爆弾をエクソシストの身近に置いておくはずがなかった。
　気づいた三人はすぐにヴィクトーに続いてオフィスを飛び出した——その中の一人が走り出すときに見事に古傷が再発し、オフィスの入り口で倒れた。

「クロ、オフィスで待っていて！もしハイドたちが戻ってきたら、すぐに彼らをヴィクトーの家に行かせて！」

　メリーが彼に一言言い残し、クローゼンを引っ張ってヴィクトーに追いついた。
　この時、メリーも子供に危険なことに参加させるわけにはいかないと思っていた。彼女にとって、音叉を使えるこの子供は、自分よりも優れた戦力だ。
　証明書のことは気にしないで、メリーは急遽警察の馬を借り受け、管理者がまだ反応する前に、クローゼンを連れてヴィクトーを追いかけるために駆け出した。
　わずか数分で、彼らはヴィクトーの南区の家に到着した。
　ヴィクトーは玄関で立ち止まり、顔色が恐ろしく陰鬱になっていた。
　空気中に漂う血の匂いを嗅ぐ必要はない——血の匂いは既に門から外へと漏れ出していた。
　奇妙なことに、門から漏れ出る赤い血液は液体として地面に広がるのではなく、一筋になって一本の線となり、まるで延び続ける赤い紐のように外へと伸びていった。

「ヴィクトー、後ろに下がって」

　メリーが馬から降り、ヴィクトーの前に立って、彼がドアを開けようとするのを止めた。

「だめだ、お前が後ろに下がれ」

　ヴィクトーがメリーの肩を押さえ、彼女を後ろに引こうとしたが、メリーは彼を振りほどいた。

「お前は契約者じゃないんだから、普通の人間が強がるな」
「それに、お前はリーダーだ、不慮の事故を避けなきゃならない」

　メリーの態度は固い。

　馬の背に置き去りにされたクローゼンは、会話に参加したいと思ったが、乗馬の経験がないので、勇気を奮い立たせて飛び降り、着地姿勢を調整して痛みを最小限に抑えた。

「私は教会の執行官であり、悪魔対策局の総責任者だ。部下の後ろに臆病になることを許すわけにはいけない」
「お前は契約者だが、戦闘能力はないだろう？」

　ヴィクトーも譲らずに言った。

「あたしがお前の部下じゃない！」

　彼らが口論している間に、地面を転がりながらクローゼンは立ち上がり、動く血の赤い線を注意深く観察した。
　数秒後、観察者の鏡が提供した情報で彼の瞳孔が一瞬縮んだ。

（グレーディアン、元無神論者メンバー、悪魔の契約者）

　観察者の鏡は、地面を這う液体がグレーディアンであると判断した！
　信じがたいことだが、クローゼンはこの装置が間違うとは考えていない。この提示によって、彼は二つのことを確認できた。

「聞いてくれ、グレーディアンはまだ生きています」

　クローゼンは、現場の調査を誰が担当するかについて口論している二人を中断した。

「そして、悪魔と契約していました」
「なに？」

　メリーは驚いた。

「どうして、お前はそれを知っているの？」
「悪魔の契約者が見えます」

　クローゼンは片目のレンズを指差し、地面を這う血糸を指し示した。

「形態は変わっているが、これはグレーディアン……」

　まるでその名前に反応したかのように、血糸の一つが重力から解放され、上昇した。それは一周して、ヴィクトーの靴先を軽く叩いた。
　三人は一瞬言葉を失ったが、その後、ヴィクトーが口を開いた。

「もしそうなら、恐らくクラウディアはまだ近くにいて、立ち去っていないだろう」

　グレーディアンがまだ殺されていないことを知ったためか、クローゼンはヴィクトーの表情が穏やかになったことに気づいた。恐ろしい陰鬱さが消え、ヴィクトーは少し冷静さを取り戻したが、それはわずかであった。

「慎重に行動しよう。ハイドとアデリーズの到着を待って、警戒を怠らない」

　ヴィクトーは行動計画をすぐに立てたが、話し終わると、カチャという音が鳴った。
　ドアの錠が内側から解かれた。
　ヴィクトーは勘で前に出て、二人を守ろうと手を差し伸べた。
　ドアが少し開いたままになった。
　その後、もっとたくさんの血の線が伸びてきた。クラゲの触手のように、端はドアの枠にくっつき、ドアを内側に引っ張っていきた。
　ドアが完全に開かれた。
　血と肉の地獄が三人に広がった。
　ホールで彼らを迎えたのはグレーディアンでしたが、このことはグレーディアンである証明するのは半分の頭部だけだ。
　涙が彼の一つだけ残った目で渦巻き、地面に流れる鮮血と肉片と一緒になっていた。
　彼の表情はほとんど見られなかったが、この光景を見た人々は、彼の心の痛みを感じることができる。
　それは文字通り心を引き裂かれるようなもの。
　グレーディアンの体の部品はすべてバラバラにされ、まるで組み立て中の人形のようだ。
　流れ作業で生産された四肢、内臓、胴体、脊髄、眼球などの部品が床に乱雑に散らばっていた。まだ「グレーディアン」という製品の完成を見届ける作業員はいなかった。
　彼は生きており、すべての部品が意識を持ち、彼の制御下にあった。
　红色と白色のペースト状の液体ははっきりと分かれ、木製の床の上を暗闇の中でゆっくりと蠕動し、扉の方に向かってゆっくりと移動していく三人には、まるで巨大な抵抗力に引き寄せられているかのようでしたが、同時に外の明るい光への無限の願望があった。
　腕から切り離された五本の指が手のひらを動かし、昆虫のように一歩ずつドアの方に進んでいきますが、爪は床に強く擦れ、深い傷跡が残っていた。
　地面に落ちた眼球は周囲の肉片を利用して、必死に自分を転がした。
　心臓は床の上ではしゃぎながら跳ねるものの、体はバラバラに投げ捨てられているが、動脈、静脈、および毛細血管は依然として繋がっており、きちんと生命の循環を維持している。
　彼の首はまだ半分の頭部とつながっている。胸腔からの動力源を失っているにもかかわらず、彼の声帯は一時的に使える。
　彼が口を開けると、その声は歪み、虚弱で、心臓の鼓動よりも大きな音。

「助けて、とても苦しい」

　ヴィクトーの表情が崩れ落ちた。
　メリーが彼をしっかりと抱きしめたが、彼をグレーディアンに向かわせることを防ぐことはできなかった。ただし、グレーディアンの前に来ても何も変わらない。
　ヴィクトーが前に進もうとすると、グレーディアンの半分の表情が急に焦燥したものに変わった。彼は確実に叫んでいるが、その声はまだ弱かった。

「近寄らないで、これは罠だ」

　グレーディアンの声は聞こえないが、観察者の鏡が唇読み分析の結果を送信し、クローゼンの潜在意識が先んじてまばたきの指示を出した。
　同時に、角からの影から、白い尖った物体5本が高速で飛び出し、ヴィクトーに向かって射出された。
　それらはきっちりと2つに切断された。
　しかし、これらの出来事は何も変えなかった。半分の長さを失ったにもかかわらず、その飛行速度はますます速くなった。
　それは投げナイフのようであり、弓矢のようであり、銃弾のようであり、人間の背中の肉に突き刺さり、心臓に到達した。
　5つの赤い花が咲き誇り、メリーの悲惨な笑顔と共に。
　彼女はまだヴィクトーを抱いていたが、グレーディアンの最後の警告を聞いて、自分自身を盾としてヴィクトーの前に立てた。
　最終的に、メリーは上司ではないが、この古くからの友人に退いてもらった。
　5本の半分の手の指の骨でできた弾丸が彼女の胸に深く刺さった。外見からは分からないかもしれないが、メリーは自分の心臓が貫かれたことを痛感している。

「生きて」

　最後の力を使って、メリーはヴィクトーの耳元に自分の願いを残し、その後頭を垂れた。
　メリーの姿がヴィクトーに隠れていたため、クローゼンは見ることができなかったが、彼女の全身が急速に老化し、美しい少女から成人期、老年期、老齢期、そして干からびて人間の形を成さないまで、肉体が風化して粉々になり、骨格だけが残った。
　肉体が消滅すると、メリーの魂は地獄へと旅立った。