悪魔の生贄にされた僕、悪魔に生まれ変わった

第1章 其処

1-17 誤傳誤傳

　クローゼンは、突然自分が直面している困難について、現在最も暇そうなクロと相談することに決めた。
　自分のサンドイッチを手に取り、ゆっくりとしたペースでランチを取るクロのグループに加わった。

「エッシャールでアパートを探したいが、どこがおすすめですか？」
「アパートを探す？あっ、そうだ、あんたはまだ住む場所がないんだっけ」
「じゃあ、うちに来る？とりあえず、養子縁組の手続きは俺の名前で登録されているんだから」

　クロはこのことを問題視していないようだ。
　クローゼンは眉をひそめた。クロがまだよく知らない新しい同僚に対して、同居の提案をそんなに簡単に出してくるとは思っていなかった。一瞬、クロの考えがどのようなものか理解できなかった。

「そういえば、父親って呼ぶ必要ないよ、年の差そんなに大きくないしね」

　クロはクローゼンが自分をじっと見つめていると誤解したようだ。

「あんたもお金はそんなに持ってないだろうし、アパートを借りるには多くの場合、3ヶ月分の家賃を前払いする必要があるんだ。きっと払えないだろう？」

　年齢差から考えると、クロが僕の先祖と呼ぶべきかもしれない、とクローゼンは心の中でつぶやきながら、クロのジャンプするような考え方に感心した。

「それでいいですか？」
「空間的な観点から見れば、問題はないはずだよ。家は3人にとってはかなり大きいと言える。ただ、同僚と一緒に住むのが快適かどうかはわからないけど――でも、あんたは孤児院で10年以上過ごしているから、きっとたくさんの人と一緒に住むことには慣れているんじゃないかな？」
「3人？」
「家族は一人しかいないですか？」

　クローゼンがキーワードをつかんだ。
「いや、家族は全員亡くなった。あの恐ろしい流行病についてあんたがあまり覚えてないかもしれない、あのとき、あんたはまだ子供やったから」
「ハイドも俺の家に住んでる。俺は名目上、ハイドの監視者だって」
「実際、ハイドがいると便利だ。あいつ、本当に一生懸命働くで、まるでプロの執事みたいな。かつて大学の教授やったとは思わない」

　クロは話を続けて、クローゼンが急いでクロを中断した。

「ちょっと待て、流行病がいつでしたか？」
「10年以上前だな。具体的な時期は覚えない。なぜなら、あの流行病は異なる地域で異なる時期に広がった」
「俺はちょうど軍に入隊したばかりやったから、故郷を離れてた。そのおかげで難を逃れることができた」

　クローゼンはもうクロの回想を聞かず、この疫病を自分の人生の一部として考えることにした。
　彼の子供時代の記憶は非常に曖昧で、なぜ孤児になったのか、またなぜファリア神父の孤児院に入ったのか、全く覚えていない。
　今考えてみれば、その疫病が彼の生きていた両親を奪った可能性もある。

「教会の力もその頃急速に拡大し、多くの病人は治療の望みがなく、死後の安らぎを望むしかなかった…… クローゼン、聞いているか？」
「ああ、すみません」

　気を散らされたクローゼンは急いで話題を変えた。

「家賃のことを考えてたんだけど、毎月いくら払えばいいですか？」
「え？ お金？ 気にしない」

　クロは最後のサンドイッチを食べて、紙袋を丸めてゴミ箱に投げ入れた。

「いらない」
「確かに、クロさんのお金のことは気にしなくていいんですね」

　初めて証拠品を分類し終えたハイドも机に戻り、遅めの昼食を楽しんで言った。

「クロさんは恐らく、私たちの中で最もお金持ちなんです。彼の預金は、エッシャールでさらに2～3件の洋館を買うのに十分だと言われています」
「それに、タニアちゃんが昼食を買いに行く費用もクロさんが出しています」
「どうしてですか？」

　皆はエクソシストであり、クロも祖先が貴族のようには見えない。

「良い言い方をすれば、慰謝料。悪い言い方をすれば、口封じ料とでも言うか」
「俺はいくつかの重要な大物の秘密を握っている。彼らは、今すぐ死ぬか、金を受け取って黙っているかの選択を促してきた」
「俺は後者を選んだ。もっと詳しくは聞かないでくれ」

　クロは軽々しく言った。
　みんな、一人や二人、秘密を持っているんだな、とクローゼンは考えた。エクソシストのオフィスは本当に危険な場所だ。
　昼食を終えた後、クローゼンは次の仕事についてメリーに聞くに行きた。忙しそうなメリーは、クローゼンを茫然と見つめ、金髪が額に張り付いていた。

「ええと…あたしは、君の仕事をリストアップしないといけない…」

　精神的に追い詰められたメリーはよくわからないことを言い始め、クローゼンはどうすべきか迷った。そのときちょうど、アデリーズが一束のノートを持ってやってきて、状況を救ってくれた。

「暇なら、証拠を整理してくれ」
「悪魔召喚現場で見つかったノートだ。血で汚れていて読みにくい、写し取る必要がある。:见しらぬ記号があったら、模倣して書き写してくれ」
「そう、これも仕事の一つだ。タニアはいつも上手くできないんだ、書いた文字が下手くそ」

　メリーは両手で頭をかいて、元々乱れた髪をさらに乱れさせた。

「試してみて？君はタニアよりも頭が良さそうだから」

　クローゼンは隅で一生懸命書いているタニアをちらりと見て、彼女がメリーの悪口を聞いていないことを判断した。
　ノートを受け取ったクローゼンは、自分の場所に戻り、写し取りの準備を始めた。
　クローゼンは自信を持って、どんな見知らぬ記号にも出会わないだろうと思っていた。なぜなら、自分は大陸のすべての国の言語を理解している。これについてはまだ公表していないが、誰かが聞いてくれるまで、秘密にしておこうと思う。
　最初のノートを開き、最初のページで、ノートの最初の所有者が黄金の主の召喚に関する記録であるとカレドニア語で記載されているのを見つけた。
　なんて自分は人気者なんだろう……クローゼンは白紙にそれを書き写し、ライン語の翻訳を添え、次のページに進んた。
　そして、このノートが人間の知恵に満ちている言語であることに驚いた。

　2ページ目には、黄金の主を召喚する際に唱える必要がある呪文が記されている。文章はすべてカレドニア語のアルファベットで構成されているが、単語はほとんど意味を持っていない。時々、合法的な単語が見られるが、文脈とは明らかに関係ない。
　地獄の住人であるクローゼンにとって、これがなぜかはもちろんわかる——ノートの所有者はカレドニア語で悪魔語の発音を模倣している。
　実際、このページはすべて音写されている。
　クローゼンは発音を黙読した。呪文の大まかな意味は、『魂の本質を探究する者、魂を宿す物の製造者、地獄の錬金術師、私の呼びかけに応え、地獄の奥深くからこの世界に来てください』というものだ。
　なんて普通の召喚文！では、なぜ黄金の主と伝えられているのでしょうか？この疑問を抱きながら、クローゼンはさらにページをめくった。

　次のページは加工された呪文で、音写と通常のカレドニア語が組み合わされた新しいバージョンだ。クローゼンは、『黄金の主』という単語がこの時点で追加されたことに気づいた。
　このノートの所有者は、さらに注意深く、『テストを経て、一部の祈りに解読した祭文を加えました。このバージョンの効果がより良いと信じています』という注釈さえ付けている。
　これは解読とは呼べない！お前自身の想像だ！クローゼンは心の中で叫びながら、次のページを開けた。

　次のページはさらに理不尽であり、このノートがこの時点でラインに伝来したようだ。このページの祭文はライン語でカレドニア語を音写し、この所有者自身の新しい理解も含まれている。
　クローゼンは一瞬どう評価すべきか分からなかった。
　何ページかをめくり、最後の祭文の版に到達した。後ろにはいくつかの空白ページがあり、さらにその後は召喚の実験記録と召喚陣に関する内容が続きる。
　ライン語からカレドニア語へ、そしてそれが悪魔語に翻訳された後、クローゼンはこの内容が通常の悪魔の理解を超えていることを整理している。

「地獄からの黄金の主、終わりなき炎で焼かれる悪魔の主、世界の頂点に君臨する偉大な存在、すべての金と富の支配者、秘密を知り尽くした全知全能の王」
「あなたの栄光が僕たちを照らし、あなたの力が僕たちを服従させます」
「あなたの領土が大陸全土に広がり、あなたの民が永遠に繁栄しますように」
「あなたの謙虚な仆人たちの請願に応え、僕たちに終わりのない富を授けてください！」

　この祭文で僕が呼び出されるなんて、あり得ない！

　クローゼンはこのノートを地面に叩きつけたい衝動を抑えるのに苦労したが、深呼吸を三度した後、冷静さを取り戻した。
　考えてみると、自分はロス領主のノートを細かくチェックしていなかったものの、ロス領主のバージョンがより原始的なものに近いだろうと推測した。そうでなければ、自分を指すようにはならなかっただろう。
　クローゼンは笑いながらも怒りながら、人間の誤伝能力を示すこのノートを書き写していた。彼はカレドニア語の部分を簡単に翻訳したが、原文までは翻訳しなかった。
　自分がなぜ悪魔語を知っているのかを説明することができないから。
　クローゼンは仕事に集中し、背後でクロとタニアがなぜ自分が何かを書くのに震えるのかを議論しているのさえ聞こえなかった。

「よし、クローゼンくん、仕事が終わらないことは明日にしましょう。今は俺の命令を聞くんだよーー仕事納めだ！」

　午後五時のチャイムが鳴り、クロも遅れずにこの新しいルームメイトのところに来て、彼の肩を叩いた。

「残業はよくないーーあんたの字、なかなか綺麗だね？」
「えー、カレドニア語もできるの？すごい」

　クロがクローゼンが書いている紙を持ち上げた。

「何言ってるの！タニアまだ全然覚えてないよ！カレドニア語の文法はめっちゃ難しいんだ！」

　タニアが駆け寄ってきて言った。

「マジで、黄金ちゃんもすごいよね！暇があったら教えてくれない？」

　クローゼンはタニアのキラキラした目を避け、自分の机のそばに置いてあるカバンを持ち上げ、婉曲に断った。

「もし機会があれば」
「やったー！！！」

　タニアはこの言葉が自分の頼みを了解したと思ったようで、

「じゃあ、楽しい退勤を！」
「楽しい退勤を」

　ハイドもやってきて、

「今回の任務報告はすでにヴィクトーさんの机に置いておいたんです。彼が戻ってきたら見るはずです」
「すごいね、次の任務は俺が書く」

　クロは2人を推してオフィスを出た。

「その言葉、もう３回も言ってるんです」
「明日は無神論者の調査を続けることを忘れないで。今日の午後、手元の手がかりを整理したけど、まだ整理が完成しませんでした」
「わかったわかった、退勤してから仕事のことはもう考えないで。新しいルームメイトを迎えるために、今晩は美味しいものを作ろう！」

　クローゼンは『悪魔の契約書』を融合する時期を考えているが、このキーワードに気づき、思考がつい夜の食事の方向に向かった。