悪魔の生贄にされた僕、悪魔に生まれ変わった

第1章 其処

1-13 ファリア

「申し訳ありませんが、どこを探しても転勤通知書が見つかりません」

　エリンは少々あたふたしていた。

「でも、きっと私がしまってしまったんだと思います。お待ちいただいてもよろしいですか？仕事に支障が出るようでしたら、大変申し訳ありません」

　クローゼンは二人のエクソシストが視線を交わすのを見て、次にハイドが口を開いた。

「急ぐ必要はありません。ゆっくりお探しください。もしかしたら、晩ご飯を先に食べるべきでしょうか？ここには子供たちも待っていますから」
「ああ……お待ちいただいて、ありがとうございます」

　エリンは軽く頭を下げ、その後子供たちの食事の準備を指示し、皿や食器を片付けて、子供たちを活動室に連れて行きた。
　そして、ようやく大広間に戻ってきた。
　エリンがハイドが皿を洗っているのを見ると、急いで彼の手から皿を受け取った。

「転勤通知書を受け取ったのはいつ？」

　クロはさりげなく聞いて、キッチンの内装を眺めていた。

「およそ10日以上前、そのとき私は町の教会で働いていました。通知書にはできるだけ早くここに来るようにと書かれていたので、その日のうちに来ました。」

　エリンは皿を洗いながら話した。

「皿洗いは私がします。今、お腹が空いているはずですから」
「そういえば、ここに来たとき、ファリア神父を見ましたか？」

　ハイドはエリンに作業を続けさせなかった。

「ああ……いいえ、会いませんでした。おそらく、通知書の『できるだけ早く』という言葉の意味ですね」

　エリンはハイドが巧みに皿を洗っているのを見つめ、何をすればよいのかわからなくなった。

「私が来たとき、ファリア神父は数日前に旅立っていて、子供たちは誰も面倒を見てくれなかったんです。今考えると、かなり危険な状況でした」
「ファリア神父は不注意な性格のようですね。多くのルールを子供たちに教えていなかった。私がここに来たとき、子供たちは唯一神の教典を知らないと言っていました！」
「ファリア神父は子供たちは子供だと思っていたかもしれないが、ここは修道院です。子供でも神の教えを受けるべきです。」
「エリンさん、先ずは晩ご飯を食べるのはどう？」

　エリンは少し不満そうに語り合っている時、クロは用意された食事を大広間のテーブルに置いた。

「もし他に話したいことがあれば、食事の後にでもお話ししましょう？」

　エリンが大広間に行ってから、クロはハイドの近くに寄り、クローゼンを引っ張ってきた。

「怪しい。十日ほど前、ファリア神父は何をしていた？」
「ちょうど僕たちを売るための時間だったと思います。送り出した後、ファリア神父は修道院に戻ってこなかったのかもしれません」

　クローゼンは思い出しながら答えた。
　これは以前、弟や妹が自分の嘘に気づかなかった理由も説明しており、クローゼンはだんだんと理解を深めていきた。
　ファリア神父は自分たちを売った後、すぐに姿を消した。同じ場所で仕事を続けることを考えたことはなかった。ある意味では、これも十年一刀だったのだろう…

「やっぱり、転勤通知書の配布時期も計画されたものだ」

　クロはあごを撫でて考え込んだ。

「エリンも共犯かな？」
「たぶん、そうではないと思います。彼女が嘘をついているとは思えません」

　ハイドは皿を拭きながら言った。

「ただ、エリンさんにはさらなる手がかりがあるでしょう」
「では、いつも通り？」
「その通り」

　クローゼンは、この2人の謎めいたエクソシストに戸惑いの表情を向けた。

「『いつも通り』はなんですか？」
「あんたも経験したはず、うちの『ナイトメア』には特別な調査方法がある」
「ここで寝るだけでいい」

　クローゼンは思い出した。以前、自分はハイドの姿を夢の中で見て、放火現場を目撃した。
　エクソシストたちはこの事件をあまり問いただしていないようが、まさか彼らは自分の行動が正当であると考えているのでしょうか？

「夢の中には、人の潜在意識にある記憶断片が反映されます。時には、目標の夢から意識していない情報を得ることができます」
「今夜、エリンさんの夢に潜入してみます。訪問者用の休憩所はありますか？」
「個別の部屋はないが、寝室には空きベッドがあります」
「もちろん、構いませんよ」
「いいね、それは特別な生活を体験することだ」

　クロも喜んで受け入れた。
　シスターエリンが晩餐を終え、食器を厨房に運ぶ際、2人のエクソシストは彼女に修道院での宿泊を許可してもらった。
　その後、2人の調査員はシスターエリンとファリア神父に関する話題を続けた。一方、クローゼンは弟や妹たちと遊ぶために2階の活動室に追いやられた。
　クローゼンはそうしたくはなかった。独り好きな性格は別にして、自分はもう苦しい思い出について聞かれるのは嫌だった。彼の体は昔の習慣に従って、自動的にファリア神父の元の書斎に向かっていた。
　書斎の配置は相変わらず、何も変わらなかった。
　クローゼンの目は、会話用の小さなソファ、ファリアの机、本棚、そして角に置かれた像に移った。
　月光が窓から差し込み、唯一神の像に白い膜のように光を投げかける。金の像は丁寧に掃除され、一切のほこりがなく、月光の下で光り輝いている。
　クローゼンは突然目を見開いた。

（名前：原料）
（特性：魂を宿す特殊な物質）
（備考：ラメントの一部の羽が溶解してできたもの）

　観察者の鏡からのヒントに驚愕した。自分が何年も一緒に過ごしてきた像が、なんと地獄の金でできているとは思いもしなかった！
　幻階の魔方を開けて、予想通り、この像は別の次元の収納スペースに収められた。
　なぜファリアの書斎に魂を宿す原料があったのか？クローゼンはこのことをどう理解すべきか分からなかった。
　地獄の黄金が人間の世界でも通用するかもしれない。外見では区別がつかないからです。クローゼンはこの発見を2人のエクソシストに伝え、彼らの考えを聞いてみることにした。
　シスターエリンが上がって来て子供たちに寝る時間だと告げ、一斉に活動室から飛び出し、階下の大きな寝室に向かった。
　クローゼンはクロとハイドが寝室にいるのを見て、さらにハイドが既に寝転がっているのを見た。
　周囲が関係ない人ばかりであることを考えると、今晩は2人のエクソシストが重要な任務を持っているのだろうとクローゼンは判断し、地獄の黄金の件は明日に延期することにした。

「おやすみ」

　クロは自分のベッドに戻るクローゼンに目配せし、さらに彼にハイドを見るように促した。
　ハイドは呼吸をゆっくりと整えており、すぐに呼吸が安定し、数秒で深い眠りに落ちた。
　睡眠の質を改善する能力としては、これは本当に素晴らしい能力だ。クローゼンは身を翻し、数日間の騒動の後、ようやく初めてベッドで眠りについた。
　馴染みのあるベッドは彼に親しみを感じさせるが、ここが以前ファリア神父の人身売買の拠点だったことを思い出すと、クローゼンは少し不快な気持ちになった。考え事に没頭している間、意識は徐々に暗闇に包まれていった。
　どれくらい時間が経ったのか、ハイドの悲鳴で目を覚めた。