4 / 5
4
しおりを挟む
それから4ヶ月程で彼の体調や傷口は回復し、退院が決まった。
けれど麻痺した下半身は動くことはなく、まだとても一人で日常生活を送れるような状態ではない。
「狭いですけど、俺のアパートで一緒に暮らしませんか?」
「良い、の…?迷惑じゃない…?」
「良いに決まってるじゃないですか。必要な物は帰りに買いに行きましょう」
「…うん。ありがとうね」
荷物を纏めた後、車椅子を押して担当医や看護師に見送られながら病院を出た。
久しぶりに外に出て気持ち良さそうにしている姿を見て、これから始まる生活が彼にとって幸せなものになるよう支えていこうと心に誓う。
「買い物の後でも良いんだけど、僕の店に寄ってもらえないかな?」
「良いですよ。暫く行ってないから花が心配ですもんね」
「それもあるけど、もう一人で経営していけないから店を閉めようと思ってて。だから、閉店の準備をしに行きたいんだ」
「…わ、かりました。ちょっと此処で待っててくださいね」
突然の報告に返答が詰まりそうになるのを堪えながら言葉を紡ぐ。
それから少しこの場を離れ出入口まで車を移動してくると、彼は驚いた顔を見せた。
あった方が便利だろうと思い、退院に合わせて車を買っていたのだ。
「車、買ったの?」
「はい。その方が楽だと思って」
「ごめんね、僕が動けないから…」
「前から欲しい思ってたので、そんな顔しないでください」
申し訳なさそうに顔を歪める彼の頬を両手で挟んで笑ってみせると、コクリとひとつ頷いて安堵の表情を浮かべた。
「じゃ、行きましょうか」
「うん」
先に彼を助手席に乗せてから荷物や車椅子をトランクに詰め込み、数ヵ月ぶりに花屋へと足を向けた。
「シャッター開けてもらえる?」
「あ、はい。どうぞ」
「花、ボロボロだね…」
「…そうですね」
車を隅に停めて店内へ入ると、今まで彼が大切に育ててきた花たちは、水やりをしていなかったせいなのか、ほとんどが枯れてしまっていた。
「…やっぱり寂しい、な」
「っ…」
花に触れ切なげに笑う彼の手が僅かに震えているような気がした。
そんな姿を目にして、俺は何も言えなくなってしまう。
どうにか仕事を続けさせてあげられないかと考えていると、不意にある方法が頭を過った。
「あの、紫苑さん。1つ提案があります」
「ん?どうしたの?」
「俺を此処で働かせてください。会社は辞めます。そうすれば、店を閉める必要はなくなりますよね?」
「そ、だけど…でも…」
動揺を隠しきれないといった表情で口ごもる彼の手に自分の手をそっと重ねて静かに返答を待った。
続けられるという喜びと俺への罪悪感に揺れているのだと思う。
「…圭吾くんは本当にそれで良いの?僕の為に、って無理してない?」
「してません。俺も紫苑さんとの思い出が詰まったこの場所がなくなってしまうのは嫌なんです。ダメですか…?」
「…っ…ダメじゃ、ない…」
「ふ、良かった」
笑ってくしゃりと髪を撫でると、呆れたように彼も笑った。
けれど麻痺した下半身は動くことはなく、まだとても一人で日常生活を送れるような状態ではない。
「狭いですけど、俺のアパートで一緒に暮らしませんか?」
「良い、の…?迷惑じゃない…?」
「良いに決まってるじゃないですか。必要な物は帰りに買いに行きましょう」
「…うん。ありがとうね」
荷物を纏めた後、車椅子を押して担当医や看護師に見送られながら病院を出た。
久しぶりに外に出て気持ち良さそうにしている姿を見て、これから始まる生活が彼にとって幸せなものになるよう支えていこうと心に誓う。
「買い物の後でも良いんだけど、僕の店に寄ってもらえないかな?」
「良いですよ。暫く行ってないから花が心配ですもんね」
「それもあるけど、もう一人で経営していけないから店を閉めようと思ってて。だから、閉店の準備をしに行きたいんだ」
「…わ、かりました。ちょっと此処で待っててくださいね」
突然の報告に返答が詰まりそうになるのを堪えながら言葉を紡ぐ。
それから少しこの場を離れ出入口まで車を移動してくると、彼は驚いた顔を見せた。
あった方が便利だろうと思い、退院に合わせて車を買っていたのだ。
「車、買ったの?」
「はい。その方が楽だと思って」
「ごめんね、僕が動けないから…」
「前から欲しい思ってたので、そんな顔しないでください」
申し訳なさそうに顔を歪める彼の頬を両手で挟んで笑ってみせると、コクリとひとつ頷いて安堵の表情を浮かべた。
「じゃ、行きましょうか」
「うん」
先に彼を助手席に乗せてから荷物や車椅子をトランクに詰め込み、数ヵ月ぶりに花屋へと足を向けた。
「シャッター開けてもらえる?」
「あ、はい。どうぞ」
「花、ボロボロだね…」
「…そうですね」
車を隅に停めて店内へ入ると、今まで彼が大切に育ててきた花たちは、水やりをしていなかったせいなのか、ほとんどが枯れてしまっていた。
「…やっぱり寂しい、な」
「っ…」
花に触れ切なげに笑う彼の手が僅かに震えているような気がした。
そんな姿を目にして、俺は何も言えなくなってしまう。
どうにか仕事を続けさせてあげられないかと考えていると、不意にある方法が頭を過った。
「あの、紫苑さん。1つ提案があります」
「ん?どうしたの?」
「俺を此処で働かせてください。会社は辞めます。そうすれば、店を閉める必要はなくなりますよね?」
「そ、だけど…でも…」
動揺を隠しきれないといった表情で口ごもる彼の手に自分の手をそっと重ねて静かに返答を待った。
続けられるという喜びと俺への罪悪感に揺れているのだと思う。
「…圭吾くんは本当にそれで良いの?僕の為に、って無理してない?」
「してません。俺も紫苑さんとの思い出が詰まったこの場所がなくなってしまうのは嫌なんです。ダメですか…?」
「…っ…ダメじゃ、ない…」
「ふ、良かった」
笑ってくしゃりと髪を撫でると、呆れたように彼も笑った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
強面男子だって恋をする。
な
BL
高校二年生の宮脇 大樹(みやわき だいき)は、自他ともに認める強面を持つ。
そのため不良のレッテルを貼られ、今まで彼女どころか友達と呼べる存在すらいなかった。
ある日、そんな自分を唯一良くしてくれている姉の頼みで、姉が好きなBLゲームのグッズを一緒に買いに行くことに。
目当てのものを買えた二人だが、その帰り道に事故にあってしまい、姉が好きなBLゲームの世界に転生してしまった!?
姉は大樹にそのゲームの舞台である男子校に通ってほしいと頼み込む。
前世と同じく強面を携えた彼と、曲者揃いの男子たちの恋路はいかに…!?
(主人公総受け/学パロ/転生もの/キャラ多(メインキャラだけで23人))
とにかくキャラクターが多いです
全年齢です。
本編(総受けルート)が終わった後にそれぞれのキャラクターとのストーリーを書いていこうと考えています。
自分のために作った作品なので、少しそうはならんやろ、的な表現もあるとは思いますが暖かい目でお願いします。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
彼者誰時に溺れる
あこ
BL
外れない指輪。消えない所有印。買われた一生。
けれどもそのかわり、彼は男の唯一無二の愛を手に入れた。
✔︎ 四十路手前×ちょっと我儘未成年愛人
✔︎ 振り回され気味攻と実は健気な受
✔︎ 職業反社会的な攻めですが、BL作品で見かける?ようなヤクザです。(私はそう思って書いています)
✔︎ 攻めは個人サイトの読者様に『ツンギレ』と言われました。
✔︎ タグの『溺愛』や『甘々』はこの攻めを思えば『受けをとっても溺愛して甘々』という意味で、人によっては「え?溺愛?これ甘々?」かもしれません。
🔺ATTENTION🔺
攻めは女性に対する扱いが酷いキャラクターです。そうしたキャラクターに対して、不快になる可能性がある場合はご遠慮ください。
暴力的表現(いじめ描写も)が作中に登場しますが、それを推奨しているわけでは決してありません。しかし設定上所々にそうした描写がありますので、苦手な方はご留意ください。
性描写は匂わせる程度や触れ合っている程度です。いたしちゃったシーン(苦笑)はありません。
タイトル前に『!』がある場合、アルファポリスさんの『投稿ガイドライン』に当てはまるR指定(暴力/性表現)描写や、程度に関わらずイジメ描写が入ります。ご注意ください。
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 作品は『時系列順』ではなく『更新した順番』で並んでいます。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる