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「ーーっま!悠馬!」
名前を呼ばれる声に目を開けると、其処には待ち焦がれていた人が居て。
陶器を連想させる白い肌、艶やかな黒い髪、ビードロのような澄んだ瞳。
此方の顔を覗き込む何ひとつ変わっていない姿に手を伸ばせば、ガバッと勢いよく飛び付いてきた。
再会を願っていたのは、朔も同じだったのだと思い知らされる。
両腕を背中に回して更に引き寄せると、懐かしい匂いがして泪が出そうだった。
「久しぶりだね」
「たくさん待たせてごめん」
暫くして腕を解けば、朔は少し名残惜しそうに身体を離した。
上体を起こして辺りを見渡してみると、至る所に向日葵が咲き乱れていて。
あの日に約束した通り、本当に迎えに来てくれたのだと改めて実感する。
よく見るとあちらこちらの葉に、俺が今まで描いてきた絵が貼り付けられていた。
個展で使ったものから、そうでないものまで全部。
ずっと此処で見守ってくれていたのだろう。
「..オジさんになってて、幻滅したんじゃない?」
「してないよ。だって、悠馬は悠馬だから」
冗談っぽく言ったつもりが、思ったよりも声は弱く響いた。
初めて逢った頃から見た目は勿論、中身だって変わっている。
受け入れてもらえるのかどうか、心の何処かで心配していたのだ。
僅かに顔を俯かせると朔は真っ正面にしゃがみ込んで、子供をあやすみたいな手つきで俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
こういう何気ない優しさに、いつも救われていたっけ。
「左手、貸して」
「..?うん。」
「ペアリングなんだけど..もらってくれる?」
「いいの..?ありがとう、大切にするね」
首元に垂れ下がるチェーンを外すとそこから指輪を抜き取り、差し出された細く小さな手を取って薬指に嵌め込んだ。
サイズぴったりだね、そう微笑めば驚いた表情を浮かべていた朔が釣られるように笑う。
いつか想い続けてきた証明になれば、なんて購入した当時は考えていた。
けれど今はただ純粋に、同じ物を身に付けられている事実が幸せで。
それ以外のことは、どうでも良くなってしまった。
「僕のこと、覚えていてくれて嬉しかった」
「忘れないって、ずっと好きだって、言ったでしょう?」
「怖かったんだ、それでも…」
「…そっか。もう離れないから、安心して」
話し相手も居ないこの広い場所で、忘れられるかもしれない不安を抱えながら独り待ち続けるのは、どれだけ寂しく心細かっただろう。
そんな当たり前のことにさえ、気付いてあげられなかった。
ピタッと引っ付くようにして隣に座り直した朔の肩を、出来るだけ優しく抱き寄せる。
いつだって俺は自分よがりな考え方しか出来ていなかったのだと思う。
もう辛い想いだけは、絶対にさせたくない。
これからはずっと傍で、大切な人の笑顔を守っていく。
「…愛してるよ、朔」
「僕もだよ、悠馬」
薬指から微かな光を放つ左手をそっと握ると、ほんの少し触れるだけのキスをした。
不意に目と目が合ったその刹那、互いの頬が薄紅に色付く。
この向日葵が咲く丘の上で、永遠にふたりきり。
幸福感を噛み締めながら、柔らかく微笑んでみせた。
名前を呼ばれる声に目を開けると、其処には待ち焦がれていた人が居て。
陶器を連想させる白い肌、艶やかな黒い髪、ビードロのような澄んだ瞳。
此方の顔を覗き込む何ひとつ変わっていない姿に手を伸ばせば、ガバッと勢いよく飛び付いてきた。
再会を願っていたのは、朔も同じだったのだと思い知らされる。
両腕を背中に回して更に引き寄せると、懐かしい匂いがして泪が出そうだった。
「久しぶりだね」
「たくさん待たせてごめん」
暫くして腕を解けば、朔は少し名残惜しそうに身体を離した。
上体を起こして辺りを見渡してみると、至る所に向日葵が咲き乱れていて。
あの日に約束した通り、本当に迎えに来てくれたのだと改めて実感する。
よく見るとあちらこちらの葉に、俺が今まで描いてきた絵が貼り付けられていた。
個展で使ったものから、そうでないものまで全部。
ずっと此処で見守ってくれていたのだろう。
「..オジさんになってて、幻滅したんじゃない?」
「してないよ。だって、悠馬は悠馬だから」
冗談っぽく言ったつもりが、思ったよりも声は弱く響いた。
初めて逢った頃から見た目は勿論、中身だって変わっている。
受け入れてもらえるのかどうか、心の何処かで心配していたのだ。
僅かに顔を俯かせると朔は真っ正面にしゃがみ込んで、子供をあやすみたいな手つきで俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
こういう何気ない優しさに、いつも救われていたっけ。
「左手、貸して」
「..?うん。」
「ペアリングなんだけど..もらってくれる?」
「いいの..?ありがとう、大切にするね」
首元に垂れ下がるチェーンを外すとそこから指輪を抜き取り、差し出された細く小さな手を取って薬指に嵌め込んだ。
サイズぴったりだね、そう微笑めば驚いた表情を浮かべていた朔が釣られるように笑う。
いつか想い続けてきた証明になれば、なんて購入した当時は考えていた。
けれど今はただ純粋に、同じ物を身に付けられている事実が幸せで。
それ以外のことは、どうでも良くなってしまった。
「僕のこと、覚えていてくれて嬉しかった」
「忘れないって、ずっと好きだって、言ったでしょう?」
「怖かったんだ、それでも…」
「…そっか。もう離れないから、安心して」
話し相手も居ないこの広い場所で、忘れられるかもしれない不安を抱えながら独り待ち続けるのは、どれだけ寂しく心細かっただろう。
そんな当たり前のことにさえ、気付いてあげられなかった。
ピタッと引っ付くようにして隣に座り直した朔の肩を、出来るだけ優しく抱き寄せる。
いつだって俺は自分よがりな考え方しか出来ていなかったのだと思う。
もう辛い想いだけは、絶対にさせたくない。
これからはずっと傍で、大切な人の笑顔を守っていく。
「…愛してるよ、朔」
「僕もだよ、悠馬」
薬指から微かな光を放つ左手をそっと握ると、ほんの少し触れるだけのキスをした。
不意に目と目が合ったその刹那、互いの頬が薄紅に色付く。
この向日葵が咲く丘の上で、永遠にふたりきり。
幸福感を噛み締めながら、柔らかく微笑んでみせた。
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