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第一章
第四十二話 思い込みから抜け出すのは難しい
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久しぶりの装甲機動車に乗車して夜のオフィス街を疾走する。
俺の〈錬金鎧〉の謎金属を纏わせたことにより、重装甲機動車とでも言うような重厚なフォルムに鋼色の車体となった装甲機動車の突破力は抜群だ。
少々の数ならばそのまま装甲機動車で突撃するのだが、道路を埋め尽くすレベルの数のアンデッドの大群が現れた場合は別の対応をする。
開けたままの運転席の窓から金属化した腕を外に出すと、金属腕の先に装着した籠手形態のアーティファクト〈黒金雷掌ヤルングレイプ〉から銀色の雷撃を解き放つ。
雑魚の集団ならば〈放電〉を、強いアンデッドの集団ならば〈雷光〉を数回放って突破口を開いてから突撃し駆け抜けていった。
「ボスらしき気配は感じるか?」
「……近くにはいないデス」
「オーケー。なら次のエリアだ」
助手席のソフィアが行う気配探知の報告を聞くと、ハンドルを切って車を別のエリアへと向かわせる。
アンデッドを蹴散らしながら一定範囲内のエリアを巡回しては、ソフィアにボスモンスターの気配を探ってもらい、見つからなかったら別のエリアに移動してまた同じことを繰り返す。
これが夜のオフィス街でボスモンスターを見つけるために考えた効率の良い捜索方法だ。
「まぁ、結局のところ虱潰しに探していくしかないんだよな」
「向こうから来てくれるといいんですケド」
「一ヶ所に留まっていれば来るかもしれないが、それだと他のアンデッドに囲まれて体力を消耗させられそうだしな」
以前に行なった炎上道路のような罠を仕掛けてからボスモンスターを待つのも手だが、今回は出来るだけ早い討伐を目指している。
待ち続けても前回のようにボスモンスターが出てこない可能性は高いし、時間を掛けすぎると超人部隊との約束の日に間に合わないかもしれない。
そのため、このような手段を選択した次第だ。
「ケースを開けてくれ」
「ハイ」
ソフィアが足元に置いてあったケースを取って蓋を開ける。
その中には黒ミノタウルスのジャーキーモドキが入っていた。
昨晩から今夜に掛けて行なった独自の検証によって、所有する食材の中では黒ミノタウルスの肉が最も燃費効率が良いことが判明している。
検証内容だが、クリムゾンブルの肉を食べた場合と、冷凍保存してあった普通の牛肉を食べた場合とで、同じ能力を使用して空腹を感じるまでに掛かった能力の使用回数で比較した。
結果、前者のクリムゾンブルの肉の方が空腹を感じるまでの能力の使用回数が多かった。
ほぼ同量かつ肉質の似た肉で満腹になった上で比較したのに、空腹を感じるまでに掛かった時間にははっきりと差があった。
その後もモンスター肉ごとの差も調べたところ、ボスモンスターである黒ミノタウルスの肉が最も燃費効率が良いことが分かったというわけだ。
正直なところ、一部の能力を使用する際に体内で消費されているのは、カロリーではなく別のナニカではないかと予想している。
その際たる理由はアーティファクトだ。
自分の肉体由来の力である能力でカロリーが消費されるのはまだ理解できるのだが、完全に肉体から独立した道具であるアーティファクトの力を使用してカロリーを消費されるというのは、凡人からすれば首を傾げざるを得ない現象だ。
故に、消費しているのはカロリーではなく別のナニカであると考えた。
能力の使用によって空腹を感じるのは、おそらくこのナニカの量が足りないことにより、カロリーが代わりに消費されたからという副次的な効果だと思っている。
このナニカについてだが、世界変革後のファンタジー感ある数々の要素に合わせて、便宜上〈魔力〉と呼称することにした。
モンスター肉の方が燃費が良いのも、モンスター肉に含まれる魔力を取り込んでいるからと考えれば辻褄が合う。
そのモンスターの中でも強い個体の肉ほど含有魔力量が多いというのも、なんとなく感覚的に理解できる。
「魔力補給に幾つ食べマス?」
「四つ」
「ハイ、アーンしてくだサイ」
「あー」
口に押し込まれた黒ミノタウルスのジャーキーモドキを咀嚼し、飲み込んで間もなく何かが満たされた感覚がある。
空腹が満たされるのとは微妙に異なるこの感覚が魔力なのだろう。
「アッ、お兄さん、向こう、向こうに明らかに強い気配が二つありマス!」
「了解!」
車体に纏う謎金属も操作して無理矢理方向転換すると、ソフィアが指差した方角へと向かう。
役割を分担していたため最小限にしていた〈超感覚〉を最大限使用して気配を探る。
すると、確かに索敵範囲の端に二つの大きな気配が感じられた。
この独特な気配の質はアンデッド系モンスターで間違いないだろう。
捜索一日目で見つけられたのは運が良いな。
しかも二体いるので、必然的にそれぞれ一対一で戦うことになるだろう。
あとは運が良いついでに、すんなりアーティファクトが出現してくれることを祈るのみだ。
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