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第一章
第二十一話 力ある者の言葉は無視できないよね
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やはり、マンパワーがあるかどうかの差は大きい。
本来なら、配送トラックの荷台に敷き詰めてきた物資を一人でペントハウスに運ぶ予定だった。
だが、新たに同居人となった九鬼・セルシウス・ソフィアと協力して運んだおかげで、約半分ほどの時間で終わらせることができた。
それからソフィアを風呂に入れて、その間に冷凍野菜やら冷凍肉やらを使って夕食に鍋料理を作った。
今は夏なので鍋の時季ではないが、栄養摂取と量のかさ増しを両立した上で、調理の手間が掛からない料理なので色々と都合が良い。
リビングのクーラーも稼働させているので暑さと熱さも気にならないだろう。
一時間の長風呂から出てきたソフィアも、適当な鍋の素で味付けをした鍋料理には歓喜していた。
風呂から上がってきた時も目が赤くなっていたのに、また涙を流すほどに美味かったようだ。
現在の環境ではかなりの贅沢品である鍋料理を食べ終えた後も、残りのスープにご飯を入れて綺麗に食べ尽くすとソフィアを寝かしつけた。
後片付けをしようとしていたが、今日のところは寝るように言って新品のベッドに放り投げた。
そのまま数秒と掛からずに寝落ちしていたので俺の判断は正しかった。
「人手……人手か……」
片付けを終えた後、今日調達した各種酒類と酒のツマミを飲み食いしながら考えるのは、先日スカウトを受けた超人部隊のことだ。
元住人が契約していた世界的ネット配信サービスのアニメを適当に流していたテレビでは、複数人のキャラが協力して怪物と戦うシーンが映っていた。
ファンタジーなことになった世の中だが、現実では一人でできることは少ない。
強敵を一人で倒すことはできても、戦闘以外の部分では他人の助けがあるかどうかで生活レベルは大きく変わる。
肉や野菜も、それを育ててくれる他人がいてくれるから食べることができ、その食事で得た活力が戦いでの勝利へと繋がる。
現実ではフィクションのように全ての問題を一人では解決できない。
ネット上でもそんな力を持つ個人の情報は見当たらないので、人は世界が変革しても現実や他人からは離れられないようだ。
「文明的な生活を続けるには秩序ある世界を取り戻す必要がある……か。なら、その新たな世界での地位を獲得する必要があるな」
学は無いが、臨時政府直轄の超人部隊にスカウトされる程度の戦闘力があるならば、俺が目指す道は一つだ。
「全ての交渉事は相手が無視できない力を持っていてこそ成り立つのが、古代より続く人の世の理。だったら、政府に属しつつも上層部が蔑ろに出来ないほどの力を手に入れるのが最良の道だな!」
新たな決意と行動方針を胸に拳を握り締めると、まだ中身が入っていた缶ビールからビールが吹き出した。
「……締まらないねぇ」
スクラップになった缶ビールを台所にあるゴミ箱に軽く投げると、近くのタオルでテーブルと床を拭いた。
政府に属することは決めたものの、その形態については未だ悩むところだ。
今後目指すべき道としては、臨時政府に完全に所属するか、完全に所属はせずに一定の距離をおいて協力関係を結ぶ外部協力要員になるかの二つだ。
前者は自由度は減るが信用を得やすくなり万全のサポートを受けられる。
後者は自由度はほぼ変わらないが、信用を得るのに時間がかかる上に、最低限のサポートしか受けられない可能性があるってところか。
「無視出来ない力を得たら危険視されるのはどちらを選んでも一緒だろうしな……結局は契約内容の交渉次第になるか」
これまでも何度も至った結論に落ち着いたが、今までとは違って臨時政府に協力するという行動方針を決めている。
例えるならば、地に足が着いた気分というのだろうか。
どこかフワフワとしていた胸の内が落ち着いたので、今後のとるべき動きについても考えが浮かぶ。
詳しくは明日ソフィアが起きてから話し合うとしよう。
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