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第一章

第十四話 人気者はツラいな

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 ◆◇◆◇◆◇


 何度目かになる衝撃と車体を叩く落下音を五感で感じながら道路を走り続ける。
 目的地であるオフィス街に近付くにつれて進路上に人影が見えるようになった。
 緩慢な動きと呆けたような表情、そして血に濡れた身体をした顔色の悪い人影は、人間ではなくモンスターだ。
 ネット上で安直にゾンビと名付けられた元人間のアンデッド系モンスターが進路上にいても、一切躊躇うことなく撥ね飛ばしていく。
 乗り捨てられた車などの障害物が所々にあるため、アクセル全開で進むことはできないが今のところ問題なく進めていた。
 エンジン音に気付いたゾンビ達が群がり車体を叩いてはくるが、その攻撃力は低いため改修もした装甲機動車が破壊されることはない。


「まずは……あそこだな」


 オフィス街エリアの拠点に求める条件は幾つかあるが、マンションを拠点に置く場合は自走式立体駐車場であることが望ましい。
 地上に軍用車が駐車してあったら目立つため、生存者の中には奪おうとしてくる者もいるだろう。
 その点、立体駐車場ならば敷地外からは見え難いし、自走式ならばすぐに車を動かすことが可能だ。
 最初に訪れた拠点候補は、そんな自走式立体駐車場のあるマンションであり、近所には物資調達ができそうな店が多数あるという、新たな住まいとしては理想的な立地となっている。
 
 そんなマンションの駐車場のスロープを上がっていき、ちょうど真ん中辺りの階にあった渡り廊下の近くに停車する。
 運転席から降りて早々に襲い掛かってきた青年ゾンビを蹴り飛ばす。
 ネット情報通りグレイヴを使うほどの強さではないので、近くの車のボンネットをもぎ取ると〈怪力〉を駆使して筒状に丸める。
 完成した簡易金属棒を振りまわし、他のゾンビ達を文字通り潰していく。


「んー、長さが足りないな」


 追加のボンネットを複数確保すると、その金属板を〈炎熱掌〉の炎で熱して簡易金属棒に雑に溶接していった。
 その間に群がってくるゾンビ達は適当に蹴り飛ばしておく。
 やがて、簡易金属棒の強化が済んだ頃には周りのゾンビ達が全滅していた。
 どうやら、あの適当な蹴りで全て粉砕されていたらしい。


「……まぁ、まだ使うよな」


 気を取り直して簡易金属棒を担ぐと、マンション内の探索に向かう前に立体駐車場内の地上までの経路の整理を行なう。
 邪魔な車を〈怪力〉で持ち上げ端の方に動かしたり、ゾンビの死体……死体?を簡易金属棒に引っ掛けて駐車場の外へと放り捨てていく。
 下の階でも同じように群がってきたゾンビを処理しては車を整理していき、地上までの階の全ての作業が終わったのは一時間が経った頃だった。


「さて、それでは中を……大人気じゃないか」


 駐車場の整理を行なう際、まず最初に渡り廊下の前にゾンビの行き来を封じるように車を設置しておいた。
 せっかく整理した駐車場にまたゾンビにやって来られたら迷惑だからだ。
 他の階の渡り廊下や地上のスロープの入り口にも障害物代わりに車を置いてある。
 そうして乗ってきた軍用車を停めている階に戻ってくると、渡り廊下はゾンビがすし詰め状態になっていた。


「気配に敏感なのか、人間の気配や匂いに敏感なのか分からないが、感知能力は優秀みたいだな」


 渡り廊下が見える位置で頬杖を突いて眺めている俺に向かって、手を伸ばしてくる渡り廊下ゾンビ達に手を振り返した後、装備を整えるために一度軍用車の元へと戻った。

 先ずはマンションのインフラの確認を行なってから良さ気な物件を探すことになる。
 となると、小回りが効く装備で探索をするのがベストだろう。
 グレイヴは取り敢えず車内に置いておき、剣鉈と猛禽類系モンスターの牙で作った短剣をメインウェポンに、お馴染みの投擲用ゴブリンナイフを追加でポケットに納めていく。
 軽食の缶詰やお茶のペットボトルなどを小型リュックサックに適当に入れる。
 最後に怪物トカゲ戦の元軍人集団の死体から回収したガスマスクを装備した。
 コレは万が一にもガス漏れが起きていた時の装備である。


「装備はこんなところか。あとは出たとこ勝負だな」


 首を軽く回すと簡易金属棒を手に取り、渡り廊下に向かって駐車場の横合いから飛び移った。


 
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