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第十一章
第二百七十四話 武闘大会予選
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「ーーふぅ。星気の吸収はこれぐらいでいいか」
昨日に引き続き、今朝もエリンの【仙術】習得の手伝いを行なった後に朝食を摂ってから暫くの間、泊まっている部屋の自室で星気の吸収を行なっていた。
星気こと星の魔力は、名前の通り自分以外の魔力であるため自力では生成することはできない。
そのため、霊地という星気溢れる地から【仙術】を使って効率良く吸収し体内に蓄えておく必要がある。
元より初めてとは思えないほどに星気を扱え吸収できていたが、昨日手に入れた【天仙武体】によって仙術に適した肉体へと至ってからは更に星気の吸収力が高まった。
おかげでこの短い時間でもかなりの量の星気を吸収することができた。
この星気を使えば【仙術】で自然操作もできるし身体強化だってできるが、今の俺の主な使い道は【陽光仙法】だ。
〈仙法〉と呼ばれる汎用性の高い力を使うには星気が必要不可欠なので、すぐに使える星気を日頃からどれだけ蓄えておけるかが重要だ……と商店で買った仙法の指南書に書いてあった。
とはいえ、本来ならば吸収速度が遅過ぎて実用的ではない戦闘中の星気の吸収も、俺の星気の吸収力ならば可能なので星気の貯蓄の重要性は然程高くはない。
他の者が一時間で一しか星気を吸収できないならば、俺は軽く百以上は吸収できる上に、戦いながら星気を吸収することもできる。
どうやら、戦闘中に星気を吸収するというのは、吸収速度の問題以外にも星気の制御力や扱う際の精神力という面でもほぼ不可能なんだとか。
集めた情報によれば、実戦レベルでそれが行えるのはこの国では一人のみらしい。
星気についてアレコレ考えるのを一先ず止めると、【無限宝庫】から宝石のように綺麗な小さな紫色の球体を取り出して朝日へと翳した。
朝日を受けてキラキラと輝くコレは丹薬の一種であり、霊地の主である怪鳥の肉体を解体した際に、その心臓部から採取したモノだ。
名称は〈雷霊鳥王の仙血丹〉。
調べたところによれば、仙血丹というのは霊地の主である魔物の心臓内に極稀に形成されるモノであり、これを服用すると【仙術】の強化だけでなく、その魔物が有していた力の一部などがスキルとして手に入るようだ。
ただし、具体的にどんなスキルが手に入るかは実際に取得するまでは分からない。
霊地の主自体が強大な力を持っているのと、心臓内に必ず形成されているわけではないため、入手率だけでなくその存在の知名度も凄まじく低かった。
「これも日頃から〈黄金蒐覇〉で高められている運気と各種幸運系スキルのおかげかな?」
俺も実物を昨日手に入れてから、〈仙血丹〉という名をピンポイントで調べ続けてやっと知れたほどに一般的なモノではない。
正確には、【祝災齎す創星の王】の【星の叡智】で仙血丹の概要に関してはすぐに分かったのだが、知りたいのは現地であるファロン龍煌国で認識されている情報だったので今朝まで調査に時間が掛かった。
大体のことは分かったので、やっと使用することができる。
武闘大会の会場に向かう前に使っておくとしよう。
[アイテム〈雷霊鳥王の仙血丹〉を使用します]
[該当アイテムの力を吸収中です]
[吸収作業が完了しました]
[スキル【雷霊の王】を取得しました]
「……ふむ。吸収するのが結構大変って話だったが、あっさり吸収されたな」
そんな代物を大会本番直前に吸収する俺もどうかと思うが、無意識にすぐに吸収できると確信していたのかもしれない。
元々の才能と【天仙武体】様々である。
「取得スキルの効果は予想通り雷系能力の強化か」
他にも効果はあるが、メインは雷系能力の強化なのは間違いない。
怪鳥から手に入れたスキルなどに役立ちそうだ。
【雷霊の王】が有する効果からしてヴィルヘルムと相性が良さそうだったが、〈雷霊鳥王の仙血丹〉は伝説級の消費型アイテムなので【複製する黄金の腕環】で複製することは出来ない。
複製できていたらヴィルヘルムに超高値で売り込めていたのに残念だ。
「俺の運気なら霊地の主から確定ドロップが出来そうだが、国の監視がない霊地なんて都合の良い場所はそうそう無いんだよな……」
怪鳥から奪った霊地には管理兼監視用に生成した魔物を放っているのだが、その生成魔物や元々霊地にいる魔物には仙血丹は形成されないのだろうか?
【星の叡智】で得た情報によれば、仙血丹の形成で重要なのは対象の魔物が霊地の主であることではない。
仙血丹という名の通り、その形成には霊地より取り込んだ大量の星気が必要だ。
称号〈霊地の主〉になると支配下の霊地の星気を容易に吸収できるようになるため、結果的に霊地の主から手に入るという形になっているだけだ。
つまり、仙血丹の形成で一番重要なのは、魔物の体内に大量の星気が吸収されること。
これを人為的に起こせるならば、仙血丹の養殖も可能なはずだ。
霊地内で暮らしているだけでも自然と星気を取り込めるので、そのまま放っておくだけでもいつか形成されそうだが、それでは時間が掛かりすぎる。
なんか真珠の養殖業みたいイメージが思い浮かんだが……ま、このアイディアを実現出来るか否かの検証は徐々に進めていくとしよう。
「ご主人様ー! そろそろ出発しないと間に合わないわよ!」
「今行くよ」
部屋の外からのカレンの声に返事をすると、怪鳥の素材を使って製作した叙事級最上位の長衣〈雷精白天衣ビャクライ〉に袖を通す。
下着同様に【深淵織り成す蜘蛛】で生成した深淵糸製の靴下を履いてから、旧都で購入した遺物級上位の革靴〈氷狼の冷脚〉を履いた。
最後に、先日ウリムの地で倒した暗躍部隊の副リーダーから神刀エディステラの力で顕在化した伝説級中位のリングネックレス〈正義天輪メルキセデク〉を首から下げる。
変装時の武器である叙事級最上位の双剣〈死が蝕む黒竜牙〉と〈命を喰う白竜牙〉は、本番じゃないしまだ装備せずともいいだろう。
「さて、行くか」
メルキセデクを外から見えないように、つまり鑑定されないようにビャクライの内側に入れてから扉を開け、部屋の外で待っていた三人と共に武闘大会の会場へと向かった。
◆◇◆◇◆◇
武闘大会〈覇龍武闘祭〉の開会式は、ファロン龍煌国の君主である今代煌帝ラウ・イェン・ロングラド・ロウの開幕を告げる宣誓により武闘大会が始まった。
旧都の北部には広大な敷地面積を誇る闘技場エリアが設けられており、そのエリア内に複数ある闘技場の中で最も大きな闘技場にて開会式が行われた。
その闘技場含めた全ての闘技場にて予選が同時に行われるため、開会式が終わると出場選手達は参加手続き時に渡された番号の闘技場へと移動していく。
「この国も中々の人種の坩堝っぷりだな」
アークディア帝国が大陸西部随一の多人種国家ならば、ファロン龍煌国は大陸東部随一の多人種国家と言えるだろう。
アークディア帝国が魔人種が主要種族な一方で、ファロン龍煌国は龍人種が主要種族であるという違い以外にも、次点で帝国はエルフ族などの妖精種が、龍煌国は狐人族などの獣人種が多いなどの差異もあって全体的な印象は結構違う。
一年以上前にこの世界に来た時の気持ちを思い出しつつ、予選会場である闘技場の敷地内へと足を踏み入れた。
会場の入り口にて係員に予選番号の札を提示し、幾つかの注意事項を聞いてから複数ある出場選手の待合室の一つへと移動する。
道中、俺の偽装身分ジン・オウの種族が上位種の真竜人族だからか、同じ上位種である選手達が俺が竜人族ではなく真竜人族だと気付き視線を向けてきた。
上位種は相手が上位種か通常種かを認識出来るため、気配を誤魔化せるスキルやアイテムがなければすぐにバレる。
竜/龍人種が力を持つ龍煌国の武闘大会の場合、上位種の真竜人族だと分かると始まる前から無駄に注目を集めることになるが、そのあたりは気にしていないのでバレても構わない。
道中だけでなく到着した待合室でも注目されていたが、一部の目利きや実力者は俺が身に付けている装備のランクにも気付いていた。
質の良い選手がいるあたりは、流石は大国の武闘大会だと言うべきだろう。
そうして良くも悪くも周りに注目されながら、腕を組んだまま壁を背にして待つこと一時間弱。
遂に俺が出場する組の出番がやってきた。
待っている間は誰も声を掛けて来なかったが、【地獄耳】を使って待合室内の会話には耳を傾けていたので存外有意義な時間を過ごせた。
今回の武闘大会に出場する有力選手の情報も重要だが、それ以上に気になったのはSSランク冒険者〈天喰王〉リンファ・ロン・フーファンが開会式に列席していなかった理由についてだ。
毎回開会式には煌帝と共に顔を出していたそうなので、姿が見えないことが少し気になっていた。
本選は観戦するとだけしか運営からは説明されてなかったからな。
「霊地の異変、ね……」
どうやら近頃、龍煌国内の各地にある霊地が枯渇するという異変が起こっており、その原因調査を行なっているためリンファは開会式に来ていなかったらしい。
内容とタイミングからして昨日の俺の霊地での事は無関係だろう。
各地の霊地が枯渇しているというのが事実ならば、下手すれば辺境にある俺の霊地に目を付ける勢力が現れるかもしれないな……分身体経由で霊地内の高位魔物の数を増やしておくか。
『全予選試合六十四組の内、それぞれの組から本選トーナメントに進めるのはたった一人のみ。その一人を決めるために、出場選手の皆さんには最後の一人になるまで争っていただきます! 勝敗を決める方法は至ってシンプル。勝利するには最後の一人になるまで試合が行われる舞台に立ち続けることです。一方で敗北判定についてはーー』
事前に内外へ告知されている予選内容を審判兼司会者の龍人族の青年が今一度説明していく。
予選はバトルロイヤルで、本選はトーナメントという違いはあるが、選手が死ぬか降伏した場合は失格というのは共通している。
降伏を宣言した相手を故意に傷付けたり殺したりしたら失格になることもあるそうなので、そこだけは注意する必要がありそうだ。
まぁ、それも【生殺与奪権】の効果で手加減すれば間違って殺してしまうことはないのだが。
一応、予選試合のみは試合が行われるステージの外、つまり場外に身体の一部が着いた場合も失格になるので予選ではそれを活用するつもりだ。
空中を移動できる者達にとっては無意味なルールだが、周りを見る限りではたぶん気にする必要はないだろう。
「徒党を組む者達がいるのは予想通りだが、俺以外の全員に囲まれるとは思わなかったな」
ルール説明が終わり、試合が始まるまでのカウントダウンが行われる僅かな間に俺以外の全ての選手が俺一人を包囲してきた。
全員が手を組んだというわけではなく、俺を狙う者達の背後を狙っている選手達もいるため、結果的にこのような形になっているようだ。
「この組で最も強いのはお主だからな。お主を除けば実力が近しい者も多い。この大会の予選ではよくあることだから悪く思わないでくれ」
俺の独り言を聞いて、この組で二番目三番目くらいに強い中年ほどの外見の龍人族の武闘家男性が答えてきた。
「まぁ、それも一種の戦い方だからな。全く構わないとも。惜しむらくは、彼我の実力に差がありすぎて無意味に終わることか」
「……それが正しいかどうかはすぐに分かる」
俺以外の者達の敵意が高まったのを感じていると、試合開始を告げる審判の言葉が聞こえてきた。
『ーー始めッ!』
その開始宣言と同時に一斉に選手達が襲い掛かってくる。
そんな競争相手に向かって、俺は一言だけ言い放った。
「『地に伏せよ』」
「ガッ!?」
「ぐあッ!?」
「こ、これはっ?」
俺の言葉を聞いた全ての選手が舞台の石畳の上に倒れた。
特殊系スキル【君主の言葉】による補助も受けたユニークスキル【紡ぎ塞ぐ言霊の熾天使】の内包スキル【真言霊権】と【天詞の檻】による言葉の強制力に抗えるほどの力は彼らにはない。
「ああ、そういえば地に伏せるだけだと失格判定にはならないのか。そうだよな、審判?」
『そ、そうなりますね』
「ふむ。なら、『風よ、我が敵を吹き飛ばせ』」
直後に突如舞台上に発生した突風によって、俺以外の全ての選手が場外へと吹き飛ばされていった。
『しゅ、終了っ! 勝者は最後まで舞台に立っていた六百六十六番の選手です! 本選進出おめでとうございます!』
純粋に勝利を祝う歓声と、何が起こったか分からない戸惑いの声が半々ぐらいの観客席へと手を振りながら舞台から下りる。
場外失格になった他の選手からの非難の視線や声を無視し、別室で本選についての説明をするという係員の案内について行く。
現場にいた選手達は何が起こったか分からないうちに失格になって不満があるようだが、これが現実なので素直に負けを認めてもらいたいものだ。
何はともあれ、実力の一部を示しつつも本選で使う予定の武術と仙術を秘匿することができた。
周りの反応を見るに、片手だけを使って制圧するとかのほうが良かったみたいだが、今さら遅い。
もしかすると思いがけない戦利品が得られるかもしれないが、彼らが命を大事にしてくれることを願うばかりだ。
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