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第九章

第二百二十八話 大陸オークション前半の部

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 ◆◇◆◇◆◇


『ーー前半の部、最初の品は〈闇世の王剣〉です!』


 今回の大陸オークション最初のアイテムが登場する。
 台座に載せられてやってきたのは、一見するとただの普通の真っ黒な大剣だった。
 だが、その大剣が発する魔力は普通ではない。
 幾つもの防御措置が施されているVVIPルームにいても魔力が感じられることからも、ただの黒い大剣でないのは明らかだ。
 アイテム名の通り闇属性の魔力を有する大剣らしく、保有する能力の名称からも効果が分かりやすい。
 等級は叙事エピック級で、種別はただの魔導具マジックアイテムではなく迷宮秘宝アーティファクトのようだ。
 開始一発目からこれほどの逸品を出してくるとは、流石は大陸規模のオークションと言うべきか。


『コチラの闇世の王剣は、入札開始価格は百万オウロから開始です!』


 【情報賢能ミーミル】を使って闇世の王剣を調べている間に行われていた司会者によるアイテム解説が終わり、入札が開始された。


『百五十万!』

『二百万!』

『三百万!』

『五百万!』

『八百万!!』

『一千万!!』


 事前に入手できる出品カタログには、出てくる順番だけでなく出品物の詳細も載せられていなかったが、司会者による解説によってその価値が明らかになり、会場の熱気は数段階上がっていた。
 そんな中はじまった入札は、あっという間に一千万を突破した。
 入札時のみ一般席の声はロイヤルボックス席まで届くため、彼らの盛り上がる様が声からよく伝わってくる。


「「ピッピッピッ! ピッピッピッ!」」


 素晴らしい〈強欲〉の衝動の嵐にアモラとルーラも喜んでいるらしく、俺とリーゼロッテのペンダント内の異空間からテーブルの上へと飛び出してきた二羽は、鳴きながらリズミカルに踊り出した。
 二羽のご機嫌な様子を視界に入れつつ、会場にも目を向ける。
 一千万を超えたあたりから一般席の勢いは徐々になくなっていったが、代わりにロイヤルボックス席の参加者達が入札争いに加わり、入札価格は天井知らずに上がっていった。


『二千三百万』

『二千五百万!』

『三千万!』

『三千五百万』

『三千七百万!』

『四千万』

『四千五百万』

『よ、四千六百万』

『五千万』

『六千万』


 一般席からの声に対して、ロイヤルボックス席から発せられる無機質な声が応じる。
 この無機質な声はロイヤルボックス席の参加者の声ではなく、室内の入札ボタンを押すことによって入札者の代わりに発せられる人工音声だ。
 全ての音声は同じだが、司会者がいる壇上からは何処のロイヤルボックス席からの入札かは分かるため、入札の声が出る度に手で指し示している。


『……六千五百万』

『七千万』

『八千万』


 闇世の王剣の入札争いに一般席から唯一参戦していた者が肩を落としたのが見えた。
 叙事級のアーティファクトを数千万程度で落札しようとしていたとは甘すぎるな。
 物が物だけに、必然的にロイヤルボックス席同士の入札争いになった。
 【強欲なる識覚領域】を使って感知範囲を広げて確認したところ、現時点で闇世の王剣に入札を行なっているのは三席いるようだ。
 発せられる人工音声のせいで声からは各入札者の心情を探ることは出来ないが、それぞれの席から感じられる〈強欲〉の感情は中々のモノなので、冷やかしではなく本気で欲しいのが分かる。


「さて、そろそろ参戦するか」

「入札するの?」

「ああ」


 レティーツィアに言葉を返しつつ五千万のボタンを一回だけ押した。


『一億三千万』

『おおっと! 四番席によって一気に五千万も上がったぞー!! ついに一億オウロを突破だ!!』


 ここまで黙っていた司会者がすかさず反応する。
 司会者の声に少し遅れて一般席がざわめく一方で、ロイヤルボックス席からは更なる感情の波が感じられた。


『一億四千万』

『一億五千万』

『二億』

『二億三千万』

『三億三千万』


 五千万ボタンを二回押して入札価格を一億オウロ引き上げた。


『三億五千万』

『四億』

『四億五千万』

『五億五千万』


 俺に触発されてか、他の入札者も五千万単位で入札をするようになった。
 それなら俺は一億単位で入札するとしよう。


『六億五千万』

『七億』

『七億五千万』

『八億五千万』

『九億』

『十億』

『十一億』

『十二億』

『十三億』


 俺以外の競争相手が二席に減って入札価格が十億を超えた時点から一億ずつの入札になったが、叙事級の相場的には適正価格なので大したことではない。
 だが、一億ずつチマチマと入札するのも面倒なので俺は倍の二億ずつ入札することにした。
 もっと一気に入札したいところだが、金ボタンによる入札は時期尚早だし、五千万ボタンをこれ以上連打するのは更に面倒だ。
 今度アイリーンに会ったら、一億ボタンを作るよう進言したほうがいいかもしれない。


『十五億』

『十六億』

『十七億』

『十八億』

『二十億』

『二十一億』

『二十三億』


 競争相手が残り一席になったが、二十億を超えても食い下がってくる。
 ただ、感じられる感情からそろそろ限界のようなので入札争いはじきにおわるだろう。


『二十四億』

『二十六億』

『二十七億』

『二十九億』

『三十億』


 少しの間があってから三十億が入札された。
 どうやら相手は限界のようだ。

『三十二億』

『三十二億が出ました! 他に入札はありませんか? 本当によろしいですか?』


 司会者が最後まで俺と入札争いをしていた者がいるロイヤルボックス席へと顔を向ける。
 暫く待っても反応がなかったため、入札を締め切るカウントダウンの後に司会者が落札確定を意味するハンマーを打ち鳴らした。
 ここのオークションでもハンマーを使うらしい。


『闇世の王剣は四番席の方が三十二億で落札です!! おめでとうございます!』


 オークション会場に司会者の声が響き渡る。
 初っ端からの三十億超えの落札価格に会場が盛り上がっているのを聞きつつ、入札中に追加注文していた高級酒を開けて次の出品物を待つ。


「いきなり三十億も使ったけど大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫」


 今回の大陸オークションのために用意した金はまだまだあるので問題ない。
 闇世の王剣は能力的に絶対欲しかったので、例え百億までいっても落札するつもりだったので寧ろ懐には余裕が生まれた。
 俺が出品したアイテムの落札価格次第では更に余裕ができることだろう。

 その後は特に興味の惹かれないアイテムが続いた。
 冷やかし目的の入札を行なって値段を吊り上げて暇を潰すこと暫し。
 次のターゲットが壇上に上がってきた。


『続いての商品は摩訶不思議なアイテムです。とある神造迷宮のボス級魔物の宝箱から産出された品で、当オークション専属の上級鑑定士によりますと、おそらくは使用者の望む形に変わるという効果があるそうです。効果の幅が不明なアイテムなので、このアイテム〈混沌の泥〉の入札価格は十万オウロから開始させていただきます!』

『十一万!』

『十一万五千!』

『十二万!』


 泥というワードと効果の幅までは不明とあって、入札価格は中々伸びる様子はない。
 おかげで途中から参戦した俺が四十万オウロで落札することができた。
 それから五つほど出品物を見送っていると、司会者が耳に指を当てて数度小さく頷いているのが見えた。


『さぁ、続いての品ですが、とある英雄の遺産という触れ込みの煌びやかなアイテムです!』


 会場スタッフが運んできた台に置かれていたのは、黄金色の銃という何とも派手な逸品だった。


『ご覧のようにとても豪華な装いの魔銃ですが、その能力は英雄の遺産という触れ込みに恥じないモノになっております! 敵対者に凶弾を齎すだけでなく、所有者に幸運を運んできてくれる能力や、戦闘の初心者であっても格上の強敵を倒し得る能力まで有しております。自らやご家族の護身用に良し、お家の権威を示す観賞用にも良しの、叙事級の魔銃〈黄金魔銃ゴルディオン〉の入札開始価格は、三百万からスタートです!』

『五百万!』

『七百万!』

『一千万』


 初めから一般席やロイヤルボックス席に関係なく多くの者が入札を行なっている。
 幸運のアイテムというだけでなく、英雄の遺産という触れ込みや、戦闘初心者でも格上を倒せる能力があるというのを聞いたら無理もないだろう。
 元々目をつけていたが、実物を直接見て能力を調べたことでより一層欲しくなった。
 
 
『七千万』


 二千万まで上がっていた入札争いに加わり、一気に七千万まで入札価格を引き上げる。
 最初は一億入れようと思ったのだが踏み止まって半分にした次第だ。


『八千万!』

『九千万』

『一億』

『い、一億百万』

『三億』


 一千万ずつ上がっていたところに百万だけ上げた奴がいたので、三億入札して排除することにした。
 狙い通りに邪魔者を排除した後は、数千万から数億単位の入札が続いた。


『おめでとうございます! 黄金魔銃ゴルディオンは四番席の方が二十五億オウロで落札です!』


 叙事級の相場からすると少し割高だが後悔はない。
 能力的に面白そうなので、今から能力を剥奪するのが楽しみだ。


「ピピッピ!」

「ん? どうした、アモラ」

「ピィー、ピッ」

「今出ているのが欲しいのか?」

「「ピッ!」」

「ルーラもか……まぁ、いいか」


 黄金魔銃を落札した後に登場した派手な杖にアモラとルーラが興味を示した。
 別に必要ではなかったが、アモラとルーラが食べたいそうなので落札した。
 その後も二点の品を同じ理由から落札することになった。
 アモラとルーラは卵時代に注がれた俺の魔力による影響か、普通の食事以外にも金銀財宝や魔導具などのアイテムを食べることができる。
 高価であればあるほど美味いらしく、二羽はテーブルの上で涎を垂らさんばかりに目をギラつかせながら壇上の出品物を凝視していた。
 与えるのは【複製する黄金の腕環ドラウプニル】で複製した物になるが、その性能や質といった諸々はオリジナルと変わらない。
 落札した数千万から数億オウロにもなるアイテムの数々を喰らう気満々な二羽の頭を撫でる。
 トンデモないレベルの大飯食らいーー金額的な意味でーーだが、可愛いから良しとしよう……。
 気を取り直して次の商品へと意識を向ける。


『続いての品は、昨年末に滅んだとある国が所有していた国宝でございます。曰く付きの品ではありますが、その価値については皆様にもご納得いただけるものと思っております』


 司会者の意味深な言葉とともに登場したのは所々に翠水晶の飾りが施された白い全身鎧だった。


『コチラの鎧の名称は〈祝い護る生命の聖鎧ヴェネレヴィッタ〉。既に滅んだ某国屈指の至宝である聖なる鎧でございます。出品者様からの情報ですと、とある魔物の領域にて発見なされたそうです。聖なる武具は本来であれば〈勇者〉様をはじめとした限られた方々にしか扱えないアイテムですが、何とこの聖鎧は誰でも扱うことができるようです』


 音は聞こえないが、司会者の言葉にオークション会場が沸き立つのを感じる。
 この聖鎧ヴェネレヴィッタは、昨年にあったアークディア帝国とメイザルド王国の戦争の際にメイザルド王国側に援軍として向かっていたナチュア聖王国が所有していた物だ。
 援軍として向かっていたナチュア聖王国の粛聖騎士団の一員だった異界人フォーリナーの少年が使っていたが、俺が倒して戦利品として回収した物でもある。
 元々は【勇者ブレイヴァー】持ちなどしか使えないという制限があったのだが、実験と修練を兼ねて聖鎧を構成する術式を弄り、勇者に限らず誰でも扱えるようにしてみた。
 誰でも扱える聖なる武具が、世界的にどれほどの価値があるかを探るために出品したのだが、会場の反応を見る限りかなりの価値があるようだ。

 出品したのは改良した本物オリジナルの方だが、これは複製物を調べられて俺の力に結び付かれる可能性を憂慮したからだ。
 まぁ、そんなことを言ったらオリジナルもオリジナルで問題があるのだが、どうせどちらにも似たようなリスクがあるならば、複製物よりもオリジナルのほうが個人的にはリスクが低いと考えたからオリジナルの聖鎧を出品した。
 とはいえ、複製物は神域権能ディヴァイン級ユニークスキルの力によって生み出されているため、コピー品であるとバレる可能性はほぼ無いので、一番の理由は『中古品だから』なのだが。
 
 既に複製して予備も確保してある上に能力も剥奪しているため、オリジナルの方を放出しても痛手はない。
 能力も珍しくない身体強化系ーーただし出力は高いーーなので誰であっても使いやすいだろう。


「リオンさん、これは落札しないの?」

「興味はありますが、狙っているのがあるので、かなり高値になりそうなコレはやめておきます」


 そういえばオリヴィアはこの聖鎧を出品したのが俺だというのは知らなかったな。
 レティーツィア達がいるのでこの場で教えるわけにはいかないが、今夜寝る前にでもオリヴィアには教えてやるとしよう。

 最終的に聖鎧ヴェネレヴィッタには五十億オウロという叙事級としては破格の値段が付けられた。
 既に滅んだ国の国宝という付加価値がありはするが、大体の相場は分かったので今後似たような物を世に出す際には参考にできそうだ。
 それから数点ほど落札して大陸オークション前半の部が終了し、一時間の休憩に入った。
 今のうちに落札した商品の受け取りもできるが、面倒なので後で纏めてやることにする。
 一つぐらいは前半に伝説レジェンド級を持ってくるかと思ったが、どうやら後半で全て捌くつもりらしい。
 つまり、後半は前半の部を軽く超える額の金が動くことになるわけだ。
 【無限宝庫】内にある財貨の残りを算出しつつ、七本目になる最も高い酒瓶の蓋を開けるのだった。


 
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