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第九章

第二百二十二話 アモラとルーラ

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 ◆◇◆◇◆◇


「ーーおっ、来たみたいだな」


 遠くの空に流線形の艦体に白い外装を持つ飛空艇の姿が見えてきた。
 あの飛空艇は、新年の御披露目のために俺が完成させていた大型輸送艦〈フレースヴェルグ型〉であり、メルタ伯爵領の鉱山で採掘された鉱石をアルヴァアインへと輸送している最中だ。

 先日の帝都へ俺謹製のダンジョンを誘致した件の対価の一つとして、アルヴァアインに私営の飛行場を建設する許可を貰った。
 許可を貰ってすぐにアルヴァアインの北の外壁の外側に建設しており、管理・運営はドラウプニル商会に任せている。
 予算や飛空艇の数などの様々な問題があった所為で、今までアルヴァアインには飛行場が無かったからか、私営飛行場にほど近い北門の外に出てきてまで飛空艇を観覧しにきている住民達もいる。
 そんな彼らとは違い、この私営飛行場のオーナーである俺は飛行場内にある巨大倉庫の屋根の上からフレースヴェルグ型を眺めていた。


「ピッピィ!」

「ああ。当然だがアモラよりも大きいぞ」

「ピィー?」

「成体になったら? アモラ達は新種だから断言は出来ないが、元になった種族の成体のサイズを考えれば、あの飛空艇よりも大きくなれるかもな」

「ピッ!」

「まぁ、そうなったら今みたいに頭の上には乗れないけどな」

「ピピッ!?」


 そんなっ、みたいなリアクションを俺の頭の上でとっている雛鳥は、〈氷冠青霊鸞マグナアヴィス〉の卵に六大精霊達の魔力を注いだことにより変質した卵から数日前に孵ったばかりの新種である〈虹冠星霊鸞ステラアヴィス〉のアモラだ。
 アモラという名前は、金色の羽毛の鳥なのと、俺の魔力で孵化したことから〈強欲〉を連想し、そこからマモン→アモン→アモン・ラーと鳥関連の凄そうな名前で連想していった末に略して決めた名だ。
 ステラアヴィスの特徴なのか、卵の段階で大量に注がれた魔力の影響を受けるらしく、アモラには元々の〈星〉〈精霊〉〈霊鳥〉以外にも、〈強欲〉〈暴食〉〈愛欲〉などの属性があるようだった。
 これらの属性による影響の詳細は不明だが、光り物が好きだし、よく食べるし、媚び上手なのが一見するとそれっぽい。


「ピィ……」

「……精霊の性質があるんだから、成体になっても大精霊達みたいに省エネ形態になれるんじゃないか? そうすれば今みたいに乗れるさ」

「ピッ!!」


 落ち込んでいたアモラが元気を取り戻したのを確認してから屋根の上から下りて、地上にいるリーゼロッテ達の元へと向かう。
 仲間達と共に地上から飛空艇を眺めていたリーゼロッテの頭の上にも、羽毛の色以外はアモラとそっくりな銀色のステラアヴィスの雛鳥ルーラがいた。
 アモラとほぼ同じタイミングで卵から孵ったルーラには、〈氷〉〈刻〉〈傲慢〉の属性があるようだが、今のところそれらしい様子は見えない。


「ピッ!」

「ピピッ!」


 アモラに気付いたルーラが、リーゼロッテの頭の上から胸の谷間へと隠れるようにダイブした。
 ルーラを追っていったアモラもリーゼロッテの胸の谷間へと潜っていく。
 二羽の大きさは人間の握り拳よりも小さいため、潜り込まれると姿が完全に見えなくなるな。


「……なんか遊具みたいね」

「随分と贅沢な遊具だな」


 カレンの言う通り雛鳥子供用の遊具に見えなくもない。
 まぁ、アモラとルーラにとっては母鳥の身体の下に潜り込むような気持ちもありそうだが。
 魔力を注いだ量が特に多い俺とリーゼロッテのことは、孵化してすぐの状態でも分かっていたので、母鳥という例えはあながち間違いではないのかもしれないな。
 最初に谷間に飛び込んできて以降、リーゼロッテは胸元の開いた服を着るようにして可愛がっているあたり、リーゼロッテも似たような心境なのだろう。


「リオンには夜にでも遊ばせてあげますね」

「……そうだな」

「「ピッピッ! ピッピッ!」」


 谷間から顔を出してきた二羽が、遊ぼう遊ぼう、と言っているかのような声を上げてきた。
 アモラとルーラの純粋な瞳が俺には眩しい。
 これまでの経験上、絶対ただ遊ぶだけじゃ済まないんだよ、アモラ、ルーラ。


「ピッ」

「ピィ」


 リーゼロッテの谷間から出てきたアモラとルーラが俺の肩に止まると、次の遊び先を探す。
 だが、二羽のために胸元の開いた服を着ていたリーゼロッテ以外の面々は、胸元の開いた服を着ていない。
 リーゼロッテは称号〈氷刻の魔女〉やユニークスキル【星従傲慢の氷源女帝ニブルレギナ】の効果によって寒いのは平気だが、本日のアルヴァアインは冬用の上着が必要なぐらいには気温が低いため、彼女達は極力肌の露出を抑えた格好をしている。
 リーゼロッテの次に潜りやすそうな谷間を持つエリンも隙の無い格好をしており、アモラとルーラは彼女の方を見たまま悩んでいるようだった。


「「ピィ……ピッ!」」

「そうきたか」


 谷間を諦めた二羽は俺の肩から飛び立ち、近くにいたエリンの胸へと着地した。
 そこからマルギット、シルヴィア、セレナと胸のサイズが大きい順に飛び移っていった。
 爆強、爆弱、爆弱、巨強、といった具合に段々と着地の難易度が上がっていく。
 最後にカレンへと飛び移ろうとした二羽が、カレンの胸部を暫く凝視し……諦めるように顔を逸らした。


「ちょっと!?」

「どう見ても着地できないからな」

「もう絶壁じゃないわよ!」


 セレナの胸でギリギリだったから、カレンの胸はまだロッククライミングなレベルだから、二羽が着地するのは無理だろうよ……BかCってところかな。


「「ピッピッピッ!」」

「笑ったわねッ! 待ちなさい!」

「「ピィー!」」」


 笑うように鳴きながら飛び回るアモラとルーラを追いかけ回すカレン。
 二羽と一人の賑やかな様子を眺めていると、飛空艇が艦体の細部を目視できるぐらいの距離にまで近付いてきていた。
 無事にアルヴァアインまで辿り着けたし、俺の補助がなくても大丈夫そうだな。
 あとは着陸まで見届けたら移動するとしよう。


 ◆◇◆◇◆◇


「ーー可愛いわね」

「可愛いですね」

「「ピッピッ!」」


 飛空艇の初輸送を見届けた後、帝都の屋敷へと転移してから皇城の奥にある皇族の住まいである皇宮へと向かった。
 目的は俺の使い魔になったアモラをレティーツィア達に見せにいくためだ。
 リーゼロッテ達も一緒に来たことで、リーゼロッテの使い魔であるルーラも御披露目した。
 レティーツィアとユリアーネ、そして紅玉宮のメイド達に愛嬌を振り撒くアモラとルーラの姿に、彼女達は魅了されているようだった。


「なんだかキラキラした瞳で私を見つめている気がするわね」

「……初めて見る遊具で遊びたいんだろうな」

「遊具?」

「俺から説明するのもなんだから……エリン、説明してやってくれ」

「かしこまりました。実はアモラとルーラはーー」


 エリンからの説明を聞いているレティーツィアの格好は、アモラとルーラが期待しているような胸元の開いているタイプのドレスだ。
 リーゼロッテに匹敵するか迫るクラスの立派な胸部であるため、二羽としては気になるらしい。


「なるほどね。いいわよ、いらっしゃい」

「「ピィッ!」」

「ん、初めての経験だけど、なんだか変な感じね」

「「ピッピッピッ!」」


 レティーツィアの谷間から顔を出した二羽の御満悦な様子を見るに、どうやら居心地が良いらしい。
 二羽の頭を指先で撫でているレティーツィアも微笑を浮かべているので、取り敢えず放っておいても大丈夫だろう。
 少しすると、リーゼロッテから呼ばれてルーラだけは彼女の谷間へと戻っていったが、アモラはそのままレティーツィアの谷間から動かずに居着いていた。
 そのままの状態で談笑していると、会話の内容は来週の頭に向かう予定のエドラーン幻遊国へと移った。


「来週の終わりには大陸オークションだけど、資金調達は順調かしら?」

「おかげさまでな。アークディア帝国で一番の資本家である自負が生まれるほどには稼いだからな」

「まぁ、そうでしょうね。商会の稼ぎに、冒険者の稼ぎ、レンタルスキルのポイント購入費に、フォールクヴァングの使用料と、一つだけでも凄い額の収益を得ているのは想像に難くないわ」


 レティーツィアが今挙げたのは、あくまでも表の資金調達先だ。
 盗賊などの悪人狩りで得た戦利品や、持ち主不在の財産を回収した分なども合わせると総資産は更に膨れ上がる。
 全部で何億オウロだろうか……財貨だけでも後で計算しておかないとな。


「そういえば、リオンは出品もするんでしたよね?」

「ああ」

「あら、出品もするの?」

「それもあって週の初めには向こうに行くんだよ」

「私はてっきりカジノで遊ぶつもりなのかと思ったわ」

「勿論遊ぶとも。異界人フォーリナーが持ち込んだ知識を元に、SSランク冒険者である〈幻想の魔女〉が造ったカジノだからな。オークション前に更に資金を増やすには打ってつけだろう」


 これまでに集めたエドラーン幻遊国の情報から、このカジノは前世にもあったカジノとほぼ同じイメージで考えていいらしい。
 出品物の手続きを済ませた後はカジノで遊びながらオークション資金を増やすとしよう。


「同じ冠位称号持ちの魔女だから、リーゼはエドラーンの魔女とは知り合いじゃないのか?」

「一度だけ会ったことはありますよ。何やら冠位称号持ちの魔女達の集まりがあるそうで、その集会への参加のお誘いを受けた時に会って以来ですね」

「そうなのか。まぁ、大陸オークションで忙しいだろうし、接触はしてこないだろう」


 そういえば集めた情報の中にあったな。
 同時に十人までしか存在することができない冠位称号持ちの魔女達のことを〈冠位十大魔女ヴァルプルギス〉と呼称するらしく、そんな彼女達による集まりがあるとは聞いたことがある。
 特に目的があって集まっているわけではないが、SSランク冒険者が参加していることから知名度はそれなりにあるようだ。
 ふと気になったことがあったので、【意思伝達】でリーゼロッテに話しかけた。


『そのヴァルプルギスって、もしかして俺も含まれてる?』

『〈黄金の魔女〉ですから入ってるでしょうね』

『なんてこった』


 男の俺が貴重な十個の枠の一つを使っていることに申し訳ない気持ちになるが、そんなレアな称号を獲得したことへのコレクター染みた〈強欲〉な喜びも感じてしまう。
 次にリーゼロッテがヴァルプルギスの集まりに誘われることがあれば、俺も女性体で参加してみるのも面白いかもしれない。
 ヴァルプルギスの中には気になる者もいるし、偵察目的で参加するのもアリだろうな。

 それからもエドラーン幻遊国での予定などをレティーツィア達と話し合った。
 毎日転移で戻るのも旅行感が無いため、エドラーン幻遊国に滞在中の宿泊先である超高級ホテルは既に予約済だ。
 大陸オークションの会場とカジノがあるのはエドラーン幻遊国の首都であり、大陸で有数の賑やかな都市なのもあって宿泊費はかなりの額だったが、今の俺からすれば大した額ではない。
 ホテルの部屋を予約しに行った際に現時点での大陸オークションの出品リストも入手してある。
 その出品リストを皆で見て盛り上がったりしつつ、色々と忙しくなる前の平和な一日を彼女達と共に過ごすのだった。


[スキルを合成します]
[【懐柔】+【支配者の言葉】=【君主の言葉】]
[【氷皇王戯】+【氷嵐暴雪域】+【氷冠の霊鳥】+【氷嵐の支配者】=【氷鳳の君主】]



 
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