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第八章

第百八十七話 六大精霊との交流

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 ◆◇◆◇◆◇


 帝都支店から屋敷へと戻り、庭先の方へと移動すると、そこには仲間達と六大精霊の姿があった。
 六大精霊を手に入れて暫くして、大精霊達には暇な時にそれぞれのやり方で仲間達と交流してもらい、相性の良い属性の精霊との適性を高めさせている。
 精霊との適性の上がり方次第では、いずれかの等級の精霊と契約出来るかもしれない。
 そうなれば仲間達の強化へと繋がるだろう。
 まぁ、主な目的は顔合わせなんだけど。


『床の、地面の、それらよりも更に深い地の底から発せられる力を足の裏で感じるんだ。その大地の力を正しく認識し、体に取り込むことで、普段以上の力を発揮することができるんだ』

「な、なるほど?」


 視線の先では、地面に正座をしたシルヴィアが〈ノーム〉と俺が名付けた土の大精霊から指導を受けていた。
 シルヴィアの様子を見る限り、ノームが言っていることをちゃんと理解できているか怪しいが、アレは感覚的な話なので自力で頑張ってもらうしかない。
 ノームや他の大精霊達は、人の頭部より少し大きいぐらいのサイズまでダウンサイジングして魔力消費を抑えた形態ーー通称は省エネ形態ーーになっている。
 そのため、シルヴィアが岩を組み立てて作った人形と向かい合っているようにしか見えない光景は、事情を知らない者からしたらかなり奇抜に見えることだろう。

 噴水がある方に目を向けると、〈ウンディーネ〉と名付けた水の大精霊がリーゼロッテの目の前で水を操って何かを作っていた。
 ウンディーネは水を動かして、省エネ形態である今の自分にそっくりな水人形を作ると、一瞬で凍らせて氷像に変化させていた。
 氷と水の違い以外には、身体を水で構成しているウンディーネとの差は見当たらないほどの出来栄えだ。


『ほら。やってみて』

「……」

『あー、ダメよダメよ。ダメダメねー。ほらココ。ちょびっと後ろが短い! ワタシの髪型と違うじゃないの。氷像の表面もザラザラじゃない! 精密性が甘いわねー』

「……」


 ウンディーネからの容赦無いダメ出しに、リーゼロッテの目元がヒクついているのが見える。
 普通に注意するならまだしも、ウンディーネは実に愉しそうな声音でダメなところを指摘していた。
 近いうちに、リーゼロッテとウンディーネによる戦いが勃発しそうだな……。


『基本的に空気というのはどこにでもあるのよ? その空気を正確に感じ取れるということは、周囲の環境を認識することに繋がるの。それが出来るならば、大気の動きから生物の位置を知ることも、風の流れから物の形を知ることも容易いのよ? だから、先ずは自分の身体に触れる風の向きと強さを正しく認識出来なければ始まらないわ。さぁ、目を閉じて風を感じるのよ』

「「……」」


 庭に置いてあるベンチに並んで座っているマルギットとセレナが、〈シルフ〉と呼んでいる省エネ形態の風の大精霊に言われた通りに目を閉じて、風を感じ取ろうとしている。
 これまで当たり前のようにあったモノを、意識的かつ正確に認識しようとするのは地味に難しいらしい……俺は普通に出来たけど。
 まぁ、風の大精霊が直々に教えているから近いうちに進展があるかもしれない。

 〈ルキス〉という名を付けた光の大精霊は、エリンとカレンの二人に何やら講義を行なっていた。
 

『二人とも方向性は違うけど、光との親和性が高いね』

「そうなの?」

『うん。カレンは魔法属性という意味で単純に光との相性が良くて、エリンはなんて言えばいいのかなぁ。血筋的に光の性質があるのはカレンと一緒なんだけど、魔法……いや、武力と言うべきかも。戦いを経るごとに存在自体が輝いていく感じがあるねぇ』

「レベルアップとは違うのでしょうか?」

『違うよー。確かに、世界における自分という存在の格を上げるのはレベルアップと同じではあるんだけど、存在の質や希少性が高まっていっている感じなんだよぉ』

「よく分かりません……」

『まぁ、ご主人様から受けている寵愛も原因の一つみたいだから、これまでと同じように過ごしていればいずれ分かると思うよー』

「それなら分かります」

「その理屈だとリーゼさんとかも同じ状態なんじゃないの?」

『エリンに流れる血との相乗効果のようだから、同じではないかなー』

「そうなんだー。ハッ、ということは私もご主人様とセッ……寵愛を受けたらエリンお姉様と同じようなことに?」

『んー、たぶんだけど、同じようにはならないかなぁ』

「なんでよ!」


 ルキスが言っているのは、エリンのほうにだけ流れている勇者の血のことだろう。
 正確には〈勇者の因子〉と言うべきか。
 俺が【大勇者アーク・ブレイヴァー】を持っているからか、エリンが持っている【勇者の血筋ブレイヴァー・リネージ】が活性化していることには気付いていた。
 カレンが言うところの寵愛を行う度に活性化しているようで、俺の中に流れる因子を取り込んでいるのかもしれない。
 もしくは、この世界の〈勇者〉と〈聖者〉の関係性を考えれば、俺が【聖者セイント】を持っているのが原因である可能性もある。
 その可能性に気付いてからジョブスキルの【聖者】に意識を向けたところ、エリンと密着している時にだけ熟練度レベルに動きがあった。
 極小の動きではあるが、影響があったことに変わりはない。
 原因が【大勇者】にせよ【聖者】にせよ、深く密着しない限りは影響は無いようなのでそこまで気にする必要は無いだろう。
 エリンに【勇者ブレイヴァー】が発現するかどうかは分からないが、その時は【勇者】発現を祝ってエリン専用の聖剣でも作ってやるか……もしや、俺がエリンに聖剣モドキの剣を与えたことも原因だったりしないよな?


「……あるいは、それら全てが原因か?」

『どうしたよ、ご主人?』

『大丈夫、マスター?』


 気付かぬうちにやらかした気がして軽くショックを受けていると、火の大精霊である〈サラマンダー〉と闇の大精霊である〈テネブレ〉がやってきた。
 複数の属性と相性が良い者もいるのだが、同時に複数の大精霊とは交流出来ないため、この二体は今はフリーのようだ。


「ん、サラマンダーとテネブレか。ちょっと、自分の影響力について悩んでいてな」

『ご主人の影響力か……省エネ形態とはいえ、大精霊であるオイラ達六体をこっちにずっと顕現させ続けることが出来ている時点で今更じゃないか』

『うんうん』

「まぁ、それはそうなんだけどな……」


 六大精霊の先代契約者であるエスプリが死んですぐに、捕らえておいた六大精霊との契約を試みた。
 先代契約者を殺したから時間が掛かりそうだと思っていたら、意外にもあっさりと契約を結べてしまった。
 契約できた理由は幾つかあるのだが、基本的に省エネ形態でいることなどの条件付きではあるが、こちらの世界にずっと顕現させてやることを契約の対価にしたことが大きい気がする。
 エスプリを殺したことに関しては、必要な時にだけ召喚されて力を貸すというビジネスライクな関係であったことと、殺されるに至る原因を作ったエスプリの自業自得だから気にしていないそうだ。
 エスプリの魔力よりも質が良くて保有量も多く、自分達の六つの属性の全てにおいて非常に高い適性を持っていたのもポイントが高いらしい。
 六大精霊と契約した証である称号もエスプリの〈六大精霊の契約者〉とは異なり、〈六大精霊のあるじ〉という称号になっており、これは適性と自分達への支配力の高さを証明しているんだとか。
 そんなことを六大精霊達から説明されて一番最初に思ったのは、お前らそんなに喋れたんかい! というノリツッコミ的な感想だったりする。
 戦闘中は全く喋らなかったし、本当にエスプリとはビジネスライクな付き合いだったのだと再確認できてしまい、なんか泣けてきたのと、何とかの大精霊と呼ぶのも面倒臭いので、六大精霊それぞれに名前を付けてやった次第だ。

 身体の各部には精霊との契約を示す〈精霊紋〉が刻まれているのだが、俺の精霊紋はエスプリの精霊紋よりも範囲が広い。
 これも〈契約者〉と〈主〉の違いであり、同時にそれだけ扱える力も大きくなっている。
 エスプリや大精霊よりも下位の精霊と契約した者が持つ精霊紋は拳大のサイズなのだが、俺の精霊紋は腕一つ分とかの規模であるため、呼称も精霊紋ではなく〈大精霊紋〉と呼ぶんだそうだ。

 火の大精霊サラマンダーの大精霊紋は右腕に。
 水の大精霊ウンディーネの大精霊紋は右足に。
 風の大精霊シルフの大精霊紋は左腕に。
 土の大精霊ノームの大精霊紋は左足に。
 光の大精霊ルキスの大精霊紋は背中の右半分に。
 闇の大精霊テネブレの大精霊紋は背中の左半分にそれぞれ刻まれている。
 活性化させない限りは目に見えないため、パッと見では大精霊紋の存在は分からない。
 個人的には、常に全身タトゥー男にならずに済んだのでとても助かる仕組みだ。


『うおっ! あの二人、また始まったぜ』

『属性相性は悪くないのに……』

『性格の相性は悪そうだぞ?』

『……同族嫌悪?』

『いや、単に反りが合わないだけだろ』


 強い冷気が吹き荒れている方に顔を向けると、省エネ形態から通常体である戦闘形態に戻ったウンディーネと、白い長杖アルビオンを取り出して構えるリーゼロッテの姿があった。
 互いに膨大な冷気を放出しているため、ただでさえ季節的に寒かった庭先が極寒の地へと変貌していく。


「リーゼなら水の大精霊ウンディーネと契約できる可能性があるくらいには適性があるのにな……サラマンダー、テネブレ」

『りょーかい』

『止める』


 一瞬で戦闘形態になったサラマンダーとテネブレが、それぞれの属性権能を行使する。
 サラマンダーが周囲の熱を操作して冷気の侵食の阻害と解凍を行い、テネブレは弱体化と拘束効果を持つ闇の鎖でウンディーネとリーゼロッテの動きを強制的に止めた。


「むっ」

『あ、ちょっと! テネブレ!』

『黙る』


 ウンディーネはジタバタと暴れる一方で、リーゼロッテは俺が呆れて見ているのに気付き、視線が合わないように顔を逸らしている。
 一人と一体のタイプの違う往生際の悪さに呆れつつ、ウンディーネに割り振っている顕現用の魔力を絞って強制的に省エネ形態に移行させた。


『ち、ちがうのよマスター! ちょっと訓練がヒートアップしただけなの! 成果は出ているのよ!』

「そうですよ、リオン。水の精霊への適性が上がった気がします」

「そりゃそうだろうな」


 互いに本気で相手に魔力をぶつけてたんだし、多少なりとも影響は受けるだろうよ。
 ま、これも属性的な相性が良すぎるからこそ起こる現象なんだけど。


「コホン。ところで、ロンダルヴィアの飛空艇と商会はどうでしたか?」


 必死に弁解するウンディーネに張り付かれていると、リーゼロッテが醜態を誤魔化すように尋ねてきた。
 省エネ形態になったサラマンダーとテネブレによって、俺から引き剥がされたウンディーネが離れたところへと連行されていく様子を横目に、それぞれの場所での報告を行う。


「ロンダルヴィアの最新型もリオンの物ほどではありませんでしたか。ま、予想通りですね。アリスティアから貰った就任祝いの霊薬は使える物でしたか?」

「ああ。二つとも役に立ちそうな品だよ」

「どのような効果を持っているのですか?」

「えっとだな、効果はーーどうした?」


 足早に近づいてくる気配に気付き振り返ると、帝都の屋敷の管理を任せているノクス族の初老の執事長アインがやって来ていた。


「旦那様、ご歓談中に失礼致します。先ほど皇城のほうからコチラのお手紙が届けられました」

「ふむ……押されている印章からして、皇帝陛下からの私信か」


 アインから受け取った手紙を開けて中身を読むと、魔塔主に選ばれたことを祝う言葉と内密に話したいことがあるということだけが書かれていた。
 日時が書いてないから、都合の良い時間を使いの者に直接言えということだろうか?


「コレを持ってきた者は返事待ちか?」

「左様でございます。皇帝陛下の侍従長が応接室にてお待ちになられています」

「侍従長が? それだけ重要な話ということか」

「すぐに向かうのですか?」


 俺が読み終わった手紙を読んだリーゼロッテが今から行くのかと尋ねてきたので、少し考えてから口を開く。


「皇帝陛下の都合次第かな。時間があるなら今から行ってくるよ。無いなら明日以降だな」

「分かりました。侍従長に会うなら今の格好でも構いませんが、皇城に向かう時はもっと良い服に着替えてくださいね」

「分かってるよ」

「私が選びますので」

「だろうな。じゃあ伝えてくる」


 案内するアインの後に続いて侍従長が待つ応接室へと向かう。
 まぁ、日時も書かずに出しているから、たぶん今からでもいいんだろうな。
 何を話すつもりかは大体予想はつくが、詳細までは分からないので気を引き締めて向かうとしよう。



 
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