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第七章

第百六十九話 それぞれの関係性

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 ◆◇◆◇◆◇


「ーーミリアリア支配人から三日後でも大丈夫だと聞いていたから三日後にしたけど、まさかその日の内に往復できるほどの速さだとは思わなかったわ」


 帝都エルデアスに到着後。
 一度自分の屋敷に寄ってから、リーゼロッテだけを連れて皇城に向かうと、皇族のプライベート空間である皇宮内にあるレティーツィアに与えられた屋敷〈紅玉宮〉へと案内された。
 そこで待っていた皇妹レティーツィアから、挨拶もそこそこに移動時間の早さを突っ込まれていた。


「空中を移動してきたからな。地上を進むよりは早く着くさ」

「それを踏まえても早いと思うのだけど?」

「そうかもしれないな。あぁ、そうそう。アルヴァアインのお土産があるんだ。レティとユーリそれぞれの分と、紅玉宮の人達の分だな」


 レティーツィアと彼女の専属侍女であり冒険者仲間のユリアーネの分の金色の宝箱を一つずつ、そして紅玉宮で働くメイド達の分の銀色の宝箱を一つ【無限宝庫】から取り出した。
 テーブルの上では狭いので、高そうな絨毯が敷かれた床に取り出したのだが、一瞬で出現した三つの宝箱にレティーツィア達が驚きの表情を浮かべていた。


「そういえばレティ達の前でコレを見せるのは初めてか」

「……収納系魔導具マジックアイテムの能力じゃないわよね?」

「ああ。アイテムじゃなくて俺のスキルだよ。【異空間収納庫アイテムボックス】とは別のな」

「こんなスキルも持っていたのね。【異空間収納庫】の上位互換かしら?」

「そんなところだ。今の俺なら明かしても大丈夫だと思って最近は人前でも使っているよ」

「まぁ、リオンはでは以前から使ってくれていましたけどね」


 リーゼロッテのレティーツィアに対するマウント発言に、レティーツィアは目を細めて俺の横に座るリーゼロッテを一瞬だけジロリと睨むと、視線を俺へと戻す。


「そうだったのね。上位互換の収納スキルなら人前で使うのを警戒をするのは当然のことだから気にしてないわ」


 こういった女性の発言は額面通りに受け止めてはならないので、つまりは気にしてるということか。


「レティ達の前でももっと早く使えたらよかったんだがな……」

「お互いの身分を考えると仕方ないわよ。私はそんなを気にするほど狭量な女じゃないわ」


 レティーツィアの発言にリーゼロッテの柳眉が一瞬だけピクリと動いた。
 二人のマウントの取り合いを見るのも久しぶりだが、放っておいたらいつまでもやりかねないので話を逸らそう。


「それは良かった。知っているかもしれないが、この宝箱は神造迷宮のダンジョンエリアで出現する収納能力付きの宝箱だ。中身の全てがダンジョン産の物ではないけど、宝箱も含めてお土産として受け取ってくれ」

「ありがとう。受け取らせて貰うわね」


 レティーツィアの後に続いて、ユリアーネとメイド達からも感謝の言葉を告げられた。
 それから宝箱を開けて中身の確認と感想や説明などを行いつつ暫し雑談に興じる。
 その頃には、リーゼロッテとレティーツィアの二人も普通に会話をするようになっていたので、そっと胸を撫で下ろした。
 まぁ、その平穏も少しの間だけだったのだが。


「というわけでね、リオンには年末のパーティーの際には私と一緒に入場してほしいのよ」


 談話室の温度が一気に下がったのを感じた。
 俺は保有する各種スキルによって周りの温度変化による影響が限りなく小さいが、一部を除いて室内にいる者達が寒そうに震えている。
 いや、震えているのは別の理由もあるんだろうけど。


「……どうやらレティは氷像になりたいようですね」

「落ち着きなさいよ、リーゼ。これは必要なことなのよ。貴女も理解しているでしょう?」

「それはそれです」


 年末に皇城で催されるパーティーには多くの人々が集まる。
 そんな公の場で皇族であるレティーツィアと共に入場すれば、国内外に俺とアークディア皇家の繋がりを示すことができるだろうな。


「先日の祝勝パーティーで十分だと思いますが?」

「あの時はダンスの相手を務めただけだから不十分よ。だから、今度こそリオンにエスコートを頼みたいの」

「リオンのパートナーは私です」


 なんだろう。凄くデジャヴなんだが……。


「それなら三人で入場しましょう。これならいいでしょう?」

「良くありません」

「主催者の一人である私が傍にいれば、少なくとも有象無象が群がってくるのは防げるはずよ? 私が言ってることは間違ってるかしら?」

「……」


 確かに、国のトップの一族の不興を買ってまでは群がっては来ないだろうな。
 絶世の美女が二人で両サイドを占めていれば、自然と気後れしてしまうのは間違いない。


「……そもそもパーティーに出席しなければいいのでは?」

「あら。リオンは商会と自分の名を広めたいと思っていたのだけれど、リーゼは国内外から多くの人が集まる貴重な場を重要視していないのね……そんなことで大丈夫なのかしら?」

「……」


 イラっとしつつも貴重な場であることは否定出来なかったらしく、無言で放出していた冷気と魔力を引っ込めた。
 ふと思い出したが、この両手に花状態での入場の案は、祝勝パーティー前にユリアーネが出した案だったな。
 視線をレティーツィアの背後にいるユリアーネに向けると、一度目が合った後に視線を横に逸らされた。


「いいでしょう。レティの皇女という身分が有用だというのは認めましょう。仕方がないので私達と共に入場するのを許可しましょう」


 凄く偉そうだ。流石は【傲慢ザ・プライド】の持ち主と言うべきか。


「あらあら、それは有り難いわね。仕方がないからリオンのついでにリーゼのことも守ってあげるわ」


 ホントこの二人は似た者同士だな……というか。


「俺の意見は?」

「嫌なのですか?」

「嫌なの?」

「そんなことは無いけど」

「なら構いませんね」

「だったら大丈夫ね」

「……そうだな」


 ユリアーネとメイド達が同情するような目で見てくるのをスルーして、解凍された紅茶を一気に飲み干して渇いた喉を潤した。
 横に移動してきた原案者ユリアーネが俺の分の紅茶のおかわりを用意する間にも、リーゼロッテとレティーツィアは入場の際にどっちが俺の右側か左側かで口論を始めていた。
 

「二人とも飽きないな」

「似た者同士ですからね。仕方ありません」

「本気で嫌い合ってるわけでは無いのが幸いだな」

「そうですね」


 俺以外から見ても二人の印象は変わらないらしい。
 それから暫くして二人が落ち着いたタイミングで話題を軌道修正し、年末のパーティーの流れなどの仔細を教えてもらう。
 話が終わった頃にはちょうどいい時間だったので、レティーツィアにお暇をもらってから紅玉宮を後にした。


 ◆◇◆◇◆◇


 完全に日が暮れる前に帝都の屋敷に戻ると、エントランスに人が集まっていた。


「あ、リオンさんもちょうど戻ってきたわね。おかえりなさい。お邪魔しているわ」

「ただいま、オリヴィアさん」


 どうやら、ちょうど仕事上がりのオリヴィアが屋敷に来たばかりのタイミングだったらしく、出迎えるために娘のシルヴィアを先頭に他の仲間達も皆エントランスに出てきていた。
 うん。今日もオリヴィアは綺麗で大きいな。


「……オリヴィア。私に対する出迎えの言葉がありませんよ」

「まずは家主であるリオンさんを出迎えなきゃ駄目でしょう? というわけで、リーゼもおかえりなさい」

「ついでのような扱いですが、まぁ私もオリヴィアを足代わりに使いますので大目に見ましょう」

「本人を前にして臆せず言うわね……」


 先ほどのレティーツィアの時とは異なる気心の知れた遣り取りに、二人の付き合いの長さを感じる。


「外も暗くなってるから、リオンさんさえ良ければさっそく転移でアルヴァアインに向かうわよ?」

「そうですね。ちょうど全員集まっていますし、このまま向かいますか」


 帝都の屋敷を管理している使用人達に二つ三つ連絡事項を告げると、そのまま屋敷のエントランスからアルヴァアインの外壁の外へとオリヴィアの転移魔法で移動した。


「ふう。やっぱり長距離転移は魔力消費が激しいわね」

「お疲れ様です。リーゼから聞きましたが、明日から五日は休みだとか?」

「ええ、そうよ。ここ数年は纏まった休みを取っていなかったから、今年が終わる前に思い切って休みを貰ったの」

「なるほど。そういうことなら、お休みの間は屋敷に泊まっていきますか? リーゼとシルヴィアもいますし、普段とは違う環境で羽を伸ばすのも良いものですよ」


 仲間内に友人リーゼロッテシルヴィアもいるし、以前に屋敷の別邸を貸してもらったことがあるので、恩を返すいい機会だ。


「あら、リーゼから話が通ってない? 休みの間はリオンさんのアルヴァアインの屋敷に泊まるよう誘われたんだけど……?」

「……せっかくリオンを驚かせようと思ったのにバレてしまうとは。残念です」


 犯人の自白を呆れながら聞きつつ、家主として休みの間オリヴィアが屋敷に泊まることを正式に許可した。
 アルヴァアインの外壁門が閉まる前に門を潜ると、門前の駐車場に事前に呼んでおいた屋敷付きの馬車に全員で乗り込んだ。
 勿論この馬車は、俺が作った内部空間拡張式魔導馬車〈スパティウム〉なので車内は広くなっているため、八人が乗車してもまだ空間に余裕がある。


「外観からは想像出来ない広さね。これだけ空間系術式の扱いに長けていたら、【空間魔法】スキルを持っていそうだけど?」


 屋敷へと移動する最中、リーゼロッテとは反対側に座るオリヴィアから、此方の様子を窺うように小声で尋ねられた。


「どっちだと思います?」

「リオンさんなら持っていると思うわ。たぶん、更に上のランクの【次元魔法】スキルをね」

「どうしてそう思ったんです?」

「んー、女の勘かしら」


 女の勘ってコワイなー。


「守秘義務の契約書に同意してくれるなら答えを教えますよ」

「それはもう答えを言っていませんか?」


 右横に座るリーゼロッテからのツッコミを聞き流して、オリヴィアとの会話を続ける。


「教えるのは魔法スキルの有無だけかしら?」

「他にもオリヴィアさんが知りたいことがあったら、出来る限りは話しますよ」


 オリヴィアはアークディア帝国の重職に就く身だが、皇族であるレティーツィアに教えるよりかは俺のことを教えるリスクは低い。
 レティーツィアにも魔導契約書ギアス・スクロールを使えば大丈夫そうだが、彼女は国のトップである皇帝の実妹なので、万が一にも守秘義務の契約を結んだことがバレた時に面倒なことになる可能性がある。
 場合によっては兄と国と、俺を天秤にかけさせるような事になりかねないから、流石にそれはちょっとな……。
 ロンダルヴィア帝国のアナスタシアが置かれているような状況だったら、気にすることはないんだが。


「……娘達は知っているようね?」
 

 娘達というのは実の娘であるシルヴィアと、シルヴィアの親友であるマルギットのことを言っているのだろう。
 その問い掛けに頷きを返すと、オリヴィアは視線をリーゼロッテのほうに向けて、目で会話を行ってから顔を俺へと向けた。


「リオンさん。屋敷に着いたら私も守秘義務の契約を結ぶわ。その後にリオンさんのことを教えてね」

「……分かりました。きっと驚きますよ」

「それは楽しみね」


 リーゼロッテとどんな会話があったかは知らないが、オリヴィアも守秘義務の契約を結ぶことに決めたようだ。
 そういうことなら、契約込みで明かせる範囲の能力を使って休暇の間はオリヴィアをもてなすとしよう。
 【亜空の君主】と【発掘自在】を使えば、【領域の君主】と【発掘自在】の組み合わせでは出来なかった、俺以外の人も連れて直接ダンジョンエリアへ移動することが可能だ。
 オリヴィアには魔物相手に攻撃魔法を遠慮なくぶっ放してもらい、ストレスを発散してもらうというのも良さそうだな。



 
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