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第六章
第百四十一話 初回探索の成果
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『リオンくん、今大丈夫?』
「大丈夫ですよ。何かありましたか?」
第二十四エリアの領域主を倒して一息ついたタイミングで、先輩からの念話が届いた。
セレナが使う『念話』は【術理魔法】スキルによる魔法なので、【空間魔法】スキルの『念話』よりも有効距離が短いが、同じエリア帯にいれば届くことは確認済みだ。
『そろそろ夕食ができるから連絡したの』
「あ、もうそんな時間だったんですね。すぐに戻ります」
エリアボスの死骸を始めとした各種戦利品を【無限宝庫】へと収納すると、第二十四エリア帯の小エリアの一つに築いたヴァルハラクランの拠点内へ【領域の君主】の転移能力を使って帰還した。
【領域の君主】は【輝かしき天上の宮殿】の内包スキルだ。
自らの領域内での能力値補正効果以外にも、外部から自らの領域への転移や、領域内の転移、領域間の転移をノーコストかつ一瞬で行使できる能力がある。
通常の転移系スキルや魔法では不可能だが、自らの領域への転移という条件付きのユニークスキル内の能力であるためか、転移先の座標指定が阻害される神造迷宮内であっても限定的に転移が可能だ。
神域権能級のユニークスキルである【強欲神皇】の【発掘自在】と併用すれば、神造迷宮の内外への転移すら可能であることも判明している。
唯一の欠点は、この能力で転移できるのは行使者である自分だけという点ぐらいか。
仲間達と共に転移が出来れば移動が楽になったのだが、そう上手くはいかないらしい。
ちなみに、【忠義】の【主従兼能】で俺からスキルをレンタルできるリーゼロッテもヴァルハラクランの拠点への転移が可能だが、【発掘自在】はランク制限のせいでレンタル出来ないため、神造迷宮内外への転移に関しては不可能だ。
そんな【領域の君主】を使って転移した先ではセレナが待っていた。
「おかえりなさい」
「ただいま、先輩」
転移帰還用の部屋で出迎えてくれたセレナに帰還の挨拶を返すと、一緒に拠点内の食堂へと移動する。
「食前の運動に他のエリアのボスを調査してくるって言ってたけど、いくつ見てきたの?」
「渓谷、地底湖、草原の順で見て回って、最後に森林のボスも見てきたので四つですね。どのエリアのボスも今の先輩達では勝てないぐらいには強かったですよ」
「……ん? もしかして戦ってきたの?」
「ええ、倒してきましたよ。エリアボスを倒したら宝箱が出現したので、夕食後に皆で中身を確認しましょうか」
「本当にリオンくんの強さは突き抜けてるわねぇ……他のSランクの人達もそうなのかな?」
「自分で言うことじゃないですが、俺を基準に考えない方がいいですよ」
今回の神造迷宮探索は、初回ということで探索予定期間は三日と短い。
初日と二日目は第二十四エリアの魔物達と戦ったり、森林エリア内にある各種資源を採集したりして過ごした。
帰還日である明日の午前中は他の資源採集に専念し、午後からは地上へ帰還するために第二十四エリア帯を発つ予定なので、その前に神造迷宮のエリアボスの強さを確認しに行ってきたのだ。
元々は偵察だけのつもりだったのだが、直接戦ってみた方がどのくらい強いかを正確に把握できる。
だから、これは仕方のないことだったのだ。
倒してきたエリアボスは全部で四体。
第二十七エリア〈渓谷〉のエリアボスは、下手な下級竜すら上回るほどの戦闘力を持つ緋色の飛竜系魔物〈燦焔緋殻飛竜〉。
第二十八エリア〈地底湖〉のエリアボスは、群れを率いる能力と個人の武力の両方に秀でた筋骨隆々な人型の悪魔系魔物〈紫晶戦角の悪魔〉。
第三十エリア〈草原〉のエリアボスは、非常に高い素早さと隠密性から繰り出される奇襲攻撃と鋭い爪牙が厄介な、灰色の体毛の巨大な狼系魔物〈殺刃走葬の魔狼王〉。
第二十四エリア〈森林〉のエリアボスは、様々な魔物の特徴を組み合わせたような姿形をした人型の魔蜂系魔物〈混蟲森艶女王蜂〉。
この四体はエリアボスというボス級魔物であるため、どの個体のレベルも七十を超えていた。
ダンジョンからの強化を受けていることと、それぞれのボスに有利な地形での戦闘ということを考えれば、Sランクの魔物と評していいだろう。
[スキル【燦爛緋焔】を獲得しました]
[スキル【緋飛竜爪】を獲得しました]
[スキル【悪魔顕現】を獲得しました]
[スキル【悪魔的な采配】を獲得しました]
[スキル【地の覇導】を獲得しました]
[スキル【狼王健脚】を獲得しました]
[スキル【殺刃爪牙】を獲得しました]
[スキル【孤高の王者】を獲得しました]
[スキル【魔蟲顕現】を獲得しました]
[スキル【捕食改造】を獲得しました]
[スキル【森艶王香】を獲得しました]
四体のエリアボスから獲得できた新規スキルは全部で十一個。
一部のエリアボスが率いていた配下の魔物達からは新規スキルこそ獲得出来なかったが、既存スキルが強化されたのと、それらの死骸から採れる素材や人型魔物である悪魔達から顕在化したアイテムなどの戦利品があるので不満はない。
また、エリアボスを倒した際に出現したボス宝箱以外にも、エリアボスがいる場所までの道中で、ダンジョン内にランダム設置される通常の宝箱を七つも見つけることが出来た。
ダンジョン入り口がある第一エリアから第二十四エリア帯までの道中では、一度も宝箱を見掛けることは無かったが、挑む者が全くいないこの第二十四エリア帯では宝箱を回収する者は俺達しかいないので、これまでに結構な数を発見している。
【情報蒐集地図】のマップで検索すれば全ての宝箱の位置が分かるのだが、宝探しの気分を味わうために検索はしていない。
まぁ、それ以外の探知能力などの使用は制限していないから、この広大なエリア帯で宝箱を発見することが出来ているのだが、それはそれ、これはこれ、というやつだ。
それから夕食を摂った後に、皆とエリアボスからの戦利品の山を鑑賞してからダンジョン探索二日目を終えた。
就寝前に、初回ダンジョン探索最後の夜の締め括りとして、大量のスキルを合成した結果、久しぶりに新しい加護を獲得した。
正直言って今更感がある加護だが、デメリットがあるわけでも無いので良しとしよう。
[スキルを合成します]
[【強靭なる狂竜の顎】+【殺刃爪牙】+【燦爛緋焔】+【緋飛竜爪】=【燦爛たる緋焔竜爪牙】]
[【能力転換】+【人体改造】=【自己改造】]
[【呼氣豊命】+【魔力吸収】+【捕食改造】=【魔氣収斂】]
[【天の覇導】+【地の覇導】=【星の覇導】]
[【天の言葉】+【天の重圧】+【上位命令】+【同調圧力】+【以心伝心】=【支配者の言葉】]
[【超越身体強化】+【縮地】+【狼王健脚】+【剣神斬禍】+【戦闘狂】+【斬殺空間】+【戦意高揚】+【刈り取る者】=【剣神武闘】]
[【魔導神威】+【魔法蓄積】+【魔法共導】+【奇紋遁甲】+【紋章術】=【始源の魔賢神紋】]
[【軍神覇道】+【先手必勝】+【予見】+【悪魔的な采配】+【戦の旗手】=【軍神戦戯】]
[◼️◼️◼️◼️より恩寵が与えられます]
[称号〈剣神の加護〉を獲得しました]
[加護の効果により、以後、一部スキルの取得経験値が増大されます]
[加護の効果により、一部スキルの必要経験値が変更されました]
[保有スキルの熟練度が調整されます]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[ジョブスキル【剣豪】がジョブスキル【高位剣豪】にランクアップしました]
[ジョブスキル【高位剣豪】がジョブスキル【大剣豪】にランクアップしました]
◆◇◆◇◆◇
Sランク冒険者が三人も所属しているヴァルハラクラン。
その初回となる巨塔ダンジョン探索の成果は、神迷宮都市アルヴァアインの冒険者達は勿論のこと、行政府や冒険者ギルドのお偉いさん方も注目していることは想像に難くない。
俺が一人で狩ってきたエリアボス四体の死骸だけでも、探索三日間の成果としては十分過ぎるのだが、それはあくまでも俺個人の成果でしかない。
皆で協力して倒したと報告するのも一つの手だが、それを行う利点が無いので、エリアボス討伐は俺個人の戦果として別に報告するつもりだ。
よって、ヴァルハラクランの成果には、無難なダンジョン資源の採集を選ぶことにした。
その採集物も冒険者ギルドとアークディア帝国からの評価が向上するような重要資源だ。
「こ、これは、素晴らしい質の魔晶石と魔力結晶ですね……!! しかも、たった三日で集めたとは思えないほどの量ですっ!」
「我々全員が、大気中の魔力の濃い危険エリアでも自衛出来る実力がありますから。それでも危険な中での作業だったことには間違いないので、そのあたりのことを踏まえた上で査定をしていただければ、今後のクランの活動の参考にさせていただきますよ」
「魔力資源担当である私にお任せくださいぃぃ!!」
終始テンションが高い様子の、魔力資源の買取り責任者である冒険者ギルドの職員が、魔晶石と魔力結晶の山が入った木箱の数々を部下に指示を出してギルドの裏手へと運ばせている。
魔力資源とは、魔力結晶やその上位互換である魔晶石のような大気中の魔力が結晶化した鉱物資源のことだ。
魔力結晶が魔石に、魔晶石が魔核へと加工され、各業界において使用される様々な魔導具のエネルギー源となっている。
魔石は日常生活で使用される魔導具に、魔核は先日の戦争時などにおいて使用された魔力炉などの防衛設備などの動力源に使われているため、超重要戦略物資と言っても過言では無いだろう。
下位の魔力結晶こそ一部の魔法金属系の鉱山内で採取されることもあるものの、上位の魔晶石に至っては神造迷宮や一部の幻造迷宮からしか採取することが出来ない。
そのダンジョンの中でも大気中の魔力ーー魔素とも言うーーが濃い場所でのみ生成されており、そういった場所はランクの高い魔物の生息領域内であることが殆どだ。
今回俺達が各種魔力資源を採集した第二十四エリア帯は、中心地である第二十四エリアこそ草緑の木々に溢れているが、そこと繋がる通路や隣接する小エリアは岩肌の洞窟的な環境、つまりは広義では鉱物資源に分類される魔力資源が生成されやすい環境になっていた。
人の出入りが全くないこともあって大量に生えてそうだと思って探してみると、結果は予想通り。
第二十四エリア帯の小エリアの殆どで魔力資源が採れる上に、一部の小エリアに至っては空間全域に魔力結晶や魔晶石が生成されていた。
どれだけ手付かずだったのやらと思いつつ、皆でせっせと回収していった。
まぁ、俺の【発掘自在】によって掘り起こされた魔力資源を用意しておいた木箱に納めていくだけだから、非常に楽だったことだろう。
そんなことを思い返しつつ、魔力資源の査定が終わるまでの間に魔物素材の買取りカウンターへと移動し、俺が倒した第二十四エリアのボス級魔物と同エリアの数種類の準ボス級魔物達の死骸を丸々査定に出してみた。
「「「……」」」
査定する素材を置くスペースの殆どを占める魔物の死骸の山に、素材買取り担当のギルド職員達と偶々買取りカウンターに来ていた他の冒険者達は、開いた口が塞がらない様子だった。
「これらの査定はどのくらいかかりますか?」
「えっ、あー、っと、そーですね……パッと見た限りではどの死骸も比較的綺麗な状態なので、日が暮れるまでには大まかな金額は出せるかと思われます。中にはオークションに出した方が高く売れる魔物も見受けられますが、そちらはどうなされますか?」
「普通に売る場合の金額を知っておきたいので、見積もりだけ出してください。他の素材と同様に査定額を見てからギルドに売るかどうかを決めます」
「かしこまりました。解体につきましては、如何致しましょう?」
「そうですね……今回は初回ですし、解体の専門家がいるギルドにお任せしますよ。よろしくお願いしますね」
「ありがとうございます! お任せください!」
魔物の解体料もギルドの大事な収入源の一つだからか、魔物素材買取り責任者からお礼を言われた。
第二十四エリアのボス級魔物達だけでこの反応なら、他のエリアボス三体も出していたらどうなっていたのやら……。
ボス飛竜は素材全てを使うから出さずに持っておくとして、ボス悪魔とボス狼は査定して貰おうかな。
追加分の二体は明日にでも回して貰えば大丈夫だろう。
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