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第四章
第九十二話 彼女の身分
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マップと【千里眼】でリーゼロッテ達の様子を確認した後、近場の人気の無い家屋の屋根の上へと降り立った。
「三ヶ月……いえ、四ヶ月ぶりくらいかしら?」
「大体それくらいですね。改めまして、お久しぶりです、アルヴァール様。お元気そうで何よりです」
「ええ、リオンも元気そうね。方々での活躍は帝都にいた私の耳にも届いてたわよ」
「なにせ行く先々で遭遇するものでして……」
「そういう星の下に生まれたのかもね。リュベータの森でタイミングよく私と出会ったのだってそうだし」
「どれくらいの頻度で来てたのですか?」
「二ヶ月に一度ぐらいね」
「それは、事前情報無しで会うのは難しいですね」
それなのに狙ったかのように出会ったのは、ある意味運命的だな。
「そうでしょ? 今もちょうどリュベータ大森林に精霊水を汲みに行くところだったのよ」
「そうだったのですか?」
「ええ。ちょうど前汲んだ分の効力が無くなるから、新しいのを汲みに行かないといけないの」
リュベータ大森林の僻地で汲むことが出来る精霊水ーー現地では魔水という名で伝わっているーーにはポーションなどの材料に使用すると、その薬効を高める効果がある。
その精霊水が定期的に必要ということは、その効力が強化された薬を服薬している者がいるのだろう。
「どなたか服薬なされてるのですか?」
「……精霊水の効力を知ってたのね?」
「元々精霊水採取の依頼を受けてあの場所を見つけましたからね。その効果もその時に聞きました」
「なるほど。簡単に言うと、私の肉親が精霊水製の薬がないと立って歩くことも出来ない状態なのよ。だからそのためにね」
レイティシアの正体が予想通りならその肉親って……あ、そういえば今の俺ならレイティシアのステータスは見れるのかな?
【情報賢能】に【看破の魔眼】も合わせて見ると……お、やっぱり今の俺なら隠蔽と偽装効果を突破してステータスを閲覧することが出来るようだ。
レイティシアの正体は予想通りだった。つまりその肉親は、お偉いさんだな。
マップで見たいところだが、あの場所のマップは侵入するかどうかを保留していたので未だ有効化されていない。
だから正確には肉親が誰かは確証はないが、貴族達のところから集めた情報から見当はついている。
「常時服用なさってるということは、根本的な治療は出来なかったということでしょうか?」
「そうよ。色々伝手を使って治療方法を試したんだけどね……やっぱり呪われてるのかしら」
最後の一言は小声で呟かれたが俺の耳はしっかりと言葉を拾っていた。
しかし、呪いねぇ。シルヴィアが罹っていたスキルの呪いの件があるから否定は出来ない。まぁ、あれは初めからそういう試練系ユニークスキルだっただけなんだがな。
レイティシアの肉親がどういった呪いかは知らないが……俺なら解決できるかな?
「病か呪いかは知りませんが、私が治してみましょうか?」
「そういえばシルヴィアを蝕んでいた呪いを治したのもリオンだったわね。ちょっと忙しすぎない?」
「半分ぐらいは諦めてますよ」
「大変そうね。治療に関しては私の一存では決められないわ。取り敢えず今回の分の精霊水を取ってきてからね。連絡は何処にすればいいかしら?」
「おや、冒険者ギルドに手紙は出したのですが……」
「ああそうだったのね。ここ三週間ほどは帝都を離れていて、今日戻ってきたばかりなのよ。だから私宛の手紙類はまだ見てないの」
「そういうことでしたか。初めはホテル住まいだったのですが、今はオリヴィア様からのご厚意でシェーンヴァルト家の離れを宿泊先として使わせていただいています」
「へぇ、オリヴィア様がねぇ……分かったわ。じゃあ、どうするか決まったら使いを出すわね」
「分かりました。あと、これをどうぞ」
【異空間収納庫】から迷宮秘宝〈湧き出る魔法の水筒〉を取り出す。
これはアルムダ伯爵領の領都ランドルムの蚤の市で手に入れたアーティファクトだ。
露店で売られていた時は古びた水筒でしかなくて、店主もアーティファクトだとは気付いていなかった。
購入後に【復元自在】で新品状態に復元し、予備や保管用、そしてスキル獲得用以外にも使用する分を複数個ずつ複製した。
その一つにはポーション類生産用に精霊水を入れておいたのだ。
【無限宝庫】の中には、アルグラートにいた頃にリュベータ大森林で汲んだ精霊水が入った水瓶が保管されてはいる。
本当ならそっちの方を渡したいんだが、収納空間内の時間が止まっている【無限宝庫】の存在を知られるわけにはいかないからな……。
「この水筒はアーティファクトでして、使用者の魔力を消費することで、中に入れて登録した液体を再生成することが出来ます。これは汲んだばかりの精霊水を登録していますので、アルヴァール様にお貸ししますよ」
「何度でも生成出来るのかしら?」
「入手後に何度もテストしたり実際に使いましたが、問題ありませんでしたよ」
「……買い取ることは出来ないかしら?」
「まだ精霊水が必要な事態になるようなら考えます」
「それもそうね。試しても?」
「どうぞ」
レイティシアは水筒から手のひらに出した精霊水を飲んで確認すると、納得したように頷いた。間違って操作しないよう、液体を登録する際のやり方などの使い方も念の為教えておく。
「ありがとう。これは借りるわね。次会う時に返すわ」
「分かりました」
「早くて明日。遅くても今週中には連絡出来ると思うから、あまり帝都から離れないでいてくれると嬉しいわ」
「特に帝都の外に出る用事も無いので大丈夫ですよ」
「それなら良かったわ。それじゃあ、おやすみなさいリオン」
「……おやすみなさい、アルヴァール様」
以前のように近寄ってきたかと思ったら、自然な動きで頬にキスをされた。
どうにか平静を保ってから言葉を返すと、レイティシアは風を纏って宙に浮かび上がり、帝都の中心部ーー皇城の方へと帰っていった。
「皇城か。あまり隠す気は無いのかな?」
それにしても、改めて見ても美人だったな。
リーゼロッテとはタイプの違う妖艶系の絶世の美貌で、身に纏っているドレスアーマーも結構セクシーなデザインで正直言ってエロい。
以前はそれらをしっかりと注視する余裕は無かったが、今の俺は落ち着いて細かいところにまで意識を向けられるぐらいには強くなった。
「レベル的には上回っているけど大した差は無い。あとはスキルと装備次第か……」
今生で出会った中で最もレベルの高い人類種であるレイティシアと戦えたら楽しそうだ。
それはそうと、今回は前回よりも距離感の近いことをされたが、何故ここまで好感度が高いのだろうか?
何か理由があるのか、彼女にとっては普通のことなのか……うん、分からんな。
今一度頬に触れた感触を思い返しつつ、転移で道中の距離をショートカットしてからシェーンヴァルト邸へと帰還した。
「ーーそれで? どちらが綺麗でしたか?」
「えっ?」
夕食後に居間で寛ぎながらリーゼロッテ達と今日あったことの報告会をしていると、リーゼロッテからそんなことを聞かれた。
「私と彼女。どちらの方が美人でしたか?」
「それは客観的にか? それとも主観的に?」
「主観的にです」
「んー、個人的な感覚なんだが、リーゼロッテは、氷山とか雪原を前にした時に思わず息を呑むというか、ため息が出てしまうようなそんな感じの美しさなんだよ」
「……」
「んで、アルヴァール様は、夜空に輝く星や月といった、視界に入ったらつい魅入ってしまうような美しさって感じだな」
「……つまり?」
「タイプの違う美人だから一概には比べられん。それでもどちらかと言われたら、色々な顔を知ってて付き合いのあるリーゼの方に軍配は上がるかな」
「……まぁ及第点ですね」
何やら及第点とやらを頂けたようだが、リーゼロッテの頬がごく僅かに赤らんでいるから正解ではあるようだ……別れ際に頬にキスされたのを喋ってたらどうなってたのやら。
「そういうわけで、近いうちにまた外出するから、その時はまた各自で好きに過ごしてくれ」
「まだどうなるか分からないのでは?」
「話を聞くにアルヴァール様が行なっているのは対処療法でしかないんだ。それではいつまでも完治することはない。だから一応は最低限の実績がある俺に依頼をしないとは思えない。集めた噂から患者と思われる人物にも心当たりがある。その人物とアルヴァール様の仲は良好みたいだから、一縷の望みにかけて俺に依頼がくるはずさ」
「一人で向かうのですか?」
「ああ。流石に他に何人も引き連れては行けない場所だからな」
「リオンはレイティシア・アルヴァールの正体に心当たりがあるようですね」
「この国の高位貴族達は知っているみたいだからな。調べれば噂ぐらいは流れてるさ。低位貴族達も正体は知らなくても、寄親である高位貴族達から非礼を働かないように注意されているようだぞ」
「国内の貴族達が顔色を窺う対象と言ったら……」
「ああ。Sランク冒険者レイティシア・アルヴァールの正体はこのアークディア帝国の皇族だ。しかも直系のな。そして、おそらく治療を依頼されるであろう対象の人物は、このアークディア帝国の今代皇帝陛下だろう」
俺の断定した物言いにリーゼロッテは予想していたので特に反応は無かったが、大人しく話を聞いていたエリンとカレンは絶句していた。
レイティシアが頬にキスしてきた時に彼女の影の中に仕込んだラタトスク達によって、皇族達の居城である皇城のマップは有効化されている。
マップ上のレイティシアと皇帝を示す光点の動きと表示される詳細情報を閲覧しながら、今後どう動くべきか思索を巡らせた。
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