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第四章
第八十五話 基本魔法
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アーベントロート邸からシェーンヴァルト邸へと戻った後、宿泊先として提供された離れにある二階建ての屋敷に案内された。
思っていたよりも広いが、屋敷全体の雰囲気は良い感じだ。
屋敷の玄関前で出迎えてくれた屋敷付きの使用人達から挨拶を受けた後は、夕食時までのんびりとすることにした。
今日の夕食に関しては、本邸の方に招待されているので向こうの方で頂くことになっている。
屋敷内を見て回って時間を潰しても、まだ夕食の予定時刻まで一時間ほどあった。
少し暇になったので、夕食まで俺用に割り当てられた個室のベッドで仰向けになって休むことにした。
「ふぅ。少し肩が凝ったが、なるようになったか。離れを使わせてもらえるとは思わなかったが……まぁ、結果的に良かったか」
アーベントロート邸からお暇する直前に、ホテルへ使いに出したメイドが戻ってきた。
報告を受けたオリヴィアから聞いたところによると、俺達が宿泊していたホテルにメイドと入れ違いで、複数の貴族の使いの者達がやって来たらしい。
貴族の使い達とホテルのスタッフの会話を盗み聞いたメイド曰く、目的は俺のようで、自分達の主人の元へと招くつもりなんだとか。
守秘義務があるスタッフからは俺の居場所が聞き出せなかったので、そのままロビーで俺が帰ってくるのを待ち構えているそうだ。
そいつらが待ち構えている時に、俺が宿泊先を変えることをメイドが伝えに行っていたら、おそらくホテルのスタッフとの会話を盗み聞かれていただろう。
ギリギリだったタイミングからすると、これが模擬戦を早く終わらせたことによる結果のようだ。
【第六感】による直感もそう言っている気がする。
悠長に模擬戦をやっていたら俺の宿泊先がバレたかもしれない……まぁ、バレたところで大した問題は無いのだが。
【情報蒐集地図】のマップと【千里眼】で調べてみたが、件の貴族の使い達の主人は知り合いではなかった。
「ヴァイルグ侯やアルムダ伯ならまだしも、見知らぬ他人だし放置だな」
関わりのある貴族だったら此方から接触してもいいが、そうではなかったので積極的に関わるつもりはない。
ただ、どんな目的で俺にコンタクトを取ろうとしていたかは気になるので、それぞれの貴族達のところへ諜報ゴーレムであるラタトスクを派遣しておく。
相手方の目的次第では行動する必要があるだろう。
「貴族は財を貯め込んでるからオイシイんだよなぁ」
もし悪意を持って関わってくるなら、先日の貴族みたいに慰謝料というか迷惑料の名目で私財を徴収するんだが、どっちだろうな……。
「あ、そういや、こないだ徴収したやつの整理がまだ途中だったな。今のうちにやるーー」
「生えたーッ‼︎」
「ーーつもりだったんだが、何事だ?」
徴収したアイテムを整理して能力を剥奪するかと考えていたら、廊下からカレンの声が聞こえてきた。
ベッドから起き上がり扉の方に視線を向けると、数秒後にノック無しにカレンが駆け込んで来た。
「やったわ、ご主人様! ついに生えたわ‼︎」
「なんだ、第三の腕でも生えたか?」
「違うわよ! 一体どこの敵キャラよ。そうじゃなくて、魔法スキルが遂に生えたのよ‼︎」
「おお! 遂に発現したか。光か?」
「ええ。夕食まで暇だから部屋で光源を操って遊んでたら、突然【聖光魔法】スキルを取得したのよ」
「そうか。おめでとう、カレン」
「ありがとう、ご主人様。これでやっと私も正式な魔法使いデビューね!」
今までは魔導具のスキルを使って光を操っていた、なんちゃって魔法使いだったからな。
持っているユニークスキルも魔法系だし、これでやっと本領を発揮出来るとなると、この喜び様も当然か。
「今使える基本魔法はどの位階までだ?」
「ちょっと待ってね。まだ確認してないの……うーん、下級と中級は殆ど、上級は一部だけ使えるみたい」
「ふーん。魔法職系のジョブスキルが無くても初めからそれだけ使えるのは、やっぱりユニークスキルのおかげなんだろうな」
使える基本魔法の数は、基礎レベルや取得している魔法職系ジョブスキルの数とランクなどによって左右される。
俺の場合だと、特殊ジョブスキル【大賢者】と神域権能級ユニークスキル【魔賢戦神】の固有特性〈魔導極大〉によって、魔法スキルさえ手に入れれば、その魔法属性のみで構築可能な基本魔法の殆どを使用することが可能だ。
ユニークスキル【魔法支配】の等級は特異権能級であるため固有特性は無いし、内包スキルにも基本魔法を増やすような効果は見当たらない。
だが、魔法スキルを取得したばかりで、一部とはいえいきなり上級魔法が使えるあたり、何かしらの効果があるようにも見える。
「たぶん?」
どうやらまだ基礎レベルが低いため、自らのユニークスキルについて正確には理解出来ていないようだ。
ユニークスキルの力で無い場合は、単純にカレン自身の才能か、或いは〈転生者〉の称号故か、またはその両方なのかもしれない。
ま、使える魔法の数が多いなら、その理由はなんでもいいか。
それから具体的にどの基本魔法が使えるかを聞いていく。
聞き始めて間も無く、先ほどのカレンの奇声を聞いてリーゼロッテとエリンがやって来た。
二人からもお祝いの言葉を貰って嬉しそうな様子のカレンに、予め用意しておいたプレゼントを渡した。
「さて、初めての魔法スキル取得祝いに俺からこれをやろう」
「え、何々、こ、これは魔法書ッ⁉︎」
「【暗黒魔法】の魔法書だ。これで闇属性の攻撃魔法以外にも、状態異常系の魔法が使えるようになるはずだ」
「光だけでなく闇まで扱えるようになるのね。こんな貴重な物を私のために、ご主人様ありがとう!」
「どういたしまして」
抱きついてきたカレンを受け止める。
これはつい最近どこぞの貴族の宝物庫から手に入れた、慰謝料代わりの戦利品だ。
魔法書は【複製する黄金の腕環】を使っても何故か複製出来ないため、さっさと使うに限る。
俺自身の基礎レベルが上がれば複製出来るようになる気もするが、それまで使わずにいるのもどうかと思うので、魔法オンリーなカレンの戦力強化に使用することにした。
なお、釣り合いを取るために、エリンには奴隷解放時にカレンよりも良い物を贈る予定だ。
それからカレンは魔法書を使用し、無事に【暗黒魔法】を取得した。
その後、そのまま俺の部屋で談笑していると、屋敷付きのメイドが呼びに来たので全員でエントランスへと向かう。
そこで待っていたオリヴィア付きのメイドに案内されて、本邸へと向かい夕食をいただいた。
急な客人の滞在決定にも関わらず、用意された料理はどれもこれもとても豪華で美味だった。
離れの屋敷の準備といい、シェーンヴァルト家の使用人達は非常に優秀だ。
唯一気になることと言えば、男性の使用人の姿が殆ど見当たらないことか。
いないわけではないが、少なくとも近くにはいない。
まぁ、屋敷の主人が美人母娘であることと、シルヴィアが抱えていた事情を鑑みれば、使用人が女性ばかりなのもおかしくはないのか?
誰も彼もがそれなりに基礎レベルがあるのも特徴的だな。
離れに配属されている使用人の中には、オリヴィアの弟が当主であるシェーンヴァルト本家からの出向らしき者もいることが、【情報蒐集地図】で表示された詳細ステータスにて判明している。
十中八九、俺についての情報がシェーンヴァルト本家に伝わるだろうから、使用人の前で明かす情報には気をつけるとしよう。
用が無い限りプライベートエリアには近付かないとは思うが、気を付けておくに越した事はない。
屋敷から転移で抜け出す時や、魔導具から能力を剥奪したりする時は、これまで以上に周囲に気をつけるとしよう。
夕食後にそんなことを考えつつ風呂などを済ませると、就寝前に自室にて諸々の作業を行ってから今日は眠りについた。
[アイテム〈三頭調骨の魔唱杖〉から能力が剥奪されます]
[スキル【三位一体】を獲得しました]
[スキル【魔法蓄積】を獲得しました]
[スキル【調和の心得】を獲得しました]
[アイテム〈輝かしき光天の弓〉から能力が剥奪されます]
[スキル【光爆魔弾】を獲得しました]
[スキル【極光掃射】を獲得しました]
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