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第三章

第六十五話 戦闘スタイル

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 ◆◇◆◇◆◇


「空が青い……良い出発日和だな」


 頭上高くに昇った太陽の位置が良く見えるほど澄み切った空の下、俺達はランドルムから然程離れていない街道にいた。
 現在の時刻は昼を過ぎたあたり。
 今日は朝一で冒険者ギルドに行き、カレンとエリンの分の身分証代わりの冒険者プレートを手に入れてきた。
 最下級のFランクから脱するためには、依頼を十個達成した後、簡単な昇級試験を受ける必要がある。
 自分の名前が書けるレベルの読み書きさえ出来れば、誰でも受かる昇級試験は問題無い。
 この試験の主旨は冒険者としての知識ーー人として当たり前の常識の確認みたいものだから、試験に落ちようが無いからだ。
 昇級試験自体は依頼を十個達成さえすれば、いつでも受けられすぐに終わるとのことなので、巻きで終わらせるために【情報蒐集地図フリズスキャルヴ】でマップ上を検索し、採取依頼を十個達成させた。
 採取自体は二人にやらせてるから違反ではない。
 昇級試験も無事突破し、二人は登録して数時間でEランクに上がった。
 冒険者のランク付けでEランクは大体がレベル十台だから、今の二人にはちょうどいいランクでもある。
 これで町の外を行き来する最低限の身分証は手に入ったので、適当な食堂で昼食を取ってからランドルムを出発して今に至る。


「ある程度ランドルムから離れましたし、この辺でいいのでは?」

「そうだな。ちょうど人気も無いし、今がチャンスか。よいしょっと」


 【異空間収納庫アイテムボックス】を開いて魔導馬車をホースゴーレムとセットで取り出す。
 以前は毎回一からホースゴーレムを創り出していたが、若干手間なので魔導馬車に繋ぐ分のホースゴーレムは予め作っておき、魔導馬車とセットで収納しておくようにしている。
 その場しのぎの使い捨てではなく、壊れない限り使い続けられるように数種類の金属と数多の術式を駆使して創造した特別製のゴーレムだ。
 試してないが、普通のオーク程度なら殺せるぐらいの戦闘力がある……たぶん。
 馬車用ではなく、俺が騎乗する際に使う特別製のホースゴーレムも近いうちに造る予定だ。
 名前はスレイプニル……は既にスキルであるから、完成の暁には〈グラニ〉とでも名付けようかな。


「うわぁ、これってゴーレムよね? ご主人様が作ったの?」

「ああ。馬車含めてな」

「へぇ……って何よコレ⁉︎ 広さがおかしいんだけど!」


 魔導馬車の中に入ったカレンの驚く声が聞こえてきた。
 どんな馬車なのかを黙っていた甲斐があったというものだ。


「妹が申し訳ありません、ご主人様」

「俺自身が許可したんだから構わないよ。元気なのはいいことさ。エリンも見てきたらどうだ?」

「では、お言葉に甘えさせて頂きます。え、凄い……」


 控えめながらも驚いているのがよく分かる反応を示すエリンを見送る。
 カレンほどではないが、エリンも少しは肩の力が抜けてきたかな?


「それじゃあ、今日のところは俺が御者席に座るから、中の案内と説明は任せた」

「分かりました。昨晩言っていた場所に向かうんでしたね?」

「ああ。今日はそこで早めに野営をする予定だ。じゃ、あとは女同士色々と頼んだぞ」

「お任せを」


 言外に同性同士仲良く交流しておいてくれ、という俺からのメッセージを受け取ってくれた分からないが、リーゼロッテが乗ったのを確認してから御者席に座り、ホースゴーレム達を走らせた。
 あとはホースゴーレム達に任せていれば勝手に進んでくれるので、俺はただ座っているだけでいいので非常に楽だ。
 手綱を持ち、ゆっくり流れていく景色をぼんやりと眺める。
 ランドルムから帝都までの道のりはマップ上で既に確認しており、急ぐ必要性もないから普通の馬車と同じぐらいの速度しか出していない。
 そんなゆっくりとした速さは物事を考える際には都合が良く、時間もあったので幾つかの合成案が思い付いた。
 こんな時でも景色を楽しまずに、戦いに関係することに思考を割くのは、職業病とみるべきか、それとも俺自身が強さに貪欲だからとみるべきか判断に迷うな。


[スキルを合成します]
[【虚脱の魔眼】+【生命吸奪ライフドレイン】+【魔力吸奪マナドレイン】=【虚奪の魔眼】]
[【剣嵐舞闘ダンシングソード】+【剛葬裂刃】+【怪腕猿舞】=【剛禍剣嵐舞葬】]
[【轟崩雷角撃グレーター・サンダー・ホーン】+【一刃一殺】+【斬貫光刃】=【轟崩雷光槍撃グレーター・ライトニング・スピア】]
[【指導】+【教育】=【教育指導】]
[【魅惑の肉体】+【魔性の肉体】+【麗しき玉体】+【武勇の肉体】=【天性の肉体】]
[【白夜の民】+【月光浴】+【日輪光護】+【月輪光護】=【星辰の民】]
[【天才】+【秀才】+【器用貧乏】=【鬼才】]


 ◆◇◆◇◆◇


 ランドルムを出発して三時間近く経った頃、夕暮れ少し手前ぐらいの時間になって目的地に着いたので、其処に馬車を停めた。


「……ここを野営地とする」


 三人が馬車から降りてきた際の俺の発言に、カレンがハッとして俺をガン見してきたが澄まし顔でスルーだ。
 キャンプ地と言ったら明らかだが、野営地なら微妙なラインだろう。
 このネタに反応するあたり、もしかするとカレンの前世は俺と同じ世界か、同じネタがあった似たような世界だったのかもしれない。
 野営のために辺り一帯を整地し、【拠点建築】を発動させて周囲に塀と堀を形成する。
 今までは俺とリーゼロッテだけだったから、野営時は結界とゴーレムだけで良かったため今まで一度も使わなかった。
 カレンとエリンがいても、これまで通りでも十分なんだが、今回に限って言えば塀と堀は必要だ。
 まぁ、その理由は後で分かるとして、これは中々良いスキルだな。
 効果自体は知っていたが、材料さえあればイメージした通りの拠点を作ることが出来るというのは凄い。
 今回はする必要は無いが、土を石に変換したりなどある程度自由に変化させることが出来るようだ。
 家屋などの建物を建てる際には重宝しそうだ。
 相応に魔力は消費するけど、この程度なら俺にとっては誤差の範囲内だしな。


「魔法? スキル?」

「スキルだな」

「色々応用が効きそうね」


 興味深そうに野営地の周りに作られた塀と堀を見て回るカレンとエリン。
 そんな二人を後目に椅子とテーブルを取り出し設置する。
 天気も良いから場所は外でいいだろう。
 着ていた真竜素材製のコートを収納してから椅子に座ると、リーゼロッテもマントを外して横に座った。
 二人を呼んで対面に座らせ、果実水を配ってから本題に入る。


「さて、さっそくだが、二人の戦闘スタイルについて話そうか。事後承諾で悪いが、二人の保有スキルについて見させてもらった」

「はい、構いません」

「う、うん」


 カレンが動揺しているがそれには触れずに話を進める。


「適性とか才能を抜きにして、まずは二人の意見を確認したいと思う。二人は自分がなりたい戦闘スタイルって何かあるか? そうだな……じゃあ、エリンから聞こうか」

「戦闘スタイルですか……それは大まかなイメージでも構わないでしょうか?」

「ああ。あくまでも希望だし、ぼんやりとしたイメージで大丈夫だぞ」

「それでしたら、私は戦士職でしょうか。身体能力は高い方ですし、魔法は風が使えますので戦士職でも活かせるかと思います」

「なるほどね。確かに身体能力は高めだな。近接とか遠距離とかの希望はないか?」

「武器は護身術の一環で短剣を使ったことがあるぐらいなので、特にはありません」


 比較的安全な距離で戦える弓の場合だと豊かな胸が邪魔そうだが、胸当てで抑えればある程度は何とかなるか。
 体幹バランスも良さげだし、普通に近接武器でも大丈夫そうだな。


「なるほど。カレンはどうだ?」

「うーん。やっぱり魔法かな。ステータスを視たなら知ってると思うけど、魔法系のユニークスキルがあるし、憧れもあるから」

「強くなるのに憧れとかの理想像は良い指標だと思うぞ」

「ありがと。でも、肝心の魔法スキルが無いのよね……」

「……みたいだな」


 せっかく特異権能エクストラ級の魔法系ユニークスキルがあっても、現状では宝の持ち腐れだった。


「カレンは自分のユニークスキルについてどれくらい理解している?」


 ユニークスキルは本人のレベルが低い内は、その能力を十全に理解出来ていないことが殆どだ。
 それぞれのユニークスキルを使用するにあたっての適正レベルに達しない限り、能力の詳細が保有者に開示されることは無い。
 封印されているわけでは無いので、その使い方さえ気付くことが出来れば問題無く使えるだけマシなんだろうけど、誰もが適正レベル前に気付ける訳では無いのが現実だ。
 ……中にはユニークスキルの詳細を知らないまま一生を終える者もいるんだろうな。


「うーん。【魔法支配マジック・ドミネイション】って名前から判断して、魔法関連のスキルってことしか分からない。名称から、他人の魔法に干渉できるのかと思ったけど、特に何も手応えが無かったからお手上げよ」


 そういえば、適正レベルじゃないと能力の詳細が分からないだけでなく、その能力である内包スキル名も分からないんだったか。
 内包スキルの名称が分かればある程度予想が付くだろうけど、そうじゃないから【魔法支配】の有無の違いを検証出来ない限り能力の把握は無理だろうな。


「なるほどね。なら、まずそこからか。【魔法支配】の内包スキルだが、【魔法熟達】【魔力炉心】【魔法の支配者マジック・ルーラー】の三つだな。それぞれの能力を順番に簡単に説明すると、『魔法スキルと魔法系ジョブスキルが取得し易くなる』、『総魔力量と魔力の自然回復力を超強化』、『魔法強化と魔法行使補助、そして被魔法攻撃ダメージを半減』ってところだな」

「えっ……ご主人様、他人のユニークスキルの詳細が分かるの?」

「幾つかの条件が合えばな。さて、この中で今重要なのは【魔法熟達】だな。これがあるから通常よりは簡単に魔法スキルが取得できるはずだが、それでも多少時間はかかるだろう」

「……そうね。すぐに魔法が使えるようになるわけじゃないけど、十分恵まれてるもの。頑張って習得するわ……習得方法知らないけど!」


 能力の詳細を語る際に【百戦錬磨の交渉術】を発動したおかげで、内容を疑うこと無く信じてくれたようだ。
 それはそれで良いんだが、無い胸を張って自信満々に知らないと言い放つカレンから残念臭を感じるんだが……気のせいかな?


「一般的な習得方法は時間がかかるし、魔法スキルが無いと何も出来ないだろうから、習得鍛練も兼ねた裏技を使おうと思う。……というわけでカレンはコレを上から羽織ってくれ」


 先ほど、御者席で仕立て直した一着の黒のローブを【異空間収納庫】から取り出してカレンに手渡す。


「ローブ?」

「そのローブは〈夜天の月套〉という魔導具マジックアイテムでな。その能力の一つに【光子操作フォトン・コントロール】という光を操る能力がある。その操作能力を使い続けていれば、経験値が蓄積されて魔法スキルの【聖光魔法】が発現する」

「本当っ⁉︎」

「たぶん」

「たぶん……」

「俺が習得した時とは色々条件が違うからな。ま、調べた限りでは間違いない」


 少なくとも【微睡みの叡智】で得た知識には、魔導具の能力で経験値を積んでも習得可能だとあったな。


「それに、どのみち魔法スキルが生えるまでの力は必要だろ? 怪我を癒やす力は無いが、相手を撹乱したり攻撃したりすることは出来るぞ」

「……確かにそうね。ありがと、ご主人様」

「ああ。ユニークスキルと違って、そのローブなら身に付ければ使い方が自然と分かる筈だ。あっちの塀の壁で試してみるといい。リーゼ。カレンに付いて見てやってくれ」

「分かりました。行きますよ、カレン」

「うん。よろしくね、リーゼさん」


 席を離れて移動する二人を見送る。
 呼称がリーゼロッテさんからリーゼさんに変わっているあたり、ちゃんと交流を深めていたようだな。


「さて、次はエリンだが……こればかりは色々武器を試してもらうしか無いから……よっと。一通りの種類の武器を使ってみようか。全部刃が付いているから気を付けるようにな」


 テーブル横に様々な武器が立て掛けられた台を収納空間から引っ張り出す。
 殆どが鋼鉄製で結構な重さがあるが、エリンの筋力値なら問題なく振るえるだろう。


「分かりました。それでは……この長剣からいきます」

「うん。取り敢えずそれぞれの武器で素振りをしてみようか。俺が止めたら次の武器へ変えよう。実際に使ってみて自分に合っているかどうかを感じ取ってみてくれ」

「はい!」


 気合いが入っている様子のエリンの素振りを見守りつつ、【空間把握エリア・センス】でカレンの様子も窺う。
 リーゼロッテの指示に従って周りに生み出した光球を動かしたり、壁にぶつけたりしている。
 あっちは大丈夫そうだな。
 向こうは完全にリーゼロッテに任せ、エリンの体捌きやそれぞれの武器を扱った時の挙動などを観察し続ける。
 一通り試した後、エリンの感想を聞いたり、俺の所感を伝えたりしてから、一部の武器だけ再び素振りをさせた後に俺と軽く掛かり稽古をした。
 それらを繰り返しているうちに太陽が地平線に沈もうとしていた。
 ある程度目処はついたし、そろそろ切り上げて休ませるか。
 ……本番は夜だからな。
 早く休んで体力と魔力を回復させないと大変だろう。
 汗だくのカレンとエリンを魔導馬車内の浴室へと送り出してから、リーゼロッテとこの後の予定を話し合った。
 あ、そういえば二人に夜の予定を話して無かったな。
 ……ま、いっか。突発的な出来事イベントへの対応も鍛練の一環だ。
 万全のサポート体制の下に行うから大丈夫さ。
 いやー、夜が楽しみだナ。
 
 

 
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