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第三章

第五十九話 違法奴隷商拠点襲撃

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 ◆◇◆◇◆◇


 朝早くから領主邸に呼ばれ、昼過ぎに違法奴隷商達の拠点等の報告を上げた日の日没後。
 早くても翌日になるかと思った領主兵達による違法奴隷商の拠点摘発、もとい拠点襲撃の準備は、夕暮れ時には完了していた。
 元々そのつもりで予め動いていたのだろうが、それでも実際に報告を受けてから数時間で準備を終えることが出来るあたり、中々優秀な兵士達のようだ。

 俺達からの報告後、伯爵家お抱えの諜報部隊が情報の裏取りを行っていたようで、外様である俺達とは異なる視点でのプロの情報も合わせて、戦力バランスが偏らないように拠点の数だけ部隊が振り分けられた。
 戦神の鐘が配置されたのは被害者である違法奴隷達が集められている倉庫街の一画。
 目標は当然ながら被害者達の救出だ。
 纏めて運ぶ際の効率性を考慮したのか、分散させずに一つの倉庫に押し込まれていたのは幸運だった。
 分散して捕らえられていたら、救出する側からすればかなり面倒な状況になっていただろう。
 救出対象が一ヶ所に集まっているということは、相手側の警備もそこに集中しているということ。
 行われている犯罪の規模を示すように、倉庫の内外にいる警備の数と質は揃っており、時間をかけ過ぎると被害者達が危険に晒される可能性が高い。
 そのため、時間をかけずに敵の警備を無力化する必要があるのだが、今回の場合、というより俺にとって周りの騎士や兵士達は邪魔になる。
 戦力としては申し分ないが、数が多いので一緒に動くとなると、それだけ動きが遅くなるからだ。

 贅沢を言えば俺とリーゼロッテだけで別行動がしたいので、マップ上に表示される敵の配置を確認し、領主側の面子を保つ案を考える。
 【神算鬼謀】による補助もあってか、割りとすんなり名案が浮かんだので、あとは【百戦錬磨の交渉術】で救出部隊のリーダーである騎士を説き伏せるだけだった。


「ふぅ、どうにか話が通ったな」


 救出部隊の主力が伏せている場所から離れた、突入先の倉庫に隣接する別の倉庫の屋根上で待機しながら、今日一日の動きを振り返って思わず小さく嘆息していた。
 

「お疲れ様です」

「ああ、肉体的に疲れてないのに本番の前に精神的に疲れたよ」

「気を回し過ぎでは?」

「まぁ、捕まっている人達の命がかかってるからな。作戦的に騎士達にとっても悪い話じゃないし、これぐらいは骨を折るさ」


 これまでのように敵を殲滅するだけで良いなら話は簡単だが、今回は救出対象がいる上に行動を共にする味方もいる。
 普段と違う行動を強いられているわけだが、事前準備などにかかる拘束期間が短かっただけマシだろう。
 ああ、あとは味方が優秀なのも運が良い点か。
 以前の銀鉱山解放作戦の時もそうだったが、どうやらアークディア帝国の貴族は優秀らしい。
 まぁ、あくまでも今までに会った者達は、と注釈が必要だろうけど。
 
 
「本隊が動いたら倉庫の裏側から密かに内部に潜入し、違法奴隷達を確保。そして本隊到着まで倉庫の防衛でしたか」

「ああ。違法奴隷達は倉庫内の地下にいる。そこまでレベルが高いのはいないから、そこにいる警備を無力化するのは容易い。無力化後に地下への入り口を押さえれば敵は手が出せなくなるだろう」

「では問題無いですね」

「入り口を確保した後の防衛は任せたぞ?」

「任されましたが、リオンは狩りですか?」

「ああ。それなりにレベルが高いのもいるみたいだからな。騎士や兵士の被害を減らすためには俺も動いた方が良い。強者を優先して狩るからタイミングによっては雑魚は素通りさせることになる。だから一応気を付けておいてくれ」


 リーゼロッテに指示を出してから【千里眼】で各所の状況を確認したところ、最終確認をしているらしく、まだもう少し時間がかかるようだった。
 俺はいつでも動ける状態だが、手持ち無沙汰なので少しスキルを整理しておくとしよう。


[スキルを合成します]
[【死滅の呪蝕掌デッドリータッチ】+【腐蝕爪】+【麻痺爪】+【獅子葬爪】=【告死呪葬の腐蝕侵掌リーサル・ハンド】]
[【十字斬り】+【聖十字斬りグランドクロス】=【聖十字強斬グランドクロス・ヘヴィ】]
[【獅子咆哮】+【死霊の叫びゴーストクライ】=【獣王咆哮ビースト・ロア】]


 屋内で使うには向かないスキルもあるが、中々強力な仕上がりになったと思う。
 特に【告死呪葬の腐蝕侵掌】は倉庫内などの閉所での戦闘では役に立ちそうだ。
 今回の襲撃では短剣をメインに格闘をサブで行くつもりなので、ちょうど良いスキルと言える。
 他にも合成できるのがありそうだが、そろそろ時間か。


「……動いたな。俺達も行こうか」

「はい」


 お互いに【認識遮断】を発動させると、屋根上から目標である倉庫の裏口の扉の前へと降り立ち、左右の警備兵二人の頸部を両手の短剣で斬り裂いた。
 頸部の半分ほどを斬り裂かれた警備兵二人は、血が噴き出す傷口を押さえながら、地上で溺れるように数秒ほどもがき苦しんでから死んだ。
 リーゼロッテの方は双剣で一息に首を斬り飛ばしていたので、敵は苦しむ間も無く逝ったようだった。
 死体は……別にこのままでも構わないだろう。
 終始隠密行動を取るなら隠した方がいいだろうが、俺達は往路だけ気にしていればいい。
 仮に異常に気付いて外から敵の増援が来たとしても、状況的に不意打ちを食らうようなことにはならないだろう。


[スキル【集中】を獲得しました]
[スキル【集中力強化】を獲得しました]


 攻撃行動に移ったことで【認識遮断】の効果が切れたが、ここからは必要無いのでそのまま侵入する。
 複合感知スキルである【万能索敵ワイルド・レーダー】と【空間把握エリア・センス】で周囲を確認しながら、倉庫内の通路を進んでいく。
 そこまで内部が入り組んでいるタイプでは無い倉庫なので、道中で遭遇した敵を三人ほど静かに処理すると、程なくして地下へと通じる階段があるエリアへと辿り着いた。
 裏手側の通路に置かれた木箱の陰から覗き見ると、地下への入り口の警備から数人が引き抜かれて表へと出て行ったところだったようだ。

 少し様子を見たが、周囲を警戒するだけで動く様子が無い。
 これ以上は数が減りそうに無いな。
 事前に決めた手信号でリーゼロッテに素早く指示を出すと、さっそく行動に移ることにした。
 【大気操作エアリアル・コントロール】で空間内の大気に干渉して、外部と地下に音が漏れないようにする。
 再度【認識遮断】を発動して斧持ちの敵兵の正面から近づき、心臓部へ繰り出した短剣の一撃は、【死を刻む刃デス・エッジ】の効果で強化されたことによって、文字通り一撃必殺の力を発揮した。
 突き刺さる直前に隠密状態は強制解除されたが、相手が気付いた時にはその胸に短剣が突き立っており、そのまま瞳から光が消え、力無く崩れ落ちた。
 他の敵兵達は突然現れた俺の姿と地に伏した味方の姿に唖然としている。
 そんな彼らの足元が凍り付き始めてから漸く襲撃を受けていることに気付いたようだが、何か行動を起こす前にあっという間に氷像化してしまった。


[保有スキルの熟練度レベルが規定値に達しました]
[ジョブスキル【高位暗殺者ハイアサシン】がジョブスキル【暗殺術師アサシン・ロード】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位斧士ハイアクサー】を獲得しました]


 【魔力撃】で魔力の衝撃波を放って全ての氷像を砕いてから、リーゼロッテを伴って地下へ降りていく。
 地下にいた警備も表の迎撃に駆り出されたようで、捕らえた者達の監視は二人しか残っておらず何事も無く討伐できた。
 捕まっていた者達に【百戦錬磨の交渉術】を発動してから、領主麾下の騎士と兵士達が救出に来たことと、敵の掃討が終わるまで大人しく待つように伝えてから地上に出た。


「あっさり済みましたね」

「まぁ、此処にいたのは高くてもBランク下位程度だからな。それじゃあ、行ってくるけど、味方が来たらそこの脱出路のことを伝えておいてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

「リーゼもな」


 表へと繋がる通路を小走りで進みながら、既にマーカーが付けられている光点が、地下通路を通ってランドルムの外へと向かっているのをマップ上で確認する。


「……こいつは後回しだな」


 【千里眼】で倉庫外と別の拠点を視てみると、領主兵達が少し苦戦しているようだった。
 時間をかければ殲滅出来るだろうけど、このままだと被害も相応に出るだろう。
 他の拠点の方にも援軍に行った方がいいかもしれない。
 ま、ここの制圧が済んだ時の状況次第だな。


 
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