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第一章

第二十七話 事後処理とミスリル鉱床

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 ◆◇◆◇◆◇


「ふぅ……疲れたな。同じ疲労なのに何でこんなに違うんだろうか」


 宿泊している宿〈白銀の月花亭〉に戻って来るなり、着ていたスーツから楽な寝間着へと【無限宝庫】の機能で瞬間着脱してから部屋のベッドに倒れ込む。
 先ほどまで、銀鉱山解放作戦の成功を祝ってヴァイルグ侯爵家の屋敷で催されたパーティーに出席していた。
 鉱喰竜ファブルニルグとの戦いを終えた後、まだ僅かに残っていた岩喰い蜥蜴の掃討と少々の寄り道をしてから地上へと戻った。
 最奥エリアでの竜の情報はヴァイルグ侯ら上層部どころか全軍にまで広まっており、俺が戻ってきた時は坑道の封鎖を行うか否かで揉めていて喧々囂々たる有り様だった。
 俺が戻って来たのに気付いてからも騒がしかったが、竜を倒したことを告げると真偽を疑う声が上がって面倒だったので、全員の目の前で竜の首を【異空間収納庫アイテムボックス】から出して黙らせることを選んだ。
 その効果は抜群で、の頭部という何よりの証拠は全てを黙らせる効果があった。


「……まさか今日のパーティーでも展示させられるとは思わなかったが。まぁ、上手く騙せて良かったな」


 ファブルニルグと戦った大空洞には最初だけルターム達がいたが、彼らも目の前の竜の頭部が違う竜の物だとは気付いていない。
 魔力結晶の光があるとはいえ、やたらに広い大空洞を満遍なく照らすほどではなく、入り口から距離がある真反対の暗闇の中にいた竜の姿の正確な形と色までは把握していなかったからだ。
 俺のように【暗視】や【鷹の目ホークアイ】があれば違ったんだろうが、そうではなかったので無事に騙し通すことが出来た。
 紅黒竜の胴体とは異なり、披露した頭部の色が黒一色だったのも運が良かった点だ。


「真竜に比べたら成竜の方がマシだしな」


 以前コピーしたギルドの資料によれば、最新の真竜の討伐記録は約二百年前にまで遡るらしい。
 元々個体数が少なく、成竜よりも強い真竜の討伐なのだから、それだけ古い記録にしかないのだろう。
 ちなみに、この地上に戻るまでに考えた案によってアルグラート東の街道の制限も完全に解除された。
 俺がこの世界にやってきた日にアルグラートの東の空で他の竜と争っていた竜との共通点の多さから、同一個体であると認められたからだ。
 もう一方の深緑竜に関しては音沙汰が無い上に、片方が無事だったことから逃げたか、紅黒竜によって倒されたのだろうと判断が下された。

 成竜は真竜よりマシとはいえ、一般的には軍や多数のAランク冒険者、あるいは単独のSランク冒険者などでなければ討伐できないような相手だ。
 それを単独で討伐したとあって懐疑的だった者達も俺の実力を認めたらしく、パーティーではひっきりなしに話しかけられた。
 談笑しつつも内心警戒していたら案の定、自分の娘を紹介しようとしてきたり、好みのタイプを聞いてきたりしてきた。
 この手の話は馬鹿正直に取り合ったら言質を取られたりするので、【交渉】と【無表情ポーカーフェイス】を発動して諸々の誘いをやんわりと断り続けた。


「さて、明日も早いからさっさと寝るか」


 そう、今日だけでなく明日もヴァイルグ家に向かわなくてはならない。
 しかも、今日のパーティーとは違い、目的地ではなく屋敷は集合場所だ。
 目的地は銀鉱山なので移動距離を考えると早起きしなければならない。
 今日は疲れてるから【休眠】無しでもすぐに眠りにつけそうだ。



 そして翌日。
 早朝にアルグラートを出てから街道を馬を走らせ、陽が高く昇った頃には目的地である銀鉱山に到着した。
 慣れていないのに長時間ホースゴーレムに騎乗したせいで、疲れただけでなく身体の節々が痛い。
 アルグラートからの強行軍の途中で【騎乗】スキルが手に入ってからは楽になったが、それが無かったら今頃疲労困憊だったと思う。
 一時間程度なら問題無いが、やっぱり長距離を移動するなら自作の魔導馬車が一番だ。
 これは先々の遠出のことを考えると、本格的に御者を手に入れることも視野に入れた方がいいかもしれない。
 御者のみに専念させるのは勿体無いから御者はサブの役割が良いだろう。ブラック労働にはしたくないから最低二人かな。
 料理などの家事をしてくれる者と俺以外の者の護衛をしてくれる者を雇うべきか。
 しかし、魔導馬車などの色々な個人情報を考えると他者の紐付きや怪しい人物を雇うわけにはいかないし、条件を満たした上に使用人的な役割で旅についてきてくれる者を都合良く雇えるとは思えない。
 そして、条件が良くても相手が信用できるようになるまでは警戒する必要がある。それは気楽な旅にはほど遠いだろう。
 さてさて、どうしたものか。


「リオンよ。準備はできたか?」

「ーーはい。大丈夫です」

「ならば案内を頼む」

「かしこまりました」


 まぁ、同行者云々は追々考えよう。
 気を取り直して周りを見ると、ヴァイルグ侯だけでなく護衛の騎士達も準備が出来ているようなので、坑道の中へと移動する。
 約一週間ぶりに入った坑道は変わっておらず、新たな魔物の反応も無い。
 そのまま第四エリアまで進んでも魔物は見当たらず、やはり岩喰い蜥蜴達はファブルニルグによって召喚されたか生み出されたりさた魔物だったようだ。


「ふむ。やはり広いな。少々歩き辛いが」

「戦闘痕が凄いな。リオン殿。通り道だけでも均してももらえるか?」

「分かりました」


 ルタームの頼みを聞いて【発掘自在】で道を均していく。
 ルタームには地上に帰還後に魔剣を返却したが今日は持って来ていないようだ。
 当主であるヴァイルグ侯だけでなく次期当主であるルタームまでもが此処に来ていることから、それだけ深刻な状況だと言うことだろう。
 ヴァイルグ侯は銀鉱山解放後すぐに、鉱山業務を任せている部下達に銀の埋蔵量がどれだけ減少したかを調べさせた。
 魔法や魔導具マジックアイテムを使用して調べたところ、埋蔵量が占拠される前と比べて三分の一以下にまで減っていたらしい。
 まだ数十年は採掘できるはずが十年前後で枯渇するとなってヴァイルグ侯は絶望したそうだ。
 ヴァイルグ侯は主に岩喰い蜥蜴達による物と思っているようだが、実際のところはファブルニルグによる物だろう。
 地面に潜ったり、金属を操作して掻き集めたりすることができる能力があるから、簡単かつ効率的に食事ができただろうからな。

 そんなヴァイルグ家の現状をパーティー前に話されて、婉曲にだが竜の素材を売って欲しいと言われた。
 購入した竜素材を売却し、その利益を補填に充てるつもりなんだろう。侯爵家なら独自のツテとかがありそうだ。
 切実な頼みだったが俺の答えはノー。
 竜素材は使い道が多いし、その素材を詳しく調べられたら、紅黒竜が一撃で倒されたことがバレて、グングニルまで明るみになるかもしれない。
 グングニルの殺傷痕から離れた部分の素材を売ったりすればたぶん大丈夫だろうけど、どんなスキルや魔法があるか分からないので、もっと力を手に入れるまでは用心に越したことは無い。
 代わりにというわけではないが、お抱えの部下達には見つけられなかったお宝の場所を教えることにした。
 鉱山の持ち主はヴァイルグ侯爵家だし、勝手に採掘するわけにはいかない。
 その場所を知っていても俺は手出しできないため、教えても損失は無いどころか、むしろ大恩を売るチャンスである。


「ーー此処ですね。道を拓きますので少し下がっていてください」
 

 場所は大空洞にてファブルニルグがいた最初にいた地点近くの岩壁。
 そこに手を当てて魔力を注いで暫くすると、まだ残っていたファブルニルグの魔力が散らされ、隠蔽の封印が解けた。
 後は【発掘自在】で壁を掘り進んでいくのみ。
 硬い岩壁を掘り進むので土を掘るよりも消費する魔力量が多いが、全体量からすれば大したことはない。
 壁を掘り進めること数百メートル。
 歩きやすいように急勾配を避けたので時間が掛かったが、その場所に辿り着いた。


「ーーお、おお! こ、これは⁉︎」

「なんと……美しい」


 侯爵家父子や護衛の騎士達が感嘆の声を挙げる先には見渡す限りの蒼があった。
 ファブルニルグの巨体が入れるほどに広い空洞で、上下左右の壁には蒼銀色の金属筋が浮かんでいたり、青白い光を放つ魔力結晶の中に混じって蒼銀色の金属結晶が生えている。
 おそらく、この〈ミスリル〉の鉱床の存在がファブルニルグが此処に住み着いた原因だろう。
 ミスリルではなく銀の消費の方が激しかったのは、何となくの想像ではあるが銀が主食で、ミスリルがメインディッシュと言った違いによるものな気がする。
 まぁ、この空洞自体がファブルニルグの食事によってできた空間で、無くなった質量の殆どがミスリルとかだったら、ミスリルの方が主食になっちゃうけど。
 専門家ではないので分からないが、こんな地下深くに位置する上にファブルニルグによって隠されていた鉱床を見つけるのは困難だろう。
 俺は手に入れたばかりの【財宝探知】と【金属探知】、そして【強欲神皇マモン】の【黄金運命】によって、戦闘後に隠蔽の結界の先にあったこの場所に気付いた。
 地上に戻る前に寄り道するために正確な場所を【情報賢能ミーミル】で調べ上げ、最短距離を短時間で掘り進み、直接ミスリル鉱床を確かめてから帰還したのだ。
 その時に空洞内にあった僅かにあったファブルニルグの素材は一つ残らず回収してある。
 宝物庫の役割もあったのか、貯め込んであった結構な量のお宝も全て回収済み。
 その金銀財宝の中で銀だけは殆ど無かったことから、ファブルニルグの好物だったことがよく分かった。
 


「感謝するぞ、リオン。これほどのミスリル鉱床はダンジョンを除けば帝国でも他に無い。失った銀を補って余りある資源だ」


 他の者達よりも一早く正気に戻ったヴァイルグ侯が、興奮した面持ちで喜びの言葉を告げてきた。


「喜んで頂けたようで何よりです。これほどのミスリルが誰にも気付かれず眠ったままというのは、侯爵家だけでなく帝国にとっても大きな損失でしょうから」


 ついでにヴァイルグ家だけでなくアークディア帝国へのアピールも忘れない。
 自分一人で倒した正当な戦利品であり権利だとはいえ、竜素材を独占するのだから少しでも印象は良くしておくべきだろう。


「うむ。これだけのミスリルがあれば国力が増すのは間違いない。派閥間の力関係にも影響が出るだろうな。リオンの貢献は大きいが、何か望みはないか?」

「それでしたら、ミスリルが見つかったことにより損失を被る方々に恨まれそうなので私がミスリルを見つけたということは秘密にしていただけますか?」

「ふむ。確かにザッと思い浮かべるだけでも影響がありそうなのが何人かいるな。だが、銀鉱山の解放と竜殺しで注目を浴びているのだから変わらないのではないか?」


 依頼した本人からそんなこと言われてもね。
 まぁ、おかげで得た物は莫大だけどさ。


「それでも面倒ごとの数は違うと思いますので。情報の隠蔽もですが、そういった敵対視してくる貴族の方々からの干渉も防いでいただけますと幸いです」

「それに関しては任せておけ。ヴァイルグ家が持てる力を総動員して防ごうぞ。だが、おそらく侯爵家よりも上の家からは完全には防げまい。恩を受けた身ではあるが許してくれ」


 身分の上下関係を考えると仕方ないことだ。むしろミスリルという財に加えて侯爵家という最上位に近い爵位は、かなりの敵を防いでくれるだろう。……狙いどおりに。


「数が減るだけでも充分ですのでお気になさらず」

「そう言ってもらえると助かる。銀鉱山絡みで敵視する者は対処できるが、それ以外でも何かと不都合があるやもしれん。その時はコレを出すといい」


 そう言ってヴァイルグ侯が渡してきたのはヴァイルグ家の家紋が飾られた魔導具マジックアイテムの短剣だった。
 短剣全体が金属製で、広めの柄にはヴァイルグ侯が俺に下賜した物であることを示す文言が刻まれている。
 どうやら俺のために用意してくれていたようだ。


「これは貴族の家の当主が平民などの下位の身分の者に下賜する物で、下賜された者と友好関係にあることを示す証である短剣だ。その中でもこのように、魔力を通すことにより特殊な光を放つ短剣は、その家が証を持つ者に大恩があることを示す代物でな。通常の証よりも上位にあたるため影響力も相応に強い。必要な時は気にせず使ってくれ。乱用されるのは困るがな」

「……これを持っていたら派閥に属する者と見られますか?」

「フフッ、安心せよ。全く影響が無いとは言えんが、持っているだけで所属を示す類いの物ではない。だから帝国内では平民は勿論、侯爵家より爵位が下の貴族にも有効なはずだ」

「そういうことでしたら有り難く頂きます」


 思っていたより良い物が貰えたな。万が一の場合に役に立ちそうだ。
 今回の指名依頼では、色々と気を回したり、命を懸けたりと大変だったが、得る物も多ければ気付かされることも多かった。
 転生して一か月弱での経験としては文句無しに充実した日々だったと言える。
 金も素材もスキルもある程度集まって最低限の足場は固まったから、次に目を向けるべきは社会的地位と仲間だろうか?
 取り敢えず社会的地位に関しては、後は依頼をこなせば冒険者のランクが自然とAランクに上がる予定だから問題無い。
 一方で仲間に関しては、仲間がいると色々楽そうだし日々の生活に刺激があって楽しそうではあるが、最悪ソロのままでも構わないと言えば構わない。
 まぁ、急ぐ理由も無いから保留だな。
 前世とは異なり、力と時間に余裕があるからこその悩みと言える。
 どちらにするにせよ。俺は俺なりに、これからも自由に、そして欲深くこの世界で生きていくだけだ。






☆これにて第一章終了です。
 竜に始まり、竜に終わる章でした。個人的にはファンタジーと言えば魔法の次に竜のイメージがあります。
 この後に一章終了時点での詳細ステータス(偽装ではない)を載せてから、二章の更新を予定しています。
 ハーレムタグあるのに一章が男性多めだったので、二章では女性キャラをメインに出していきたいところ。

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