君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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噛み跡

小さい光

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「おはようございます。」

絢斗が会社に着くと早速、飯村が話しかけてきた。

「おはよ、氷室の奥さんの具合はどう?」

「あぁ、悪阻がだいぶマシになったって言ってたな。」

要のお腹には赤ちゃんがいて会社を産休している分、絢斗がしっかり朝から晩まで(成る可く夜の9時には帰る)働いているが要に会う時間が少なくなるのは寂しかった。
昼休みに絢斗のスマホが鳴り確認すると愛おしい妻である要から動画が送られた。画面から大きなソファに座って膨らんだお腹を撫でている要と結衣が映し出された。

『絢斗さん、お腹の赤ちゃんが動きましたよ・・・いったっ・・・ふふ、また今、動きました。』

『赤ちゃん、元気だね~!』

『そうだね・・・引き続きお仕事頑張って下さい』

『パパ、頑張ってね!!』

二人が手を振って動画は終わり絢斗はニマニマと笑ってる口元を右手で隠した。

「要君、元気そうだね」

声に振り向くと絢斗の含み笑いに苦笑いをしている清史と目が合った。

「はい、今は安定してるみたいです。」

「まさか、あの野蛮人の旦那になるとは思ってなかったよ。」

「・・・要に言いつけますよ?」

「・・・・後がめんどくさいから止めて」

絢斗は清史の嫌味を言い返すようになり清史も会社員に尊敬の目で見られるようになった。

「俺と奥さんの為に働いてね?」

「わかっていますよ」

絢斗は真剣な眼差しで清史に力強く頷いた。清史も力強く頷いて仕事に戻って行った。
絢斗はもう一度、動画を見て明るい声で呟いた。

「頑張るぞ」

***

要のことを知っている課長から妻の為に早く帰宅しろと言われ絢斗は最近は日付が変わる前に帰される日々が続いていたが要が心配な事は変わりないので有難かった。
絢斗はアパートのドアを開けて挨拶しようとするとトイレのドアが開いていて要の丸まった背中と眠たそうに背中を摩っている結衣が目に入って直ぐに駆けつけた。

「要!!・・・結衣ちゃんもありがとう」

「・・・うん・・・でも、ママが・・・・。」

「ゔ・・・・ゔえぇ・・・・」

要は涙を流しながらトイレに吐いていたが中身はもう胃液しか出ていなかった。絢斗は結衣の頭を撫でた後、要の背中を優しく撫でて成る可く優しい声で聞いた。

「要、しんどいな、何も食べてない?」

吐き終えた要の顔は青白く目が窪んでいてヒューヒューといやな息を吐いて汗や鼻水を垂らして酷い有様だった。

「・・・・・ぜりぃ・・・たべたけど・・・・ひるにもどした・・・・・。」

「・・・そうか、しんどかったな。居なくてごめんな・・・明日、急遽休み貰えたから頼ってくれよ。」

「・・・う・・・ううぅぅぅ!!」

絢斗は要の頭を優しく撫でて慰めたが彼の目からまた涙が流れ出したので絢斗と結衣は慌ててしまった。

「かっかなめ!?」

「ママ!?」

「・・・いまが・・・はたらきどき・・・なのに・・・めいわく・・・かけて・・・」

絢斗は要が言う前に優しく抱きしめて耳元で囁いた。

「・・・迷惑なわけ無いだろ、もっと頼れよ」

「・・・・・・・ありがとうございます」

その後、要は絢斗の胸の中で子供のように泣きわめいた。絢斗はただ要を優しい眼差しで見つめ頭を優しく撫でた。

***

要が泣き止んで結衣は眠たそうに二人を見ていたので絢斗は結衣を抱っこして敷いてる小さい布団の中に入れて寝かせた後、ダイニングで椅子に座っていた要は相変わらず顔色は悪いが絢斗に微笑んでいた。

「何か、食べれそうか?」

要は何を食べても戻したので申し訳なさそうに俯くと絢斗は頭を回転させながら冷蔵庫を開け、生姜を見つけた。

「要、スープだけでも飲めるか?」

絢斗は小さい頃に寒い冬の日に母親が作ってくれた生姜スープを要の目の前に置いた。

「絢斗さんこれは?」

「生姜スープ、よく母さんが作ってくれたんだ。」

「・・・・・・。」

「一口、飲んでみて駄目なら俺が飲むから」

要はスプーンを手に取ってスープを掬いゆっくり飲むと身体が温かくなりいつの間にかもう一口を掬っで飲んでいた。

「・・・・・おいしい」

「そっか、飲めたか、良かった~。」

「絢斗さん・・・・。」

「どうした?」

「・・・僕、未だに悪阻はしんどいですが、元気な子供を産みます。」

要の顔が大分良くなり彼に笑顔で言うと絢斗は嬉しさで一筋の涙を流して笑った。

「ああ、産んでくれよ」

***
それから何ヶ月が経ったその日に隆志からの電話で絢斗は会社を早退して教えてくれた病院に着くと箕輪家と氷室家が絢斗を見た瞬間、安堵の息を吐いた。

「絢君!!」

「義兄さん、要は!?」

すると隆志は優しい眼差しで病室を教えると絢斗はドアを開けた。そこにはベッドに双子の赤ちゃんを愛おしそうに見ている要と一人の赤ちゃんは眠っていてもう一人は小さくくしゃみをしていた。要は絢斗に気づいて嬉しそうに言った。

「おかえりなさい」

絢斗の顔はくしゃりと崩れて右腕で顔を隠しながら小さい声で呟いた。

「ただいま・・・・・ありがとう」


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