君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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小さな一歩

繰り返さない

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顔を真っ赤に染めた女性は裕一郎に叫んで彼の頬に平手打ちを食らわすと壁のすみっこに縮こまり、大きな声で喚いた。

「うわぁぁぁ、まさか知らない人と寝るなんてぇー!!」

裕一郎は叩かれた右頬を抑えながら彼女に説明した。

「・・・あの、一応、貴方は知らない男性に襲われそうになった所を俺が助けて貴方は酔っ払っててスマホの充電も切れてて仕方なくビジネスホテルに泊まったのですが一切やらしい事はしてないので御安心ください・・・後、俺のと一緒の機種だったので貴方のスマホを充電してますが親御さんに連絡しますか?」

裕一郎の説明に彼女はポカンと間抜けに口を開いた後、慌ててテーブルに置いてあった充電していたスマホを手に取り電話をかけた。

「もしもし、あっ光輝・・・あー・・・友達家に泊まってて、すっかり充電すんの忘れてたのよ~だから大丈夫よ!じゃあまた、帰るからね!」

彼女は電話を切ると裕一郎の目の前に立ちお辞儀をして叫びながらお礼を言った。

「ビンタしてしまい誠に申し訳ございませんでした!後、助けて頂きありがとうございます!!・・・宜しければお礼にお茶を奢らせてください・・・時間はありますか?」

早口で言われて呆然としたが裕一郎と女性はビジネスホテルから出て行きホテルの近くにある喫茶店で2人共ホットコーヒーを頼んだ。

「私は飯村志帆しほと言います。」

「俺は真中裕一郎と言います。」

「・・・・・本当にありがとうございます。」

「いえいえ、ですが女性が一人で夜の街を出歩くのは危ないですよ。」

「・・・友達と呑んでたのですが多分、タクシーに乗って適当なことを言って降りて酔っている所に男の人に捕まったと思います・・・私、酔うとわかんなくなちゃっうんです。」

彼女はえへへと笑い誤魔化していたが裕一郎は真剣な表情で志帆に静かな声で叱った。

「自分のお酒を飲める量ぐらいわかってないと駄目だと思いますよ。」

「・・・・・すみません。」

「まあ、今回は酷い目に遭う前で良かったです・・・え?」



裕一郎は志帆の顔を見て困惑してしまった。彼女は熱が出たように赤く染まり息を荒くさせて椅子から崩れるのを裕一郎は慌てて身体を支えて阻止をした。その時、裕一郎は周りの客が汗をかいて息を荒くさせながら志帆の事をやらしい目で見ていた。

「・・・まさか・・・・Ω?」

「・・・はあ・・・はぁ・・・どうして・・・・まだ先な・・・のに・・・・・・。」

裕一郎は志帆の項に目をやってしまい彼は項に近付こうとしたが静かに泣いている要が頭の中でフラッシュバックした。

『・・・・・裕君・・・・・・。』

「!!」

裕一郎は自ら右腕を噛んで項から離れて虚ろな瞳で息をしている志帆をおんぶするとそのままレジに向かい1000円札を置き「お釣りは要りません」と言い残し店から出ていき急いで病院まで走った。

***

「発情期の期間が1週間も早まってますね。」

女性医者の言葉に志帆は戸惑って掌に汗をかきながら震えた声で囁くように聞いた。

「ど・・・どうして早くなったのでしょうか?」

「・・・飯村さんを連れてきた彼がいましたよね・・・彼はαで貴方の運命の番です。」

予想外の言葉に志帆は「ひゅっ」と息を吸って青白くなりながらも医者に聞いた。

「でっですが、彼からはフェロモンを感じませんでしたが?」

「・・・それは多分、彼は他の番がいるので匂いを感じなかったけど飯村さんのΩの本能が彼が欲しいと身体に命令して発情期を起こした思われます。」

「・・・・・・・・抑制剤はありますか?」

「一応ありますが、発情期が早まっている以上はおすすめしませんね。」

「・・・・・・。」

不安を隠しきれていない彼女の顔に医者は少し考えた後、志帆に子供に話しかけるようにゆっくり話しかけた。

「飯村さん・・・これから話す事は彼に話す事が前提ですが・・・」

医者の話を聞き、志帆は俯いて病院から出ると横に裕一郎はスマホを弄りながら待ってくれていた。

「・・・あの・・・・大丈夫でしたか?」

裕一郎の問いに答えずに志帆はスマホを取りだし小声で囁いた。

「・・・「Talk」の交換いけますか?」

裕一郎は志帆の発情期で扇情的な瞳を見ないようにしながら「Talk」の交換をした。

***

その晩、裕一郎は寝る準備をしていると「Talk」の電話がかかってきた。裕一郎はスマホを手に取り画面を見て驚いてから恐る恐る電話から出た。

「もしもし、飯村さんどうかされましたか?」

志帆から電話がかかってきたが彼女は何も言わなかったので裕一郎は戸惑いながら待っていると小さいが彼女の声が聞こえた。裕一郎は全集中して彼女の声を聞き取った。

『・・・真中さんに番はいますよね?』

「・・・・・・。」

『・・・私からフェロモンの匂い感じましたか?』

「・・・・・感じなかったけど」

『・・・今も番はいてますか?』

「ッ・・・・・・・!!」

裕一郎が息を飲む音が聞こえ志帆が確信をつくと彼女は凛とした声で裕一郎に提案をしてみた。

『居ないのであれば私の番になってくれませんか?』

「・・・今日会ったばかりじゃないですか」

『・・・・・私・・・・・Ωで・・・・1回襲われて赤ちゃん堕ろしてるの・・・。』

「えっ!?」

志帆は鼻声で昔の事を話してくれたが内容が残酷だった。

***

高校2年生の時に野球部のマネージャーだった志帆は人気のある野球部の先輩と付き合っていたがそれを良く思っていないマネージャー達に騙されてタイミング悪く発情期を迎えてしまった志帆は鍵をかけられた体育倉庫にベンチでふくよかな清潔感の無い野球部員に犯されてお腹に赤ちゃんが出来てしまったがまだ子供の志帆には荷が重くて泣きながら家族に相談して堕ろしたのだった。それからΩで発情期が近い日は過呼吸になり早く優しいαに出会いたかった。また、犯される前に・・・。

『・・・・・私を助けてください・・・理不尽なのはわかってます!でも、貴方は発情期の私の首筋を噛まずに耐えてくれた・・・貴方に護られたいと思いました・・・・。』

その言葉に裕一郎は首筋に歯型がついて泣いている要がまたフラッシュバックして裕一郎は喉をカラカラにさせながら志帆に聞いた。

「・・・・実は俺、違うΩの項を噛んでいるんだ。」

それを聞いた志帆は泣きながらではあるが医者に言われた事を裕一郎に説明した。

『・・・お医者さんの話ですが私に噛めばその人の項の噛み跡は消えるみたいですよ』

その言葉に裕一郎は自分の失態に気付いてしまった。

『もし、要が俺が付けた噛み跡のせいで付き合う人が出来なかったら・・・。』

裕一郎は要の幸せの為に考えてから深呼吸をして志帆に聞いた。

「・・・・・番になる前提でお付き合いしても宜しいですか?」

裕一郎の問いに志帆の啜り泣きが聞こえた後に彼女の少しだけ明るくなった声が聞こえた。

『・・・ありがとう・・・ございます・・・・・・ひっく・・・よろしくお願いします。』

それから裕一郎と志帆は1年間お付き合いをして結婚式の前日に裕一郎は志帆の項を優しく噛んだ。そして次の日に要の項から噛み跡が消失した。
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