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Side柊斗4
しおりを挟む朔が亡くなって7年…
俺が無くした朔のスケッチブックが返って来た。
「多分あそこまで行くと心からの反省や謝罪は難しいと思います、自分が悪いことをした自覚もない」
「このスケッチブックが返って来たならそれでいいです」
受け取りの際にそんな話をした。
正直、本当に興味がない。
あのときは、喉を掻っ切ってやりたくなったが、あの日ゲームの世界で朔を見つけてからは、心の内にあの女を1ミリたりとも入れたくない。
朔のスケッチブック…
「柊くんが持っていてね」
と朔を見送り放心状態だった俺に渡されたそれには、仕事以外のプライベートなデザイン画が描かれ、その合間合間に朔の夢がチョコチョコと書かれてていた。
そして最後の数ページには、俺の姿をスケッチした絵が埋めつくされていた。
部屋で勉強している姿、料理している姿、風呂あがり、考えごとをしていたり、朔を見つめたり。
バスケでドリブルをしたり、シュートを打つ、ガッツポーズに、負けて落ち込む姿。この辺は、家で動画をとめながら、テレビに顔を近づけて描いていたらしい。
全部で131冊、すべてに溢れる、俺、俺、俺、俺。
それはスケッチブックじゃない、朔からのラブレターだった。
それを受け取ったあとは、時間が空きを見つけては朔の夢を1つずつ叶えて行った。
まずはバスケでオリンピックに出なければならない。
その夢の為にバスケを続けた。
その夢も去年かなった。メダルには届かなかったが、朔はメダルについて書いてなかったからセーフだろう。
『オリンピックで金メダル!!』なんて書かれてなくて、本当に良かった。
その後は、引き止める声もあったが引退をした。
どっちみち小さな頃から休みなく続けた身体にあちこちガタが来ていたのだ。
バスケを辞めた俺は、ゲーム内学校で、朔のような子どもたちを教えている。
年々、低年齢でも安全にギアを使う開発がすすめられ、使用可能時間も伸びてきた。
それに伴い、国と連携して、VR学校が独立して設立されることになり、今までより多数の子どもたちが通えるようになっている。
「あの、朔以外には無愛想で無口な柊が先生って!」
ヒーッと笑う智の両目を指で挟むと上下に広げる。
「何すんだよ!!」
「朔のやりたいことリストの1つ『智の糸目を上下に思いっきり開ける』だ」
心のTOーDOリストにチェックを入れる。
「なっ、朔のやつ、なんちゅーことを…」
「ちなみに、智絡みのやりたいことは、後45個あるからな」
「はっ?」
頭を抑えて、ハーっと長いため息を吐いている。
「他には?」
「智のツンツンヘアーに花を生ける」
「…そこに花がちょうどあるから、挿しとけよ」
「智の笑うと大きな口に拳が入るか確かめる」
「ファイッはホ」
「入ったな」
「それから?」
「智がもし結婚するときは、結婚式でスピーチを読む」
2人の間に置かれた招待状を見ながらそう答える。
《佐藤 柊斗様 朔様》
連名の宛名がついた招待状。
「あらためておめでとう、2人で参加させてもらうよ」
「じゃあスピーチは任せたぞ」
「あぁ」
もう一度乾杯をして、そういえばと続ける。
「さっきのスピーチを読むには続きがあって…」
「嫌な予感」
「智の暴露話を5つ入れる」
「あぁもう…」
「候補は20個書いてあった、また選んでくれ」
「どうしても?」
「朔の夢だからな」
笑いながら、招待状を鞄に仕舞う。その指に光るシルバーリングを見て、智が口を開く。
「その指輪、朔のは内側見れないんだっけ?」
「まぁ、見たら自分がデザインしたの丸わかりだからな」
「そりゃそうだけど、なんか切ないな~」
「それでも、繋がってるから…」
あの日、ログアウトしてすぐに、俺は優弥に電話をした。
「間に合って良かったよ、そろそろかかって来ると思ってた」
「お願いがあるんだ」
「出来ることならなんでも」
「朔に指輪を贈りたいんだ」
今ならアップデートのついでにチョコチョコっといじれるよ、と、言う言葉に甘えて、朔のデザイン画の写真を送る。
「内側のデザインは朔にわからないように出来るか」
「あぁ、これはバレちゃうやつだね、OK外せない仕様にしとくよ」
「それと優弥」
「何?まだ何かある?」
「色々と、ありがとう…」
「わっ、僕、君に噛み付かれなかったのはじめて!」
そう、笑いながら電話を切った優弥はその後、指輪をしたNPCの朔の写真を送ってくれた。
俺はそれを確認すると棚からケースを出して自分の指にもリングをはめた。デザイン画を見たときにすぐ作っておいたやつだ。
その瞬間、確かに繋がりを感じたんだ。魂が交わるような。
「明日は実家に顔出すのか?」
コートを羽織り智がそう聞いてくる。
「あぁ、朔のやりたいこと『毎年花ちゃんに誕生日プレゼントを渡す』をしないと行けないからな」
そして、それが終わったら…
手もとに返って来た、#39のスケッチブックに書かれていた、朔の行きたかった場所へ出発する。
細かい住所まで書かれたその場所に。
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