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Side柊斗3
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約2年ぶりにログインをしたのは、そいつらに連絡をもらったからじゃなかった。
日本から持って来たスマホは電源を切ったまま部屋のどこかに仕舞っていて、ろくにメッセージなんて見ていなかった。
大量のスケッチブックの中の一冊を何気なく手に取り開いたページに、
『ワンロックルを倒したい!!』
と朔の字で書いてあるのを見たからだった。
『何で、いつまでたっても倒せないんだよ~』とそのモンスターから逃げまわる朔のアバターを思い出す。
『手伝おうか?』と聞いても『ソロで倒したいぃぃぃ』と言っていたな。
ギアを取り出して、久しぶりにその感覚に身を委ねる。
最後にこのゲームに入ったのは、遺品整理の為だった。
ゲームをしている人が亡くなったときなど特別な場合に限り、条件はあるが、申請すれば本人以外がそのアカウントを使ってゲームの世界に入れる。
そこで、ゲーム内に保管していた情報、たとえばメッセージや写真、朔の場合はゲーム内でデザインしたものもあるだろう、を外部機器に移すことが出来る。
おばさんにお願いされて一緒にゲームに入った俺は、朔のマイルームで、心を無にして仲間ととった写真なんかをひたすら外部に送っていた。
古い写真から整理して、『New』と通知が出たままの写真を開けた瞬間、心臓が止まるかと思った。
俺とあの女のアバターが腕をくんで歩いてる写真。
あぁきっと、この場面を見たからブロックをされたんだな。
俺は朔に誤解を与えたまま逝かせてしまったんだ。
たった1人で。
隣で、「あの子、こんな変な服着てたのね~」なんて言いながら、整理していたおばさんは、俺の様子に気付いて「ごめんね、しんどくなったら止めていいわよ」と言ってくれたけど、最後までしますと伝え、なんとかすべての情報を整理した。
そうして、朔のアカウントは二度と使えなくなった。
整理が終わった足で両親と話をして、大学に向かった俺は、大学の留学制度の手続きをすすめた。
昨年、チームは大学日本一になっている。
もうここにいる必要は無いだろう。
それ以来となる、ゲームの世界。
ギルドは誰かが維持してくれていたのだろう、懐かしい部屋に出た。
ただ期間があきすぎてて、設定に時間がかかる。
そうこうしている間に、気がつけば、1人また1人と幼なじみたちのアバターが周りに集まって来ていた。
そっちの時間だと仕事や授業のはずなのに。
「優弥と連絡とれた、あと10分後に送るって」
「了解、じゃあスキル町に移動しますか」
余計な話はせずに腕をつかまれ、誰かが出した門をみんなでくぐる。
ついた先は朔が気にいっていた、スキルを教えてくれる町。
ここのミニクエストが出たらいつも飛んで行っていた。
なぜ、ここにと立ちすくんでいると、「一応な」と隠密ケープを被される。
「今からあの向こうにNPCが1人あらわれる、でも絶対接触するなよ、そのNPCが死ぬからな」
強い言葉を使われて、とりあえず頷く。
「そろそろか」
いきなり数人に身体を拘束される。
「なっ」にをするんだと続けるより先に、視界に入ったそのNPCの姿に、身体が走り出そうとする。
ひょこひょこ歩くその姿、見ただけでわかった。
魂が呼んでいる。
『朔!』
と叫ぼうとして、声が出せないことに気がついた。
「サイレントかけさせてもらったよ」
「言っただろ、接触したらあのNPCは死ぬ」
その意味を理解すると身体から力が抜けた。
『な、んで』
呟きは音にならない。
「なんでだろうな」
そちらを向けば、みんな並んでそのNPCを心に焼き付けるように一心に見ている。
視線の先には、どこかのプレイヤーに声をかけられ、やれやれというポーズで何か話している朔がいる。
「クエストはじまったな、こっち来るから隠れるぞ」
「横通るときに、あいつが持ってる鞄よく見とけよ」
「静かに!隠密ケープあるけど一応みんなに、サイレントかけとくね」
そんな話とともに茂みに隠れ、ひょこひょこがこちらに近づき、横を通り過ぎるのを静かに見守る。
言われた通りにその鞄に視線をうつしたそこには…
◇ ◇ ◇
「授業中教授の前でギア被っちゃた」
「俺会議抜けたよ、今トイレ」
「実はリアルトイレ中、腹いたい」
「今コンビニの駐車場だわ」
そんな事を言いながら、幼なじみたちが門を出して帰って行き、横には智のアバターだけが残っていた。
「あの刺繍な~ 昨日までは青い鳥だけだったんだぜ」
(でもさっき見たのは)
「柊が増えてたな」
(それに…)
「それに、何あの、直線縫いで小学生が縫ったみたいなガタガタの…」
(片仮名の『シュー』の文字)
「あんなん、昨日までなかったんだぜ、最後の奇跡だな~、多分ログアウトしたやつら今頃号泣だぜ」
「最後?」
軽い口調のわりに、重々しい雰囲気で話す智にそう問いかける。
「このエリア今日で閉ざされるから、間に合って良かったよ」
「えっ?」
その後、何も言えなくなった俺に説明をした智は、
「忙しいとは思うけど、たまには連絡してこいよ」
と肩を叩いてログアウトのために扉の向こうに消えていった。
そのまま、クエスト終わりまで朔を見守る。
ひょこひょこと歩くその指先には包帯が巻いてあって―
生前、刺繍なんてしたことがなかったのにな。
その姿が見えなくなっても立ち尽くしていた俺は、ログアウトをし
、部屋の中からスマホを探し出し充電のコードをつなぐと、大きく深呼吸をしてその名前をタップした。
ワンコールで通話が繋がる。
「‥お願いがあるんだ」
日本から持って来たスマホは電源を切ったまま部屋のどこかに仕舞っていて、ろくにメッセージなんて見ていなかった。
大量のスケッチブックの中の一冊を何気なく手に取り開いたページに、
『ワンロックルを倒したい!!』
と朔の字で書いてあるのを見たからだった。
『何で、いつまでたっても倒せないんだよ~』とそのモンスターから逃げまわる朔のアバターを思い出す。
『手伝おうか?』と聞いても『ソロで倒したいぃぃぃ』と言っていたな。
ギアを取り出して、久しぶりにその感覚に身を委ねる。
最後にこのゲームに入ったのは、遺品整理の為だった。
ゲームをしている人が亡くなったときなど特別な場合に限り、条件はあるが、申請すれば本人以外がそのアカウントを使ってゲームの世界に入れる。
そこで、ゲーム内に保管していた情報、たとえばメッセージや写真、朔の場合はゲーム内でデザインしたものもあるだろう、を外部機器に移すことが出来る。
おばさんにお願いされて一緒にゲームに入った俺は、朔のマイルームで、心を無にして仲間ととった写真なんかをひたすら外部に送っていた。
古い写真から整理して、『New』と通知が出たままの写真を開けた瞬間、心臓が止まるかと思った。
俺とあの女のアバターが腕をくんで歩いてる写真。
あぁきっと、この場面を見たからブロックをされたんだな。
俺は朔に誤解を与えたまま逝かせてしまったんだ。
たった1人で。
隣で、「あの子、こんな変な服着てたのね~」なんて言いながら、整理していたおばさんは、俺の様子に気付いて「ごめんね、しんどくなったら止めていいわよ」と言ってくれたけど、最後までしますと伝え、なんとかすべての情報を整理した。
そうして、朔のアカウントは二度と使えなくなった。
整理が終わった足で両親と話をして、大学に向かった俺は、大学の留学制度の手続きをすすめた。
昨年、チームは大学日本一になっている。
もうここにいる必要は無いだろう。
それ以来となる、ゲームの世界。
ギルドは誰かが維持してくれていたのだろう、懐かしい部屋に出た。
ただ期間があきすぎてて、設定に時間がかかる。
そうこうしている間に、気がつけば、1人また1人と幼なじみたちのアバターが周りに集まって来ていた。
そっちの時間だと仕事や授業のはずなのに。
「優弥と連絡とれた、あと10分後に送るって」
「了解、じゃあスキル町に移動しますか」
余計な話はせずに腕をつかまれ、誰かが出した門をみんなでくぐる。
ついた先は朔が気にいっていた、スキルを教えてくれる町。
ここのミニクエストが出たらいつも飛んで行っていた。
なぜ、ここにと立ちすくんでいると、「一応な」と隠密ケープを被される。
「今からあの向こうにNPCが1人あらわれる、でも絶対接触するなよ、そのNPCが死ぬからな」
強い言葉を使われて、とりあえず頷く。
「そろそろか」
いきなり数人に身体を拘束される。
「なっ」にをするんだと続けるより先に、視界に入ったそのNPCの姿に、身体が走り出そうとする。
ひょこひょこ歩くその姿、見ただけでわかった。
魂が呼んでいる。
『朔!』
と叫ぼうとして、声が出せないことに気がついた。
「サイレントかけさせてもらったよ」
「言っただろ、接触したらあのNPCは死ぬ」
その意味を理解すると身体から力が抜けた。
『な、んで』
呟きは音にならない。
「なんでだろうな」
そちらを向けば、みんな並んでそのNPCを心に焼き付けるように一心に見ている。
視線の先には、どこかのプレイヤーに声をかけられ、やれやれというポーズで何か話している朔がいる。
「クエストはじまったな、こっち来るから隠れるぞ」
「横通るときに、あいつが持ってる鞄よく見とけよ」
「静かに!隠密ケープあるけど一応みんなに、サイレントかけとくね」
そんな話とともに茂みに隠れ、ひょこひょこがこちらに近づき、横を通り過ぎるのを静かに見守る。
言われた通りにその鞄に視線をうつしたそこには…
◇ ◇ ◇
「授業中教授の前でギア被っちゃた」
「俺会議抜けたよ、今トイレ」
「実はリアルトイレ中、腹いたい」
「今コンビニの駐車場だわ」
そんな事を言いながら、幼なじみたちが門を出して帰って行き、横には智のアバターだけが残っていた。
「あの刺繍な~ 昨日までは青い鳥だけだったんだぜ」
(でもさっき見たのは)
「柊が増えてたな」
(それに…)
「それに、何あの、直線縫いで小学生が縫ったみたいなガタガタの…」
(片仮名の『シュー』の文字)
「あんなん、昨日までなかったんだぜ、最後の奇跡だな~、多分ログアウトしたやつら今頃号泣だぜ」
「最後?」
軽い口調のわりに、重々しい雰囲気で話す智にそう問いかける。
「このエリア今日で閉ざされるから、間に合って良かったよ」
「えっ?」
その後、何も言えなくなった俺に説明をした智は、
「忙しいとは思うけど、たまには連絡してこいよ」
と肩を叩いてログアウトのために扉の向こうに消えていった。
そのまま、クエスト終わりまで朔を見守る。
ひょこひょこと歩くその指先には包帯が巻いてあって―
生前、刺繍なんてしたことがなかったのにな。
その姿が見えなくなっても立ち尽くしていた俺は、ログアウトをし
、部屋の中からスマホを探し出し充電のコードをつなぐと、大きく深呼吸をしてその名前をタップした。
ワンコールで通話が繋がる。
「‥お願いがあるんだ」
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