【完結済】VRMMORPGのNPCに転生したオレとプレイヤーのあいつの道は交わらない

豆の助

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ジョシュア5&優弥

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野菜屋さんのソフィーおばあちゃんが亡くなった。
買い物に行くと、
「ヒョロヒョロなんだから、もっと食べないと」
とおまけしてくれた、優しいおばあちゃん。

「時間が空いたら教会に顔出してこい」 

と親方に言われたオレは、教会への道をトボトボと歩く。
教会では帽子を脱いで祈って。

同じように町の人が代わる代わる訪れては祈りを捧げて行く。

NPCにも当たり前のように死が隣にあり。
その死を悼む心をみんなが持っている。

この世界で亡くなった人の魂は何処へ還るのだろう?
普通に考えたらプログラムが消えるだけなんだろうけど。

教会の片隅には古いのから新しいのまで墓石が並び、花が添えられているものもある。
亡くなってそこで終わりじゃない。

(ただ、プログラムが消えるだけとは思いたくないな~)

工房へ帰るとネリちゃんが泣き腫らした目でテーブルについていた。

今日は工房に入っちゃ駄目なんて言葉はかけない。

向かいの席に腰を下ろし、一緒にその死を悼んだ。

ゴーンゴーン♪と教会の鐘が町に鳴り響いた。

――――――――

優弥視点

教会から出て、ひょこひょこと歩いて行く背中を見ながら、
少し前に三回忌を行なった親友の姿を重ねる。

ゲームの学校に通って、お互いのことを話せるようになった頃に話した、中学校に入るまでネグレクトで育った俺の過去に、

「そうだよな…一人ぼっちは寂しいよな」

って、憐れむでもなく、自分も体験したような口調でそう呟いたことをたまに思い出す。

実際の彼には、いまでも集まってくれるたくさんの仲間が周りにいたし、半身のように側に寄り添う男もいたのに、彼の心にある一人ぼっちの記憶はどこから来たのだろう。

多分、の魂を持つNPC。

NPCエリアの不具合を確かめるために、こうしてアバターでこのエリアに入れる俺は、ここしばらく仕事の合間にジョシュアを観察していた。

同じように、人が好きで、町の人たちと仲がいい彼。
手をあげてぴょんぴょん飛びながら嬉しそうに町の人たちを呼ぶ。

先程、NPCの死に心から悲しみの表情を浮かべていた彼は、自分の葬儀でどれほどの人が涙を流したかなんて知ることもないんだろうな。

NPCへの直接の干渉はあまりしてはいけない。
刺繍について聞き回ったのもギリギリのラインだった。

特にジョシュアへの干渉は、どうプログラムが作用するかわからないので、無理に出来ない。

『咲良に似たNPCを見つけた』
と、告げて来た智と刺繍の話を教えてくれた隼人さんには、俺がNPCエリアで知り得た情報とそこから導き出した考えを伝えた。
中途半端に気になって接触されるよりは、きちんと伝えた方がいい。

そして、彼らにジョシュアのクエストに関わらないように頼んだ。
うっかり、自分についての話を聞いたジョシュアにどんな不具合が起こるかわからない。
プログラムされた動作と言動しかしなくても、彼らNPCは周りを見て聞いているのだ。

不具合が起これば彼のキャラクターを抹消しなくてはならない。

どの程度まで伝えるかは智に任せてある。
彼はあれで人をよく見ているので、伝えて大丈夫な人はきちんと選んでくれているだろう。

大丈夫な範囲でクエストの発生率を上げて、彼がプレイヤーエリアに行く回数を増やしている。

朔を慕うアバターたちはそれをバレないように遠くから見守っている。

この前はモンスターに追いかけまわされ走る姿を見て感極まり抱き合っていた。

それでも、あいつにはまだ伝えられていないらしい。連絡がつかないと言っていた。

命日の朝には墓前に花が添えられていたから日本には帰ってきたようだけど、三回忌には姿を見せなかった。

―タイムリミットはあと少ししかない。

先日大型アップデートの内容が解禁された。

この町は閉ざされることになる。

この町のクエストはあまりいい報酬がないのでそれを止めて、スキルを習得しに弟子入りしていた工房に直接遊びに行き、そこでお世話になった親方のお手伝いをするクエストに変更することにした。
それに伴い、それぞれのスキルが進化するようなアップデートもつける。

がよく
『もう一度あの工房に行って家具とか見たいんだよな~なんで二度と行けないんだよ』
と言ってたのを思い出し、企画会議にアイデアを出したことから実装されることになった。

その変わり、NPCはプレイヤーエリアに出られなくなる。
両立できないか、何度も試したが、作動がうまくいかずに無理だった。

だから、

クエスト出しをしている朔を見れるのは、アップデートまでだ。

いつでも、ジョシュアのクエスト出してやる。
だから、早く会いにこいよ。

◇ ◇ ◇

工房へと帰るジョシュアは、何か考えながら、かけていない眼鏡をクイッと押し上げる動作をしたあとに眼鏡をかけていないのに気付き、恥ずかしそうにキョロキョロと周りを見回していた。

ログアウトした俺の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。










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