【完結済】VRMMORPGのNPCに転生したオレとプレイヤーのあいつの道は交わらない

母

午前1時のアラームが小さな音で鳴る。

「もうそんな時間か…」
「ごめんなさい起こしちゃって、遅かったんだからあなたは寝ていてね」

そう言ってベッドから出ると、息子の部屋へと静かに移動する。

7歳の時に事故にあってから、夜中になるといまだにうなされ続ける息子の脚ををゆっくりと撫でる。

「置いて、行きたくない…」「しゅう、しゅう」

「大丈夫よ、柊くんはあなたの隣にいるわよ」

そう言いながら撫で続けると安心したように呼吸が落ち着いた。

寝ながら漏れる朔の心の影の内容が変わって来たのは、いつの頃だっただろう?

最初の内は、

「柊を助けられなかった」と寝ながら泣くことが多かった。
自分がどうなっても柊くんが助かればいい。
親としては悲しいけど、朔の気持ちの真ん中を占めているのはそれだった。

それがいつの頃からか、自分が柊くんを置いて先に亡くなることを怖がるようになった。
自分が居なくなれば生きる意味を失くすかもしれない、柊くんのあやうさを朔なりに感じていたのだろう。

自分がどうなっても柊くんを助けたい！から、置いて行きたくないから生きていたい！に気持ちが前向きになっても、結局は柊くんの為なのが朔らしい。

朔は柊くんのあやうさを感じた頃から、
「父さんが行っていた大学に通いたかった」
「大学バスケで日本一になりたかった」
「アメリカにバスケ留学したかったな」
なんて、かなえることが出来なかった夢で柊くんを縛るようになった。
そう言えば柊くんが自分の為に何があってもその道を選ぶのを無意識にわかっていたのだろう。

◇　◇　◇

あの子が大量に置いていったスケッチブックの中には、
『一緒に』ではなく『自分が』この先行きたい場所、やりたいことのメモがたくさん書かれていた。
家族の誰も聞いたことの無い、朔の夢。
その１つ１つが、「柊生きていて」と言っているようだ。

それを読んだ柊くんは、きっと朔のためにこの先これらの夢を１つ１つかなえて行くのだろう。


火葬場に運ばれて行くあの子を、取り押さえられ、泣き叫びながら見送る柊くんを見つめる。

彼の人生を縛ってしまう心苦しさはある、それでも…

「生きていていて欲しい」

私の隣に立つ柊くんの母親の結さんが、私の心を引き継ぐようにそう呟いた。