【完結済】VRMMORPGのNPCに転生したオレとプレイヤーのあいつの道は交わらない

ジョシュア２

「だから～　ねぇ、聞いてる?」

「聞いてるけど、工房に入ってきたら親方に怒られるよ」

「窓から覗いてるだけだから、入ってませ～ん」

「もう、作業中なんだけどな～」

「ジョシュアがちゃんと話聞いてくれたら、邪魔しないわよ」

「邪魔してるのは自覚してるんだ」

プハッて笑う

「赤髪の隼はやとさんでしょ、聞いてるよ」

「そう、さっそうと現れて、助けてくれて、もう本当にかっこよくて！」

と手を組みながらうっとりと喋るのは、親方の娘さんのネリちゃんだ。

「でも緊張して『ありがとう』しか言えなかったのよね～」

（それは君がNPCだからだよ）

「そういや、ネリは土魔法得意じゃん、モンスターに向けて放たなかったの?」

「やっぱり、普段モンスターなんかあまり見ないから腰抜けちゃったよ。ジョシュアがあの日護身用にって渡してくれたナイフもうっかり忘れちゃったし」

（やっぱり持ち出し不可か～）

「前の日に金縛りにあってよく眠れなかったのもあるのかな～」

「よく聞くよね金縛り」

「金縛りあった日ってなんかついてなこと多いみたいだし、呪いじゃないかって言われてるのよね！」

でも私は隼さんに出会えたからついてたけど！ネリちゃんはルンルンとそう続ける。

◇　◇　◇

ここで、このゲームのNPC（ノンプレイヤーキャラクター）について、説明しよう。

他のゲーム同様、彼らはゲーム内では情報を教えてくれたり、お店をしていたり、町をリアルに見せたりするのに必要だけど話しかけてもテンプレートな台詞を数種言うだけの存在。
あと、このゲームの特色として毎日あちこちで発生するミニクエストを出すのがNPCであったりする。
デイリーミッションとかで●回ミニクエストをクリアしよう！
なんてのがあるから、ミニクエスト発生の通知があるとけっこう取り合いになる。

その内容は○○町での迷子を助けよう、とか、▼△さんと一緒に素材を集めにいこう。みたいな軽いのから、○●洞窟の奥に住み着いたモンスター退治とか、種類や難易度も色々あって報酬もさまざまだ。オレが助けられた『ソフリに襲われた村人を助けよう』クエストもその１つである。

んで、このゲームがMMOなだけあって、同じ内容のクエストでも、その時々で出すNPCが違ったりする。クエストだけでなく、情報を教えてくれるNPCも毎回違ったりする。

例えば、昔のレトロゲームとかだと、24時間365日いつゲームしても、町の酒場にいるおやじが「俺のじいさんに聞いた話だと、○○に△が眠るそうだ」って言うけど、ここでは同じ情報でも、
ある日は「俺のじいさんに聞いた話だと…」
次の日は「私の知り合いのおじいさんが…」
また別の日には「近所のじいさんがよく…」
みたいに、変わってくる。

毎日、ずっと同じ場所にいるNPCはいなくて、みんな生活する中で自然と情報を教えてくれる。

自分がプレイヤーの時は日々変わる町の人々の風景に、さすがMMOなんて思ってたんだけど、NPCになるとまた捉え方は違ってくるよね。

普段、プレイヤーが入ってこれないNPCゾーンで生活するオレたちは、普通に人の営みを送っているんだ～。
朝起きて、ご飯食べて、仕事して、誰かと喋ったり、喧嘩したり、仲良くなったり、夜は寝て、たまには夜ふかしして。

なんだけど、たまにふと、自分以外の力に操られるようにNPCゾーンから普段は行けないプレイヤーゾーンに移動して、プレイヤーの人に自分の意思以外の力で情報を教えたり、クエストを発生させたりする。
これ、オレが前世の記憶あるから違和感あるけど、他のNPCはそうは思わないみたい。
んで、自分がその役割に当たるタイミングなんだけと、その前夜に絶対金縛りに合うんだよな～。

で、そういえば、このゲームって律儀に毎日深夜にメンテナンスの時間があったなって思い出して…。
その時間にゲームしたい人とか、討伐途中で止められるのにクレームもあったみたいなんだけど、容量のデカいこのゲームを長く続けるために毎日のメンテナンスは必要だって公式もはじめから言ってて、その結果、ゲームのパフォーマンスも良かったし…って、話それたけど、そのメンテナンスの時間と金縛りにあう時間が一緒みたいで。

多分、寝て金縛りにあってる間に、次の日にプレイヤーと絡みがあるNPCはそう動くように情報書き換えられてるんだよな。

◇　◇　◇

そんな金縛りに合うとプレイヤーゾーンに行けることがわかったオレはどうしたと思う?

クエストの案内中に

「あの漫画が最終回だ！」
「今年は雨が多いな～」
「オリンピックでメダル何個とれるかな～」

とか横でゲームの外の話されたら、会話に入りたくなるじゃん。
漫画の最終回なんか気になって気になって‥　ってまだ連載続いてたんだ！？　

それはさて置き、でも口からは決まった言葉しか出せないし、動きも決まってるから相槌も打てない。

だから、なんとかコンタクトをとる方法を考えたんだよ。

紙に日本語で聞きたいこと書いてポケットに忍ばせて持って行くとか。

でも、何回ためしてもダメ！！

プログラミングされたこと以外はまったくできないし、プレイヤーゾーンに持ち出せない！

ネリちゃんに護身用のナイフ渡したのも、親方が町外れの花畑にお使いを頼んでるのを聞いて、あっ、これはモンスターに襲われるやつじゃん。って思ってさ～。

誰もクエスト取らなかったり、失敗しても、NPCに被害がいかないようにはなってるんだけど、念のために持って行ってもらいたかったんだけど、やっぱり無理だったんだよな～。

そもそも、この町って、前に言ったみたいに、スキルゲット以外にうまみがないから、それ以外のプレイヤーが来ること少なくて。

多分獲得スキルの種類充実の為に、町のエリアはプログラムの容量少なくしてるんだと思う。
だから、クエストも他の町に比べて少ないんだよな～。
城下町なんて、町がでかいから、１日2000件ぐらいクエストがあったんだ。
クエスト以外にも情報を教えてくれる人も多いから、毎日すごい数の人が金縛りにあっている。
そりゃ呪いって言われるよね。

それに比べて、ここはだいたいクエスト1日20～30ってとこ。
それでも、職人街に住んでるからまだ週に一回ぐらいはうちの工房から誰かは素材集め系のクエストに出向いている。

そんな数少ないチャンスを使ってなんとかコンタクトとれるように色々試してるんだよな～

と、ここまで考えて、まだ前で赤髪の隼さんの格好よさを語っているネリちゃんとの会話に戻る。

「で、どんな風に敵を切ったの?」

「こう、モンスターの頭上にジャンブしたら上から真っ二つ！」

「あんまり見ない技だね?」

「うん、その後で仲間の人と喋ってたんだけど、『よっ！さすが世界で4人しか持ってない技！』『さすが隼さん！』みたいな事言ってたから、あんまりできる人少ないんだと思う。そんなところも格好いいよね～　あっ！その会話聞いて名前知ったんだけどね！」

「そっか～そんな格好いい人なら見てみたかったな～」

「ジョシュアひょろひょろだもんね」

「ひょろひょろ言うなよ、それ今関係ないし！話聞いたからもういいだろ、そろそろ親方が帰ってくるよ」

「あっ、本当だ！やばっ！じやあまた話聞いてね！」

「また同じ話聞くのかよ、もう一週間だぞ～！」

そそくさと逃げていくネリちゃんの背中に、そう叫びオレは仕事を再開した。

最近懐かしい夢を見るのは、ネリちゃんにこの話を聞いたからだろうな～
今まで何度かクエストに関わったし、情報を渡すために町中を歩いたこともある、でも知り合いのプレイヤーを見かけることはなかった。

でも、話に出て来た赤髪の隼さん。

彼はオレの知り合いだ。

いや、オレジョシュアじゃなく朔の知り合いだった。

まだ、ゲーム続けてるんだな。

オレがクエスト受けたかったな。

隼さんの広い背中を思い出しながらそんなことを思った。