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過去〜智1〜
しおりを挟む俺、長峰 智(ながみね さとし)には『初恋泥棒』と呼ばれていた幼なじみがいた。
「い~や~だ~」
蝉のように庭の木にしがみついているのは7歳の俺だ。
「父ちゃんなんかほっといたらいいだろ~ 引っこしなんかいやだ~ 朔ちゃんとはなれたくな~い!」
もれなく、俺の初恋も、目の前でしょうがないな~って顔で苦笑いしている、「初恋泥棒」こと咲良 朔、さくちゃんだ。
外国の血をひいてるらしくて、薄い茶色のふわふわした髪の毛に、緑がかった色素の薄めな瞳は大きく、まつ毛なんか影出来るぐらいバッサバサ! これまた色素の薄い唇は小さくて、幼稚園で読んでもらった絵本に出てくる天使のモデルじゃないかと思う。
えっ? あの絵本、幼稚園の先生が朔ちゃんをモデルに自作したやつなの? どんだけ年上まで落としてたんだよ、まったく。
あの先生、ビッグサイトってところに戦いによく行ってたんだよな~ 連絡帳に描いてくれるイラストと好きだったな、ってそれはともかく
そんなこんなで、この辺いったいの同じくらいの子どもはみんな一度は朔ちゃんに恋をする。
「パパが初恋」なんてお父さんと手を繋いでいる美穂ちゃんだって、本当の初恋は朔ちゃんだ。
へ~、「パパが初恋」って言っとけば、可愛い服買ってもらえるんだ、それ着て朔ちゃんにせまるって、女の子こえ~。
同年代の子より身体が大きかった朔ちゃんは、自分はガキ大将で周りの子どもは子分だと思ってて「付いてこい!!」って感じでちょっと横暴に接してるつもりなんだけど、中身はお節介やきで頼りがいもあるし、みんな朔ちゃんを慕ってた。
サッカーアニメのヒットで全国的にサッカーブームの中、この辺でだけバスケットボールをする子どもが多かったのは、朔ちゃんのおかげだろう。
そんな、朔ちゃんとお別れなんて、許せるはずない、何かの間違いだ!
隣の県の大きな病院でPTって仕事してる父ちゃんは、病院の近くで単身赴任ってやつだった。今の家はベッドタウンって呼ばれてる所にあって、電車で一本なんだけど、それでもなかなか帰ってこれなくていつも母ちゃんが週末に父ちゃんの家に通ったりしてたんだけど、さらに忙しくなりそうな父ちゃんが「家族と過ごしたい~」ってメンタルやばめになったから、家族で移ることになったんだ。
しょうがないな~って俺の髪の毛をワシャワシャ撫でて
「車で1時間ぐらいだろ?会いに行ってやるからな~」
って言ってくれたけど、撫でてる反対の手を握っている、1個下の幼なじみがすげー顔でこっち睨んでやがる。
幼稚園児がする顔じゃないだろ!!
「なっ!柊も一緒に行ってやるよな?」
って振り向いた朔ちゃんに、
「うん!」
って笑顔で答えてるけど、その前に舌打ちしただろう? 幼稚園児が!
今年は俺が小学校に入学して、こいつ抜きで朔ちゃんと登下校過ごせる幸せな毎日だったのに(2人っきりにはなれないけど)
こいつは産まれた時から朔ちゃんにお世話されてて、ただでさえ羨ましいのに! 今だって俺の見送りのはずなのに、なんで2人手を繋いでるんだよ!
結局、どんなに木にしがみついても引っ越しは無くならず、俺はなくなく朔ちゃんとの別れを経験した。
新しい学校でも、朔ちゃんと繋がってたくて、サッカーブームの中バスケットボールの練習頑張った。
約束通り朔ちゃんは月に2回ぐらい、泊まりで遊びに来てくれたけど、何そのおじゃま虫! 布団並べて一緒に寝るのに、なんでおまえが真ん中なんだ! 俺は朔ちゃんと寝たいのに!
「だって柊が一番ちっちゃいじゃん!それに犬みたいでギューッてしながら寝たらあったかいんだよ~ 智もする?」
睨むな、心配しなくてもお前なんて抱っこしないよ、犬は犬でも番犬だな!
柊斗と睨みあいながらも、朔ちゃんがくったくなく笑ってる。
日が沈むまで、脚の早い朔ちゃんにどっちが先に追いつくか競争する。そんな日々が宝物になるなんて、その時には思いもしなかった。
朔ちゃんが事故にあって、意識不明だって信じられない連絡が来たのはその冬のことだった。
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