勇者が俺の所属ギルドから出ていってくれないんだが

アールグレイ

文字の大きさ
上 下
4 / 11
序章

勇者の話 2

しおりを挟む
その人はとても驚いているようだった。


表情には出てなかったけど、何となく、この人の纏ってるオーラ······魔力?が一瞬揺らいだような気がしたんだ。


でも次の瞬間にはもう平然としていて、ガラス玉みたいな深緑色の瞳には何の感情も見えなかった。


その人は周りが驚いていることをちらりと確認していて、その目はとても鋭かったけど、わかったのは多分俺だけだ。


だってその人は強いウェーブのかかった髪をそのままにしていて、耳や輪郭、もっと言えば瞳の色もわからないくらいに顔に髪がかかっていたんだから。


おまけに眼鏡をかけていて、正直、顔がほぼ見えないと言って良いくらい。

まあ眼鏡は縁がなかったし、ツルの部分も細くて白かったからないようにも見えるんだけどね。


だから、俺もその人に随分近づいてから初めてその人がすごい美形だって気づいた。

初対面なのに馴れ馴れしいって言われたこともあるくらい距離感が近い事をわりと気にしてたんだけど、以外と役に立つものだね。


そう呑気に、いや、見惚れていると言っても良いくらい顔をガン見してしまっていたら、勢いよく襟を掴まれて引き離された。


一瞬締まった首を労るようにさすってから襟を引っ張った犯人を見ると、その犯人のメイとカレンが鬼のような顔をして俺を睨んでいた。


二人は俺の頭を掴んで床につきそうなほど頭を下げさせる。


二人も一緒に頭を下げて、ひどく申し訳なさそうな声で謝っていた。


「ほんとにすみませんうちのバカが········!!」


「お詫びをさせてください!あの、お名前は········?」


そこでようやく、俺は自分がすごく失礼な態度を取っていたとわかった。

そりゃあそうだ。いきなり腕を掴まれたと思ったら顔をガン見されるなんて、当然気分は良くないだろう。


でもその人はそんなことを感じさせないような事務的な声を発していた。


「ああ、いえ、平気ですよ。噂の勇者様に会って、此方もついじっと顔を見てしまいましたし。おあいこ、ですよ。」


そう言って愛想程度に笑ったその人は、そそくさと立ち去ろうとする。


そんな彼を今度はカレンが控えめに止めて、また名前を聞く。

お詫びを後で届けさせるから目印になるように名前だけでも知っておきたい、って頼み込んでたけど、あれは多分嘘だな。


カレンもきっとこの人の強さの秘密を知りたいんだろう。


そして、俺と同じで、あわよくば仲間にでもと思っているんだろう。


そんな思惑なんて知るはずがない彼は、困ったように笑ってからアルと名乗った。


今度こそ去ってしまったアルさんの背中を見つめていると、肩にガッチリとした手が乗せられた。


その手を辿っていくと、額に青筋を浮かべたジークが。


ジークはギリギリとさらに俺の肩に圧力をかけながら顔を覗き込んできた。


「で、説明してくれるんだよな?ん?」


「······ちょ、言う、言うから手を········イテテテ!!」


なんか肩から鳴っちゃいけない音がしてる!と言ってなんとか離してもらい、周りの人にも謝りながらギルドを出た。


「俺たちが感じたことは、宿でちゃんと話すからさ!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...