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8、窓から射す光

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 暫くすると公爵家が見えて来た。
 馬車が屋敷の入り口に止まると、アドニスは私の手を取って馬車から降ろしてくれる。

(……おかしいなぁ。シャルロッテって、アドニスからもっと嫌われてた気がするけど)

 ゲームとこの世界とはちょと違うのかもしれない。
 それともやっぱりこれから私を、もう一度地獄に突き落したりするつもりなのだろうか……

 じっと顔を見つめる私に気が付いて、アドニスは言った。

「おい、あのウサギはいるのか?」

 私は返事に迷った。

(多分私に部屋にいるとおもうけど……また蹴り飛ばされたらどうしよう)

 私の顔を見て察したようにアドニスは言う。

「もう蹴ったりしない。俺をそこに連れて行け」

「あ……はい。私の部屋に居ると思います」

 気が付くと家の前には、私の家族とメイドたちが全員集合している。
 メイドの子達はもちろんだけど、先に屋敷に到着していたお父様、そしてお母様やレアン君もアドニス王子に深々と頭を下げて家に迎え入れた。


 私の部屋に入ると、ベッドの上に白いウサギが丸くなってこちらを見ている。
 鼻をヒクヒクさせている様子が可愛らしい。
 私はウサギを抱きかかえると、おそるおそる王子の前に連れて来た。

「俺が抱いても大丈夫か?」

 私はランスエール伯爵様を見る。
 やっぱりまだ心配だよ。
 私を助けてくれたことには感謝してるけど、この子を蹴ったのはアドニス王子だもん。
 伯爵様は優しく微笑んで頷いた。

「あ、あの……乱暴にしないで下さいませね。この子怪我をしてますから」

 アドニスは真っすぐに私の目た。

「ああ、反省をしている。二度とあんなことはしないと誓う」

 嘘を言ってるようには見えない。
 私は、そっと白いウサギをアドニスの腕に抱かせた。
 アドニスは腕の中にいるウサギを暫くじっと眺めていた。

「暖かいものだな……お前の言う通りだ、生きているんだな。こいつも、一生懸命」

 そう言って、アドニスはウサギの頭を撫でる。

「すまなかった」

「え?」

 私に言ったのだろうか、それともウサギに言ったのだろうか。
 でも、何だか驚いた。
 傲慢で自信家のアドニスが、こんな風に頭を下げるなんて。

「あ、あの……」

 慌てる私に、アドニスはウサギを見つめながら言った。

「あの時、まるでこいつが俺のように思えた。レオナールに追たてらるように、ただ逃げ回るしかない自分に。母上の威光で王太子になった俺よりも、あいつのほうが国王に相応しいと思っている奴は多い」

 私はハッとした。
 ゲームしてるときはそんなこと考えたことも無かったけど、優秀な兄と比較されて幼いころからずっとアドニスは苦しんできたのかもしれない。
 だから、自分を強く見せないといけなかったのかも。
 傲慢なくらいの自信家だとずっと思ってたけど。

「お前が婚約を破棄したいと言った時、お前も俺よりレオナールの方が王に相応しいと思っているのだと分かって、自分を抑えることが出来なかった」

 アドニスは腕の中にいるウサギをもう一度眺めて言った。

「お前が思っているように、俺は王になど相応しくないのかもしれないな」

(違うよ、そんな風に思ってない!)

 私はただ、自分の為に婚約を解消したかっただけ。
 それがアドニスを傷つけたなんて思ってもみなかった。

「……違う……違うの」

 私の言葉に、アドニスは不思議そうにこちらを見ている。

「アドニスは立派な王様になれる! それは私が一番良く知ってるんだから!!」

 ティアが聖妃と呼ばれた世界で、アドニスは聖王と呼ばれて称えられていた。
 ティアの愛が、氷のようなアドニスの心を溶かして国民から愛される国王になるのを何度も見た。
 アドニスと伯爵様が、私の言葉に驚いたようにこっちを見ている。

(あ! 私!!)

 つい自分が、シャルロッテだってこと忘れてた。

「も、申し訳ございません王太子殿下! 殿下のお名前を呼び捨てにしてしまって!! あ、あの私そんなつもりじゃ」

 私の言葉を聞いてアドニスは少し笑った。

「一番良く知ってるか……おかしな事を言う奴だお前は。なあシャルロッテ、俺はこいつの怪我が治るまで婚約式は延期するつもりだ。こいつに詫びたけじめとしてな」

「アドニス殿下いけません! 式の延期などすれば、王妃陛下がお怒りになりますよ」

 ランスエール伯爵様がアドニスをそういさめる。
 私も今日の王妃様の剣幕を思い出して少し怯えた。

 アドニスは私を見つめている。
 窓から射し込む光に、アドニスの銀色の髪が美しく輝いていた。

「母上は俺が説得するから心配はするな。それまでに俺は、必ず王太子に相応しい男になる。お前が俺との婚約をどうしたいのか、その時にもう一度聞かせてくれ」
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