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126、丘を越えれば

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 ルーネイリアを旅立ち、私たちは更に数日東方に向かった。
 天幕を張って野営したりもして何だかキャンプをしている気分。
 アドニスにとってはお仕事だもの、こんなに呑気なことを言っていたら怒られるわよね。
 でもアドニスや伯爵様、そしてメルファもいるし私のとっては楽しい体験だったわ。

 辺境伯がいるアシュロード城までは一週間ほどの道のりだから、残りは後少しのはず。
 今は風景がいい丘の近くで行軍を止めて休憩中。
 エトリーズ婦人ことクリストファーさんは風景と私の姿をスケッチしている。
 ちょっとしたスケッチなんだけど私もメルファも思わず目を丸くした。

「すっごい! これ今描いたんですか?」

「すごいですわ、エトリーズ婦人!」

 こんなに短期間であっという間に描いたスケッチとは思えない完成度。
 ただ上手なだけじゃない、クリストファーさんの絵って上手いだけじゃなくて息吹のようなものを絵の中に感じさせる。
 見ていると、とても不思議な感覚になるわ。

 もしかすると、この人には普通の人が見えてない何かが見えてるのかもしれない。
 そう思えるぐらい。
 天才って呼ばれるのも頷けるわ。

「いいえ、これが仕事ですから」

 そう言ってツンとソッポを向くの赤毛の美女。
 どうしたのかしら?
 そんなエトリーズ婦人ことクリストファーさんを見て、私は首を傾げた。

「ねえ、ローシェさん。婦人どうかしたんですか? 何だかとっても機嫌が悪いみたいですけど」

 私の言葉にローシェさんは笑いを堪えながら答える。

「ふふ、シャルロッテ様も悪いんですよ。ほら例のルーネイリアで貴族のご子息にあの後、相当しつこく迫られたみたいで」

「え? ふふ、そうなんだ」

「そうなんだじゃありません! シャルロッテ様のお墨付きを頂いたと、朝まで何度も求婚をされたのですからね」

 ジロリと私を睨むクリストファーさん。
 ローシェさんは堪え切れないように笑いだす。

「婦人もそろそろ年貢の納め時ではありませんか? ローエラント伯爵の息子のミハエルであれば身分も申し分ございませんし、ルーネイリアもいい街です。いっそのこと帰りにでもプロポーズをお受けになられてはどうです?」

「……ローシェ、覚えてらっしゃい! シャルロッテ様貴方もです!」

 ローシェさんにつられて笑っていたら、私まで睨まれた。
 どう見ても女性だものね。
 しかも凄い美人。
 ローエラント伯爵の息子さんの気持ちは良くわかるわ。
 メルファがローシェさんと話を始めたのを見て、クリストファーさんがそっと私に囁く。

「シャルロッテ・ドルルエ。そういえばリーディアの行方は知れたのか? ギルドを通じて探したのだろう」

 歌が上手い踊り子のリーディアさん。
 私と同じ歌をうたっていたって聞くけど。
 クリストファーさんの言葉に私は首を横に振る。

「いいえ、見つからなかったの。せっかく似顔絵を描いてくれたのにごめんなさい」

「そうか……」

 クリストファーさんたら何だか私より残念そう。
 ……もしかしたら彼もリーディアさんを探しているのかしら?
 そんなことをふと考えた。
 クリストファーさんのオペラの歌姫にしたがっていたぐらいだものね。
 彼は肩をすくめると言う。

「ローエラント伯爵の息子の件では酷い目にあったからな。シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢、リーディアの代わりにお前に俺のオペラの歌姫をやってもらうのも悪くない」

「私が? ふふ、冗談でしょ。私がオペラの歌姫だなんて無理に決まっているもの」

「そうでもない。あの教会の塔の上で歌うお前の姿は、どんな歌姫でも敵わない程だったからな」

 エルナと一緒に上ったあの塔の上でのことね。

「あれは特別だわ。同じことをやれっていわてもいつも出来るわけじゃないもの」

 ふふ、でもオペラの歌姫なんて素敵よね。
 クリストファーさんの主催のオペラなんてきっと沢山の観客が見に来るわ。
 でも自分が歌うとなると話は別。
 緊張しすぎて倒れそうだもの。

 そんな話をしていると、アドニスとランスエール伯爵様がこちらにやってくる。
 そして、目の前に広がる丘を指さして言った。

「シャルロッテ、今日中にあの丘を越える予定だ。そうすれば目的地のアシュロード城も見えてくるだろう」

「ほんとに!?」

 旅は楽しかったけど目的地にたどり着くと思うとやっぱり嬉しい。
 伯爵様も頷く。

「ええ、あの丘の上からなら城が見えるはずですよ。先程早馬を出しましたから、向こうからも迎えがくるはずです」

「辺境伯の迎えが……」

 目的地に近づいた嬉しさと共に不安を感じた。
 レオンハート・アシュロード。
 ゲームの中ではティアを取り合ってアドニスに戦いを挑んだ相手。
 自分の城を中心に独立を宣言した赤毛の軍神。
 ここにティアはいないから大丈夫だと思うけど。
 やっぱりあのゲームを知っている者としては少しだけ不安になる。

「アドニス、気を付けてね」

「どうした? シャルロッテ。何を心配することがある、相手は友軍だぞ」

「ええ……そうよね」

 私はアドニスの言葉に頷きながら目の前に見える大きな丘を眺めていた。
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みんなの感想(53件)

神城弥栄
2021.03.14 神城弥栄

もふもふも好きですが、此方も続きがとても気になります!
此方の更新もお待ちしております(*‘ω‘ *)

園宮りおん
2021.03.20 園宮りおん

感想ありがとうございます。
ご覧頂きまして嬉しいです(*´∀`*)
これからもよろしくお願いします。

解除
ちろ
2020.04.23 ちろ

もふもふからこちらまで一気読みしました♥
どちらも続きが気になります!

園宮りおん
2020.05.06 園宮りおん

感想ありがとうございます。
そう言って頂いてうれしいです(*´∀`*)
お読み頂きましてありがとうございます。

解除
なみなみ
2019.03.01 なみなみ

続きが気になります!更新楽しみにしております。もふもふも楽しく読ませて頂いてます┏○ペコッ

園宮りおん
2019.03.08 園宮りおん

感想ありがとうございます。
お読み頂きまして嬉しいです!
これからもよろしくお願いします。

解除

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