126 / 126
126、丘を越えれば
しおりを挟む
ルーネイリアを旅立ち、私たちは更に数日東方に向かった。
天幕を張って野営したりもして何だかキャンプをしている気分。
アドニスにとってはお仕事だもの、こんなに呑気なことを言っていたら怒られるわよね。
でもアドニスや伯爵様、そしてメルファもいるし私のとっては楽しい体験だったわ。
辺境伯がいるアシュロード城までは一週間ほどの道のりだから、残りは後少しのはず。
今は風景がいい丘の近くで行軍を止めて休憩中。
エトリーズ婦人ことクリストファーさんは風景と私の姿をスケッチしている。
ちょっとしたスケッチなんだけど私もメルファも思わず目を丸くした。
「すっごい! これ今描いたんですか?」
「すごいですわ、エトリーズ婦人!」
こんなに短期間であっという間に描いたスケッチとは思えない完成度。
ただ上手なだけじゃない、クリストファーさんの絵って上手いだけじゃなくて息吹のようなものを絵の中に感じさせる。
見ていると、とても不思議な感覚になるわ。
もしかすると、この人には普通の人が見えてない何かが見えてるのかもしれない。
そう思えるぐらい。
天才って呼ばれるのも頷けるわ。
「いいえ、これが仕事ですから」
そう言ってツンとソッポを向くの赤毛の美女。
どうしたのかしら?
そんなエトリーズ婦人ことクリストファーさんを見て、私は首を傾げた。
「ねえ、ローシェさん。婦人どうかしたんですか? 何だかとっても機嫌が悪いみたいですけど」
私の言葉にローシェさんは笑いを堪えながら答える。
「ふふ、シャルロッテ様も悪いんですよ。ほら例のルーネイリアで貴族のご子息にあの後、相当しつこく迫られたみたいで」
「え? ふふ、そうなんだ」
「そうなんだじゃありません! シャルロッテ様のお墨付きを頂いたと、朝まで何度も求婚をされたのですからね」
ジロリと私を睨むクリストファーさん。
ローシェさんは堪え切れないように笑いだす。
「婦人もそろそろ年貢の納め時ではありませんか? ローエラント伯爵の息子のミハエルであれば身分も申し分ございませんし、ルーネイリアもいい街です。いっそのこと帰りにでもプロポーズをお受けになられてはどうです?」
「……ローシェ、覚えてらっしゃい! シャルロッテ様貴方もです!」
ローシェさんにつられて笑っていたら、私まで睨まれた。
どう見ても女性だものね。
しかも凄い美人。
ローエラント伯爵の息子さんの気持ちは良くわかるわ。
メルファがローシェさんと話を始めたのを見て、クリストファーさんがそっと私に囁く。
「シャルロッテ・ドルルエ。そういえばリーディアの行方は知れたのか? ギルドを通じて探したのだろう」
歌が上手い踊り子のリーディアさん。
私と同じ歌をうたっていたって聞くけど。
クリストファーさんの言葉に私は首を横に振る。
「いいえ、見つからなかったの。せっかく似顔絵を描いてくれたのにごめんなさい」
「そうか……」
クリストファーさんたら何だか私より残念そう。
……もしかしたら彼もリーディアさんを探しているのかしら?
そんなことをふと考えた。
クリストファーさんのオペラの歌姫にしたがっていたぐらいだものね。
彼は肩をすくめると言う。
「ローエラント伯爵の息子の件では酷い目にあったからな。シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢、リーディアの代わりにお前に俺のオペラの歌姫をやってもらうのも悪くない」
「私が? ふふ、冗談でしょ。私がオペラの歌姫だなんて無理に決まっているもの」
「そうでもない。あの教会の塔の上で歌うお前の姿は、どんな歌姫でも敵わない程だったからな」
エルナと一緒に上ったあの塔の上でのことね。
「あれは特別だわ。同じことをやれっていわてもいつも出来るわけじゃないもの」
ふふ、でもオペラの歌姫なんて素敵よね。
クリストファーさんの主催のオペラなんてきっと沢山の観客が見に来るわ。
でも自分が歌うとなると話は別。
緊張しすぎて倒れそうだもの。
そんな話をしていると、アドニスとランスエール伯爵様がこちらにやってくる。
そして、目の前に広がる丘を指さして言った。
「シャルロッテ、今日中にあの丘を越える予定だ。そうすれば目的地のアシュロード城も見えてくるだろう」
「ほんとに!?」
旅は楽しかったけど目的地にたどり着くと思うとやっぱり嬉しい。
伯爵様も頷く。
「ええ、あの丘の上からなら城が見えるはずですよ。先程早馬を出しましたから、向こうからも迎えがくるはずです」
「辺境伯の迎えが……」
目的地に近づいた嬉しさと共に不安を感じた。
レオンハート・アシュロード。
ゲームの中ではティアを取り合ってアドニスに戦いを挑んだ相手。
自分の城を中心に独立を宣言した赤毛の軍神。
ここにティアはいないから大丈夫だと思うけど。
やっぱりあのゲームを知っている者としては少しだけ不安になる。
「アドニス、気を付けてね」
「どうした? シャルロッテ。何を心配することがある、相手は友軍だぞ」
「ええ……そうよね」
私はアドニスの言葉に頷きながら目の前に見える大きな丘を眺めていた。
天幕を張って野営したりもして何だかキャンプをしている気分。
アドニスにとってはお仕事だもの、こんなに呑気なことを言っていたら怒られるわよね。
でもアドニスや伯爵様、そしてメルファもいるし私のとっては楽しい体験だったわ。
辺境伯がいるアシュロード城までは一週間ほどの道のりだから、残りは後少しのはず。
今は風景がいい丘の近くで行軍を止めて休憩中。
エトリーズ婦人ことクリストファーさんは風景と私の姿をスケッチしている。
ちょっとしたスケッチなんだけど私もメルファも思わず目を丸くした。
「すっごい! これ今描いたんですか?」
「すごいですわ、エトリーズ婦人!」
こんなに短期間であっという間に描いたスケッチとは思えない完成度。
ただ上手なだけじゃない、クリストファーさんの絵って上手いだけじゃなくて息吹のようなものを絵の中に感じさせる。
見ていると、とても不思議な感覚になるわ。
もしかすると、この人には普通の人が見えてない何かが見えてるのかもしれない。
そう思えるぐらい。
天才って呼ばれるのも頷けるわ。
「いいえ、これが仕事ですから」
そう言ってツンとソッポを向くの赤毛の美女。
どうしたのかしら?
そんなエトリーズ婦人ことクリストファーさんを見て、私は首を傾げた。
「ねえ、ローシェさん。婦人どうかしたんですか? 何だかとっても機嫌が悪いみたいですけど」
私の言葉にローシェさんは笑いを堪えながら答える。
「ふふ、シャルロッテ様も悪いんですよ。ほら例のルーネイリアで貴族のご子息にあの後、相当しつこく迫られたみたいで」
「え? ふふ、そうなんだ」
「そうなんだじゃありません! シャルロッテ様のお墨付きを頂いたと、朝まで何度も求婚をされたのですからね」
ジロリと私を睨むクリストファーさん。
ローシェさんは堪え切れないように笑いだす。
「婦人もそろそろ年貢の納め時ではありませんか? ローエラント伯爵の息子のミハエルであれば身分も申し分ございませんし、ルーネイリアもいい街です。いっそのこと帰りにでもプロポーズをお受けになられてはどうです?」
「……ローシェ、覚えてらっしゃい! シャルロッテ様貴方もです!」
ローシェさんにつられて笑っていたら、私まで睨まれた。
どう見ても女性だものね。
しかも凄い美人。
ローエラント伯爵の息子さんの気持ちは良くわかるわ。
メルファがローシェさんと話を始めたのを見て、クリストファーさんがそっと私に囁く。
「シャルロッテ・ドルルエ。そういえばリーディアの行方は知れたのか? ギルドを通じて探したのだろう」
歌が上手い踊り子のリーディアさん。
私と同じ歌をうたっていたって聞くけど。
クリストファーさんの言葉に私は首を横に振る。
「いいえ、見つからなかったの。せっかく似顔絵を描いてくれたのにごめんなさい」
「そうか……」
クリストファーさんたら何だか私より残念そう。
……もしかしたら彼もリーディアさんを探しているのかしら?
そんなことをふと考えた。
クリストファーさんのオペラの歌姫にしたがっていたぐらいだものね。
彼は肩をすくめると言う。
「ローエラント伯爵の息子の件では酷い目にあったからな。シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢、リーディアの代わりにお前に俺のオペラの歌姫をやってもらうのも悪くない」
「私が? ふふ、冗談でしょ。私がオペラの歌姫だなんて無理に決まっているもの」
「そうでもない。あの教会の塔の上で歌うお前の姿は、どんな歌姫でも敵わない程だったからな」
エルナと一緒に上ったあの塔の上でのことね。
「あれは特別だわ。同じことをやれっていわてもいつも出来るわけじゃないもの」
ふふ、でもオペラの歌姫なんて素敵よね。
クリストファーさんの主催のオペラなんてきっと沢山の観客が見に来るわ。
でも自分が歌うとなると話は別。
緊張しすぎて倒れそうだもの。
そんな話をしていると、アドニスとランスエール伯爵様がこちらにやってくる。
そして、目の前に広がる丘を指さして言った。
「シャルロッテ、今日中にあの丘を越える予定だ。そうすれば目的地のアシュロード城も見えてくるだろう」
「ほんとに!?」
旅は楽しかったけど目的地にたどり着くと思うとやっぱり嬉しい。
伯爵様も頷く。
「ええ、あの丘の上からなら城が見えるはずですよ。先程早馬を出しましたから、向こうからも迎えがくるはずです」
「辺境伯の迎えが……」
目的地に近づいた嬉しさと共に不安を感じた。
レオンハート・アシュロード。
ゲームの中ではティアを取り合ってアドニスに戦いを挑んだ相手。
自分の城を中心に独立を宣言した赤毛の軍神。
ここにティアはいないから大丈夫だと思うけど。
やっぱりあのゲームを知っている者としては少しだけ不安になる。
「アドニス、気を付けてね」
「どうした? シャルロッテ。何を心配することがある、相手は友軍だぞ」
「ええ……そうよね」
私はアドニスの言葉に頷きながら目の前に見える大きな丘を眺めていた。
13
お気に入りに追加
3,917
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(53件)
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。
木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。
前世は日本という国に住む高校生だったのです。
現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。
いっそ、悪役として散ってみましょうか?
悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。
以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。
サクッと読んでいただける内容です。
マリア→マリアーナに変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
もふもふも好きですが、此方も続きがとても気になります!
此方の更新もお待ちしております(*‘ω‘ *)
感想ありがとうございます。
ご覧頂きまして嬉しいです(*´∀`*)
これからもよろしくお願いします。
もふもふからこちらまで一気読みしました♥
どちらも続きが気になります!
感想ありがとうございます。
そう言って頂いてうれしいです(*´∀`*)
お読み頂きましてありがとうございます。
続きが気になります!更新楽しみにしております。もふもふも楽しく読ませて頂いてます┏○ペコッ
感想ありがとうございます。
お読み頂きまして嬉しいです!
これからもよろしくお願いします。