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本編

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入浴から上がりアルトゥンに横抱きされながら通路を歩いているとウィンザが血相を変えて後ろに何頭もドラゴンを連れて走ってきた。そして直ぐ様アルトゥンの後ろへと隠れた。ん?どうしたんだろう?

「あ、アルトゥン陛下・・・この方達をなんとかしてください・・・!」
「ん?我が側近達がどうしたのだ?」

ウィンザを追いかけていた側近たちは皆目をギラギラ輝かせて興奮していた。あーつまり?ウィンザを気に入ってウィンザを追いかけていた、と言う事かな?

「ウィンザ?どうしたの?」
「インヴェルノ様ぁ~・・・わ、私、インヴェルノ様に仕える為にこの国に来たと言うのに何故か行く所行く所で皆さんに求愛されるんです~!!!」
「えっ!?何故?・・・アルトゥン様?」
「うむ・・・」

いや、「うむ」じゃないでしょ?せっかく国を離れ僕に着いてきたのに、求愛されて追いかけ回されてちゃ何もできないでしょ・・・

「皆の者、ウィンザを追ってはならぬ。断られたのであれば諦めろ。」
「「へ、陛下~!!!それはあんまりです~!!!」」

「横暴」だの「酷い」だの口々に悪口が飛んで来た。・・・え、一国の王にそんな事言っていいの?
・・・あ。

「いいかげんにしろ。国の恥を晒すでない!」

ああ、やっぱり無礼だよね。アルトゥンの一声で側近たち一斉に敬礼しだしたよ。・・・と言ってもドラゴンの姿だから伏せをしている形にしか見えないんだけど、ね・・・。
こんな大きなドラゴンに追いかけ回されてウィンザ怖かっただろうに・・・

「ウィンザ・・・大丈夫?アルトゥン様、申し訳ないのですが僕の為に用意されているという部屋にウィンザを休ませたいのですが・・・」
「そうだな。・・・ウィンザよ、すまなかった。ヴェルと一緒に部屋にいるといい。・・・あ奴らは我が締めておく。」

最後の一言・・・覇気を感じたよ?あの側近たち・・・大丈夫かな?
側近たちは伏せをしたまま動かずアルトゥンが立ち去るのを待っていた。そしてアルトゥンが過ぎ去り見えなくなった所で敬礼を崩した・・・

「・・・俺達、とんでもない事したな・・・」
「ああ・・・俺達、明日まで生きていれるかな?」
「でもウィンザさん・・・凄く純粋な魔力を持ってたよね!インヴェノル様ももちろん純粋で素晴らしい魔力を持ってますがウィンザさんも魅力的な魔力を持ってましたね~」
「あぁ・・・もう少しゆっくりアプローチすべきだったんだ・・・あぁ・・・この後が思いやられる・・・」

残された側近達は絶望の縁にいた・・・。


そして小さな扉、人間用に作られている扉の前にアルトゥンは立ち止まり懐から鍵を出し鍵口に差し込み開ける。そして中に入り上質なソファーに下ろしてくれる。

「この鍵は2つしか存在しない。1つは我が。もう1つはウィンザに託そう。」
「あ、有難うございます!」
「アルトゥン様、どうして皆さんがウィンザを追いかけてきたんですか?原因がわからないとウィンザを外に出すことができません。」
「うむ・・・それはな、ウィンザの魔力に関係がある。」

この世界は当たり前だがドラゴンと妖精しかいない。だからドラゴンはドラゴン同士、妖精は妖精同士で伴侶になり子を成すのが普通の事。それは人間も同じ事。でも例外があり、純粋な魔力を持った人間のみ異種族と伴侶になる事が可能となる。それはドラゴンのみならず妖精でも同じ事がいえる。そして純粋な魔力の持ち主を伴侶に迎え子を成すと強力な魔力を持った丈夫な子供が生まれるらしい。ドラゴン同士でももちろん丈夫な子供が生まれるが魔力に対してはかなりの差があるらしい。それ故に純粋な魔力持ちのウィンザに群がったらしい・・・

「純粋な魔力持ちの人間はな・・・匂いで判るんだ。」
「匂い・・・ですか。」
「それに気付いたんだろうな。この城に住む者は皆魔力が高くて・・・独身が多いからな。釘を刺しとくから求愛はされるかもしれないが先程みたくしつこくはされないだろう。」
「さ、左様ですか・・・」
「なんだ?この先伴侶を作らぬつもりか?」
「あ、ええ・・・そうですね。私は老い先短い者でして、もう必要ないかと。」
「ふむ、そうか・・・」

チラッとアルトゥンが僕を見る。ああ、何が言いたいか察知し僕はニコッと笑って頷く。
・・・実はアルトゥンと長い初夜を迎えた後にアルトゥンから貰った物がある。それは魔石の付いたピアス。これにアルトゥンと僕の魔力が込められていてシルバー色をした世界に2つだけの品物だ。そして装着してる間は互いの魔力が循環し合い、祝福として僕はドラゴンと同じ位寿命が伸びた。アルトゥンには祝福と言えるか定かではないが僕の光魔法が使えるようになる。
そしてアルトゥンが言いたい事は、その僕たちが付けているピアスをウィンザにも渡そうかという提案だった。ウィンザはもう60を過ぎていて、アルタイル王国の平均寿命は67歳。長くても75歳だった。ウィンザはいつ天寿を全うするかわからない年だったのだ。

「ウィンザよ。・・・もしこのまま生活していても何も問題ないだろう。だがインヴェルノと生涯生きていくと言うのであれば其方も我らと同じにならねばならない。」
「・・・と、言いますと?」
「あのねウィンザ、僕は今アルトゥン様と契りを交わしてアルトゥン様同様長寿になったんだ。・・・それでね、ウィンザにも共に長生きしてほしいんだけど・・・どうだろう?」
「・・・そ、そうですね・・・長生きできるのであればそれに越したことはありません。」
「そうか・・・ではインヴェルノよ。」
「はい。」
「?」

アルトゥンは懐から無色の魔石を取りだし左の手の平に置いた。それに僕の左手を添えて同時に魔石に魔力を注ぐ。・・・すると無色が銀色になり僕達の魔力の籠った魔石が出来た。
アルトゥンはそれを何でも好きな形に変えられる創製魔法でネックレスに変えた。うん、これで2回見たが、その創製魔法は凄く面白くて僕は目を輝かして見ていた。そんな魔法をウィンザはただただ眺めていたのは言うまでもなく・・・

「これを身に付けておけ。我とインヴェルノの魔力を込めた。我らの加護が受けられるから長生きできるし、予測だが若返るだろう。」
「えっ本当ですかアルトゥン様!うわぁ・・・ウィンザの若い姿・・・肖像画でしか見たことないから楽しみだなぁ!」
「あの・・・私目がこんな貴重な物を戴いても良いのでしょうか・・・?」
「良いぞ。きっとインヴェルノもウィンザが死んでしまったら悲しむしな。できれば其方もドラゴンの伴侶を見つけ幸せになってほしい。まぁウィンザはこの国で一番モテるだろうから選び放題だぞ!ははは!」
「はぁ・・・笑い事ではございませんよ・・・でも、もっと長くインヴェルノ様と居れるのであれば有り難く頂戴致します。」
「ふふ。ウィンザ有難う。僕に付いてきてくれて。そして僕と一緒に生きる事を望んでくれて・・・」
「イ、インヴェルノ様ぁ~」

あーあーウィンザ涙脆いなぁ。嬉しいのは僕の方なのにウィンザの方が嬉しそうだなぁ。
そしてアルトゥンからネックレスを受け取り早速装着した。・・・するとウィンザは一瞬淡い光に包まれて若返った。

「わっ!凄いよウィンザ!別人みたいだよ!鏡っ、鏡っ!」

僕はまだ完全に回復していない体でフラフラしながらも慌てて鏡を取りだしウィンザに渡した。・・・今のウィンザは白髪混じりの薄茶色の髪の毛だったのが肖像画の絵の通り濃い茶色の髪の毛に整った顔立ちに若返っていた。

「うわぁウィンザ凄く若い!凄く格好いいよ!」
「インヴェルノ様・・・信じられません・・・シワとか白髪とかが・・・何もありません。」
「わっ!?声も低音だね!凄い凄い!」
「・・・」

ウィンザを褒めちぎってると隣から不穏な空気が漂ってる感じがした。無我夢中でウィンザに話しかけてると、ふいにアルトゥンに腕を引っ張られウィンザがいるにも関わらず顔を寄せられ濃厚なキスをしてきた。

「んんんっ!?」
「・・・あまり我の前で他の男の事を褒めるな。ヴェルの伴侶は我だぞ!」
「んあっ!・・・はぁ、ごめんなさい。」
「ウィンザにも忠告するがヴェルは我の伴侶だからな!付き人として連れてきたが我から奪おうとするなら容赦しないぞ!」
「・・・ふふ。承知しております。アルトゥン陛下。見た目は若返ってもインヴェルノ様に対しては私の主人であり息子の様な、そんな感情しかございませんのでご安心ください。」
「グルルル~・・・」

な、なんとアルトゥンがウィンザに嫉妬しだした!?・・・あ~これって嬉しがっちゃダメな奴だ。けど・・・凄く嬉しいなぁ。
思わず笑うとウィンザも笑いだし、その2人が笑いだした事にバツが悪そうな顔をして顔が歪んでしまった。
今度は僕から、もちろん軽くだけど両手でアルトゥンの顔を僕の方に引っ張りキスをした。

「ふふ。何を不安がるんですか?僕は番でありアルトゥン様の伴侶であり、この国の母なんですよ。ウィンザは確かに好きですがアルトゥン様への思いとは全く違いますよ。」
「ヴェル・・・」
「でも不安にさせたのは僕のせいですね。僕の不徳の致すところですね。申し訳ございません。」
「・・・いや、我もすまんかた。」
「ふふふ。夫婦仲は円満でございますね。」

ウィンザが暖かい目で見守ってくれてた!は、恥ずかしい。思わず顔が赤くなりウィンザが更に笑みを深くした。アルトゥンももう嫉妬する事なく、とりあえずウィンザを追いかけ回した側近達を咎めに行った。・・・程々に、ね?
立ち代わりに昨日一緒にアルタイル王国に来た漆黒のドラゴン、ムスタが妖精4人を連れて入ってきた。ムスタはアルトゥンが2人の護衛として呼んだらしい。妖精は何種類もの葉を持ってきて『母様、美味しいよー』と言って差し出してきた。
そして遠慮?嫌がるムスタを無理矢理座らせて3人でティータイムをとった。

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